ベリーグッドマンが通算10作目のオリジナルアルバム「すごいかもしれん」をリリースした。
本作に収録されているのは、各種チャートやプレイリストに入った1月リリースのヒット曲「花束」、今年の夏の応援歌として8月に配信された「雑草」、日本テレビ系「スッキリ」の9月度テーマソング「いい気分」、さらに、RoverとHiDEXがベリーグッドマン結成以前に活動していたユニット・Roofy時代の楽曲のリメイクや完全未公開の新曲など11曲だ。
音楽ナタリーでは2018年の特集以来4年ぶりに、3人そろったベリーグッドマンにインタビュー。アルバムの裏も表もたっぷり語ってもらった。
取材・文 / 高岡洋詞撮影 / 入江達也
「すごいかもしれん」「知らんけど」
──前のアルバムは「必ず何かの天才」というタイトル曲が最初にできて、そこからほかの曲を作っていったというお話をされていましたが(参照:ベリーグッドマン「必ず何かの天才」Rover&MOCAインタビュー)、今回もタイトル曲の「すごいかもしれん」から制作がスタートしたんですか?
MOCA 前作ではタイトル曲をきっかけに作っていきましたけど、その前のアルバム「TEPPAN」には「TEPPAN」という曲はなかったりするし、毎回違いますね。タイトルを決めてから大喜利みたいに曲を作っていくことが僕らは多いんですけど、今回はポンと出てきた「すごいかもしれん」というワードが「いい感じだな」と全員で一致したので、そこから作り出しました。そのときには「花束」しかなくて、「雑草」「いい気分」「すごいかもしれん」の順で作っていったので、最初は大喜利的な要素をちょっと外してるんですよね。
Rover 作品タイトルを最初に決めるようになったのは、TEPPAN MUSICを設立してからなんですよ。それまでは「SING SING SING」のナンバリングで7まで出して、8を出さずに「TEPPAN」、そして「必ず何かの天才」「チョベリグ」「すごいかもしれん」とリリースしてきました。このタイトルを考えるというのが実は一番大変な作業なんです。ツアーとかグッズとかいろんなことに影響するので。今回も3人で大喜利みたいな感じでいろいろ言ってたら「すごいかもしれん」が出たんです。僕らが普段から楽屋で使っているような言葉というか。
HiDEX 一時、2人はそれしか言ってなかったですからね(笑)。
Rover 大阪弁の「知らんけど」みたいな感じで、めっちゃ面白い言葉やなと思っていて。なんかかわいいし、下品でもないし、抽象的だし、人をいじることもできるし。それが「なんかいいな」と言っていて、「実際これアルバムタイトルだったら面白いかもね」という感じで決まりました。
──実際、この曲のサビの歌詞で「知らんけど」を使っていますね。
Rover とにかく何を言ってるかよくわからない曲ですよね。「誰に向けてどういう思いを伝えたいのか」みたいなもんも別になくて、ただ「何かすごいことが起こるかもしれないな」という期待感だけが伝わるみたいな。だけど「ま、起こらんかもしれんけど」っていう感じですね(笑)。
──HiDEXさんのヴァースで「人生が名曲の素」というひと言は印象的でした。
HiDEX ありがとうございます。僕らの曲は等身大というか、今思っていることとか、「すごいかもしれん」みたいに2人の間で流行ってる言葉とか、今の僕らをずっと曲に出してきたんかな、と思って書きました。
──この曲はアレンジをマエノミドリのYUTAさんとスメルノマニアの大志さんに委ねていますね。今回は外部のアレンジがいつもより多い気がします。
HiDEX そうですね。特に深い意味はないんですけど、1つひとつ流れがあって。
MOCA これはYUTAくんがインスタのストーリーに上げてたトラックが元になってて、めっちゃいい感じだったから「くれ」って言ったらくれたんです(笑)。そのときはワンフレーズ分しかなかったんですけど、次の日にフルで組んでくれて、2人に聴いてもらったら「アルバムのタイトル曲で行けそうやな」と。ちょっとピコピコ系のヒップホップビートみたいなかわいらしい感じが、自分たちがまだやってないタイプのトラックで面白かったし。そういうふうにノリで作っていった曲もあるし、一方でHiDEXのお兄ちゃんのNAOさんがアレンジしてくれている「流レ星」は、ベリーグッドマンになる前、HiDEXとRoverが2人組でやってたときにNAOさんと共作した曲をリメイクして入れたんです。いろんな方法で1つずつ作っていった楽曲が気付いたら11曲集まったという感じですね。
最初は「パワー」っていうタイトルだったんですよ
──5曲目から話し始めましたが、以後、「Intro~すごいかもしれん~」を除いて2曲目から収録順に触れていきたいと思います。「Together」はライブのオープニングにぴったりな曲ですね。
HiDEX これも「流レ星」と同時期にRoverと僕の2人で歌っていた曲なんです。そのときから僕のアレンジやったんですけど、3人でリメイクすることになったときに、トラックのデータが見つからなかったんですよ(笑)。「こら作らなヤバい」と思って作り直しました。
──「目が覚め後悔して」の大サビで3人のマイクリレーが細かくなるあたりが盛り上がりそうです。
HiDEX サビとそのヴァースの頭ぐらいは、メロディも歌詞もそのままなんですよ。
MOCA 新しく作ったのは僕が歌ってる「Negativeまたin the building」のヴァースぐらいですかね。2人でやっていたときは、ここもどちらかというと歌ものでした。
──「いい気分」でさらに盛り上がるイメージですが、この曲はHiDEXさんがDef Techのプロデューサー・Nagachoさんと共同アレンジしていますね。
MOCA Def TechのMicroさんが大阪に来たときに僕とHiDEXが一緒にメシに行かせてもらって、そこにNagachoさんもいたんです。何度もライブでご一緒してたんですけど、Microさんが「Nagacho、ヒデと一緒に曲作ったら?」と言ってくれて。
HiDEX Nagachoさんは最初はあまり乗り気ではなさそうな感じだったんですけど、作ってるうちにガッチリはまってきて、「こんなんどうすか?」「あ、それいいね!」みたいに2人とも興奮してずっと立って作ってました。この雰囲気で行こう、とある程度固まったので、一旦RoverとMOCAに音源を送ってその日の作業を終えたんです。次の日も制作やったんですけど、スタジオに行ったらもう完成形のギターが録音されてたんですよ。「プロ中のプロはやっぱすごいな。このスピード感とこのクオリティで上げてくれるんだ」と思って感動しました。最初は応援歌にするつもりだったんですけど、2人が「応援歌じゃないな」と判断してくれて、等身大の優しい曲になりました。ちょっと熱さもあって、説得力が増しましたね。
──構成が凝っていて、面白い曲だと思いました。
HiDEX 実は2人にも言ってなかったんですけど、「僕とNagachoさんのエッセンスを1番、2番で分けましょうか」みたいな話をして、1番は僕のピアノ中心で、2番はNagachoさんのギターだけにしたんですよ。
MOCA 全然わからなかったですね。でも確かにアウトロはピアノやもんな。
HiDEX 2番のヴァースのBメロまではNagachoさんのギターだけで進んでんねん。で、そこからピアノが入ってきて、最後は交わらせて終わるっていう。
MOCA タイトルは「いい気分」以外なかったと思ってるんですけどね。トラックを聴いて「めっちゃいい!」と思ったんですけど、ハワイアンサウンドというか、海の感じが見えたから「応援ソングにどうかな」って言われたときは「あれ?違うかな」と思いました(笑)。
Rover 最初は「パワー」っていうトラックタイトルだったんですよ。
HiDEX Nagachoさんに「パワーソング作りたいんで」と言ったら「じゃあ『パワー』でいいか」と(笑)。僕も正直、途中から「これは応援歌じゃないよな……」と思っていたので、「いい気分」が案で上がってきたときは安心しました。
MOCA Nagachoさんなりのパワーソングなのかもしれないし、そこがよかったですね。
HiDEX 最初から「いい気分」のつもりで作ったら、もっとレイドバックしたものになってたかもしれないし。
──意外な展開があるのは外部の人と仕事することのいいところですね。
HiDEX そうですね。この曲はホンマ意外なところから生まれた曲だと思います。
Rover Def Techは僕たちにとっては師匠みたいな人たちで、Microさんとは一緒に1曲作ったことがあるんですけど、Nagachoさんとご一緒するのは初めてだったので、僕はすごくプレッシャーがありました。サビも生半可じゃダメだと思って、4、5回変えたんですよ。あと、最後の「この場所でいつも肩寄せていたい」の感じは、Def Techがこういう音楽を日本に持ってきてくれたことへの敬意を僕なりに表現しました。ずっとハネてる感じは挑戦的でしたし、「がんばってメロディと歌詞を作りましたんで、Nagachoさんご確認ください」みたいな感じですね。
──Nagachoさんは聴いてどう言っていました?
HiDEX 完成後にイベントで共演したときに(7月21日開催のオンラインイベント「JIM BEAM SUMMER FES presents 802 RADIO MASTERS SOUND CAMP ONLINE」)、「ありがとうございました。やっとできましたね」と挨拶したら、「2番のギター、Microだったらもっと上げてるけどね」と言われて。
Rover ミックスの話か(笑)。
HiDEX 「あ、すんませんでした。上げたつもりやったんですけど」で終わりました。言葉少ない方なんですけど、また一緒に仕事する可能性も想定しつつ「次はこうやろうね」と意見をくれたんだと思います。
MOCA 僕が会ったときは「ベリグっぽくてめっちゃいいね」と言ってくれましたよ。
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合宿で生まれた渾身の1曲