ナタリー PowerPush - BOOM BOOM SATELLITES
音楽の存在価値を見つめ直した待望新作「EMBRACE」
“いい曲”と言われることに自覚的になった
──前作「TO THE LOVELESS」は文字通り「愛なき世界」に向けて音を叩きつけるような作品で、一方、今回は「EMBRACE」(=抱きしめる、包容する)という対照的なタイトルが冠せられていて。そこにも心境の変化が象徴的に表れているのかなと思ったのですが。
川島 音楽の役割のひとつとして、聴いてくれた人にいい影響を及ぼすものであってほしい、よりよい未来をつかむきっかけであってほしいという思いがあって。それは以前に比べても、より強く意識するようになったと思います。自分自身が、音楽によっていい作用をもらうことでここまで生きてきたから、それを分け与えるような感覚というか。
中野 でも、「TO THE LOVELESS」と「EMBRACE」はある意味で対照的な作品かもしれないけど、その芯の部分はそんなに変わってないと思うんです。ただ表現としてどこの部分を切るかという、その手法が違うだけっていうか。確かに今作にはこれまでとは違って、何かを許すこと、あるいは自分自身を許すこと、そういう気持ちの先にある何かを見出そうとしているところはあると思うんです。でも、それが外的な要因からきた変化なのか、それとも自分が年齢を重ねていくことで必然的に起きた変化なのか、それは自分でも明言できないんですよ。ただ変化してきていることは確かだし、それを成長と言ってもいいのかもしれないけど、自分としては表現のアウトプットの仕方が変わっただけという気持ちも強いんです。世界に対して悲観的に感じているという意味では、やっぱりそんなに変わってなくて。だからと言って、何かを諦めたことは一度もないんですけどね。
──このアルバムを作る上で最も大切にしていたのは、どういうところなんでしょうか?
中野 1曲1曲作ってるときはそこまで自覚的じゃないんですけど、“いい曲”と言われることに自覚的になったのは大きな変化だと思います。制作中の音源を身内や友達に聴いてもらうことがあるんですけど、今まではそこで「カッコいいね」って言われることが圧倒的に多かったんですけど、最近は「いい曲だね」って言われることが増えてきたんです。最初は「いい曲? それでいいのかな?」って思うところもあったんですけど、そう言われているうちにそこを大事にしたいという思いが生まれてきて。それはこれまでにはなかった気持ちの変化ですね。
──「いい曲」っていうのは、聴き手に対しての優しさとか温かさでもあると思うんですけど、そこにさっき中野さんの言ってた今作の“時代性”や“批評性”があるのかもしれませんね。
中野 うん、そうかもしれませんね。
「SNOW」は音楽に求めているものの理想型
──2012年の半ば、シングル「BROKEN MIRROR」をリリースする前に話をしたときは、「こんなに着地点が見えないアルバム制作は初めて」と言ってましたけど。あの後、どこかでターニングポイントとなるような出来事があったんでしょうか?
中野 夏に、ニコニコ生放送で宇野さんがうちのスタジオに来たときがあったじゃないですか。あのときに生放送で流した「SNOW」って曲、あの曲で何かをつかめた感じがあったんですよね。ちょうどその1週間前くらいにできた曲だったんですけど。
──ああ。あのとき、制作中の音源を「新しい曲ができたんで、聴いてください」って言って放送で流してくれて、ちょっと驚いたんですよね。これまでのBOOM BOOM SATELLITESって、完全に最終的な音ができあがるまで外に出さないっていう印象があったから。
中野 うん。あの曲ができたとき、とても素直にみんなに早く聴いてもらいたいって気持ちになったんですよね。あの1曲には僕が音楽に求めているいろんなものが全部入っていたから。ちょっと語りのような歌い出しだったり、プレイヤーの空気感だったり、そこから覚醒していく感じだったり、言葉がなくなった後にその余韻を引きずって世界がどんどん拡張し続けていってる感覚だったり。メンタル的にもフィジカル的にも、あれは今の自分にとって、音楽に求めているものの理想型だったんですよね。
──川島さんにとっても、ターニングポイントになるような作品だった?
川島 できた瞬間にというより、時間をかけてジワジワきた感じでした。でも確かにあの曲ができたことで、アルバムの全体像が見えてきた感じはありましたね。
中野 最初はワンコーラスだけで終わりだったんです。その時点でいい曲だなって思ってたんだけど、そこからもっと別の場所に聴き手を連れて行きたいなって思って、それでその後ちょっとベタにリズムを展開していこうかなって。そうやってちょっとわかりやすく大風呂敷を広げていったときに、「ああこれか!」って思えましたね。
──これまでだったらちょっと躊躇していたかもしれないような?
中野 そうそう。いつもはそういうところで表現にブレーキをかけるんですよ。でも一度そういう自分の美学を捨てて、曲を外に押し広げていこうと思った。もちろん、これまでの美学みたいなものはこのアルバムの中にもたくさんあると思うんですけど、曲自体が求めているなら、今回は少しその部分を解放してみてもいいかなって思った。曲至上主義というか。
- ニューアルバム「EMBRACE」 / 2013年1月9日発売 / Sony Music Records
- 「EMBRACE」ジャケット
- 初回限定盤 [CD+DVD+USB] / 4750円 / SRCL-8162~8164
- 通常盤 [CD] / 3059円 / SRCL-8165
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CD収録曲
- ANOTHER PERFECT DAY
- HELTER SKELTER
- BROKEN MIRROR
- SNOW
- FLUTTER
- DISCONNECTED
- DRIFTER
- Things'll never be the same
- EMBRACE
- NINE
初回限定盤DVD収録内容
- ANOTHER PERFECT DAY
- BROKEN MIRROR
- LOCK ME OUT
- BACK ON MY FEET
- WHAT GOES ROUND COMES AROUND
- EASY ACTION
- KICK IT OUT
- PILL
- MOMENT I COUNT
- DIVE FOR YOU
- PUSH EJECT
BOOM BOOM SATELLITES
(ぶんぶんさてらいつ)
中野雅之(Programming, B)、川島道行(Vo, G)によるロックバンド。エレクトロニックサウンドとロックを融合させた独自の音楽性で、類をみないオリジナリティを誇示している。1997年にベルギーのレーベルから初のシングル「JOYRIDE」をリリースし、1998年には初のフルアルバム「OUT LOUD」を発表した。日本国内だけでなく海外でも絶大な人気を集めており、アメリカやヨーロッパでもツアーを開催するほか、著名なフェスティバルにも多数出演している。2004年には映画「APPLESEED」の音楽を手掛け、その後もさまざまな映画やアニメに楽曲を提供。デビュー15周年を迎えた2012年6月には約3年ぶりのシングル「BROKEN MIRROR」をリリースした。2013年1月、2年7カ月ぶりのオリジナルフルアルバム「EMBRACE」を発表。このアルバムは日本だけでなく、アメリカを含む10カ国で同時発売される。
2013年2月12日更新