ナタリー PowerPush - BOOM BOOM SATELLITES
「これからどう生きていくか」武道館公演を経て見つけた新たな課題
リリースするからにはできるだけいい形で届けたい
──でも、きっとBOOM BOOM SATELLITESは今後も“Appleのコマーシャルで使われてもオッケーな曲”やEDMみたいな音楽はやらないですよね。
中野 そうですね(笑)。やっぱり練りに練ったアレンジと、ダイナミックレンジをフルに使ったサウンドで、どんなに複雑な曲であってもそれを表現者としてやりきりたいから。しかもできるだけ気持ちよく鳴る環境で聴いてもらえることを願いつつ。でも通勤電車でiPhoneのヘッドフォンで聴いてくれたとしても、それは本当にうれしいことで、少なくともステレオのヘッドフォンで聴いてくれたら普通のスピーカーよりもわかりやすく音像が伝わるだろうし。だから現状に対してもそんなに悲観はしてないですよ。よい音で聴くことに対して、何か啓蒙的な活動をしようとも思わないし。個人的には、それって大きなお世話なんじゃないかなって(笑)。
──時速300km出せるフェラーリやポルシェみたいな車って、公道ではそんなにスピード出せないんだから意味ないじゃんって言う人もいますよね。でも、いざというときに300kmの速度が出て、その速度からちゃんとブレーキも効くような高性能な車を作るということにも意味があるということに、中野さんの考えは近い?
中野 えっと、いや、それは違うかな(笑)。やっぱりどんな再生環境でもうまく鳴らせるのが理想で。フェラーリの例えで言うなら、別に300km出さなくても助手席に子供を乗せたら100人が100人、「これは普通の車じゃないな」ってわかると思うんです。それと同じように、普通に電車の中でヘッドフォンで聴いて、これはすごいライブだなって思ってもらえればそれで満足で、それ以上のことは本当にないんですよ。実際にライブ作品って、よっぽど自分にピタッときたものじゃないと何度も聴き返さなかったりするじゃないですか。それでもやっぱり何度も聴き返してもらいたいし、作品としてリリースするからには全責任を負いたいって考えちゃうんで。できるだけいい形で届けたい。それだけですね。
歯を食いしばってやるのか、どこかで諦めるのか
──最後に、今後の展望について教えてください。新しいアルバムに向けて、徐々に作業も始まっているとのことですが。
川島 まずは、今回リリースする武道館のライブよりもさらに進化したライブパフォーマンスをこの年末からいくつかやっていくことで、本格的に再始動する感じですね。別に止まっていたつもりもないですけど、改めてみんなの前に出ていって、今の自分たちの音楽を凝縮させたパフォーマンスをやっていきたいと思ってます。新しいアルバムに向けては、まあきっと一筋縄ではいかないだろうなって。そこに関しては、じっくりと腰を据えていきたいなと。
中野 本当に、1つひとつのことを手探りでやってくような感じになっていくと思うんですよね。ライブも今年は結局これまで1本しかやってなくて、その1本をやるのにもすごく苦労したので、2本目になる年末のライブがどういうものになるのかっていうのは、リハーサルに入ってみて、そして当日を迎えないとわからないと思うので。引き続きすごい緊張感がありますね。もう僕たちはそういう中で過ごしていかなきゃいけないっていう覚悟はしてます。たぶん曲を作るようになってもいろんなことが簡単じゃないと思っていて、前のアルバムを作るよりも何倍も苦労すると思うので。やっぱりどんなにきれいごとを言っても、脳味噌を取って戻ってきた人がこれまでとまったく同じ状態っていうことはありえないわけで、それはもう受け入れてやっていくしかない。だから選択肢は2つで、歯を食いしばってやるのか、どこかで諦めるのか。そのどっちかしかないので。
力強く前に進んでいくこと以外、何も決めてない
──具体的にこういう作品を作りたいとかそういうレベルの問題ではなく、最初に言っていたように「これからどう生きていくか」ということですね。
中野 うん。作品に関しては、出たとこ勝負なところもあると思うんです。実際に、川島くんが退院してすぐに作った曲があって、それはすごくいいんですよ。なんていうか時期が時期だっただけに、すごくホーリーな雰囲気を持った曲で。それはきっと次のアルバムに収録すると思うんですけど、今の川島くんと音楽を作るということは、そういう「出たとこ勝負」抜きに音楽を作るのってちょっと考えにくいところがあるんです。年齢やキャリア的なものもありますけど、きっとこれからの自分たちは、シーンとかトレンドとかに対してこれまで以上に絶対的な距離を置いていくと思います。これまで以上に自分たちのパーソナリティなりアイデンティティにフォーカスを当てていくことになると思うし、自分たちが歩んできた音楽体験をベースにした音楽を作っていかないと。その中で、川島くんだけが持っている経験っていうのも、もの作りにおいて鍵になっていくと思うし、むしろそこにフォーカスを当てない理由がないというか。ただ、それ自体はとても根気のいるタフな作業になっていくと思うんですよ。
──これまでの作品とはかなり違う感触を持った作品になるのは、間違いなさそうですね。
中野 そうですね。より際立ったものになるんじゃないかな。より本質的なところを突いていく作品になっていくと思います。その上で、音楽自体の楽しさを1つのアートフォームとして昇華できたら、すごくよい作品になるんじゃないかな。
川島 一歩一歩、力強く前に進んでいくっていうこと以外、何も決めていることはないので。とにかく今はそれを全うするしかないですね。
- Blu-ray Disc / DVD「EXPERIENCED II-EMBRACE TOUR 2013 武道館-」 / 2013年11月6日発売 / gr8!records
- 初回生産限定盤 [Blu-ray Disc+CD] / 7950円 / SRCL-8368~9
- 通常盤 [DVD+CD] / 4200円 / SRCL-8370~1
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Blu-ray Disc / DVD収録内容
- ANOTHER PERFECT DAY
- HELTER SKELTER
- BROKEN MIRROR
- DISCONNECTED
- MORNING AFTER
- BACK ON MY FEET
- SNOW
- EMBRACE
- FOGBOUND
- MOMENT I COUNT
- EASY ACTION
- KICK IT OUT
- NINE
- DIG THE NEW BREED
- DRESS LIKE AN ANGEL
- STAY
CD収録曲
- ANOTHER PERFECT DAY
- HELTER SKELTER
- BROKEN MIRROR
- BACK ON MY FEET
- SNOW
- EMBRACE
- FOGBOUND
- KICK IT OUT
- NINE
- STAY
BOOM BOOM SATELLITES
(ぶんぶんさてらいつ)
中野雅之(Programming, B)、川島道行(Vo, G)によるロックバンド。エレクトロニックサウンドとロックを融合させた独自の音楽性で、類をみないオリジナリティを誇示している。1997年にベルギーのレーベルからマキシシングル「JOYRIDE」をリリースし、1998年には初のフルアルバム「OUT LOUD」を発表した。日本国内だけでなく海外でも絶大な人気を集めており、アメリカやヨーロッパでもツアーを開催するほか、著名なフェスティバルにも多数出演している。2004年には映画「APPLESEED」の音楽を手がけ、その後もさまざまな映画やアニメに楽曲を提供。デビュー15周年を迎えた2012年6月には約3年ぶりのシングル「BROKEN MIRROR」をリリースした。2013年1月、2年7カ月ぶりのオリジナルフルアルバム「EMBRACE」を発表し、自身の楽曲のパーツを提供して、ニコニコ動画とコラボしたリミックスコンテストを開催するなど型にはまらない活動を展開。しかし同年1月、川島が脳腫瘍治療のためしばらくライブ活動を休止することを発表。そして2月末に、5月3日の日本武道館公演から活動を再開させることを宣言し、5月の武道館ライブで完全復活を果たした。11月には同公演の模様を収めたBlu-ray+CD、DVD+CDからなるライブ作品「EXPERIENCED II -EMBRACE TOUR 2013 武道館-」がリリースされる。