ナタリー PowerPush - THE BEATNIKS
高橋幸宏+鈴木慶一 10年ぶりニューアルバム
衝撃の結成から早30年。高橋幸宏と鈴木慶一によるユニット、THE BEATNIKSから10年ぶりに届いたニューアルバムのタイトルは「LAST TRAIN TO EXITOWN」。「実存主義」をもじった「出口主義」という概念を打ち出し、オリジナルビートニクとは異なる“東京発ネオビートニク像”を打ち出した彼ららしいタイトルだ。
1stアルバムで「出口なし、袋小路なんです」と歌った1981年と比較すると、我々に現在のしかかっている時代の閉塞感は数百倍重苦しい。そんな状況下で発表された本作は、はたして「最終出口行き」へのガイドとなりうるのか? 心優しき2人の出口主義者を直撃した。
取材・文 / 小暮秀夫 インタビュー撮影 / 平沼久奈
還暦だし、活動を活発化するタイミングはここかなって
──THE BEATNIKSといえば、怒りが生じると始動するという説が今やすっかり定着しています。実際はどうなんですか?
鈴木慶一 1枚目(「出口主義」)は怒ってたね。
高橋幸宏 1枚目だけですね。あとは、そういうことにしようっていう(笑)。
鈴木 ただ不思議なもんで、そういうこと全然考えずに始めると、何か大きな事件が起きる。地震とか9.11とか。
高橋 あと「M.R.I.」(2001年)のときは、「21世紀になっても何も起こんない」って言って怒ってたね(笑)。
鈴木 21世紀になっても全然変わんねえじゃん、昨日と同じじゃんって(笑)。
──そういう意味では、今回はTHE BEATNIKS史上一番大きな事件が起こったわけで。それだけに怒りも大きかったのではないかと。
高橋 ただ、やり始めたのはあの地震の前なんで、実際には関係ないんですけどね。
鈴木 レコーディングが地震以降だったんだよ。
──実際の再始動は、いつ頃から?
高橋 今年の1月か2月くらいですね。
鈴木 その前に予兆みたいのはあったよね。たまたま毎年ムーンライダーズ─今年はTHE BEATNIKSだったけど─で「WORLD HAPPINESS」に出てるんで、幸宏のプレイを観るじゃない? 年に1回YMOをちゃんと観る日なんだよ(笑)。そしてソロの3部作の最後(「ヘイト船長回顧録」)で幸宏に来てもらってドラムを叩いてもらった。1950年代頃からやってる人たちや昔の友人を集めて集大成っぽい作品になったんだけど、そういえば幸宏にドラムを頼んだこと一度もないなあって思って。
高橋 僕も言われるまで気が付かなかったですね。
鈴木 それで当然スタジオで会話をかわす。そのときに、そろそろやりたいなあっていうのはあったような気がする。で、具体化したのは今年だ。幸宏はpupaが2枚終わって、俺はソロ3部作が終わった。今年はムーンライダーズ35周年だけど、タイミングはここかなってのはあったと思う。
高橋 僕もすぐソロアルバムって感じでもないし、来年還暦でもあるし(笑)。
鈴木 私は今年還暦でもあるし(笑)。活動を活発化するのは日々暮らしていったり音楽を作っていったりする上でいいんじゃないのかなって。しかし活発にし過ぎたな(笑)。
高橋 THE BEATNIKSが始まっても、アニメ(「NO.6」)のサントラと森山良子さんのプロデュースやってたよね。
鈴木 THE BEATNIKSのレコーディングが夜10時頃には終わるんだよ。5~6時間くらいで、アッという間にできあがっていっちゃうからね。で、車で送ってもらって会社(注:鈴木慶一の事務所兼スタジオ)に行ってまた仕事する。そして翌日またTHE BEATNIKSに行く。
高橋 それを淡々とTwitterで書いてるから。で、気がつくと、朝からサッカーやってたりする(笑)。しかも柏とか遠くで。あれ? 確か今日一緒にやるはずだぞ(笑)。ちょっとアドレナリン出すぎてんなあって思ってると、一緒にやるときはアドレナリンが出ている様子は全然ない(笑)。
鈴木 いつもどおり。体育会系アドレナリンと文系アドレナリンを使い分けてるんだよ。結果どっかで出し切ってる。
高橋 だからちょうどいいペースでできましたね。
幸宏の手書きメモのとおりにレコーディングした
──具体的な作業はどのように進んでいったんですか?
高橋 2~3曲やってみて作れそうだなと思ったんで、改めてミーティングをやったんですよ。そのときに僕が手書きで……。
鈴木 今時手書きのメモだよ。ビックリしましたよ。それをミーティングの席で「発表します」みたいな感じで。
高橋 建築で言うと枠だけの模型みたいのを書いてきたんです。1曲目は歌から始まって、最後はこういう風に終わる。2曲目はたまたまアミーナの新しいアルバムを聴いてるときだったんで、今までやってきた暗いエレクトロニカみたいのを入れたい。そしてこのへんでカバーを入れて、みたいなのを。
鈴木 オッ!と思ったよ、それでそのとおりにやったの。私のソロのときもかなり最初の段階から、毎日ダビングしたら曽我部(恵一)くんが曲を並べて曲順を決めるという作り方をしたね。もちろん、ときどき変えるけど。そうやって作っていくと、この曲は2曲目だなとか配置が決まってくる。だから作業は本当に素早い。
高橋 ただスタジオの場所が僕らが住んでいるところからはちょっと離れていることもあって、慶一は毎回ちょっと遅れてくるの(笑)。でも昔に比べたら全然。
鈴木 昔はひどかったですよね。
高橋 2時間待ちとか。テントレーベルの時はその理由を聞くのが楽しみだったんだけど。今日、家の前に犬がウンコしてあったとかね。
鈴木 それを踏んじゃって、もう一回シャワー浴びたとか(笑)。
高橋 怖い犬がいて、ドア開けらんなかったとか(笑)。いい大人が何言ってんだ、と思いながら。でも今回は遅れてもせいぜい数十分で。
鈴木 で、着くともう幸宏は鍵盤の前に座ってる。俺の居場所がない。それで生ギターがたまたまあったので、レコーディング中はずーっとギター弾いてる。結果的に、こんなギター弾いたアルバムはない。
高橋 全曲、慶一くんのギターが入ってる。全曲、僕のキーボードも入ってるんだよね。
CD収録曲
- A Song for 4 Beats
- Ghost of My Dream
- Go and Go
- Gromanesque in The Closet
- Cut Up Our Existence
- Didn't Want To Have To Do It
- Camisa De Chino
- Come Around The Bends
- Around The Bends
- Last Train to Exitown
THE BEATNIKS(びーとにくす)
高橋幸宏と鈴木慶一によるユニット。1981年に1stアルバム「出口主義」をリリースし、その後は断続的に活動を継続している。2001年までに3枚のオリジナルアルバムを発表しているほか、ヨウジヤマモトのコレクション用音楽の制作や、著書として「偉人の血」も刊行。2011年10月に約10年ぶりのオリジナルアルバム「LAST TRAIN TO EXITOWN」をリリース。