ナタリー PowerPush - BOOM BOOM SATELLITES
若くして死ぬことだけがロックスターじゃない
BOOM BOOM SATELLITESが5月3日に行う東京・日本武道館公演を機に活動を再開させる。昨年末、川島道行(Vo, G)の脳腫瘍治療のため全国ツアー中止を発表した彼ら。その後、2月下旬に配信されたニコニコ生放送の特別番組にて元気な姿を見せ、ファンを安心させた。
今回ナタリーでは川島への単独インタビューを実施。昨年末から現在までの経緯と、病気を経ての心境の変化、そして来たる武道館公演への意気込みを語ってもらった。
取材・文 / 宇野維正
ツアーキャンセルは苦渋の決断
──手術の成功とご退院、本当におめでとうございます。
ありがとうございます。なんだかお騒がせしちゃって(笑)。
──昨年末、アルバム「EMBRACE」の取材でお会いしましたが、あの直後に検査に行かれて、そこで脳に腫瘍が見つかってしまって。
そうです。前回から10年以上経過したあとの再発だったので。自分としても、ちょっと不意を突かれたというか。
──これまで公式に発表されることはありませんでしたが、今回が3回目の発症になるというお話を聞きました。
たまたまですが、これまでは発表する必要がないタイミングだったんです。最初はまだ日本でデビューする前、15年前に初めて脳腫瘍になって。そのときはベルギーでのライブの前だったんですけど、退院後1週間くらいでベルギーまで行って無事ライブをやることもできたんです。それ以降、定期検査を1年おきにしていたんですけど、2年目に再発が見つかって。そのときはロンドンでのレコーディング中で、定期検査のために日本に帰って、そこからロンドンに戻ってレコーディングの残りを2、3曲やってから、また日本に帰って手術をして。その後放射線治療も受けていたので、このあとに再々発する可能性については、あまり考えなくてもいいという説明を受けていたんですけど。今回ひさびさの全国ツアーに出る前ということもあって、検査をしてもらったら……。
──検査の直後、12月30日に大阪で「RADIO CRAZY」、大晦日に東京で年越しイベントに出演されて、入院されたのが……。
正月明けの1月4日です。
──手術はいつだったんですか?
1月15日です。
──昨年末に今年の全国ツアーの中止が発表されたあと、川島さんが「すぐに手術をしなくちゃいけないと告げられたとき、手術に対する怖さはもちろんあったけど、何より先に思ったのは、ツアーをキャンセルしなきゃいけないことに対する悔しい思いだった」とおっしゃっていたのが印象的でした。
だいたい先生の様子でわかるんですよね、「これは何か言われるな」と。そこで、これから悪くなる可能性も高いから、なるべく早く手術をしなくてはいけないと言われて。せっかくこれだけいいアルバムができて、これだけ長い全国ツアーをやるのもすごくひさしぶりだったので、最初はどうしても行きたかったんですよ。「命に代えても」って言うと大袈裟に聞こえるかもしれないけど、もし可能だったら3月いっぱいまでのライブハウスツアーを終わらせてから、4月23日のZepp Nagoyaまでの間に治療をして、5月の武道館を終えてさらなる治療をできないかっていう提案をして、いろいろと可能性を探ってもらったんですけど、やっぱり「どうしても急がないと」ってことで。「本当に命に代えてもやりたいなら止めませんが」っていうことだったんですけど、そのときにマネージャーも一緒にいて「ツアーをキャンセルしてでも治療を優先させてください」と言われて。本当に……苦渋の決断でしたね。本当につらかったです。
“強さ”を見せることもミュージシャンの果たす役割の1つ
──ツアーがキャンセルとなって、武道館でのファイナル1回だけになったことで、5月3日のライブの持つ意味というか、BOOM BOOM SATELLITESのこれまでのキャリアの中での位置付けも変わってしまったところもあると思うのですが。
そうなんですよね。今回のライブもそうですし、アルバム「EMBRACE」にしてもそうなんですけど。当初今回のツアーを計画したときやアルバムのレコーディングのときには、今回の自分の病気のことは念頭になかったことなので。それが、観てくれた人や聴いてくれた人にとってちょっと意味合いが変わってしまうとしたら、あまり本意ではないんですけど。
──はい、よくわかります。
今回の武道館では「EMBRACE」というアルバムの世界観をみんなに伝えることが一番重要だと思っているので。昨年12月の東京と大阪でのクアトロではやっていない曲はもちろん、あのときにやった曲もさらにリハーサルの中で強度を増してきているので。まずはそこを楽しみにしてほしいという気持ちがあって。ただ……やっぱり、脳腫瘍ってちょっと派手な病名だと思うんですよね。それを3回もしている人間が、こうしてまだ歌いたいと思ってステージに立っているという、そういう“強さ”を見せることも、僕はミュージシャンの果たす役割の1つだと思うんです。若くして死ぬことだけがロックスターじゃないんだって。生き続けていくことや、やり続けていくことっていうのも、今となってはミュージシャンにとって1つの思想であったりメッセージであったりするんじゃないかって。それを全力で体現できれば、自分がここまでミュージシャンを15年続けてきた甲斐があったなって思えるし。それを観る人が受け止めてくれて、何か勇気や希望のようなものになってくれるのであればけっこうつらい病気だし大変な手術だったりもしましたけど、逆にすごくうれしいです。病気になったこともありがたいというか。きっと誰かが僕を選んで、そういう“強さ”を表現する役割を与えたんじゃないかって思えるので。
BOOM BOOM SATELLITES 日本武道館ライブ
2013年5月3日(金・祝)東京都 日本武道館
OPEN 17:30 / START 18:30
- アルバム「EMBRACE」 / 2013年1月9日発売 / Sony Music Records
- 「EMBRACE」ジャケット
- 初回限定盤 [CD+DVD+USB] / 4750円 / SRCL-8162~64
- 通常盤 [CD] / 3059円 / SRCL-8165
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CD収録曲
- ANOTHER PERFECT DAY
- HELTER SKELTER
- BROKEN MIRROR
- SNOW
- FLUTTER
- DISCONNECTED
- DRIFTER
- Things'll never be the same
- EMBRACE
- NINE
初回限定盤DVD収録内容
- ANOTHER PERFECT DAY
- BROKEN MIRROR
- LOCK ME OUT
- BACK ON MY FEET
- WHAT GOES ROUND COMES AROUND
- EASY ACTION
- KICK IT OUT
- PILL
- MOMENT I COUNT
- DIVE FOR YOU
- PUSH EJECT
BOOM BOOM SATELLITES
(ぶんぶんさてらいつ)
中野雅之(Programming, B)、川島道行(Vo, G)によるロックバンド。エレクトロニックサウンドとロックを融合させた独自の音楽性で、類をみないオリジナリティを誇示している。1997年にベルギーのレーベルからマキシシングル「JOYRIDE」をリリースし、1998年には初のフルアルバム「OUT LOUD」を発表した。日本国内だけでなく海外でも絶大な人気を集めており、アメリカやヨーロッパでもツアーを開催するほか、著名なフェスティバルにも多数出演している。2004年には映画「APPLESEED」の音楽を手がけ、その後もさまざまな映画やアニメに楽曲を提供。デビュー15周年を迎えた2012年6月には約3年ぶりのシングル「BROKEN MIRROR」をリリースした。2013年1月、2年7カ月ぶりのオリジナルフルアルバム「EMBRACE」を発表し、自身の楽曲のパーツを提供して、ニコニコ動画とコラボしたリミックスコンテストを開催するなど型にはまらない活動を展開。しかし同年1月、川島が脳腫瘍治療のためしばらくライブ活動を休止することを発表。そして2月末に、5月3日の日本武道館公演から活動を再開させることを宣言した。