BBHFが11月13日に新作CD「Family」をリリースする。
この作品は、彼らが7月に発売した「Mirror Mirror」(参照:BBHF「Mirror Mirror」インタビュー)と対になる作品として制作したもの。2作品の制作は同時期に進められ、メンバーは両者を行き来しながら、いつになくエクストリームな形でBBHFとしての振り幅を広げていったという。エレクトロニックな要素を基調にしたバンドサウンドと、さまざまなフレーズをエディット&再構築することで“弱さ”や“儚さ”のような感情を表現していた「Mirror Mirror」に対して、メンバー全員での合宿などを通して生まれた「Family」ではどんな作品の魅力を追求していったのだろうか。
音楽ナタリーではメンバー1人ひとり個別にインタビューを行い、2作品の制作におけるそれぞれの役割や印象に残った曲などを聞いた。
取材・文 / 杉山仁 撮影 / 斎藤大嗣
雄貴の歌と歌詞が軸
──「Mirror Mirror」と「Family」は対になっている作品とのことですが、そもそもこのアイデアはどうやって生まれたんですか?
僕は今も北海道にある自分たちのスタジオの近くに住んでいるんですけど、1stアルバム「Moon Boots」のレコーディングが終わったあと、ほぼ毎日一緒に雄貴と曲作りをしていたんです。レーベルを移籍することもあり、次に出す作品は大事だと思ったので、じっくりと曲を作っていきました。20曲ほどできたところで、2つの方向に分けてみようというアイデアが浮かんで。その中からいいと思える曲をそれぞれに選出して、そこに新しい曲を加えていきました。
──なるほど。エレクトリックなサウンドを基調とした「Mirror Mirror」と生音主体の「Family」では、ドラムの役割が大きく違ってきそうですね。
「Mirror Mirror」の場合は生のドラムが入っている曲が少なくて、入っているとしても、サビでアタック感を出すために入れているようなものでした。だからコンピュータの前で作業することの方が圧倒的に多かったんですよね。一方で「Family」は、メンバー全員でスタジオに入って、全員で演奏しながら楽曲を練り上げていきました。
──和樹さんが「Family」の中で、特に制作作業が印象的だった楽曲というと?
まずは「花のように」ですね。この曲は、自分たちの楽曲史上一番いろんなリズムが入っている曲で。思いつく限りのパーカッションを入れて、最終的にそれぞれがバラバラには聞こえないように音を間引いて完成させています。リズムが多彩な曲でも歌をしっかりと聴かせられるように、リズムの使い方に気を遣っています。やっぱりBBHFにとって尾崎雄貴の歌と歌詞は、楽曲の軸にある“なくてはならないもの”なので、パーカッションを間引いていく作業でも、「ここにこのリズムが入っていると歌のリズム感をふわっとさせてしまうな」とか歌を伝えるためにできることを考えてきました。
──なるほど。
もう1曲印象的だったのは最後の「涙の階段」です。最初はアルバム2曲目の「なにもしらない」の雰囲気に近いストレートにポップな楽曲だったんですが、「なにもしらない」のほうがそういうポップなアレンジで魅力が引き出される楽曲だと感じたので、「涙の階段」は別の方向に振りきったほうがいいと思ったんです。そこで「Family」の最後の曲としてこの曲を聴いたときに、聴いた人がどんな余韻を感じてくれるのかを考えて、ゆっくりと昇っていくような、盛り上がっていくようなアレンジにしていきました。シンプルなビートだけど、抑揚を感じさせるようなサウンドを意識しています。
いい曲を作ることに専念できた
──制作にあたって意識したプレイヤーはいますか?
例えば、「Mirror Mirror」ではEDMのゼッドをイメージしました。ゼッドはドラムもすごくうまくて、自分の楽曲をドラムで演奏した曲をYouTubeに上げているんですよ。そのイメージです。エレクトロなサウンドの中で成立しているドラム感というか、そういうものってドラマーが叩くドラムとはまたちょっと違うんです。リズムとして楽曲の主軸を担いつつも、ウワモノっぽいフレーズもあるドラムという意味で参考になりました。「Family」については、自分の場合はもともとThe Bandのリヴォン・ヘルムが好きなので、いつも通りではあるんですけど、影響を受けているのかなと思います。ドラマーにもいろんな人がいて、例えばスティーヴ・ガッドみたいにドラマーとしてドラムの演奏のみを追求する人も素晴らしいですけど、僕は歌も歌えてソングライティングができて、バンドをまとめ上げられる、リヴォン・ヘルムのような人のドラムにすごく惹かれます。自分にないものを持っていると思うし、自分の生きてきた歴史や自分の感情を表現することができる人なので、レコーディングでもライブでもすごく影響を受けていますね。
──今回2タイプの作品を作ってみた感想を教えてください。
精神的にも、風通しがすごくよかったと思います。これまではエレクトロな楽曲を作ろうと思っていても、前日に聴いていたものが仮にボン・イヴェールだったとしたらやっぱり歪んだ生ドラムを入れたくなるようなことがありましたし、アルバムでは「いい曲だけど、ほかの曲との雰囲気が合わないから、この曲は置いておこう」ということもあって、音楽性が中途半端になってしまうこともありました。でも今回は、最終的にできあがったものを分けられるという安心感があったので、“いい曲”を作るために、変にバランスを考えたりしなくてよかったんです。とにかくいい曲を作っていくということを突き詰めて考えられたと思います。BBHFには尾崎雄貴のメロディと歌という絶対的なものがあって、それがあるからこそ2作品で全然違ったサウンドになってもBBHFになれるとも感じました。今のBBHFはそうやっていろんなことができると僕ら自身感じています。
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佐孝仁司(B)インタビュー