ナタリー PowerPush - BOOM BOOM SATELLITES
音楽の存在価値を見つめ直した待望新作「EMBRACE」
自由に、ピュアに音楽に向き合うことができている
──実はこの作品を聴いたときに最初に思ったのは、「全曲シングルカットできるような作品だな」ってことで。世の中的に、よくアルバムを褒めるときに使われる言葉だから、陳腐に聞こえるかもしれないので言うのを躊躇してたんですけど(笑)。
中野 いや、素直にうれしいですよ(笑)。本当に1曲1曲、どれもいい曲だなって思って作ってきたので。音楽を作っていて、自分がいいと思ったものがそのままストレートに伝わるのって難しいことで、そこには常に誤解が生まれるリスクがあるから、もしそう思ってくれたならよかったなって。
──以前に中野さんは「もしアルバムという表現フォーマットが世の中から求められなくなったとしても、そのミュージシャンの持つ全体像を伝えるツールとしてアルバムというフォーマットには意味があり続ける」ということを言っていたんですけど。そういう意味で今作「EMBRACE」を作り終えた今、自身にとってこの作品の意味というのはどこにあると思いますか?
中野 うーん……。音楽としての純度の高さというところかな。そういうこと自体、今は貴重なものになってきてると思うから。やっぱり、とてもパーソナルな環境で作品を作っている強みがここにはあるんじゃないかな。
──パーソナルな環境というのは、具体的に言うと?
中野 BOOM BOOM SATELLITESって、制作に関わる人が極端に少ないんですよ。アーティストから発信されるものの混じり気のなさという点では、ほとんど100%に近いものだから。一方でそうであるが故に客観性を欠くリスクもあって、そこにはすごく神経質にもなるんだけど。今回、ほとんど僕と川島くん2人だけでガチでやった、アルバムの制作が生活そのものだったから。そういう中で、色気だったり邪念だったりっていうのが不思議と全く出てこなかった。これだけバンドをやってきて、それなりの規模でやっているわけだから売れなきゃいけないっていうプレッシャーもないわけじゃないんだけど。お互いそう口では言っておきながら、本当に自由に、ピュアに音楽に向き合うことができているから。
新しい音をどんどん作っていきたい
──色気や邪念が入るまでもなく、この作品は非常にアピール力の強い作品になっていて。きっと、今の2人が本当にやりたいことっていうのが、なんの矛盾もなく、自発的にこういう広がりのある作品を求める絶妙なタイミングだったんだなって思うんですけど。
川島 自分たちの音楽の存在そのものの強さというのが出せた気がしています。今の中学生くらいの子たちって、音楽がタダだと思ってたりするじゃないですか。確かにもう、音楽を何かの対価としてお金とかの別の基準で量る時代じゃないのかもしれないけど、その中でも、数字では量ることのできない強さ、決してタダでどこにでもあるものではないという強度が、ここにはあると思う。
──そうですね。だから、さっき中野さんは「青春は終わった」って言ってましたけど、ここからまた何か新しいものが始まっていく予感に満ちた作品なんですよ。仮に青春が終わったとしても、ここでひとつのハッピーエンドを迎えて、次の段階へと進んでいく。アルバムの最後まで聴き終えたとき、そういう清々しさを感じる作品で。
中野 でも、青春は終わりましたね(笑)。
──その先に何が始まるんでしょう?
中野 いやあ、それが結構未知の世界なんですよ(笑)。子供のときには、まさか30代まで青春が続くなんて思ってなかったし。やっとまともな大人になってきたと思ったら、30代も終わる頃っていう(笑)。これからますます想像のつかないことが起こるんじゃないかな。まだ制作が終わったばっかりであまり考える暇もないですけど、ただ、新しい音をどんどん作っていきたいという気持ちが湧いてきていて。うん、今はなんか、もっともっとできそうな気がしてるんですよね。
- ニューアルバム「EMBRACE」 / 2013年1月9日発売 / Sony Music Records
- 「EMBRACE」ジャケット
- 初回限定盤 [CD+DVD+USB] / 4750円 / SRCL-8162~8164
- 通常盤 [CD] / 3059円 / SRCL-8165
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CD収録曲
- ANOTHER PERFECT DAY
- HELTER SKELTER
- BROKEN MIRROR
- SNOW
- FLUTTER
- DISCONNECTED
- DRIFTER
- Things'll never be the same
- EMBRACE
- NINE
初回限定盤DVD収録内容
- ANOTHER PERFECT DAY
- BROKEN MIRROR
- LOCK ME OUT
- BACK ON MY FEET
- WHAT GOES ROUND COMES AROUND
- EASY ACTION
- KICK IT OUT
- PILL
- MOMENT I COUNT
- DIVE FOR YOU
- PUSH EJECT
BOOM BOOM SATELLITES
(ぶんぶんさてらいつ)
中野雅之(Programming, B)、川島道行(Vo, G)によるロックバンド。エレクトロニックサウンドとロックを融合させた独自の音楽性で、類をみないオリジナリティを誇示している。1997年にベルギーのレーベルから初のシングル「JOYRIDE」をリリースし、1998年には初のフルアルバム「OUT LOUD」を発表した。日本国内だけでなく海外でも絶大な人気を集めており、アメリカやヨーロッパでもツアーを開催するほか、著名なフェスティバルにも多数出演している。2004年には映画「APPLESEED」の音楽を手掛け、その後もさまざまな映画やアニメに楽曲を提供。デビュー15周年を迎えた2012年6月には約3年ぶりのシングル「BROKEN MIRROR」をリリースした。2013年1月、2年7カ月ぶりのオリジナルフルアルバム「EMBRACE」を発表。このアルバムは日本だけでなく、アメリカを含む10カ国で同時発売される。
2013年2月12日更新