BBHF|今この現実を歩み続ける人々を美しく描きたかった

自分語りじゃなくて、誰かとの、もしくは何かとの会話

──今回2枚組アルバムにした理由は、やはり1枚目と2枚目で対比性を持たせたかったということなんでしょうか?

そうですね。基本的に僕の楽曲や歌詞はこれまで、他者や何がしかの世界があって、それに対する自分の主観として書いている感じだったんですけど、今回は1枚目から2枚目へ向かって、第三者であるAという視点からBという視点へグラデーション的にたどり着く、というような構造になったと思っています。それも特に明確に意図したわけではなくて、改めて聴き直してみると、そう思う。だからこのアルバムは、自分語りじゃなくて、誰かとの、もしくは何かとの会話なんです。

──「グラデーション」ということで言うと、音楽性としても1枚目から2枚目にかけて、冷たげなものから暖かいものへ徐々に曲調が変化していくという印象を持ちました。まさに「北から南へ」という感じ。

ちょうど真冬の1月から制作していたので、北海道は雪深く空気が乾燥していて。それが当時の僕らにとってはリアルな肌感覚だったんです。その中で、遠くへ行く=暖かくなっていくということや、増していく湿度の感覚をどうやって音で表現しようかを考えていましたね。それが曲ごとに現れていると思います。

──順番に聴いていくと、アレンジ面でも、例えばシンセサイザーのフューチャリスティックな冷たい音像から、2枚目に入るとパーカッションなどトロピカルな味わいが入ってきたり。やはり全体の曲順もそこを意識したのでしょうか?

おおまかにはそうかもしれません。ただ、いつも僕らは音と言葉をまず出してみて、それを束ねるように作品にしていくというやり方なので、厳密に決め込んで作業したわけではないですね。テーマを決めたつもりなのに全然テーマと違うものになっていることもよくある。楽曲の関連性とか、どうすれば1つの作品に収まるのかっていうのは、あとから考えていくことが多いかもしれません。曲を作るときは、「アルバムの中の数あるうちの1曲」を作りたいわけじゃなくて、あくまでその1曲に集中して作業するから、それが最終的に形になったとき今回のようにテーマに沿ってうまくまとまると、すごく不思議な引力を感じます。

BBHF(Photo by Iwai Fumito)

その場その場で音楽が生まれていくのが一番楽しかった

──じゃあ、アルバムの全体像が見えてきた段階で改めてアレンジに手を加えることもたびたび?

そうですね。統一感を持たせるために。今回はミックスに関してもこちらでやっている曲もけっこうありますし。日本のミックスエンジニアだったらたぶん嫌がりそうなことをけっこうやってからマイク(・クロッシー / Arctic Monkeys、The 1975などを手がける世界的サウンドプロデューサー、エンジニア。Galileo Galilei時代から尾崎の作品に携わっている)に渡したり(笑)。

──確かに、ポストプロダクションにおける自由度のようなものもすごくアップしたなと感じました。

そうだと思います。でも、それも自分たちだけでやったわけじゃなくて、今回Galileo Galileiのときにギターをやっていた岩井(郁人)くんが共同プロデューサー的に携わってくれたんですけど、それがとても大きかったかなと思います。彼がもう1つの目として楽曲を俯瞰的に見てくれたんです。僕らとしては、より当事者的な視点で楽曲制作したい気持ちがあって。任せられる部分はいろんな人に任せて、いろんな視点が入ることでいい作品にしていきたかった。

──以前のインタビューで、いわゆるサウンドプロデューサー的に自分たちの音楽を完璧に把握しようとすることでバンドマン、演奏者である意識が薄れていくことに危機感がある、とおっしゃっていたかと思うんですが、今の話にも通じそうですね。

そうですね。岩井くんに鍵盤で思うままにコードを弾いてもらって、そこに僕が思いつくメロディをバーッと歌って、それをメモっていくとか、そういうこともやってみました。僕自身が鍵盤を上手に弾けないし、根を詰めて打ち込みをしたくないからっていうのもあるかもしれないけど、やっぱり自分から自然と湧き出るものをキャッチしたくて。

──細かい設計図を作ってそれをなぞる、みたいなことからいかに脱するか、という?

そうですね。そのカッコよさももちろんわかるし、全工程できちゃう人に憧れたりもするけど、僕はいちミュージシャンとしてそういう方法はもういいかな、って。

──今回のアルバムを作るうえで、影響を受けているかもしれない音楽家や作品は思い当たりますか?

うーん、特に明確なものはないかもしれないですね。「この曲のこれが」とかより、みんなで合わせるときも僕が1人で作業するときもそうだけど、その場で実際に起こっていることを一番の主軸にした感じ。具体的な演奏の方法論とか1つの断片的なアイデアとして「あの曲のあんな感じはどう?」という話が出てくることはあったけど、みんなの共通言語として特定の音楽を念頭に置いたというのはなかったですね。単純に、その場その場で音楽が生まれていくのが一番楽しかったんだと思います。ただ精神的な面でいうなら、やっぱりBon Iverの存在は大きいかもしれないです。コロナ禍でライブができない状況になる直前、メンバーで連れ立ってBon Iverの来日公演に行ったんですよ。彼(ジャスティン・ヴァーノン)をはじめ、ほかにもThe Nationalとか、そのあたりのUSのアーティストたちの存在そのものが、僕ら全員の心の支えになっている気がしていて。音楽的に素晴らしいというのはもちろんなんですけど、彼らが存在していてやり続けているということだけで元気が湧いてくる。自分たちが大事にしていることは間違ってないんだという安心感というか……。

──目先の音楽的変化に追従するわけじゃなくて、ずっしりとした存在感をもって長く続ける、ということの価値。

まさにそうですね。なんというか、本人は別にキャラクター的な部分を売りにしているわけじゃないのに、その存在自体に愛着を覚えてしまうというか……。