ナタリー PowerPush - BOOM BOOM SATELLITES
「これからどう生きていくか」武道館公演を経て見つけた新たな課題
何カ月も時間をかけたことは売り文句にしたくない
──5月に武道館ライブを終えて、その後2人は何をやっているんだろうと思っていた人も多いと思うんですけど、数カ月間ずっと根を詰めてこのライブ作品の作業をしていたんですよね。
中野 なんか最初のラフミックスの段階で、あまり上手にできなかったんですよ。何が上手っていう正解もないんでしょうけど、とにかくそこから時間がかかって。ライブならではのホットさや勢いも大事にしつつ、今後何年にもわたってリスナーに聴いてもらえるような作品をどうしても求めてしまうので。具体的なミックス作業に関しては、もう微に入り細に入りという感じで説明しきれないところなんですけどね。最終的にはいい落としどころが見つかったんじゃないかなと思ってるんですけど……ぶっちゃけてしまうと、結果的にそこまで時間をかける必要はなかったなって(笑)。
──ということは、一度行き過ぎてしまって、そこから引き返すような作業でもあったということですか?
中野 まあそういうところもありました。でも人生無駄なことはないですから(笑)。純粋なレコーディング作品の音のよさと、ライブ作品の音のよさっていうのはまた違うわけで、正解がないっちゃあない。でも、何カ月もミックスに時間をかけたっていうのは、あんまり売り文句にはしたくないですね。僕が愚かでしたって言ってるようで(笑)。
──そもそもライブ盤のミックス作業をアーティスト自身がやるのっていうこと自体、あまり聞いたことがないですもんね。
中野 世界中を探しても、たぶんアマチュアバンド以外では俺しかいないと思います(笑)。
──作業中、スタジオでは川島さんの意見も参考にしつつ?
中野 そうですね。
川島 各楽器の音の掘りも深くなっていて、それでいてライブならではのエネルギッシュな部分も失ってない。すごくいいバランスのサウンドだと、自分も胸を張って言えます(笑)。
──武道館という会場はすり鉢状になっているおかげでキャパのわりにはステージが観やすいし、音も昔に比べたら随分よくなった気もします。観客の立場で言うと、武道館って東京の大きな会場の中では個人的にもっとも好きなハコなんですけど、演奏者の立場としては難しいハコなんでしょうか?
中野 バンドにとっては難しいハコだと思います。PAのテクノロジーって今はすごく発達してるし、オペレーターの技術も上がっているから、武道館みたいな会場でも昔と比べたら客席にクリアに音が届くようになっている。「武道館だから音が悪い」ってことはないと思うんです。ただ、これは感覚的な話になっちゃうけど、音がアリーナっぽくなくてホールっぽいんですよ。ライブというよりもコンサートみたいな音。よく「武道館には魔物が棲んでる」みたいなことを言う人がいるけど、そのことなんじゃないかなって。その独特の響きは今回録音された音にも入っていて、実はそこも作業を難航させた部分でもあったんです。
リスナーの再生環境までは選べない
──これはまだごく一部の動きかもしれませんが、ここ数年、配信の圧縮音源が一般化する一方で、その反動からか音質に対して意識的なミュージシャンや、高いヘッドフォンを買ってアナログプレーヤーでレコードを聴くリスナーも増えてきている気もしています。そういう動きに対して、何か思うところはありますか?
中野 うーん。もちろん音楽なので、ちゃんとした音で伝わってほしいと思って作品を作ってはいますけど、リスナーの再生環境までは俺らには選べませんからね。例えば一部でハイレゾリューションの音源も出回ってますけど、あれもけっこうおかしなことだったりして。最終アウトプットはリスナーが所有してるスピーカーだったりヘッドフォンだったりするわけだから、実はMP3となんら変わらない音で聴いてるなんてことも少なくないと思うんですよ。でもユーザーの意識がちょっとでもいい音に向かっているんだとしたら、それはもちろんいいことですけどね。そういえば、前にTwitterでアンケートやってたよね?
川島 うん。自分のフォロワーがどんな環境で音楽を聴いてるのか知りたくてやってみたけど……。
中野 iPhoneのスピーカーで聴いてる人とかも本当にいて。それってモノラルだし超ナローレンジだし、がんばって分厚い音を作ったところなんにも聞こえねえだろうよって(笑)。例えばAppleのコマーシャルで使われる音楽って、みんなタイプが似てるでしょ? 歌とピアノが中心の、構成がシンプルな音楽ばかりで。あれって、iPhoneみたいなナローレンジの環境でも一番よく聞こえやすい音なんですよね。アメリカで好まれる音もどんどんアレンジがそういうシンプルなものになってきていて、ラウドロックとかがあまり聴かれなくなってる。ラウドロックなんてナローレンジな環境で聴くとシンバルもギターもジャージャー鳴ってるだけで、その中では歌もただのノイズになっちゃいますからね。EDMが流行ってるのも、音の構造自体がシンプルだから、どんな環境でも、圧縮された音源でも、音が鳴りやすいんですよね。だからそっちに合わせていくっていうのも対応の仕方としてはあるんですよ。ギター1本と歌だけで、そのままAppleのコマーシャルで使われてもオッケーな曲を作るとか、EDMみたいなものを作るとか。
- Blu-ray Disc / DVD「EXPERIENCED II-EMBRACE TOUR 2013 武道館-」 / 2013年11月6日発売 / gr8!records
- 初回生産限定盤 [Blu-ray Disc+CD] / 7950円 / SRCL-8368~9
- 通常盤 [DVD+CD] / 4200円 / SRCL-8370~1
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Blu-ray Disc / DVD収録内容
- ANOTHER PERFECT DAY
- HELTER SKELTER
- BROKEN MIRROR
- DISCONNECTED
- MORNING AFTER
- BACK ON MY FEET
- SNOW
- EMBRACE
- FOGBOUND
- MOMENT I COUNT
- EASY ACTION
- KICK IT OUT
- NINE
- DIG THE NEW BREED
- DRESS LIKE AN ANGEL
- STAY
CD収録曲
- ANOTHER PERFECT DAY
- HELTER SKELTER
- BROKEN MIRROR
- BACK ON MY FEET
- SNOW
- EMBRACE
- FOGBOUND
- KICK IT OUT
- NINE
- STAY
BOOM BOOM SATELLITES
(ぶんぶんさてらいつ)
中野雅之(Programming, B)、川島道行(Vo, G)によるロックバンド。エレクトロニックサウンドとロックを融合させた独自の音楽性で、類をみないオリジナリティを誇示している。1997年にベルギーのレーベルからマキシシングル「JOYRIDE」をリリースし、1998年には初のフルアルバム「OUT LOUD」を発表した。日本国内だけでなく海外でも絶大な人気を集めており、アメリカやヨーロッパでもツアーを開催するほか、著名なフェスティバルにも多数出演している。2004年には映画「APPLESEED」の音楽を手がけ、その後もさまざまな映画やアニメに楽曲を提供。デビュー15周年を迎えた2012年6月には約3年ぶりのシングル「BROKEN MIRROR」をリリースした。2013年1月、2年7カ月ぶりのオリジナルフルアルバム「EMBRACE」を発表し、自身の楽曲のパーツを提供して、ニコニコ動画とコラボしたリミックスコンテストを開催するなど型にはまらない活動を展開。しかし同年1月、川島が脳腫瘍治療のためしばらくライブ活動を休止することを発表。そして2月末に、5月3日の日本武道館公演から活動を再開させることを宣言し、5月の武道館ライブで完全復活を果たした。11月には同公演の模様を収めたBlu-ray+CD、DVD+CDからなるライブ作品「EXPERIENCED II -EMBRACE TOUR 2013 武道館-」がリリースされる。