Bialystocksインタビュー
いつも以上に自由だった初ワンマン
──まずは10月2日に行われた初ワンマンのことから聞かせてください。初ワンマンの手応えはどうでした?(参照:Bialystocks、映像と音楽を融合させた初ワンマンでファンに吉報伝える)
甫木元空(Vo) ホールでライブをやること自体が初めてで、あれだけの数のお客さんを目の当たりにした経験もなかったし、どういう空気感になるかも“やってみないとわからない”という状態でした。実際にやってみて、いつもより皆さんが集中して聴いてくれている感じがありましたね。
菊池剛(Key) 対バンライブはステージの転換もあるからけっこう慌ただしいけど、ワンマンは普段よりゆったりやれた感覚がありました。お客さん全員が我々を観に来てくれているのもあって、いつも以上に自由にライブをやれたかな。
──本編ではMCがほとんどなく、楽曲をしっかり届ける構成でした。単独公演を行ったことで、ライブのスタイルも確立されてきたのではないですか?
甫木元 どうなんだろう? 個人的にはまだライブの経験がそこまでなくて、このバンドを結成してすぐに新型コロナウイルスが流行してしまったので、オーディエンスとのキャッチボールみたいなことがまだできていない。曲によっては手拍子とか、ちょっと体を揺らしてくれることもありますが、今のところは静かに聴いてもらう感じになってますね。
菊池 ライブ中、甫木元が煽ることもないですから(笑)。自然と今の形になっているのかな。
甫木元 声は出せなくても、ワンマンライブとなると、観にきてくれている方々とのやりとり、意思疎通がかなりできた気がしています。 “観る / 観られる”の関係性がちゃんとあったというか。
──オーディエンスとバンドをつないでいるのは間違いなく、甫木元さんの歌だと思います。初の単独公演なので、もっと映像を使った演出が入るのかと思っていましたが、あくまで歌と演奏が軸になっていたのも印象的でした。
甫木元 音楽と映像を合わせるさじ加減はかなり難しいと感じていて。今回のライブでも映像を少しだけ入れていますが、あくまでも幕間のような役割でした。曲数がもっとあって、演出の選択肢が増えたら違うのかもしれませんが、今は演奏と照明でシンプルにやるほうがいいのかなと。
──なるほど。西田修大(G)さん、越智俊介(B / CRCK/LCKS)さん、小山田和正(Dr / ex. ソノダバンド)さん、佐々木詩織(Cho)さん、オオノリュータロー(Cho)さんを交えたアンサンブルも素晴らしかったです。菊池さんはバンマス的な立場でもあると思いますが、演奏に関してはどう捉えていますか?
菊池 もっとやれるはずだという思いもありますが、本当にすごいミュージシャンの皆さんに助けてもらいながら、いい演奏ができたと思います。自分たちはまだまだですけどね。
──ライブで多彩なコーラスワークを楽しめるのも、Bialystocksの魅力ですよね。
甫木元 音源でもコーラスを多用していて。僕と菊池もコーラスやハーモニーが好きなので、ライブでの優先度が高いんですよ。こだわりの編成も含めて、好きなようにやらせてもらっている今の環境にすごく感謝しています。
2人のメロディが合体した初期の曲
──ここからはメジャー1stアルバム「Quicksand」について伺います。配信シングル「灯台」「日々の手触り」、ドラマ「先生のおとりよせ」のエンディングテーマである「差し色」、甫木元さんの監督作品「はだかのゆめ」の主題歌なども収められていますが、制作に入った時点ではアルバム全体に対してどんなビジョンがありましたか?
甫木元 正直に言うと、先立ったビジョンはあまりありませんでした。前作のアルバム「ビアリストックス」と同じく、まずはお互いにデモを出し合って、「いいメロディだな」とかちょっとでもグッとくる曲を選ぶ形で収録曲を決めていきました。あえてコンセプトも決めていなかったので、制作している中で徐々にアルバムのビジョンが見えてきたのかな。個人的には「思った以上に映画の影響が出たな」と感じています。映画とアルバムをほぼ同じタイミングで発表することは決めていたし、制作の時期も重なっていたので。そこまで意識していたわけではないですが、主に歌詞の面ではつながっているところが多いですね。
──菊池さんはいかがですか?
菊池 1曲1曲がけっこうバラバラですよね。
甫木元 そうだね(笑)。
菊池 今の時代はアルバムを通してではなくて、楽曲ごとに聴かれる傾向もありますし、それはそれでいいのかなとも感じています。
──確かに楽曲ごとの個性がハッキリしていますよね。「灯台」はシンセベースを効かせたダンサブルなナンバー、「日々の手触り」はアコギと歌を中心としたオーガニックな楽曲ですし、「あくびのカーブ」はオルタナ的なギターと浮遊感のあるボーカルが印象的で。
菊池 その中でも「灯台」は「ゆったりした曲が多くなりそうだから、とりあえずテンポが速い曲を作ろう」みたいなところから制作が始まって。「あれもやりたい」「こんなこともやってみたい」という感じで形作られたところが大きいですね。
甫木元 「前にやったことはやらない」という暗黙のルールみたいなものがあって。もちろん同じ人間が作っているから似通うこともあるけど、例えば配信シングルを並べたときに「またこういう感じか」と思われたくないなって。それとアルバムに入っている曲は作った時期がかなり違うんですよ。「朝靄」と「雨宿り」は10月に録音したばかりだけど、ライブでもやった「日々の手触り」「あくびのカーブ」「はだかのゆめ」は前からあった。「Winter」は結成してすぐに作った曲ですし。
菊池 このバンドを結成して、数週間後に録音したのが「Winter」でした。当時は「なんでもいいから作ろう」という感じで。
甫木元 今もそうだけどね(笑)。模索というか、ずっと実験を続けている感じ。「Winter」は菊池が原型を持ってきてくれた曲なんですよ。どんなイメージで作ったんだっけ?
菊池 どうだったかな……。コール・ポーターとかジョージ・ガーシュウィンが好きで、あの時代の雰囲気のメロディを現代的に表現したかったのかな。デモを作ったとき「後半に歌はいらないかな」と思っていたけど、いつの間にか甫木元が歌を入れてた(笑)。
甫木元 前半は菊池のメロディが印象的だったから、後半の盛り上がる部分は自分が考えようかなと。結果的に2人のメロディが合体することになって「こういうやり方もあるんだ!」という驚きがありました。その後の曲の作り方にも影響があるくらい、1つの発見だったと思います。
映画撮影中に作った「ただで太った人生」
──アルバム1曲目の「朝靄」も歌と鍵盤を軸にした、甫木元さんと菊池さんの個性を融合した楽曲ですよね。
甫木元 「朝靄」はデモの段階からこういう雰囲気だったよね。デモの時点でアルバムの1曲目にしたいと思っていたし、シンプルな感じで始めるのもいいんじゃないかなと。
菊池 もっと楽器を入れてもよかったんですけど、作り始めると盛りだくさんになりがちなので、この曲はできるだけ音数を押さえようと。
──「朝靄」のイメージはどこから生まれてきたんですか?
甫木元 今自分が住んでいる高知県の四万十町は、時期によって深い朝靄がかかるんですよ。映画「はだかのゆめ」のロケ地でもあるし、その風景を見ていると“何かが始まる予感”みたいなものがあって。そういう曲からアルバムを始めたかったんですよね。
──「ただで太った人生」は、シンガーソングライターの前野健太さんと甫木元さんが共作で作り上げた曲です。前野さんは映画「はだかのゆめ」に役者としても出演していますが、どういう経緯で曲作りにつながったんですか?
甫木元 前野さんが鼻歌を歌っている場面を撮ろうとしたら「だったら一緒に曲を作ろう」と言ってくれたんです。撮影に入る前に歌詞のやりとりをして、撮影中、スタッフルームの隅っこに集まって2人で曲を作りました。アナログな作り方だし、菊池と作るときとはまた違う感覚でしたね。それを菊池に渡して、今の形にアレンジしてもらって。
菊池 最初に聴いたときは正直、あまりピンとこなかったんですけど……。
甫木元 ハハハ(笑)。
菊池 「光るものがありそうだな」という感じはあった。なので、自分が好きな要素を入れつつ形にしました。
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映画は“遅れてやってくる”