BIGMAMA「Mirror World」特集|新作は次なるビジョンへのインビテーション (2/2)

自信があるからこそ原点回帰できる

──先ほど「柿沼さんやBisさんが作ったメロディに、金井さんが歌詞を書くという黄金パターンが1つ確立された」という話が出ましたが、「Mirror World」は作詞も作曲も金井さんが行っていますね。こちらについては?

金井 柿沼やバケツの書いた曲も含めて、選曲会議のテーブルにはほかにもいい曲がいろいろと並んでいたんですよ。僕も満足していたんですけど、新しいプロジェクトの幕開けの曲だと考えると、もう少しブライトな、幸先のいい曲にしたかった。そこから超後出しで僕が書いてきた曲に、メンバーやドコモの人たちが「いいね」と言ってくれて。自分が思っていたよりメンバーの評価が高い曲って、たまーにあるんですよね。力が抜けているからなのかなんなのか、わからないですけど。

安井 僕は一聴してメロがいいなと思いました。ビスたんが「この曲やりましょうよ」とずっと言ってたよね。

Bis そうですね。最初のデモはワンコーラスないくらいの尺だったんですけど、短くてもビビッときました。個人的には「Tokyo Emotional Gakuen」でいろいろなアイデアを投げ切った感覚があったから、次はドコモさんと組んで新曲を作ろうとなったときに、正直「どうしよう?」という感じだったんですよ。そんな中で、デモ出し期間の終盤に金井さんから超ストレートにハートを殴ってくるような曲が届いて「これだ!」と思いました。誤解を恐れずに言うと、初期のBIGMAMAっぽい曲ですよね。

東出 「Love and Leave」(2007年リリースの1stフルアルバム)に入っていてもいいんじゃないかってくらいだよね。こういう“This is BIGMAMA”みたいな曲が新しい環境での1作目に選ばれたのは、「確かに」という感じがある。

柿沼 金井の作るメロディや歌詞がBIGMAMAの原点だからね。BIGMAMAのド定番なので、サウンド面ではけっこう悩みました。やりようによっては初期と同じような感じになっちゃうから、今っぽさや引っかかりをどう作ろうかと。

柿沼広也(G, Vo)

柿沼広也(G, Vo)

Bis 往年のファンはこういう曲を求めていると思うんですけど、大衆性に甘んじているだけでは、バンドのクリエイティブは停滞してしまいますから。逆に言うと、自信があるからこそ原点回帰できる。今、BIGMAMAは過渡期で、この体制での音楽性を突き詰めていく中で、もがきながら試行錯誤しました。そういう期間を経たからこそ、これだけまっすぐな曲を今のメンバーの技術で鳴らしたら、めっちゃカッコよくなるだろうと。そういう自信があったから、「このタイミングで出しましょうよ」と激推ししました。

BIGMAMAでは“らしさ”になる

──イントロのリフや間奏のベースとのユニゾンフレーズなど、バイオリンのメロディが印象的な曲だと思いました。

東出 この間奏、ライブでは英ちゃん(安井)のことをチラッと見ながら弾いてます(笑)。音域が一番高い楽器と一番低い楽器なので、縦だけではなく音のスピードや重さもそろってないと、合っていないように聞こえちゃうんですよ。

安井 だから完全なユニゾンにするのが難しくて。

東出 クリックを聴かずに合わせていくことが、この先の課題になってくると思います。イントロのリフは面白いですよね。金井ちゃんからこの曲をもらったときにバイオリンのフレーズは8、9割決まっていたんですけど、「このリフ、センスいいな」「自分だったら思いつかない手法だな」と思いました。このリフをずっと刻み続けている曲なんですけど、ただひたすら刻んでいるだけなのにレコーディングが楽しくて。ピュアな気持ちで弾けている感じがして、自分的にもグッときましたね。

柿沼 BIGMAMAの曲って、スケールに対してバイオリンのフレーズがぶつかる瞬間がけっこうあるんですよ。このイントロも、その引っかかりが魅力なんだろうなと。

東出 ほかのバンドの人とセッションしているときや、ゲストで呼んでもらったレコーディングやライブで「真緒ちゃん、ちゃんとコード理解してる?」と聞かれることがあるんですけど、それはたぶん音が当たっているからなんですよ。だけど、もちろんコードはわかってるし(笑)、私は「いや、これでよくない?」という感覚で今まで突き進んできて。音がぶつかるのって音楽ジャンルによってはバッドとされるけど、BIGMAMAではグッドになるし、“らしさ”になる。この曲のリフに関しては特にそう思います。

BIGMAMA

BIGMAMA

BIGMAMA

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イメージを一度メンバーに預けることに意味がある

──「Mirror World」の歌詞についても話を聞かせてください。

金井 次の展開を踏まえるとこの曲はファンタジーに寄せるべきだったので、「mirror」という単語を繰り返したり「鏡よ鏡」という言葉を使ったりすることで、「ファンタジーな曲だ」と一発で認知されるようなフックを作りました。あとは単純に、メロディに呼ばれる感じで。柿沼やバケツの曲に対して歌詞を書くときは、ある意味無責任に自由に言葉を乗せられるんですよ。自分の曲の場合は言葉が重くなってしまうのが悩みだったんですけど、今回は枷が外れている感じがするというか。同時期に柿沼やバケツの書いた曲にも歌詞を書いたり、歌を入れたりしていたから軽やかに書けたんじゃないかなと。

──不思議なバランスの曲ですよね。メロディも歌詞も金井さん節だけど、この5人だからこその“BIGMAMAらしさ”が発揮されている感じがします。

東出 BIGMAMAがケーキだとしたら、長年一緒にやってるから「じゃあ、あなたは小麦粉ね」「私はクリーム」という役割分担ができているんですよ。今までは金井が「こういうケーキを作るんだ」ってレシピや食材を全部持ってきて、私たちはイメージを実現できるように切磋琢磨してきたけど、今はもっとナチュラルに馴染んでいるというか。金井がイメージしているものと私たちから出てくるものがそんなに遠くないような状態に、自然となっている気がするんですよね。

東出真緒(Violin)

東出真緒(Violin)

金井 作曲者である僕の頭の中にはもちろん100%のイメージがありますけど、メンバーにはイメージの7、8割を共有するようにしているんですよ。「この状態で渡したら、こういうふうに変化させてくれるんじゃないか」と思いながら、メンバーに一度預けることに意味がある。そこからそれぞれに解釈して曲がブラッシュアップされるんですが、7、8割しか伝えていなかったはずなのに、最終的にメンバーが仕上げてきてくれたものがもともと僕が一番欲しかったものだった、という状態に今なっているんですよね。

柿沼 ギターに関しても、デモにまったくなかったフレーズを僕が入れたら、金井が「あれいいね」と言ってくれたことがありました。そういうリレーの中で曲作りをできるのが最近のBIGMAMAのクリエイトであり、バンドがまた1つ強くなったと感じるポイントなのかなと。

金井 メンバーに一度預けることって近道ではないんですよね。イメージを再現するのが目的なら1人で作ったほうが早いかもしれない。そうじゃなくて、変化や化学反応を楽しむことがバンドをやる意義だと常々思っています。それぞれが追求した音色を入れてくれるだけで、楽曲や僕の意図が変わっていくし、その変化にがっかりしたことは今まで一度もない。レコーディングをすると曲が研磨されて、より輝くんですよ。その過程が楽しいからバンドをやっているし、みんなが曲に対して愛情を注いでくれているからバンドを続けられるんだと思います。

BIGMAMAは「HUNTER×HUNTER」?

──「Mirror World」は新プロジェクトのインビテーションとして制作したという話でしたが、次の景色を見せてもらえるのはもう少し先でしょうか?

金井 そうですね。そういう意味で「Mirror World」は遅効性の曲というか。のちに振り返ったときに「そういうことだったんだ」と思ってもらえたらいいなと。ざっくり言うと、次に連れて行きたい場所って非現実なんですよ。そうなると例えば「生活感のあるものは要らない」とか制作上のルールが生まれるんですけど、そういえばフラッドの佐々木(亮介)くんに「BIGMAMAは『HUNTER×HUNTER』だ」と言ってもらったなって。

安井 どういうこと?

金井 作品の世界観に制約や縛りをつけることでより強い表現にしているのが、「HUNTER×HUNTER」の念能力者みたいだと。今回の曲にも念のようなものがこもっていると思うし、柿沼やビスが書いてきた曲もパワーのあるものでした。「Mirror World」以外にもたくさんいい曲が生まれています。ここから新しいプロジェクトが始まっていくので、今後の展開も楽しみにしていただけたらうれしいです。

BIGMAMA

BIGMAMA

公演情報

BIGMAMA「■■■■■■■■」

  • 2025年2月15日(土)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2025年2月18日(火)東京都 LIQUIDROOM
  • 2025年2月23日(日・祝)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO

プロフィール

BIGMAMA(ビッグママ)

金井政人(Vo, G)、柿沼広也(G, Vo)、安井英人(B)、東出真緒(Violin, Key, Cho)、Bucket Banquet Bis(Dr)からなるロックバンド。2002年に東京・八王子で結成され、メンバーチェンジを経て現在の編成に。2006年7月にミニアルバム「short films」をUK.PROJECT傘下のレーベル・RX-RECORDSから発表し、2010年10月には“ロック×クラシック”をテーマにしたコンセプトアルバム「Roclassick」を発売した。その後もコンスタントにリリースやライブツアーを重ね、2017年9月に初のベストアルバム「BESTMAMA」を発表。同年10月にはキャリア初の東京・日本武道館での単独公演「BIGMAMA in BUDOKAN」を開催し成功に収めた。2021年5月にサポートメンバーだったBucket Banquet Bisが正式ドラマーとして加入。2023年10月に「青春、学校」をテーマにした現体制初のフルアルバム「Tokyo Emotional Gakuen」をリリースした。2024年10月にはNTTドコモ・スタジオ&ライブとレーベルパートナーシップを締結したことを発表。その第1弾作品となる新曲「Mirror World」を11月に配信リリースした。2025年には「Mirror World」を携えた東名阪ツアー「■■■■■■■■」を行う。