ナタリー PowerPush - THE BEATNIKS
高橋幸宏+鈴木慶一 10年ぶりニューアルバム
これは俺たちのラブの話じゃないかって(笑)
──ケルアックやバロウズの小説はセックスやドラッグの匂いが濃厚ですが、このアルバムはそういう匂いはしませんよね。
高橋 しないですね。
鈴木 でも、ドラッグと同性愛を感じる曲は1曲あるはずだよ。
高橋 「Go and Go」をちょっと読んでみてください。そう思って読むと、相当ヤバいですよ。
──あ、本当だ!
鈴木 1人で歌うとラブソングなんだよ、女性に向かっての。でも2人で交互に歌ってるうちに、これは俺たちのラブの話じゃないかって自分らで思った(笑)。
高橋 2人でランチや痛みを分け合ってたりするし。あと、「Lucy in the Sky with Diamonds」みたいに、この人、別の世界に行ってない?っていうイメージが沸いてきて。
鈴木 1曲目はモノトーンな感じでしょ? でもこの歌詞って結構カラフルなんだよ。
──ビートニクなアプローチということでいえば、「カットアップだ!我らの実存 Cut Up Our Existence」は、カットアップの手法で歌詞が構成されていますよね。おふたりがそれぞれ書いた単語を箱に入れ、ランダムに取り出した順番に構成していくという。
鈴木 今やレコーディング自体がカットアップ的になっているし、歌詞もコンピュータを使って書くからこの行を5行下げてみようとか、カットアップ的なことを普通にやっている。でもそれは自分のコントロール下でやってることだよね。それに対して、このカットアップは本当に何が出て、最終的にどう転ぶかわからない。しかし見事に最終行の最後のところで「オールディーズ」って書いた紙をひいて。サウンドがオールディーズっぽかったから俺が書いたんだけど、それで決まりって感じ。だからわりと我々はラッキーなのかもしれない。
高橋 とにかくスピードさえ上げとけば、偶然をとことん発見できて楽しいです。時間かけちゃうと全部必然に変わっちゃうんで。
鈴木 俺たち10年間アルバム出してないけど、このアルバムは作ってる期間は1カ月足らずで。10年間構想を練って作ってたわけじゃない。そういうことは多分しないと思う。短期決戦というかな。短い間で集中力を高めて、偶然を楽しみつつ必然になる前に出しちゃう。
高橋 3年経ったら、すべての偶然はみんな必然になるんで。
60歳まで音楽をやってるとは思いもしなかった
──THE BEATNIKSの結成も、ラジオ番組での共演という一種の偶然から生まれたものですしね。ということは、「出口主義」を作っていたとき、THE BEATNIKSとしてその後も活動していくことは想定していなかった?
高橋 考えてないです。
鈴木 だいたい59、60歳まで音楽をやってるとは思いもしなかった。
高橋 しかも、できるだけ新しいことをやろうと思ってるとはね。
──「出口主義」でヨーロッパに向けられていた視線は、2ndの「ビートで行こう(EXITENTIALIST A GOGO)」(1987年)ではアメリカに向けられていきましたよね。あれはどうしてだったんですか?
高橋 シフトしたんです。でも「TOTAL RECALL」って曲は中間くらいですね。イギリスの象徴のコート、マッキントッシュはやっぱり着てるから。
鈴木 フォーキーなサウンドになっていくと、どうしてもアメリカ的なものが……。
高橋 出てきますよね。「ある晴れた日に」はサイモン&ガーファンクルを意識したんだけど、それをコンピュータで作ったリズムとやるっていうことが面白かった。
鈴木 いかに生のプレイに近いことをコンピュータで出すか。アレは苦行のようなことだったけど、やっといてよかった。
このアルバムを2回続けて聴いた人は出口主義者だと思う
──続いての「M.R.I.」では、コンピュータでのアプローチもまた変わってきて。
鈴木 あのときは混ざってるね。エレクトロニクスミュージック的なるものと西海岸的なものやハワイアンなどが。でも中心に据えてたのは、エレクトロニクスミュージックなんじゃないだろうか。
──「出口主義」の21世紀版的なことをやろうとしてたのかと思っていたのですが。
高橋 いや、あれはね、出口が見つからないまま終わったようなアルバムですね。
鈴木 そうだね。
高橋 でも今回は見つかって。
鈴木 確認して。出口は結局入口だってことだ。
高橋 コンセプチュアルなアルバムを作るつもりはなかったんだけど、偶然をたくさん呼び込んでそうなりました。「M.R.I.」はどこか不完全燃焼で終わっちゃったような気がするから、THE BEATNIKSという出口主義者としてはこれが3枚目って言ってもいいのかもしれない。今回のアルバムは最後まで聴いて、もう一回頭に戻ってもらえれば……。
鈴木 「LAST TRAIN TO EXITOWN」だけど、なんだ、また元のほうに戻ってくるじゃねえか。円形なんだ、って。それは重要な確認であるよね。このアルバムを2回続けて聴いた人はさ、出口主義者だと思う。
──出口だと思ったら入口だったという状態って、結局は出口なしということになりませんか?
鈴木 “なし”よりは“ある”んだよ。出口はあるけど、それは出口じゃないかもしれないって考え方。
高橋 出口はあるんですよ、その町にきっと。
鈴木 どっかあきらめのようなものって必要だと思うんだ。出口だと思っても結局は入口なんじゃないの?って思って出口を出れば、まあなんとかなるよ(笑)。
CD収録曲
- A Song for 4 Beats
- Ghost of My Dream
- Go and Go
- Gromanesque in The Closet
- Cut Up Our Existence
- Didn't Want To Have To Do It
- Camisa De Chino
- Come Around The Bends
- Around The Bends
- Last Train to Exitown
THE BEATNIKS(びーとにくす)
高橋幸宏と鈴木慶一によるユニット。1981年に1stアルバム「出口主義」をリリースし、その後は断続的に活動を継続している。2001年までに3枚のオリジナルアルバムを発表しているほか、ヨウジヤマモトのコレクション用音楽の制作や、著書として「偉人の血」も刊行。2011年10月に約10年ぶりのオリジナルアルバム「LAST TRAIN TO EXITOWN」をリリース。