人間の本質的な矛盾を2作品で表現
──「Family」と「Mirror Mirror」でやりたいことや制作の方法は大きく違ったんじゃないでしょうか?
対になるような作品を作ったと言うと、当然その違いを聞かれるんですけど、今回僕らがやりたかったのは「BBHFとして2つの作品を同時に走らせて、それをみんなに楽しんでほしい。僕らも楽しみたい」ということで、その違いはそれぞれの人が聴いて感じてほしいと思っているんです。2つの作品には「この曲はあの曲に対するアンサーじゃないか?」と思えるような要素も盛り込んでいるので、それぞれの箱の中に何が入っているかを楽しんでもらえたらなと。でも、それぞれの性格のようなものは話せます。
──では、雄貴さんが思うそれぞれの作品の性格について教えてもらえますか?
僕の中での「Family」のイメージは、パワー、エネルギー、温かさ、強さ、存在感、実在するものでした。その結果「Family」は、「エネルギーや力が欲しい」という人間的な欲求を強く表現した作品になったと思います。逆に「Mirror Mirror」のイメージは、虚無、弱さ、儚さ。エネルギーを失ったり、それを手に入れたりする力が残されていない虚無感を表現しているんですが、2作品で表現した感情のどちらも僕は嫌いではなくて。どちらの感情にも人は揺れ動くものだし、1人の人の中にいろんな面があるように、人は基本的に矛盾しているものだと思うんです。それこそが人間だと感じる。今回は2つの作品を通して、そういうことを伝えたかったのかなと思います。歌詞で言いたいことが違っているのも、僕の中にいくつもの矛盾した思想があるからだし、それって好きな音楽についても同じようなことが言えますよね。一見つながりがないように見えるジャンルでも、それを同時に好きな人はいるわけで。今回はそういう多様性のようなものをバンドで表現したかったのかなと。
──だから2つの作品が必要だったんですね。
はい。しかも、それをBBHFというバンドでやることが大切だったんです。音楽性が違うものをwarbearや尾崎雄貴のソロ作として出すのではなくて、1つのバンドで2つの異なる作品として同時に走らせたいと思っていました。制作作業も、「今日は『Family』を進めようかな。今日は『Mirror Mirror』を進めようかな」と2つの間で揺れ動くように進んでいきました。面白いのが、僕が書いた曲としては「Family」のほうが先だったのに、作品として先にまとまったのは「Mirror Mirror」だったということで。ある時期に「Mirror Mirror」の制作がガーッと進んだので、先にそっちをまとめました。これまでは曲が完成するまでに飽きてしまったり、リリースされる頃には次の新しい曲に興味が向かってしまうこともあったんですけど、今回はやりたいことを分けて2つの間を移動しながら作業したので、「Mirror Mirror」の曲もいまだに飽きていないんです。そういう意味でも、すごく楽しい作業でした。
──「Family」というタイトルの由来についても教えてください。
これは今回のアーティスト写真であり、ジャケットにもなっている写真から連想したものですね。この写真は「Mirror Mirror」のジャケット写真と同じ日に撮ったものなんですが、メンバー全員が気に入っていて。そのときアー写というよりは家族写真みたいだなって思ったんですよ。「まるでアメリカの家族もののシットコム(シチュエーションコメディ)みたいだな」って。それが僕ら自身を表わしているように思えたので、ジャケットにすることを提案しました。でも単純に「メンバーがファミリーだ」という話ではなくて、この写真も含めて、仁司を取り囲む世界、DAIKIくんを取り囲む世界、和樹を取り囲む世界、僕を取り囲む世界、それぞれが抱えているもの。それら全部をひっくるめて「Family」と表現している感覚。概念のようなものとして「Family」というタイトルにしています。
ボリウッド映画から感じた生のパワー
──「Family」の中で、雄貴さんが特に印象的だった制作時のエピソードをいくつか挙げてもらえますか?
「花のように」は、インドのボリウッドの最後によく出てくるダンスの映像を観ながら曲を書いていきました。今までの僕らは、好きな音楽に欧米のものが多いから、自分たちのそうではない要素やメロディを意識的に排除してきた部分があったんです。でも今回はそういうことを受け入れて、自分たちの中のアジアっぽさを出したいと思っていました。その結果、欧米以外の音楽の要素にも目を向けることになったんですけど、インドの場合はボリウッド映画の最後になぜ踊るのかということも含めて、生のパワーというか、生きることへの強い気持ちを感じて、それが「Family」で表現したいことと合っているように感じて。今のインドのポップスって、インドらしさがありつつも欧米化していて、EDMっぽいものもあったりしてすごく面白いんですよ。1、2年前にアメリカやイギリスのポップミュージックで、インドや中東の要素を取り入れたものが流行った時期もありましたよね。Coldplayですら、ビヨンセが参加した「Hymn For The Weekend」でそういうことをやっていて(2016年発表。ミュージックビデオにはボリウッド女優ソナム・カプールが出演)。その感覚が面白くて、いつかそういう要素を入れたいとも思っていたんです。
──それで「Family」の楽曲のアイデアの1つになったのですね。
一方で7曲目の「涙の階段」は、最後に「もう1曲必要だ」と思ってできた曲でした。作品が形になっていく中で、「Family」という作品にちゃんとフタをしないといけないと思って、別に候補になっていた曲の代わりに入れることにしてみたんです。この曲は、悲しんでいる人に近付いていって、肩をつかんで、その悲しみが自分にまったく関係なくても「一緒になれるよ」という気持ちで書いた曲。“助けてあげたい”というニュアンスではなくて、“ただ一緒にいてあげたりするような感覚”というか。そういう曲でこの作品にフタができたらいいなと思っていました。
──リード曲にあたる「なにもしらない」はどうでしょう? メロディと歌の魅力で引っ張っていくような、とても雄貴さんらしい曲だと思いました。
「なにもしらない」は僕が「曲を書いて」と言われたときに一番自然に出てくるような曲なんですが、自然すぎて全然思い出がないんです(笑)。でも、「Family」の中でそういう曲はこの曲だけなので、それ自体が思い出かなと思います。「Family」の制作にあたってバンドメンバーで集まって合宿をしたんですけど、「なにもしらない」はその前からあった曲でかなり、初期の頃にできたものでした。
バンドに推進力を感じている
──今のBBHFについては、どんなことを感じていますか?
僕の場合で言うと、「なにもしらない」の歌詞にもあるんですけど、自分の知識やこれまで経験してきたことで凝り固まるのをやめたいと思っていて。そのとき何を感じるか、やってみてどうだったか、もしくは行動を起こすこと、作品を出すこと、演奏すること。なんでもそうなんですけど、「とにかくやってみて、感じてみよう」というスタンスになってきているような気がします。
──だからこそ、リスナーの人たちにも自由に聴いて考えてほしいと。
そうですね。僕は自分たちの作品を通じて、聴いてくれた人たちが何かを感じてくれたり考えたりしてくれることが一番うれしいし、その姿を通して、鏡のように僕らも自分自身を見ているんだと思います。今のBBHFはバンド自体が推進力を持っていて、すごく楽しい。例えば船に乗っているとしたら、今どのくらいの時速で進んでいるという、その速ささえ感じられるような雰囲気があって。そうやって前に進んでいる実感をメンバーたちが感じさせてくれています。
ライブ情報
- BBHF ONE MAN TOUR "FAM! FAM! FAM!"
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- 2019年11月21日(木)広島県 広島セカンド・クラッチ
- 2019年11月23日(土・祝)岡山県 IMAGE
- 2019年11月25日(月)京都府 磔磔
- 2019年12月1日(日)福岡県 DRUM Be-1
- 2019年12月3日(火)大阪府 Shangri-La
- 2019年12月5日(木)宮城県 仙台MACANA
- 2019年12月9日(月)神奈川県 F.A.D YOKOHAMA
- 2019年12月14日(土)愛知県 APOLLO BASE
- 2019年12月16日(月)東京都 LIQUIDROOM
- 2019年12月20日(金)北海道 札幌PENNY LANE24