BOOM BOOM SATELLITES特集 中野雅之インタビュー|あれから7年、自分の中で変わってきたBBSとの向き合い方 (2/2)

僕は同窓会のような集まりが苦手。新しいことに目を向けていたい

──次の質問に行きます。収録されているのは2006年から2013年にかけてのライブですが、中野さんが今ステージで使用している機材とはかなり違いますよね。

THE SPELLBOUNDで使ってるものとはだいぶ違いますけど、BOOM BOOM SATELLITESの機材は活動が始まってから極力変えずにやってました。というのも、機材を変えてしまうと音も変わってしまうんで、そこは慎重だったというか。1回作ったイメージを機材が変わることで崩したくなかったんです。

──ということは、今回のライブ映像が収録された時期に使っていたのは?

ほとんど同じ機材なんじゃないかな。

──でも、ああいう機材こそ日進月歩ですよね?

そうですね。1年ごとにアップデートされた機材が出るぐらいのスピードで。でも僕が当時使っていたデジタルミキサーは、1998年からずっと同じものなんですよ。川島くんがいない最後のライブでもそれを使ってましたから。

──それは驚きです。途中から鍵盤が追加されていることに今作を観て気付いたんですけど、それ以外は変わっていないと?

デジタルミキサーが1台にアナログのディスコミキサーが1台、というのが基本で。コンピュータは時代ごとに変わっていくんですけど、中で扱ってるソフトは変わってないですし、ハードウェアのシンセもそんなに変わってなくて。今はすべてをデジタルだったりコンピューターで完結できるけど、BOOM BOOM SATELLITESを始めた頃って、ライブでコンピューターと同期して演奏するバンドがたくさんいる時代じゃなかったんですよ。だから当時は機材が安定して動くか、操作性に優れているかがすごく重要で。1つの機材に負担がかかりすぎないように、ミキサーもアナログとデジタルに分けて使ったり。どうしても機材に負担がかかるとバグが出てしまうので、そういうスタイルからなかなか崩せなかったっていうのもあります。

BOOM BOOM SATELLITES

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──そのスタイルを確立したのはいつ頃ですか?

いつだろう……? 最初はコンピュータじゃなくてハードウェアのシーケンサーをサンプラーで鳴らしたんですけど、コンピュータが導入されたのは2ndアルバム「UMBRA」(2001年2月発売)のときからですかね。そこからは基本的なものは変わってないです。一方で今THE SPELLBOUNDではまったく違う機材を使ってるんで、当時の機材は倉庫の肥やしになってます(笑)。

──興味深い話です。そして、今作はファンにとっても当時を振り返るきっかけになると思うんですが、さっきお話しされたとおり、THE SPELLBOUNDの制作と並行してこの作品に関わっていたわけじゃないですか。現在進行形で新しいバンドの制作に打ち込んでいる状況で、膨大な過去のデータと向き合うことで知り得たことはありますか?

そうですね……過去と向き合うことで、今の自分にとって学びになることはたくさんあると思うんです。でも、そもそも僕は同窓会というか、昔話で盛り上がるような集まりが苦手で。それよりも未来志向というか、新しいことに目を向けていたいんですね。で、まさに「過去の自分に負けたくない」と思っている自分の気持ちを今回確認することができたんです。僕と川島くんが歩んできた証ではあるけど、それを超えていきたいっていうか。

川島くんがいないことの寂しさや悲しさが浄化されていくような感覚

──例えば2017年にBOOM BOOM SATELLITESのベストアルバムのリマスターも中野さんが手掛けていますが、あの頃の自分と比べてどうでしょう?

全然違いますね。やっぱり川島くんがいなくなってから時間が経ったことで、自分と川島くんの関係やBOOM BOOM SATELLITESとの向き合い方が、当時と比べてだいぶ変わってきたというか。やっぱりそれは僕が今THE SPELLBOUNDをやったり、川島くんの奥さん(須藤理彩)が舞台で活躍されているのを観たり、川島くんの娘さんの成長を実感したりすることで、もっと大きな視点で捉えられるようになったからだと思います。

──同じことを今作で感じました。実際に作品を観るまでは、川島さんがいないことを寂しく思ったり、切ない気持ちに囚われたりするのかと不安でしたけど。

僕もそうですね。もうちょっと時期が早かったらちょっとしんどかったかもしれない。

──むしろ当時の追体験ができたことの喜びとか興奮のほうが大きかったです。

それはよかったです。最近、THE SPELLBOUNDのライブでBOOM BOOM SATELLITESの曲も演奏してるじゃないですか。そのことについて小林くん(THE NOVEMBERSや THE SPELLBOUNDのボーカル&ギター小林祐介)ともよく話すんですけど、BOOM BOOM SATELLITESは僕にとっても小林くんにとっても人生の中で育まれてきた音楽なので、THE SPELLBOUNDはオリジナルでBOOM BOOM SATELLITESはカバー曲、みたいな区別がもはやないというか。どちらも同じ“音楽”という大きなくくりで捉えてしまっているんですよ。だから感傷的になるんじゃなくて、音楽そのものが持っている大きな愛みたいなものだけが立ち上がるし、川島くんがいないことの寂しさや悲しさが浄化されていくような感覚があって。

BOOM BOOM SATELLITES

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──すごくわかります。この作品にも似たような浄化作用があると思いますよ。

演奏する側だけじゃなく、ファンの人たちともその感覚を共有できればいいなと思ってます。

──この記事がアップされる頃に始まっているTHE SPELLBOUNDのツアーもそういう感じになりそうですか?

そうなることが理想的だと思ってますね。この歳になって思うけれど、ロックミュージックって基本、ユースカルチャーじゃないですか。若くて勢いがあるときに作られた楽曲であることに価値があって。でもミュージシャンなら誰でも、歳を重ねてもその楽曲を再生していくことになる。それって同窓会じゃないけど……過去を振り返るような行為に近いことでもあって。

──潔癖な考え方をすればそうですね。

でもそうじゃなくて、そういう次元を超えたところで音楽を再生させるというか、今の自分のリアルを鳴らすことで、そこにいる人たちの人生を包み込むことができたらいいなって。

──まさに「Voyager」はそういうアルバムになっていると思いますよ。愛で包み込むような音楽というか。むしろBOOM BOOM SATELLITES以上の包容力やキャパシティを感じるので。

そうだったらうれしいな。……僕、昔からベテランのミュージシャンになったときの理想的なロールモデルというのがなくて。こういうミュージシャンでありたい、みたいな憧れがないまま今に至ってるんです。だから日々、自分がどうあれば幸せでいられるのか、満足感を得られるのか、そしてそれがファンに何をもたらすのか。それを音楽とともに探りながら生きてるんですけど……みんなに希望が与えられるといいな。

──このままお互い、いい歳の取り方をしたいですね(笑)。

本当にそう。とにかく僕の場合は周りの人に感謝、ですね(笑)。

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プロフィール

BOOM BOOM SATELLITES(ブンブンサテライツ)

中野雅之(Programming, B)、川島道行(Vo, G)によるロックバンド。1997年にベルギーのレーベルからシングル「JOYRIDE」をリリースし、1998年には初のフルアルバム「OUT LOUD」を発表した。エレクトロニックサウンドとロックを融合させた独自の音楽性で、類をみないオリジナリティを誇示し、日本国内だけでなく海外でも絶大な人気を獲得。アメリカやヨーロッパでもツアーを開催し、著名なフェスティバルにも多数出演した。2004年には映画「APPLESEED」の音楽を手がけ、その後もさまざまな映画やアニメに楽曲を提供している。2013年1月より川島の脳腫瘍の治療のためしばらくライブ活動を休止するが、同年5月の東京・日本武道館公演から活動を再開。しかしながら川島の脳腫瘍が再発し、2015年11月より再びライブ活動を休止することに。2016年6月にバンド最後の作品としてシングル「LAY YOUR HANDS ON ME」をリリース。同年10月に川島が死去し、2017年6月にBOOM BOOM SATELLITESの27年の歴史に幕を下ろすラストライブが行われた。