「Mirror Mirror」と対になる作品を制作中
──今回の「Mirror Mirror」は、これまでのBBHFの制作方法とは大きく異なる形で制作された作品なんですね。雄貴さんの中でも、「BBHFはこんな音楽ができるバンドなんじゃないか」ということが、より明確になってきているということですか?
本当にそうで、BBHFを始めた頃の僕は「このメンバーで何ができるのかをこれから探していく」と言っていましたけど、今回は、僕の中で「BBHFでやりたいこと」がパッと浮かんでいたことが大きかったんだと思います。それは決して「僕が個人的にやりたいことをバンドでやる」という意味ではなくて、「BBHFでやりたいことを、僕が提案する」ということなんですけど。まだまだ具体的ではなくて、これからも引き続き探っていくことではあると思いますけど、まずは今回、1つの作品として形にしてみたいと思っていました。
──実際、昨年発表の1stアルバム「Moon Boots」と比べても、音楽性が大きく変化しているのを感じました。今回の「Mirror Mirror」の最初のアイデアは、どんなものだったんですか?
実は今回、「Mirror Mirror」だけではなくて、同じボリュームの別の作品も同時に制作しています。これはパッと思い付いたわけではなくて、以前から「一度はやってみたい」とずっと考えていたことです。2つの対になるような作品を作って、その2つによって大きな全体像を表現したい、と思って。というのも、僕らはこれまでもやりたい音楽が2つの方向性に分かれることが多くて、Galileo Galileiとして活動していた頃も含めて、これまではその2つを、1つの作品の中で混ぜて表現していました。でも今回やりたかったのは、その2つの方向性をそれぞれ突き詰めたものを別々に出してみる、ということで。もしできるのなら、1つのライブの中でその2つの要素を分けて表現してみたいですし、そもそもライブ自体を分けることもできると思っていて。とにかくバンドができる限りのことすべてを使って、2つの方向性で作品を表現したいという気持ちでした。
──その2つの方向性とは、言葉にするならどういったものなんでしょう?
僕らはiPhoneやiPadをずっと触っていて、画面にずっと向かっている生活をしていますよね。例えメンバーと一緒にいるときでも、僕らはそれをいじっています。もちろん、それがデジタルなコミュニケーションだからといって「つながっていない」わけではないと思うんですけど、こういうデータのやりとりって、手紙や電話とは別の体験だと思う部分があって。もしかしたら、30年後にはどっちも同じような感覚になっているかもしれないものの、現代の感覚では、まだその2つにそれぞれ違う魅力を感じている部分があると思うんです。よく覚えているんですけど、僕が小さい頃に「ゲームボーイアドバンスにインターネット機能が搭載される」という話が結局叶わなかったように、少し前までは今のようにデータを気軽にやりとりできる時代ではなかったわけですし。今はまだ過渡期であるからこそ、「デジタルなもの」と「肉体的なもの」の2つを異なる作品に振り分けることが、面白いんじゃないかと思いました。なので、今回発表する「Mirror Mirror」は2つのうち「デジタルな要素」を表現した作品で、のちにリリースするもう1つの音源では、より「肉体的な要素」を表現しています。もちろん、これは「デジタルな作品は冷たくて無機質で……」という話ではなくて、その中にも人の温度はあると思うので、今回の音源ではその複雑な要素を音にしたいと思っていました。
大切にしたのは「BBHFとしてどんな音を出すか」
──1曲目の「Torch」は、どんなふうに生まれた曲なんですか?
この曲は、最初にイントロのシンセの音から作っていったんですけど、そうしているうちに、ある物体と物体が強烈にぶつかりあうイメージが湧いてきて、その映像から歌詞を連想しました。物体がぶつかりあって、それが逆再生されるように離れていくようなイメージを音にしたものですね。
──序盤のクラブミュージックっぽいパートと、サビでギターサウンドが出てくるパートが対になっているのは、まさにそのイメージを連想させるような構成ですね。
ギターの音を使いつつも、ギターロックにするのではなくて、何かがぶつかり合うイメージを表現する要素として取り入れていく感覚でした。アレンジに関しては、北海道で僕と和樹が詰めていったものに、DAIKIくんがシンセの面白いフレーズや、サンプルのデータを送ってくれることが多かったと思います。ただ、それも作業をしながら「使おうかな、どうしようかな」とその都度考えていったので、最終的にできたものは、どこのどの音が誰のアイデアなのかわからなくなっているんです。今回はそうやって、各メンバーがどこを担当したのかではなく、「BBHFとしてどんな音を出すか」を大切にしました。ちなみに、この曲の声ネタは僕がiPhoneに録音したものを加工して使っています。「Torch」はサンプル要素を少なくして、エモーショナルな感情のぶつかり合いを表現したいと思っていました。
──エレクトロニックでありつつ、第一に歌やメロディを大切にする雰囲気も感じました。
そうですね。今の時代、膨大な種類のサンプル素材が手に入るので、ヒップでトレンディな音楽を作ること自体、かなり簡単になっていると思うんです。でもそういうものは僕の場合、歌が乗りづらかったりもして。もちろん僕がラップをできれば違うかもしれないですけど、やっぱり自分は歌がすごく好きな人間なんだと思います。なので、今回は「トレンドを追いかけただけの音楽にはしない」という点に気を付けました。やっぱり曲にしっかりと軸があって、メッセージがちゃんと伝わるようなものにしたいな、と。実はデジタルな要素のほうが、音として表現したときに感情的になるということも感じました。
世界から見たデフォルメされた日本をイメージ
──2曲目の「だいすき」はどうですか? 欧米で流行っているデジタルクワイアのような歌の表現もありつつ、途中で「だいすき」という声ネタが入っている部分には、DTM系の音楽でよく出てくる声ネタを、日本っぽく表現するような雰囲気も感じました。
「だいすき」は、海外から観た渋谷の街……ゲームセンターやクールジャパンっぽい萌えキャラがひしめき合っている雰囲気を、音で表現してみようと思った曲ですね。海外アーティストのミュージックビデオに、すごくデフォルメされた日本の風景が出てくることがありますよね。ゲームばっかりしていて、「DanceDanceRevolution」でめちゃくちゃ踊っていたりするような(笑)。僕にとってそれは好きなイメージで、「本当にこうだったら面白いじゃん」と思っていて。そういうデフォルメした今の日本の都市を表現したいと思いました。実際、BBHFだと和樹も萌えゲーが大好きですけど、日本の場合、生活の近いところにアニメやキャラクターのようなにぎやかなものがたくさんあって、それが日本人の面白さになると同時に、背負っている業の1つでもあると感じていて。そういうものを形にした曲でした。
──ああ、その雰囲気は実際に楽曲からも感じます。
曲の途中に入っているMacのボリュームを上げるときに出るシステム音は、作業をしている途中で「もうちょっと音を大きくしたい」と思ったときの音が偶然入ってしまっていて、「これ、いいな」と思ってそのまま残しました。あと、うっすら入っているギターはDAIKIくんのものが多くて、今回DAIKIくんは曲の要素を接着する、縫い糸のような役割として各所でいい仕事をしてくれました。仁司の場合は、もともと自分が入れていたベースを弾いてもらうときに、仁司なりの変化を加えてくれています。3曲目の「友達へ」は歌詞の通り「イエーイ!」と車を走らせているイメージで、「そういうことが楽しかったな」という曲。四つ打ちの曲だからこそ、ストレートなパーティソングにはしたくないと思っていました。
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「マリオカート」の絵が浮かぶ