ナタリー PowerPush - bird

仲間と紡ぐ極上ポップス 4年半ぶりアルバム「NEW BASIC」

たくさん作品を出すことより長く歌っていくこと

──近年はライブ活動を積極的に行っているbirdさんですが、フルアルバムの発表は4年半も期間が空きました。このとおり、作品リリースのペースは以前より緩やかになっていますよね。

ふふふ、そうですかね(笑)。やっぱりガーっと攻めなくちゃいけない時期もあると思うんだけど、今はすごく自然な流れで作品を作ってますね。やっぱり私は作品をたくさん出したいというよりも、長く歌っていきたいという思いのほうが強いです。長く歌っている先輩たちを見てると、その人なりのペースでずっと走ってるという感じがあって、私もそうなるためにはあまり焦らなくていいんじゃないかなって思うんですよね。

──しかしアーティストによっては、自分の表現したいことをやり切ったら辞めるという逆のタイプの人もいますよね。

確かに。でも音楽の鳴らし方や生き方は人それぞれだから、どんなスタイルでもいいと思うんですよ。私の場合はやっぱり歌が大好きなので、歌えるという環境をずっと持っていられたら幸せだなって。

──なるほど。そんなbirdさんが、楽曲を作る上で大切にしていることがあれば教えてください。

やっぱりいつも思ってるのは、音楽なんで楽しくないと、ということ。その芯はズレると良くないですね。それから、聴く人自身が楽しんでくれるように“余白”を作ってあげることも大事。

──余白?

発信するほうから完璧に全部固めちゃうと、聴いたときにもうお腹いっぱいになっちゃうような印象があって、私はあんまり好きじゃないんです。曲を聴いて何か考えたり、何か思い浮かんだり、行動したり、立ち止まってみたり、そういうふうに聴くほうの意識が動くような余白っていうかのりしろのある音楽が、私はすごく好きですね。

──具体的にはどのように余白を表現するんですか?

例えば歌詞だと、言い切らない、結論は書かないとか、メロディだったらAメロ、Bメロ、サビ、大サビという定型ではなく、同じフレーズだけで仕上げた曲っていうのもいいかもしれない。歌だったら、全部歌い上げちゃうと「ごちそうさまでした!」って圧倒されちゃう感じもあるから、バランス良く出し切らないとか。いろんな側面からできると思います。その空いてる部分に、聴く人の思いが入り込んでいくと思うんです。

──それは今も昔も大事にしていることですか?

そうですね、意識はずっとあります。だからライブでも、きっちりやらなくちゃいけない曲はもちろんあるけど、そうじゃない曲もあってもいいと思う。

──そうですね。オーディエンスとしても、ライブの醍醐味の1つはそういうラフな生っぽさだと思います。

間違えたっていいし、テンポが変わってもいいだろうし。ライブにおいては余白をその場で楽しめますからね。

birdの私生活

──お話を伺っていると、birdさんの姿勢が何に対しても朗らかでリラックスしていて、アーティスト活動、ひいては私生活も充実されてるんだろうなと感じます。

そうですか? うーん、忙しいですね(笑)。バタバタしてます。でもそれはそれでいいんじゃないかなとも思います。

bird

──お子さんがお腹にいる状態で歌ったという「海を見つめて」のエピソードのように、私生活と関係させて音作りをすることもあるんですか?

やったりやらなかったりですかね。例えば前回のオリジナルアルバムは人が生まれてから死ぬまでっていうテーマで作ったんですけど、制作時はちょうど1人目が産まれるタイミングだったんですね。だから「生」をテーマにした曲を自分で書いたり、心臓の音を収録したりしたんです。そうやってあえてプライベートを持ち込むときもあるし、逆に何もタッチせずに1人の歌い手として作るときもある。それは私に限らず、何かを表現する人って生活と表現活動の距離感を常にコントロールしてるんじゃないかな。

──ひとりの人間として恋愛、結婚、出産、子育てを経験しライフステージが上がっていくにつれて、アーティスト活動にも少なからず影響はあると思うんですが、その変化についてはどうですか?

物理的に独りでいたときと今を比較したら、使える時間は確実に少ないですよ。独身だったら朝までワハハハって飲んでそのまま寝て夕方起きても許されるし、長期間海外に行って収穫したものを音に落としたりもできる。反面、今の私の環境では音楽をできる時間帯が限られてたり、周りのサポートがないとできない。だけどその限られた時間で何を考えてどうやるかは、すごく濃いんですよね。結局、そのときどきの状況を受け入れて自分に良いように持っていくのが一番良いと思うんです。私、独りのときも楽しかったし今も楽しいですもん。比べると生活も全く変わったし、かかわってくるものも違うけど、それはそれでいいもんですよ。

──忙しくてめいってしまうことはないですか。

テンテコマイになってますよ!(笑) 無理無理無理ってなってるときもあるし。だけど人間だからそういうときがあっても普通でしょう。独りで何もすることないし面白くなーいとか思ってダラダラしてても、それがゆくゆくは歌詞になるかもしれないし、わかんないですよね。どれが良くてどれが良くないっていうのは。

──一家にそんなポジティブなお母さんがいると、家の中がすごく楽しそうですね(笑)。

いやぁものすごいテキトーですよ、アハハ(笑)。まぁそういう環境に生まれてきたのはしょうがないので、子供たちもそこは柔軟に生きていってくれたらなと思います。

7thアルバム「NEW BASIC」リリース記念ライブ

「bird "NEW BASIC" LIVE」

2011年6月28日(火)
Billboard Live TOKYO

bird(ばーど)

1975年生まれ、京都出身の女性シンガーソングライター。大沢伸一に認められ、1999年に大沢主宰の音楽レーベル・RealEyesからシングル「SOULS」でデビューを果たす。同年7月にリリースした1stアルバム「bird」は70万枚の売り上げを記録し、日本ゴールドディスク大賞新人賞を受賞した。2002年にRealEyesから独立。以後は、作曲やプロデュースといったクリエイターとしての才能も発揮し、カバーアルバムやオリジナルアルバムの制作を行う。伸びやかな歌声を武器に、ジャンルの垣根を越えて活躍するその姿勢は、ライブも含め高い評価を得ている。