アニメーション、舞台、そして今度は実写化と、形を変えながら人々に愛され続ける「美女と野獣」。本作の音楽を作り上げたのは、ディズニー音楽の名曲の数々を手がけ、多くのアカデミー賞を受賞してきた、作曲・アラン・メンケン、作詞・ハワード・アシュマンという黄金チームだ。今回の実写版では、ティム・ライスが作詞を手がけた新曲3曲が追加され、主題歌「美女と野獣」をジョン・レジェンドとアリアナ・グランデが歌っている。
さらにパワーアップした「美女と野獣」の音楽の魅力について、最近ではミュージカルを手がけるなど多彩な才能を発揮しているNONA REEVESの西寺郷太が、物語に隠されたテーマやメンケンとアシュマンの人間性にも触れながら語ってくれた。
取材・文 / 村尾泰郎 撮影 / 佐藤類
25年以上前に投げた石が、湖に波紋を広げていった
──映画をご覧になってどんな感想を持たれましたか?
とても楽しく拝見しました。この2年の間で僕は少年隊の錦織一清さんの演出のもとで2作の舞台ミュージカルを作っていて、2作目の「株式会社、応援屋!! -OH&YEAH!!-」では音楽だけではなく脚本も書いているんです。なので「美女と野獣」は、「これぞミュージカル映画のお手本」という感じで勉強になりましたね。
──ご自身でミュージカルを手がけられるようになると、ミュージカルの見方も変わってきますか。
全然違ってきますね。最初のミュージカル「JAM TOWN」を制作するとき、錦織さんが僕に強くおっしゃったのは「郷太、ミュージカルはまずなにより『曲』だぞ。いい曲じゃないと登場人物たちが歌ったり踊ったりする意味が生まれない。時を超えて愛される作品にならない」ということでした。その意味では、アニメーション版「美女と野獣」は1991年に公開されましたが本当の意味でタイムレスな作品になりましたよね。今回思ったのは、当時ハワード・アシュマンさんとアラン・メンケンさんが「美女と野獣」の音楽でやろうとしていたことって、あの時代のムードにぴったり合っていたんじゃないか、と。
──1990年代冒頭のムードというと?
1980年代終わりから90年代にかけて、レニー・クラヴィッツがベルボトムのズボンをはいて70年代のロックを復活させたり、Jamiroquaiが人気になったりと生演奏のよさが見直されるようになったんです。それまではリズムマシンの発展やレコーディング技術の進歩によってデジタルに統制されたビートが氾濫したんですが、少しそれにみんなが疲れちゃったんですよね。日本では「渋谷系」などとも呼ばれるシーンが生まれて、若者たちが昔のレコードを聴いて80年代以前の音楽の素晴らしさを再発見する。そうやってある種の原点回帰みたいなことが起こった。そんな中で、アシュマンさんとメンケンさんは、アニメーションという表現を通じて伝統的なミュージカルをやろうとしたんじゃないかと思うんですよ。
──なるほど。1980年代はミュージカルが衰退するのに取って代わるように、MTVが全盛期を迎えましたよね。
そうですよね。MTVポップスの筆頭にいたマイケル・ジャクソンは、ミュージックビデオのことを“ショートフィルム”と呼んで自分で作り始めます。MTVは歌とダンスと映像が重なる楽しさが人気を呼んでブームになる一方で、クラシカルなミュージカルは廃れていきました。アシュマンさんは「アニメーションはミュージカルの最後の隠れ家」と言っていますし、メンケンさんは「『ファンタジア』を観て音楽が好きになった」と言っています。ディズニー作品を子供の頃に観て影響を受けた2人が、ミュージカルの面白さを復活させようと情熱を注いだのがアニメーション版「美女と野獣」だったんじゃないかと思うんです。
──ミュージカルが下火だった当時、「美女と野獣」を実写でやるのは難しかったでしょうね。
アニメーション版の製作陣が、今回の実写化にあたって「当時は『美女と野獣』の世界を技術的に実写化できなかった」と言っていますが、技術的な問題だけではなく、観客が受け入れる素地がないと映画は成功しない。その点、アシュマンさんとメンケンさんが25年以上前に投げた「美女と野獣」という石が、湖に投げた石みたいにエンタテインメントの世界に波紋を広げていった。「アラジン」「ライオンキング」「ポカホンタス」「ノートルダムの鐘」「ヘラクレス」など、ディズニーは次々とミュージカルアニメを制作し、「ライオンキング」以外の作品でメンケンさんは音楽を担当されます。それが結果としてここ数年の「アナと雪の女王」や、「ラ・ラ・ランド」などアニメ、実写ともにミュージカル映画の大ヒットにつながっているのではないでしょうか。ここにきてメンケンさんが改めて、実写版「美女と野獣」に取り組む、ということに意義を感じますね。
クラシック出身ながらサンプリング的感性の持ち主
──アラン・メンケンの作曲家としての特徴は、どんなところにあると思われますか?
アニメーション版のときに制作側は“聴いたことがあるようでいて新鮮な音楽”を目指していたと話されていました。メンケンさんはそういう曲を作るのがすごくうまい。“○○節”みたいに自分の個性を打ち出すのではなく、その物語、その世界にふわっと降りていって、どんなタイプの曲でも作ることができる。クラシック出身の作曲家ですが、さまざまな要素を曲に持ち込むことができるサンプリング的感性の持ち主だと思いますね。だから良質な作品を、たくさん作ることができたんじゃないでしょうか。
──才能豊かで柔軟な人なんですね。「美女と野獣」でもオペラのような曲がある一方で、主題曲「美女と野獣」はポップスとしての完成度も高い。
デュエットバラードの王道の世界ですよね。デヴィッド・フォスター的というか。クインシー・ジョーンズだとああいうふうにならない。今にして思えば、この「美女と野獣」という曲自体が「王道とはなんぞや」ということを後の音楽界に再定義したような気がしますね。そういう王道な曲って、実は「作れ」と言われても、なかなか作れないんですよ。
──アニメーション版はピーボ・ブライソンとセリーヌ・ディオンでしたが、今回はジョン・レジェンドとアリアナ・グランデが歌っています。
ジョン・レジェンドはどこでも出てきますね(笑)、グラミー賞とか「ラ・ラ・ランド」とか。ホント、すごいシンガーだと思います。アリアナ・グランデはむちゃくちゃかわいくて、30代後半のジョン・レジェンドと若いアリアナ・グランデという組み合わせもいいですよね。
- 特集「美女と野獣」を語る
- コミックナタリー 「いつかティファニーで朝食を」マキヒロチ
- 映画ナタリー 小野賢章
- ステージナタリー 藤田俊太郎
- 音楽ナタリー NONA REEVES 西寺郷太
- 作品解説・キャラクター紹介
- 「美女と野獣」
- 2017年4月21日(金)公開
ある城に、若く美しく傲慢な王子が住んでいた。嵐の夜、寒さをしのぐため城へやって来た老婆を冷たくあしらった王子は、老婆に化けていた魔女の呪いで醜い野獣の姿に変えられてしまう。その呪いを解くには、魔法のバラの最後の花びらが落ちる前に王子が誰かを心から愛し、その誰かから愛されなくてはならなかった。長い年月が過ぎ、あるとき町娘のベルが城にたどり着く。村人から変わり者扱いされても自由にたくましく生きてきたベルと触れ合う中で、外見に縛られ心を閉ざしていた野獣は本来の自分を取り戻していく。しかしベルに恋する横暴な男ガストンが、彼女を自分のものにしようと残酷な企みを考え……。
- スタッフ
- 監督:ビル・コンドン
- 作曲:アラン・メンケン
- 作詞:ティム・ライス、ハワード・アシュマン
- キャスト ※()内はプレミアム吹替版
- ベル:エマ・ワトソン(昆夏美)
- 野獣:ダン・スティーヴンス(山崎育三郎)
- モーリス:ケヴィン・クライン(村井國夫)
- ガストン:ルーク・エヴァンス(吉原光夫)
- ル・フウ:ジョシュ・ギャッド(藤井隆)
- ルミエール:ユアン・マクレガー(成河)
- コグスワース:イアン・マッケラン(小倉久寛)
- ポット夫人:エマ・トンプソン(岩崎宏美)
- チップ:ネイサン・マック(池田優斗)
- マダム・ド・ガルドローブ:オードラ・マクドナルド(濱田めぐみ)
- プリュメット:ググ・バサ=ロー(島田歌穂)
- カデンツァ:スタンリー・トゥッチ
- NONA REEVES / ノーナ・リーヴス
- 西寺郷太(Vo)、奥田健介(G, Key)、小松シゲル(Dr)の3人からなる“ポップンソウル”バンド。1995年に結成し、1997年11月に「GOLF ep.」でメジャーデビュー。初期はギターポップ色の強い楽曲を得意としていたが、1999年のメジャー2ndアルバム「Friday Night」を機にディスコソウル的なサウンドを追求し始める。その後も精力的に活動を続け、コンスタントに作品を発表。ポップでカラフルなメロディと洗練されたアレンジによって、国内で他に類を見ない独自の立ち位置を確立する。西寺は文筆家としても活動し、80'sポップスの解説をはじめとする多くの書籍を執筆。さらにメンバーは3人とも他アーティストのプロデュースや楽曲提供、ライブ参加など多岐にわたって活躍中。2017年3月にメジャーデビュー20周年を記念したベストアルバム「POP'N SOUL 20~The Very Best of NONA REEVES」をリリースした。
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- NONA REEVESの記事まとめ
- NONA REEVES「POP'N SOUL 20~The Very Best of NONA REEVES」
- 2017年3月8日発売 / WARNER MUSIC JAPAN
-
通常盤 [CD]
2700円 / WPCL-12533
- 収録曲
-
- O-V-E-R-H-E-A-T
- LOVE TOGETHER
- パーティは何処に?
- BAD GIRL
- ラヴ・アライヴ feat.宇多丸
- HIPPOPOTAMUS
- 透明ガール
- 重ねた唇
- I LOVE YOUR SOUL
- NEW SOUL -2017 MIX-
- DJ! DJ! ~とどかぬ想い~ feat. YOU THE ROCK★
- STOP ME
- DAYDREAM PARK
- HEY, EVERYBODY!
- WARNER MUSIC
- ENJOYEE!(YOUR LIFETIME)2017
- 「美女と野獣 オリジナル・サウンドトラック」
- 英語版
- 2017年3月22日発売 / Walt Disney Records
-
デラックスエディション [2CD]
3780円 / AVCW-63202~3 -
通常盤 [CD]
2138円 / AVCW-63198 - 日本語版
- 2017年4月19日発売 / Walt Disney Records
-
デラックスエディション [2CD]
3780円 / AVCW-63206~7 -
通常盤 [CD]
2700円 / AVCW-63208
- 英語版DISC 1
-
- 美女と野獣 序曲 / アラン・メンケン
- メインタイトル:プロローグ パート1 / アラン・メンケン
- アリア / オードラ・マクドナルド
- メインタイトル:プロローグ パート2 / アラン・メンケン
- 朝の風景 / エマ・ワトソン、ルーク・エヴァンス、美女と野獣アンサンブル
- 時は永遠に(ミュージックボックス・バージョン) / ケヴィン・クライン
- 朝の風景(リプライズ) / エマ・ワトソン
- 強いぞ、ガストン / ジョシュ・ギャッド、ルーク・エヴァンス、美女と野獣アンサンブル
- ひとりぼっちの晩餐会 / ユアン・マクレガー、エマ・トンプソン、ググ・バサ=ロー、イアン・マッケラン
- デイズ・イン・ザ・サン~日差しをあびて~ / アダム・ミッチェル、スタンリー・トゥッチ、ユアン・マクレガー、ググ・バサ=ロー、イアン・マッケラン、エマ・トンプソン、エマ・ワトソン、オードラ・マクドナルド、クライブ・ロウ
- 愛の芽生え / エマ・ワトソン、ダン・スティーヴンス、ユアン・マクレガー、イアン・マッケラン、エマ・トンプソン、ネイサン・マック、ググ・バサ=ロー
- 時は永遠に(モンマルトル・バージョン) / エマ・ワトソン
- 美女と野獣 / エマ・トンプソン
- ひそかな夢 / ダン・スティーヴンス
- 夜襲の歌 / ルーク・エヴァンス、ジョシュ・ギャッド、美女と野獣アンサンブル、エマ・トンプソン、イアン・マッケラン、スタンリー・トゥッチ、ネイサン・マック、ググ・バサ=ロー、ユアン・マクレガー
- 美女と野獣~フィナーレ~ / オードラ・マクドナルド、エマ・トンプソン、美女と野獣アンサンブル
- 時は永遠に / セリーヌ・ディオン
- 美女と野獣 / アリアナ・グランデ、ジョン・レジェンド
- ひそかな夢 / ジョシュ・グローバン
- アリア【デモ・バージョン】 / アラン・メンケン
- 時は永遠に(ミュージックボックス・バージョン)【デモ・バージョン】 / アラン・メンケン
- デイズ・イン・ザ・サン~日差しを浴びて~【デモ・バージョン】 / アラン・メンケン
- 時は永遠に(モンマルトル・バージョン)【デモ・バージョン】 / アラン・メンケン
- ひそかな夢【デモ・バージョン】 / アラン・メンケン
- 日本語盤DISC 1
-
- 美女と野獣 序曲 / アラン・メンケン
- メインタイトル:プロローグ パート1 / アラン・メンケン、 ナレーション by アガット(戸田恵子)
- アリア / マダム・ド・ガルドローブ(濱田めぐみ)
- メインタイトル:プロローグ パート2 / アラン・メンケン、 ナレーション by アガット(戸田恵子)
- 朝の風景 / ベル(昆夏美)、ガストン(吉原光夫)、美女と野獣アンサンブル
- 時は永遠に(ミュージックボックス・バージョン) / モーリス(村井國夫)
- 朝の風景(リプライズ) / ベル(昆夏美)
- 強いぞ、ガストン / ル・フウ(藤井隆)、ガストン(吉原光夫)、美女と野獣アンサンブル
- ひとりぼっちの晩餐会 / ルミエール(成河)、ポット夫人(岩崎宏美)、プリュメット(島田歌穂)、コグスワース(小倉久寛)
- デイズ・イン・ザ・サン~日差しをあびて~ / 羽賀惇大、カデンツァ(松澤重雄)、ルミエール(成河)、プリュメット(島田歌穂)、コグスワース(小倉久寛)、ポット夫人(岩崎宏美)、ベル(昆夏美)、マダム・ド・ガルドローブ(濱田めぐみ)、原 慎一郎
- 愛の芽生え / ベル(昆夏美)、野獣(山崎育三郎)、ルミエール(成河)、コグスワース(小倉久寛)、ポット夫人(岩崎宏美)、チップ(池田優斗)、プリュメット(島田歌穂)
- 時は永遠に(モンマルトル・バージョン) / ベル(昆夏美)
- 美女と野獣 / ポット夫人(岩崎宏美)
- ひそかな夢 / 野獣(山崎育三郎)
- 夜襲の歌 / ガストン(吉原光夫)、ル・フウ(藤井隆)、美女と野獣アンサンブル、ポット夫人(岩崎宏美)、コグスワース(小倉久寛)、カデンツァ(松澤重雄)、チップ(池田優斗)、プリュメット(島田歌穂)、ルミエール(成河)
- 美女と野獣~フィナーレ~ / マダム・ド・ガルドローブ(濱田めぐみ)、ポット夫人(岩崎宏美)、美女と野獣アンサンブル
- 時は永遠に / セリーヌ・ディオン
- 美女と野獣 / アリアナ・グランデ&ジョン・レジェンド
- ひそかな夢 / ジョシュ・グローバン
- 美女と野獣 / 昆夏美&山崎育三郎
- 時は永遠に(ミュージックボックス・バージョン)【デモ・バージョン】 / アラン・メンケン(デラックスエディションのみ収録)
- デイズ・イン・ザ・サン~日差しをあびて~【デモ・バージョン】 / アラン・メンケン(デラックスエディションのみ収録)
- 時は永遠に(モンマルトル・バージョン)【デモ・バージョン】 / アラン・メンケン(デラックスエディションのみ収録)
- ひそかな夢【デモ・バージョン】 / アラン・メンケン(デラックスエディションのみ収録)
- デラックスエディションDISC 2(日本語版、英語版共通)
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- メインタイトル(プロローグ) / アラン・メンケン
- ベルとガストン / アラン・メンケン
- 母の記憶 / アラン・メンケン
- 洗濯機 / アラン・メンケン
- 狼の襲撃 / アラン・メンケン
- 城への誘い(いざない) / アラン・メンケン
- 白いバラ / アラン・メンケン
- 野獣現る / アラン・メンケン
- お城のスタッフ / アラン・メンケン
- 家に帰ろう(エクステンディッド・ミックス) / アラン・メンケン
- マダム・ド・ガルドローブ / アラン・メンケン
- 野獣の正体 / アラン・メンケン
- 花びらが落ちる / アラン・メンケン
- お茶で元気に / アラン・メンケン
- 西の塔 / アラン・メンケン
- 狼 ベルを襲う / アラン・メンケン
- 図書室 / アラン・メンケン
- 庭でのおしゃべり / アラン・メンケン
- 恐ろしい疫病 / アラン・メンケン
- モーリスとガストンの対決 / アラン・メンケン
- 野獣のおめかし / アラン・メンケン
- ドレスでダンス / アラン・メンケン
- 父のもとへ行け / アラン・メンケン
- ベル 馬車を止める / アラン・メンケン
- 城の攻防 / アラン・メンケン
- 尖塔の追撃 / アラン・メンケン
- ベル 城に戻る / アラン・メンケン
- 人間に戻った / アラン・メンケン