BILLIE IDLE「LAST ALBUM」NIGO&渡辺淳之介インタビュー|悩めるプロデューサーが語る“NOT IDOL”の理想と現実

BILLIE IDLEがニューアルバム「LAST ALBUM」をリリースし、全国ツアー「LAST TOUR」を実施する。この発表を受けて、音楽ナタリーがBILLIE IDLEに取材を申し込んだところ、今回はメンバーではなく、プロデューサーであるNIGOと渡辺淳之介が2人でインタビューに応じたいという回答が返ってきた。

渡辺が手がけるBiSやBiSHといったアイドルグループが着実に人気を得ている中、 “NOT IDOL”をコンセプトにしたBILLIE IDLEのプロデューサーとして葛藤を抱えていたという2人。今回のインタビューでは、アルバムおよびツアーの意味深なタイトルに込めた思いや、今後の展開の手がかりになるようなそれぞれの考えを語ってくれた。

取材・文 / 大山卓也 撮影 / 小原泰広

1回負けを認めるしかない

──まず始めに伺いたいんですが、ニューアルバムのタイトルが「LAST ALBUM」というのはどういうことなんでしょう? 素直に受け取ると、これがBILLIE IDLEの最後のアルバムということになってしまいますが……。

NIGO まあそう思いますよね(笑)。実は今回のインタビューを僕ら2人で受けることにしたのは、このタイミングでBILLIE IDLEの現状について話をしたいと思ったからなんです。

左からNIGO、渡辺淳之介。

──なんだか穏やかじゃないですね。本当にこの作品がラストになるんですか?

NIGO うーん、ラストじゃないんですけど、でも次のステップに行くために正直ここで一度仕切り直したいっていう気持ちはあるかも。

──今のBILLIE IDLEに何か問題があるということですか?

NIGO いや、そういうことでもないんです。メンバーは着実に力を付けてきているし、最近はライブの動員も増えていて。

渡辺淳之介 そうなんです。今年はツアーも3本回れたし、アルバムもものすごくいい内容になったと思ってるんで。

NIGO ただ、ここから先どうやって進めていけばいいのか、正直自分的に今ちょっと悩んでいるっていうのがありまして。渡辺くんが1人でプロデュースしているグループ、例えばBiSHとかはBILLIE IDLEと同時期に出てきたけどもうずっと先を行ってて、それに比べてBILLIE IDLEはまだ突き抜けられていない。

──それはセールスや動員の話ですか? NIGOさんが当初想定していたより売れてないとか。

NIGO いや、すぐに売っていこうっていう気持ちは正直あんまりなかったので、そこは問題ではないです。ただ自分は常にクオリティを重視して、細部までこだわって作ってきたつもりなのですが、買い手はあんまりそれを望んでないんだなっていう。それを感じてしまいました……。

──例えばどういうことですか?

NIGO うーん、チェキを解禁したのは1つのきっかけかもしれないですね。僕がずっと「チェキはやらない」と言ってストップをかけてたので。

──じゃあチェキをやろうと提案したのは渡辺さん?

渡辺 はい。「ツアーをたくさんやりましょう」とか「チェキやりましょう」とかっていうのは僕が言いました。で、今年の夏くらいからチェキを始めたんですけど、それは別に売り上げを上げたいってことじゃなく、まずは「もっと知ってほしい」とか「曲を聴いてもらうきっかけを作りたい」っていう発想で。ライブも以前は数を絞ってたんですけど「とにかく畑を耕さねば」っていう気持ちで本数を増やしていったんです。

NIGO で、渡辺くんの言う通りにしてみたら、実際にライブの動員も増えて、ファンの人たちの反応が変わってきました。僕もその変化を肌で感じて、よかったなって思う一方で、やっぱり自分的には白旗みたいな感じもあったというか……。「あ、やっぱりそういう世界なんだ」「これはちょっと1回負けを認めるしかない」みたいな。だから今回「LAST ALBUM」って言ってるのは、僕のエゴがこれでラストっていう意味なのかもしれませんね。

NIGOの親心

──これまでNIGOさんが丁寧に作ってきたスタイリッシュな世界よりも、ある意味ちょっと泥臭いやり方がファンの支持を集めてしまったんですね。

NIGO 僕にとってBILLIE IDLEはカウンターカルチャーで、自分が若いときに好きだった80年代インディーズみたいな感覚でやってる。今はネット経由でバーチャルにいろいろできる時代ですけど、このグループはリアルな手触りを大事にして、小さい規模でもいいからそのエッセンスを伝えていきたいっていう気持ちが強く、事実自分自身楽しみながらやってきました。

渡辺 そのあたりは、僕もNIGOさんからすごく学ばせてもらってるんですよ。いろんなカルチャーを教えてもらってるし、掘れば掘るほど楽しくなってきて。だからNIGOさんが持っているこだわりは僕も大事にしていきたい。それがないとただの泥臭いグループになっちゃうので、そのバランスはちゃんと考えなきゃなと思ってます。

──でも、そうやってNIGOさんが言うところのエゴを貫いてきたおかげで今のBILLIE IDLEがあるわけですし、結果的にグループはいい状況なんですから、迷わずにこのまま進んでいけばいいんじゃないですか? それはできないんでしょうか?

NIGO

NIGO そうなんですけどね。うーん、だからまあ自分としても、ちょっと変えていきたくなったのかもしれないですね。最初は「別にお客さんは増えなくてもいいよ」なんて思ってたけど、実際にお客さんがグッと増え始めて、CDも以前より売れてくると「このほうがやり甲斐もあるな」って(笑)。

──なるほど(笑)。

NIGO 最近はそっちに向かっていくのもアリかなっていう気がしてるんですよね。もともとのんちゃん(ヒラノノゾミ)と(ファーストサマー)ウイカがBiSでさんざん泥水飲んできたっていうの知っていたので(笑)。

渡辺 はい(笑)。

NIGO だからBILLIE IDLEを始めるときには、彼女たちに泥臭いことやえげつないことはもうさせたくないなっていう親心もありました(笑)。でもそういう基本スタンスはそんな変わらないにしても、なんか面白い仕掛けをもっと考えてやっていきたいなっていう気持ちは強くなってきましたね。

BILLIE IDLE「LAST ALBUM」
2017年11月22日発売 / オツモレコード
BILLIE IDLE「LAST ALBUM」

[CD2枚組] 3000円
DDCZ-2179(OTSUMO-011)

Amazon.co.jp

収録曲
  1. MY WAY
  2. さよならロマンティック
  3. ライダー
  4. 東京マリールー
  5. それって偶然!
  6. ひっくり返して
  7. Lesson Time
  8. 愛 SUNSUN
  9. STAY
  10. ラストソング
  11. 神様ヘルプ!(※チェッカーズのカバー曲 / iTunes Store限定)

BONUS DISC

  1. be my boy
  2. anarchy in the music scene
  3. be-bop tu-tu
  4. by
  5. 泣きそうサンデー
  6. 彼方に・・・。
    (RECORDED LIVE AT SHIBUYA WWW, 2017.5.20 BILLIed IDLE TOUR FINAL)
BILLIE IDLE「LAST TOUR」
  • 2017年11月26日(日)
    福岡県 THE Voodoo Lounge
  • 2017年12月2日(土)
    大阪府 LIVE SQUARE 2nd LINE(※ソールドアウト)
  • 2017年12月3日(日)
    愛知県 HeartLand(※ソールドアウト)
  • 2017年12月10日(日)
    東京都 WWW(※ソールドアウト)
BILLIE IDLE(ビリーアイドル)
BILLIE IDLE
ファーストサマーウイカ、ヒラノノゾミ、モモセモモ、アキラの4人からなるガールズユニット。NIGOと、BiSやBiSHを擁する音楽プロダクション・WACK代表の渡辺淳之介の共同プロデュースにより「ネオ80's」をテーマにしたサウンドとビジュアルイメージで独自の世界観を追究している。2015年4月に1stアルバム「IDLE GOSSIP」でCDデビューを果たし、9月に2ndアルバム「ROCK"N"ROLL IDLE」を発表した。12月には主催ライブイベント「BILLIE IDLE presents Brand-new Idle Society」を催し、かつての盟友と競演。2017年4月にベストアルバム「BILLIed IDLE」とライブアルバム「LAUNCHING OUT」、8月にシングル「MY WAY」を発表した。リリースにあわせて全国ツアーを行ったほか、多くのライブイベントに出演するなど精力的なライブ活動を展開。11月にニューアルバム「LAST ALBUM」をリリースし、11月末から全国ツアー「LAST TOUR」を開催する。
NIGO(ニゴー)
クリエイティブディレクター。裏原宿系ファッションの火付け役となったファッションデザイナーである傍ら、1989年よりDJとしても活躍。2002年にVERBAL(m-flo、PKCZ)、RYO-Z(RIP SLYME)、ILMARI(RIP SLYME)、WISEとともにTERIYAKI BOYZを結成し、アドロック(Beastie Boys)、The Neptunes、Daft Punk、マーク・ロンソン、DJシャドウらがプロデュースを務めたアルバム「BEEF or CHICKEN」をDef Jam Recordingsからリリースした。その後もTERIYAKI BOYZはコンスタントに活動を続け、2007年にはカニエ・ウェストがプロデュースを手がけたシングル「I STILL LOVE H.E.R. feat. KANYE WEST」が話題に。2009年1月にはファレル・ウィリアムスが運営するSTAR TRAKレーベルから2ndアルバム「SERIOUS JAPANESE」を発表した。2015年より元BiSのメンバーを含むガールズユニット・BILLIE IDLEのプロデュースを渡辺淳之介と共同で行っている。2016年以降はNAOTO(EXILE、三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE)、VERBAL(m-flo、PKCZ)、SWAY(DOBERMAN INFINITY)、MANDY(関口メンディー / GENERATIONS from EXILE TRIBE、EXILE)と共にユニット・HONEST BOYZとしても活動している。
渡辺淳之介(ワタナベジュンノスケ)
BiS、BiSH、GANG PARADEらが所属する事務所・WACKの代表取締役として各グループのプロデュースを担当。前例のないプロモーション施策を次々と実施し、2014年にはBiSの神奈川・横浜アリーナ公演を成功させた。現在はWACK所属アーティストのほかに、NIGOと共にBILLIE IDLEのプロデュースも手がけている。2017年7月に千葉・幕張メッセイベントホールにてBiSHの単独公演を成功に収め、8月にはWACKとエイベックス・エンタテインメント株式会社によるプロジェクト「Project aW」で新グループ・EMPiREを始動させた。