ナタリー PowerPush - BOOM BOOM SATELLITES

若くして死ぬことだけがロックスターじゃない

退院して3日目にはスタジオに入って曲作り

──今度の武道館はあくまでも当初の予定通りの「EMBRACE」ツアーのファイナルでもあるけれど、気持ちとしてはBOOM BOOM SATELLITES、15年の集大成でもあるということですね。

そうですね。ここからまた何かが始まる、そういうライブになると思うんで。僕自身はこうして帰ってこれたことを、生き返ってこれたと思っているので。ここからまたミュージシャンとしてどう成長していけるのか、このあとどんな新しい次元にまで行けるのか、それがたとえ思い半ばになったとしても、その先へのかけ橋になるようなライブをしたいと思っています。

──では、とりあえず5月3日の武道館をやり遂げて、その後またちょっと休養するとかではなく、むしろそこからさらに歩みを速めていきたいと思っている?

そうですね。実際、退院して3日目くらいには、もうスタジオに入って曲を作っていたんですよ。まだ自分でもこの先どんな音楽をやりたいのかっていう部分も探りながらなんですけど。武道館で見えてくる未来もあるだろうし。そうやって、今日1日精一杯生きていれば、明日も来ると思うんで。

──前作「TO THE LOVELESS」のあとは、そのタイミングで出せるものすべてを出しきったとおっしゃっていて、その後はしばらく新しいマテリアルには取りかかってなかったと記憶しているんですけど。今回の「EMBRACE」は、そのときに比べても新たなクリエイティブへの動きが早いですね。

手術のあとのリハビリも兼ねてっていうとあれですけど(笑)、感覚的な部分は新たに音楽を作り出す中でしか判断できないところがあるんですよ。音楽へと向かう闘志みたいなものは、自分の中でしっかりと感じることができるんですけど。

この病を得ることでステージに立つ理由を得ることができた

BOOM BOOM SATELLITES

──新しいマテリアルを作ることで感覚のリハビリをするっていうのは、ミュージシャンじゃないとわからない部分ですね。

作り続けていないと閉じてしまうものもあるんじゃないかって。それは、中野(雅之)が考えたことでもあったんですけど。

──中野さんから「すぐに新曲を作ろう」と提案があったんですか?

はい。自分でもそれはやってよかったなと思いますね。

──いきなり新曲を作ってるってブログにあったから、最初は「え?」って思ったんですけど、なるほど。ちょっと精神論的な話になるかもしれないですけど、そうやって制作に向けて意識を高めていくことによって、病を跳ね除けるというような意味もあったんでしょうか?

あります。やっぱり僕がラッキーなのは、こういう立場にいることで、同じ病を得ている人の何倍も強くいられることだと思うんです。人に弱みは見せられないぶん、つらい面もあるし、変に意地張って元気なふりをしていても、誰の鏡にもなれないですけど。脳の病気なので、治っても偏見や誤解があったりするだろうし、僕の発言とか行動でその誤解を助長してしまったり、それによって同じ病の人たちに負担をかけてしまうということもあり得るわけですけど。ただ、僕は音楽家としてこの病を得ることで、歌う理由、ステージに立っている理由を得ることができたと考えることができるんですよね。これはすごく僕の個人的な話ですけどね。

──改めてこれまでのBOOM BOOM SATELLITESの音楽を振り返ってみると、歌詞の世界の死生観や哲学的な部分っていうのは、公表はしてなかったものの、川島さんの病気の経験が色濃く反映されていたんだなって思うことがあって。それと、BOOM BOOM SATELLITESって音楽に向かう姿勢やライブに向かう姿勢がとてもストイックで求道的じゃないですか。ときどき「どうしてこの人たちはここまで自分たちを追いつめていくんだろう?」って思ったこともあったんですけど、そこについても腑に落ちる感じがしたんですよね。

まず、そのストイシズムだったり求道的な部分っていうのは、中野の持っている素質によるところが大きくて、僕はそこに追い付こうとしてきたんだと思うんです。だからこうやって15年も、生きる姿勢までも共有しなきゃ作れないような音楽を目指してくることができたという意味では、中野に対して本当に感謝の思いが深いですね。実際に一度病気で歩みが止まったりすると、音楽に対して、どうしても哲学的なアプローチをしていかないと戻ってこれないところがあるんですよ。BOOM BOOM SATELLITESの現場ってとても厳しい現場なので。だから病気を理由に遠ざかることは、すごく簡単なんですよね。だけど僕はすごく珍しいパターンだと思うんですけど、この15年間ずっと理想に近付きたいっていう思いが増え続けている人間なので。やればやるほど、いまだに音楽への思いが募っているんです。

年末のライブで初めて自分の歌に感極まった

──確かに川島さんの歌だけ取ってみても、15年間常に進化し続けていますよね。バンドってある程度最初の段階で完成形までいくと、あとはそれをキープするか劣化してしまうかのどっちかだったりしますけど。BOOM BOOM SATELLITESの場合、物理的に音楽における声の比重が増えてきたというところもありますけど、歌の表現がどんどん豊かになってきて。「EMBRACE」なんて、ある意味ボーカルアルバムって言ってもいいくらい情感が込められている作品で。

うん。だから、ここで「EMBRACE」というアルバムができあがって、そのあとにこうして病気が再発して、そこからスタートが切り直せると言ったら、ツアーでチケットを買ってくれた人たちには申し訳ないんですけど、ちょっと運命的なものを感じるというか。まだまだ自分たちは先を見据えて音楽を作り続けることができるんですよね。そのことを改めて約束することができるっていうか。

──歌詞などで表面的に表れる部分だけじゃなくて、音楽に向かっていく姿勢そのものが、より自分たちの音楽に結晶化されていくだろうということですか?

BOOM BOOM SATELLITES

そうですね。自分でも新しい発見だったのが、年末に「手術しましょう」「ツアーはキャンセルしましょう」って言われて、そのあとに12月30日と31日にライブをやったときの「BROKEN MIRROR」の演奏中、ちょっと感極まるというか、本当は自分で自分の歌に感動してちゃいけないんですけど、そういう瞬間が生まれて初めて訪れて。「I realize what I am fighting for」(ボクはわかった 自分がなんのために闘っているのか)っていうくだりがあって、「俺、そんなつもりでこの歌詞を書いてたんじゃない」って思ったんだけど(笑)、本当にそのときの気持ちとシンクロしてしまって。心のどこかで「もしかしたらもうこれが本当に最後のライブになるかもしれない」って思っていたこともあって、歌いながらリアルタイムでふとグッときてしまいました(笑)。

──意識的にせよ無意識にせよ、きっと川島さんはこれまでもそういうギリギリの場所から発せられる言葉をしたためてきたんだと思います。

本来の自分はとても弱くて、隙あらばいつでも逃げようと思っているような男なんです。でもいざ音楽をやる立場になった場合、リスナーに対して何か希望となるようなものを表現したいと思ってきたし。曲とメロディがあって、どんなリリックを書いたらいいかわからないなっていうときは頭で考えているときで、本当に自分が思っている言葉が出てくるときというのはみぞおちあたりから出てくる感じなんですよ。わかりにくい説明で申し訳ないですけど(笑)。それは例えば「EMBRACE」では「SNOW」だったり、前のアルバムだったら「STAY」だったりが、そういう曲になったと思うんですけど。

BOOM BOOM SATELLITES 日本武道館ライブ

2013年5月3日(金・祝)東京都 日本武道館
OPEN 17:30 / START 18:30

アルバム「EMBRACE」 / 2013年1月9日発売 / Sony Music Records
「EMBRACE」ジャケット
初回限定盤 [CD+DVD+USB] / 4750円 / SRCL-8162~64
通常盤 [CD] / 3059円 / SRCL-8165
CD収録曲
  1. ANOTHER PERFECT DAY
  2. HELTER SKELTER
  3. BROKEN MIRROR
  4. SNOW
  5. FLUTTER
  6. DISCONNECTED
  7. DRIFTER
  8. Things'll never be the same
  9. EMBRACE
  10. NINE
初回限定盤DVD収録内容
  1. ANOTHER PERFECT DAY
  2. BROKEN MIRROR
  3. LOCK ME OUT
  4. BACK ON MY FEET
  5. WHAT GOES ROUND COMES AROUND
  6. EASY ACTION
  7. KICK IT OUT
  8. PILL
  9. MOMENT I COUNT
  10. DIVE FOR YOU
  11. PUSH EJECT
BOOM BOOM SATELLITES
(ぶんぶんさてらいつ)

中野雅之(Programming, B)、川島道行(Vo, G)によるロックバンド。エレクトロニックサウンドとロックを融合させた独自の音楽性で、類をみないオリジナリティを誇示している。1997年にベルギーのレーベルからマキシシングル「JOYRIDE」をリリースし、1998年には初のフルアルバム「OUT LOUD」を発表した。日本国内だけでなく海外でも絶大な人気を集めており、アメリカやヨーロッパでもツアーを開催するほか、著名なフェスティバルにも多数出演している。2004年には映画「APPLESEED」の音楽を手がけ、その後もさまざまな映画やアニメに楽曲を提供。デビュー15周年を迎えた2012年6月には約3年ぶりのシングル「BROKEN MIRROR」をリリースした。2013年1月、2年7カ月ぶりのオリジナルフルアルバム「EMBRACE」を発表し、自身の楽曲のパーツを提供して、ニコニコ動画とコラボしたリミックスコンテストを開催するなど型にはまらない活動を展開。しかし同年1月、川島が脳腫瘍治療のためしばらくライブ活動を休止することを発表。そして2月末に、5月3日の日本武道館公演から活動を再開させることを宣言した。