BiSHのセントチヒロ・チッチとアイナ・ジ・エンドが、9月19日に両A面シングル「夜王子と月の姫 / きえないで」でソロデビューを果たした。チッチは楽曲のアレンジ、演奏、プロデュースをリーガルリリーに依頼して、GOING STEADY / 銀杏BOYZの名曲「夜王子と月の姫」をカバー。アイナはプロデューサーに亀田誠治を迎え、BiSH加入以前に初めて作詞作曲をしたというオリジナル曲「きえないで」を歌唱している。
音楽ナタリーではソロデビューを前にした2人にインタビューを実施。それぞれのソロデビュー曲の制作エピソードに加え、BiSHでの活動における立ち位置などについても話を聞いた。
取材・文 / 大山卓也 撮影 / 西槇太一
誰かの人生に寄り添う歌が歌いたい(チッチ)
──アイナさんが今回ソロでリリースするのは、ご自身で作詞作曲した「きえないで」という曲ですね。
アイナ・ジ・エンド はい、ソロをやるって決まったときから、自分で作った曲を出したいなと思っていて。
──これまでも他アーティストのフィーチャリングボーカルとして1人で歌う機会はありましたが、それらとはどう違いますか?
アイナ フィーチャリングで歌うときは、いつも名前に(BiSH)が付いてたし、BiSHを背負って、BiSHに還元するためにやってたところがあるんです。でも今回はBiSHを忘れて、アイナ・ジ・エンドも忘れて、ただ1人の女性として歌ってみました。
──そしてチッチさんはGOING STEADY / 銀杏BOYZの楽曲「夜王子と月の姫」のカバーです。
セントチヒロ・チッチ 私は曲とか自分で作ったことないから、それだったら自分の“好き”を詰め込んだものにしたくって。
──これ以外のアイデアもあったんですか?
チッチ いや、ほぼ一択でした。「どんな曲を歌いたい?」って言われたときに峯田(和伸 / 銀杏BOYZ)さんの曲しか思い浮かばなくて。それで峯田さんの事務所の方にお願いしてカバーさせてもらいました。
──銀杏BOYZの楽曲の中でこれを選んだ理由は?
チッチ 私は高校生のときにゴイステ(GOING STEADY)にハマって、パンクにのめり込んでいったんですけど、そのときの自分に一番寄り添ってくれた曲が「夜王子と月の姫」だったんです。
──でもチッチさんは世代的にはゴイステよりも少しあとですよね?
チッチ はい。私が知ったときはもう銀杏BOYZになっててゴイステは後追いです。でも孤独だったその当時の私を救ってくれた1曲。私にとってはこの曲自体が“夜王子”みたいな存在で、だからこの曲を今の時代に私がカバーすることで、当時の私と同じ気持ちになってくれる人がいるかもしれないなって。私は歌ってるときに誰かの生きる糧になりたいとか人生に寄り添う歌が歌いたいってよく思ってて、1人でやるときこそそういう曲を歌いたいと思ったんですよね。
親友のためにこの曲を歌おうと決めた(アイナ)
──「きえないで」はアイナさんが18歳のときに作った曲だそうですね。
アイナ そうです。これが人生で初めて作った曲。
──その当時はシンガーとして活動してた時期?
アイナ まだ路上とかで歌うくらいだったのかな。でもオリジナル曲があるのってなんかいいなと思って(笑)。曲作ってみようかなって。
──この曲を書いたときのことは覚えていますか?
アイナ 覚えてます、全部。ベッドの上で歌詞を考えたりして。友達に手伝ってもらってデモテープみたいな形にしたんです。でもちゃんとした機材もなくて、パソコンにイヤホンを差し込んでイヤホンに向かって歌ってました(笑)。あとから別の友達のスタジオでちゃんとレコーディングさせてもらいましたけど。
──そんな活動初期の曲を今リリースしようと思ったのはどうして?
アイナ あの、親友の女の子がいるんですけど、3年ぐらい前にその子のお母さんが亡くなっちゃったんです。その子がその日の夜に電話かけてきて、超ヘラヘラしながら「お母さん死んじゃったんだよね。ヤバくない?」みたいな。でもヘラヘラしてるんですけど絶対泣いてるんです。それで私も震えちゃって、なんて言えばいいかわからなくなって、しばらく沈黙が続いたあと、その子が「『きえないで』歌って」って。
──それで電話ごしに歌ったんですか?
アイナ ううん。震えちゃって、頭が真っ白になっちゃって、歌えなかった。あとから聞いたらその子は「きえないで」が聴きたくて私に電話してくれたんです。それからずっと、その電話で歌えなかったことがすごく悔しくて、だから今回ソロの話があったときに迷いなく「きえないで」を歌おうって決めました。その子のために歌いたくて。それに今の自分ならどんなときでも歌えるっていう自信が付いたんで。
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1つのバンドみたいな感覚で(チッチ)