ナタリー PowerPush - THE BEATNIKS

高橋幸宏+鈴木慶一 10年ぶりニューアルバム

今回の歌詞はビートニクと自分たちの関係の集大成

──今回のアルバムはビートジェネレーションにかなり正面から向き合っていますよね。

高橋 最初の「A Song for 4 Beats」の歌詞が、ジャック(・ケルアック)から始まりますからね。ビートニクのことを尊重して。1枚目のときはビートニクはファッションのことでしかとらえてなくて。しかもそれも勘違いしていて(笑)。ヨーロッパのイグジステンシャリスト(実存主義者)たち、黒のタートル着てモダンジャズ聴いてるようなイメージだったの。でも調べてみたら全然違っていて。

──ビートニクのヨーロッパ流解釈がそうだったというわけではない?

高橋 全然ないですね。それで、まあいいや、この際自分たちの好きなものを全部出してみよう。あと実験的なことをやろうっていうのがすごくあって。テープループとか。

鈴木慶一

鈴木 ものすごいことになったね。ジャン・コクトーやマン・レイまで一緒にしちゃうんだからさ、その中に。

高橋 だったらフランス語で歌詞書いてみようって、ピーター(・バラカン)と相談して。メチャクチャですよ。「詩人の血」(Le Sang de Poete)って曲があるんだから。コクトーはビートニクじゃないからね。

鈴木 (時代的には)それよりも前になるね。

高橋 だけど「ノー・ウェイ・アウト」って曲ができたことで、ピーターが「実存主義じゃなくて出口主義(イグジテンシャリスト)だ」って言ったんです。今、検索すると、出口主義って(学術用語として)出てくるんですってね。今回も造語がいっぱいあって、タイトルになってる「EXITOWN」も……。

鈴木 それも造語だね。

高橋 今回はビートニクと自分たちの関係の集大成みたいな歌詞で。

鈴木 ここは30年目なんで、ちゃんとやっとこうじゃないか、ということだな(笑)。

高橋 “町の入口には「出口なし」という詩が書いてあった”とか、自分たちの作品がこっそり隠れてたりして、自分たちの歴史も含めて、ビートニクを真剣にリスペクトしてみたというか。ビートニクのあの頃の日本語訳は軽いじゃないですか? 「ノリノリでいこう」とか(笑)。でも、それも含めて好きだし、いい訳だなあと思ってる。

鈴木 ケルアックの「The Dharma Bums」なんて、日本版のタイトルが「禅ヒッピー」だからね(笑)。それ、最初に知ったときに倒れそうになったよ(笑)。

アメリカの田舎町のグロテスクさがアルバムのひとつのイメージ

──その頃の日本語の文学的表現センスを、今なりの視点でとらえなおしてみた部分もあるわけですね。

高橋 4曲目の「戸棚の中のグロテスク」は、慶一くんから「この本読んだことある?」って言われて。

鈴木 「ワインズバーグ・オハイオ 」って1919年に出た本。

高橋 たまたま僕、その本持ってて。大昔、景山民夫氏にもらったんですよ。

鈴木 作者のシャーウッド・アンダソンは、その後のアメリカ文学のジョン・スタインベックとかをつないでいった人みたい。でも内容はすごいシュールなんだよ。ある町の話で、最後は10代後半の若者が列車に乗って町を出ていく。そして町の人たちはすべてグロテスクなんだよ。

THE BEATNIKS

高橋 これを参考にしたいって。人間の中には二面性があってグロテスクな部分があるっていうような内容なんだけど、文学として未成熟な時代のものを訳してるから、言い回しが独特なんですよね。カッコつけてない。

鈴木 ものすごく素朴なんだけど、アメリカの田舎町のグロテスクさが描かれていた。それがこのアルバムのひとつのイメージとなってる。最初と最後の曲はビートニクな感じで、最後は出口主義者の歌だよね。「ワインズバーグ・オハイオ」じゃないけど、ビータウン(BEATOWN)のいろんな住人がいる感じがいいかなと。1曲目は2人がこのビータウンて町をクルージングしてる感じでしょうね。

──出口を探して、主人公の男が町をさまよっていると。

鈴木 音とか歌詞とか、骨がなくて優しい男の決意みたいな感じが出てると思うよ。

高橋 タフな状況の中に追い込まれても、優しい。

鈴木 優しいって二面性があって、優しいとよくないこともあるじゃない? 優しいから女と別れられないとか(笑)。優しいだけじゃダメなんだよ。あるときピシッと言わなくちゃいけないんだろうけど、でも優しいままでもいいかなっていうことだね。それ、やけに全面に出てるなあって。

高橋 だからゲイっぽいんですよ、2人が。歌詞もよく読むとそうとれるのがけっこうあって。

鈴木 女性に対して何か訴えかけてる感じはあまりないよね。

高橋 ただ、女性の本能はくすぐられるみたいですね。

鈴木 どうかなあ、ろくな男じゃないよ、これ。

高橋 でも男は共感するんですよね、THE BEATNIKSの歌詞には。

鈴木 でも頼りないわけじゃない。非常に複雑なんだよな。

高橋 だって女性に、一緒に住んであげたいって態度に出られたら、嫌がりそうな男たちじゃない?

鈴木 「全部面倒みてあげますよ」って言われたら、逃げ出しちゃいたいって感じかもしれない。でも巨大な別荘を持ってたら、まあいいか、と思ったり(笑)。

高橋 意味がわかんないね(笑)。

ニューアルバム「LAST TRAIN TO EXITOWN」 / 2011年10月12日発売 / 3000円(税込) /  EMI Music Japan / TOCT-27097

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CD収録曲
  1. A Song for 4 Beats
  2. Ghost of My Dream
  3. Go and Go
  4. Gromanesque in The Closet
  5. Cut Up Our Existence
  6. Didn't Want To Have To Do It
  7. Camisa De Chino
  8. Come Around The Bends
  9. Around The Bends
  10. Last Train to Exitown
EMI Music Japan SHOP LAST TRAIN TO EXITOWN - THE BEATNIKS
THE BEATNIKS(びーとにくす)

高橋幸宏と鈴木慶一によるユニット。1981年に1stアルバム「出口主義」をリリースし、その後は断続的に活動を継続している。2001年までに3枚のオリジナルアルバムを発表しているほか、ヨウジヤマモトのコレクション用音楽の制作や、著書として「偉人の血」も刊行。2011年10月に約10年ぶりのオリジナルアルバム「LAST TRAIN TO EXITOWN」をリリース。