2022年10月にヒューガー加入後、メンバー2名が脱退。さらに「WACK合同オーディション2023」で選ばれた新メンバー(シオンエピック、クレナイ・ワールズエンド、イコ・ムゲンノカナタ)を加えた6人による新体制で今年5月に再スタートを切ったBiS。その第1弾作品となるのは、「イーアーティエイチスィーナーエイチキューカーエイチケームビーネーズィーウーオム」という39文字の長いタイトルを冠したニューシングルで、楽曲プロデュースを中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES、THE SPELLBOUND)、作詞を小林祐介(THE SPELLBOUND、The Novembers)が手がけている。
音楽ナタリーではシングルが7月12日にリリースされることを記念し、2回にわたる特集を展開。第1回はBiSと中野、小林へのインタビューを行い、新体制初のシングルについて語り合ってもらった。また第2回ではメンバー6人へのインタビューを実施。新体制をスタートさせたばかりのグループの現状を聞いた。
取材・文 / 森朋之(P1~2)、田中和宏(P3~4)撮影 / 星野耕作
インタビュー
中野雅之によるプロデュース、そのビジョンとは
──まずは中野さんに聞かせてほしいのですが、BiSのシングルをプロデュースするにあたって、どんなビジョンを描いていましたか?
中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES、THE SPELLBOUND) アイドルグループに楽曲を提供するのは初めてなんですが、オファーをいただいたのは1年ほど前なんです。そのあと、いろいろとBiSのほうで紆余曲折があって、新しいメンバーを加えて再スタートすることが決まって。新しいグループをプロデュースする感覚というか、メンバーの結束が強くなったらいいなという気持ちで制作していました。
トギー(BiS) ありがとうございます。この1年間いろいろあった中で、このタイミングでお二人に楽曲を提供していただけました。新体制第1弾作品としてこのシングルをリリースできて本当にうれしいです。
──大事なタイミングのシングルになった、と。
中野 そうですね、結果的に。うまくいくことを祈ってます。
BiS がんばります!
──表題曲「イーアーティエイチスィーナーエイチキューカーエイチケームビーネーズィーウーオム」のタイトルは、“もう全部めちゃくちゃにしたい”をアルファベット表記したもの(mou zenbu mechakuchani shitai)を逆さ読みした“おまじない”だとか。
中野 はい。小林くんの造語に近いですね。
小林祐介(THE SPELLBOUND、The Novembers) アイデアのもとは、ミュージカル映画「メリー・ポピンズ」の「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」という楽曲ですね。「ひと息でこの言葉を歌うとなんでもうまくいく」という魔法のおまじないなんですが、そこから着想を得て、どんなおまじないがいいか考えました。もとの言葉「もう全部めちゃくちゃにしたい」はけっこうパンキッシュなんだけど、逆さまに読むことで「ここからもっとよくなっていく」「再生されていく」「新しく始まる」という意味合いも込められるんじゃないかな、と。中野さんの楽曲ともすごくフィットしたし、グループの新しい扉を開くような曲になったと思います。
中野 うん。BiSにはオルタナティブというか、正統派アイドルとはちょっと違う、反社会的なパンクミュージックやダークヒーロー的なイメージが僕の中にあるんです。そのイメージを武器にした、もっとアグレッシブなテイストの楽曲があってもいいだろうなと思っていました。
メンバーの半分以上が初レコーディング
──BiSの皆さんは「イーアー~」に対してどんなイメージを持っていますか?
トギー 曲名については自分でどれだけ考えてもわからなかったです(笑)。なのでレコーディングのときにおまじないの意味を教えていただきました。こんなにも私たちのことを考えて歌詞を書いてくださったとわかってすごくうれしかったです。
ナノ3(BiS) 初めて聴いたときから、すごくワクワクする気持ちになりました。今までのBiSにはあまりなかった楽曲というか、新しい感じもありますし。これから自分たちが新しく変わっていける、どんどんよくなっていけるんじゃないかと思わせてくれる楽曲ですね。おまじないの意味を教えていただいてからは、歌うときの気持ちもすごく変わって。このタイミングでこの楽曲をいただけて、私もすごくうれしいです。
──2022年10月に加入したヒューガーさん、今年加入したシオンエピックさん、クレナイ・ワールズエンドさん、イコ・ムゲンノカナタさんは、この曲で初めてのレコーディングを経験したわけですね。
シオンエピック(BiS) スタジオにマイクがあって、「なんか見たことある」って。
トギー・ナノ3 ははは(笑)。
シオン それだけですごいことなのに、中野さん、小林さんのお二方がいらっしゃって……緊張しました。
クレナイ・ワールズエンド(BiS) レコーディング本番は自分で練習していたときとは雰囲気が違って、最初はうまく歌えなかったんですよ。でも、お二人がすごく優しくて。緊張しながらも、どこか安心感がありましたね。
イコ・ムゲンノカナタ(BiS) 私も「自分の声が入る最初の曲だ」と思うと、やっぱり緊張しました。でも、おまじないの意味を教えていただいて「心強いな」と思ったし、楽しくなってきたんですよね。ワクワクしながら歌ってました。
──中野さんはどんなディレクションを?
中野 細かいディレクションというより、「こういう気持ちで作った曲だから、元気に歌おう!」みたいな感じですね。レコーディングが初めての子もいたし、「とにかく一生懸命歌えば、いいことが起きるはず」っていう(笑)。彼女たちが歌っている姿を見たのはそのときが初めてだったんですけど、発する声やバイブスを目の当たりにして、応援したい気持ちになったんですよね。そういう曲を作れたと思ったし、BiSの新しい門出にも合ってるのかなと。
──なるほど。ヒューガーさんはいかがですか?
ヒューガー(BiS) 歌詞のことなんですけど、「生まれたての世界にあげる 新しい誕生日を」というところがすごく好きで。THE SPELLBOUNDさんの曲(「FLOWER」)にも、The Novembersの曲(「sea's sweep」)にも“新しい誕生日”という言葉があるんですけど、それをこの曲にも入れてくださったんだなって。新しく始まることに対して前向きになれる歌詞だと思います。
小林 そう言っていただけてうれしいです。BiSの皆さんは、それぞれが本名とは違う名前を持って、別の自分として社会に存在していて。そう考えると、新しいBiSが始まるタイミングで“生まれ直す”“なりたい自分になって羽ばたいていく”ということを感じられる歌詞がいいなと思ったんですよね。
トギー うれしいです。「イーアー~」はもうライブでも披露しているんですよ。サビを全員で歌う曲は今まであまりなかったんですけど、全員で歌うことですごいパワーが生まれる感じがあります。
中野 よかった。サビをユニゾンにしたのはメンバーそれぞれのボーカルの個性をそこまで理解できていないのもあって、パートで分けるよりもみんなで歌えたほうがいいと思ったんです。この先、もしご縁があれば1人ひとりのキャラクターに合わせて細かく歌い分けてもらう曲も作ってみたいです。
BiSが研究員に捧げる新しいラブソング
──カップリングの「僕の目を見つめて 君の世界になりたい」は、「ガッチャガッチャ回し続けて スーハースーハー今日も息してる」というラインから始まります。歌詞のテーマについて教えてもらえますか?
小林 こちらの曲は僕と中野さんであーでもないこーでもないと試行錯誤しながら作ったんですよね。
中野 ちょっと苦戦してましたね、最初。僕と小林くんの間でイメージの共有に時間がかかってしまって。
小林 中野さんが先にデモを作って、「どんな言葉が合うだろうな」というところから制作を始めて。いろいろ試す中で「ガッチャガッチャ」と歌い始めてたんですが、擬態語テイストにたどり着くまでが長かった。最初はもっとカタいというか、真面目な言葉、詞らしい歌詞をイメージしたんですが、BiSが持っているパンキッシュな部分、ハジけるような感じを出したほうがいいな、と。踊りながら歌ってるうちに「Revolution! 灰になるまで」というワードが出てきたりして、自分の中でスイッチが変わってきました。
中野 そう。全部のピースがハマって、エネルギッシュな曲になった。それだけじゃなくて、優しさや寄り添う感じもあるんですよ。それがファンとBiSの関係性、メンバーのみんながファンに対して歌ってあげるラブソングのような雰囲気につながっているのかな、と。この混沌とした世界を一緒に生きて、サバイブするというのか。そういう聴き方ができる楽曲でもあると思います。
ヒューガー 「僕の目を見つめて 君の世界になりたい」という歌詞も、これまでのBiSの曲にはない感じだなと思いました。私たちの曲は“タン、タン、タン、タン”とリズムを正確に刻む曲が多くて。この曲は“後ろ”に重きを置いたリズムなので、歌い方もしっかり指導していただきました。すごく難しかったけど、「ここを意識して歌うと、こうなるんだ」みたいな新しい発見がありましたね。
中野 確かにBiSはテンポが速い曲、ストレートな8ビートの曲が多いですからね。それに比べるとちょっとレイドバックしたグルーヴがあるし、今までの曲とは違った感覚があるでしょうね。
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松隈ケンタサウンドとは違う世界を