ナタリー PowerPush - BOOM BOOM SATELLITES
「これからどう生きていくか」武道館公演を経て見つけた新たな課題
2013年5月3日に東京・日本武道館で開催されたBOOM BOOM SATELLITESのライブの模様がBlu-ray+CD、DVD+CDという映像&音源をパッケージした作品「EXPERIENCED II -EMBRACE TOUR 2013 武道館-」としてリリースされる。この武道館公演は川島道行(Vo, G)の脳腫瘍の治療のため今年1月から活動休止していたBOOM BOOM SATELLITESが、完全復活の狼煙を上げた重要なライブだ。会場に足を運んだ人だけでなく、Ustreamでの生配信を通じてライブに触れたファンも多いことだろう。
年末年始にはライブイベントへの出演も決定しているBOOM BOOM SATELLITES。今回のインタビューでは彼らにとって大きなターニングポイントとなった武道館公演を振り返ってもらいつつ、本ライブ作品の制作に時間がかかった理由、さらには今後の動向についてじっくり語ってもらった。
取材・文 / 宇野維正 撮影(本文中写真のみ) / 佐藤類
これからの命題は「どう生きていくか」
──5月3日の武道館公演からもう半年近く経ちますが、あの日の特別なライブを振り返って、今はどんな思いですか?
中野雅之(Programming, B) たった1回のライブではありましたけど、1つはけじめですね。今年1月に出したアルバム「EMBRACE」に対してのアウトプットが、リリース後には何もできなかったので。これがアルバムを伴う唯一のライブになってしまったけど、武道館でなんとか区切りを付けることができたのかな。そしてそれは、今まで自分たちがやってきたことに対しての区切りにもなっていて。1つの総括ですね、やっぱり。あのライブを終えたことで、自分たちがこれからどう生きていこうか考えることができるようになったというか。もう、どういう音楽を作ろうかなとか、どういうアルバムを作ろうかなとかじゃなくて、どう生きていこうかなってことに、これからはなってくると思うんです。
──「どう生きていくか」の答えが、そのまま音楽になっていくということですか?
中野 そうですね。本当に本番まではしっちゃかめっちゃかだったので。年末に川島くんの病気がわかって、ツアーを急遽キャンセルして、とりあえず武道館公演だけは可能性を残しておこうということになって。やると決めたあとも本番まで3カ月もない状況で、まずは彼がミュージシャンとして普通に楽器を演奏して歌うことが本当にできるのかっていう次元から始まったんです。武道館のステージに立つわけですから、何か同情を乞うようなものであってはいけない。一級のエンタテインメントとして成り立つパフォーマンスじゃなくてはいけないので、それが本当にできるのかどうかというのは、武道館当日を迎えるまでものすごいストレスだったんです。退院したばかりの頃の川島くんは、体力も落ちてるし声は出ないしみたいな感じで。とにかく当日を迎えるまでは大変だった記憶、重苦しい時間を過ごした記憶しかない。どうしてこんなに過酷なものを設定しちゃったんだろうって。普通に考えたらもうちょっと、手術から1年くらいはリハビリの期間にしてとか、そういう話だと思うし。川島くんが肉体的にというより精神的に、現場に戻ってこられるかどうかもわからなかった。今振り返ってみても、何が正解だったのかわからないですけど、とにかく厳しい日々でした。結果、当日のライブは本当に特別なものになったし、自分にとってあの日はいい1日だったけど、そんな思いで実現させたライブをこうしてパッケージ化するためにまた何カ月も作業をしていてつくづく思ったのは、「これからどう生きていこうかな」ということでしたね。
これから自分が何をしたいのかを考えさせられた
──開演前の会場には、オーディエンスが固唾を飲んで見守るような空気もありましたけど、いざステージが始まったら川島さんのパフォーマンスはそんな不安を一切忘れさせるような素晴らしいものでした。
川島道行(Vo, G) そう感じてもらえるところまで、本当に四苦八苦してたどり着いた感じでしたね。思い通りにいかないことだったり、自分が考えていたよりも低いところから始めなきゃいけなかったり、自分が闘わなきゃいけないものが音楽を奏でるということじゃない部分に大きな比重があったから。武道館当日になって考えていたのは、闘う前に負けることがないようにということ。ステージに出て、もし温かく迎え入れられたとしても、その空気に流されることがあってはいけないと思っていました。そのためには、できるだけ冷静でいようという静かな思いでいて。それがいい意味働いた部分もあっただろうし、もしかしたらもっといけたんじゃないかという思いもありました。それは、後日客観的に映像や音源を振り返って思ったことですけどね。やっぱり、ああやってみんなに迎え入れられたこと、待っていてくれた人たちを前に音楽を伝えることができたことは、すごく一方的かもしれないけど、自分にとっては本当に幸せなことでしたし、これからの自分が何をしたいのかということを考えさせられる大切な日にもなったので。今回こうして作品として残せたことには特別な思いがありますね。
──映像にも残っていますが、あの日はライブが終わったときの中野さんの感極まった表情がとても印象的でした。
中野 あのときは本当にホッとしたし、これまで溜まっていたいろんな思いがいっぺんに出てきて。うん……「ホッとした」っていうのが一番大きいかな。それまでの数カ月、ずっと緊張した状態が続いたんで。
- Blu-ray Disc / DVD「EXPERIENCED II-EMBRACE TOUR 2013 武道館-」 / 2013年11月6日発売 / gr8!records
- 初回生産限定盤 [Blu-ray Disc+CD] / 7950円 / SRCL-8368~9
- 通常盤 [DVD+CD] / 4200円 / SRCL-8370~1
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Blu-ray Disc / DVD収録内容
- ANOTHER PERFECT DAY
- HELTER SKELTER
- BROKEN MIRROR
- DISCONNECTED
- MORNING AFTER
- BACK ON MY FEET
- SNOW
- EMBRACE
- FOGBOUND
- MOMENT I COUNT
- EASY ACTION
- KICK IT OUT
- NINE
- DIG THE NEW BREED
- DRESS LIKE AN ANGEL
- STAY
CD収録曲
- ANOTHER PERFECT DAY
- HELTER SKELTER
- BROKEN MIRROR
- BACK ON MY FEET
- SNOW
- EMBRACE
- FOGBOUND
- KICK IT OUT
- NINE
- STAY
BOOM BOOM SATELLITES
(ぶんぶんさてらいつ)
中野雅之(Programming, B)、川島道行(Vo, G)によるロックバンド。エレクトロニックサウンドとロックを融合させた独自の音楽性で、類をみないオリジナリティを誇示している。1997年にベルギーのレーベルからマキシシングル「JOYRIDE」をリリースし、1998年には初のフルアルバム「OUT LOUD」を発表した。日本国内だけでなく海外でも絶大な人気を集めており、アメリカやヨーロッパでもツアーを開催するほか、著名なフェスティバルにも多数出演している。2004年には映画「APPLESEED」の音楽を手がけ、その後もさまざまな映画やアニメに楽曲を提供。デビュー15周年を迎えた2012年6月には約3年ぶりのシングル「BROKEN MIRROR」をリリースした。2013年1月、2年7カ月ぶりのオリジナルフルアルバム「EMBRACE」を発表し、自身の楽曲のパーツを提供して、ニコニコ動画とコラボしたリミックスコンテストを開催するなど型にはまらない活動を展開。しかし同年1月、川島が脳腫瘍治療のためしばらくライブ活動を休止することを発表。そして2月末に、5月3日の日本武道館公演から活動を再開させることを宣言し、5月の武道館ライブで完全復活を果たした。11月には同公演の模様を収めたBlu-ray+CD、DVD+CDからなるライブ作品「EXPERIENCED II -EMBRACE TOUR 2013 武道館-」がリリースされる。