音楽ナタリー Power Push - Base Ball Bear
宇多丸が突撃!“第2思春期3部作”が完結したワケ
青春っぽいところで足踏みするつもりはそもそもない
──セルフタイトル案が死産になったところに話を戻すと、今回は1stアルバムの「C」と重ねてるわけだから、ある意味セルフタイトルのアルバム的な意味を持つのかなと思ったんだけど、どうですか?
小出 今作って実はセルフタイトルの作品として制作が始まって、マスタリング完パケの段階までは「Base Ball Bear」っていうタイトルだったんです。でも、レコーディング中も「タイトルこれでいいのかな?」ってずっと考えてて。そもそも「C」っていうアルバムがなんで「C」っていうタイトルなのかというと、海(Sea)や彼女(She)、Cityの頭文字の“C”がテーマだからなんです。で、マスタリング後、歌詞カードを作るために歌詞をじっくり読みながらアルバムを聴いてたら、今回も“C”というイニシャルに向かっていたことに気が付いて。視点とか、視座とか、見るっていう意味でのSeeっていうのがテーマなんですよね、このアルバム。
──ああ、今回もやっぱりそうだったと。
小出 ギターロックのドンツキまで「二十九歳」でたどり着いて、なんとなく一区切りがついたんですよね。で、今回は2周目に入ったなといういう意味で「C2」にしました。
──なるほどね。初回限定盤だと「C」のリマスタリング盤がセットになってるから、当然流れで比較して聴くじゃん。そしたら、“もう若くねえ感”がより際立って、今回の「C2」の苦さ……ゆえの美しさ、がより強く感じられたんだけど。そのへんの作りも意図的ですか?
小出 そうですね。“もう若くねえけど、それでいい”って感じです。Base Ball Bearは青春っぽい音楽というか、甘酸っぱい感じから始まってますけど、そもそも最初からそこで足踏みする気がなかった。俺らはこういうバンドですっていうのをよくも悪くも最初から決めてなくて、年齢とともに歌う内容も変わっていくし、サウンドも変わっていく。それでいいと思ってるんで。
こんなにハッピーエンドに聞こえたベボベのアルバムは初めて
──「C2」って完成度が高い作品だから、最初からこういうアルバムにしようと考えて作ったんだろうと思ってたんだけど。だから、タイトルが変わったとかって聞くと、意外。
小出 真逆ですね。「二十九歳」と比べたらコンセプチュアル度みたいなものは今回のほうが低い。「二十九歳」までは言うなれば理論武装で、最初に作った骨組みの隙間をぎっしり埋めるように作ってたんですよ。
──え、マジで?
小出 うん。宇多さんが今作の完成度が高いって思った理由は、逆に、遊びがあるからだと思います。今回は主題だけがあってそこに向かっていった。アルバムを出す前にシングルを3枚切ってるんですけど、これすら後付けなんですよ。
──へえ。シングルの切り方順とか、アルバムの中に置いたときの響きの違いとか、完全に最初から計算され尽くしてたのかと思った。どの曲から作っていったんですか?
小出 「『それって、for 誰?』part.1」ですね。
──ああ、やっぱり。「『それって、for 誰?』part.1」って内容的には「THE CUT」のさらにエグい版じゃん。で、アルバムのタイトルをざっと見ると、「『それって、for 誰?』part.2」って曲が入ってる。ってことは、「part.2」ではこいちゃんもっと怒っちゃってんのかなと思って聴いたら、ぜんぜん違うわけじゃん。「part.1」と「part.2」で、ほかの10曲を挟む意味がすげえあるというか。しかも、そのラスト手前に「HUMAN」「不思議な夜」という流れを置いて、それまでいろいろ悩んでいた心情を、圧倒的なカタルシスに昇華する構成になってる。終盤にかけてのエモーションや論理の流れが完璧だと思ったんですよ。だから勝算を感じた瞬間が、絶対どこかにあったんだろうなって思ったんですけど。
小出 あー、でもそれはあれかな、潤沢なストックがあったからかもしれないですね。今までのコンセプチュアルな作り方だと、ある程度フレームを決めておいて、ここはこういう流れになってるからこういう曲が必要だなっていうふうに、当て書き的に曲を書いてたんですよ。「新呼吸」と「二十九歳」はそういう作り方をしていた。で、今回は今まで意識的にも無意識的にもやってた「ギターロック的なものを求めているユーザーに聴いてもらおう」っていうところを取っ払って、両手ぶらりで作り始めてみたら30曲パーッとできちゃって。
──そこから選んでいった結果、すごく自然なストーリーの流れができていったってことか。ベボベのアルバムでこんなにハッピーエンドに聞こえたの初めてだよ。
小出 あはは(笑)。その“ハッピーエンドに聞こえた”っていうのは、音の隙間を聴き手の宇多さんが補填してくれた感想だと思うんですけど、そういう想像力をかきたてられたことが今回の一番のマジックだと思いますね。僕らは前作まで、自分たちが組み立てたストーリーを最大限に聴いてもらおうとしていたわけですから。
勢いから正攻法へ
──自由に曲作りをしたといっても、テーマというか、芯は1本あるって言ってたじゃない。それってメンバーでどこまでコンセンサスを取るの? 今回はこういうテーマです、みたいなこと話すの? それともこいちゃんの頭の中にだけあるの?
堀之内 ですね。これはよくさまぁ~ずさんが言ってることなんですけど、行動をともにしてると、思い出が一緒じゃないですか。だからなんか言わずもがななところがけっこうあって。仮歌の段階の歌詞でもここは絶対にぶれないっていうところはわかる。
関根 「それって、for 誰?」とかなんかまさにそう。普段の会話で「それって、for 誰なんだよ!」とか言ってるもんね。
小出 Instagramとかで「今日はメンテナンスデー♪こんなネイルしてもらいました」って書いてるけど、「この写真、for 誰なんだよ!」って突っ込んだりね(笑)。
──でもさ、「THE CUT」のときのインタビューを読み返してみたら、こいちゃんはあんまり曲で怒りを表現したことがないって言ってて。それと比べると最近はこいちゃん怒りモードがデフォルトになりつつある?
小出 あんまり形にしたことがなかっただけで、俺は元々めっちゃ怒ってる人なんだと思うんですよ。今までは怒ってる感情を丸め込んでたけど、「THE CUT」を完成させたときに、もう丸め込まなくていいやって思うようになったんですよ。なんか、正直な気持ちになれたというか。
──なるほど、その段階を経たことでなんかちょっと抜けたというか、音楽的なバリエーションが増えたよね。あと、なんとなくだけどバンドとしての足腰というか、地力の強さを見せつけてやるぜ!みたいな気持ちがあるんじゃないかなと思った。
小出 ありますね。うちは僕がアイデアを出して、それをバンドで検証して、曲を組み立てていくんですよ。で、「二十九歳」まではギターが先に立っていて、ドラムとベースが支える形の組み立てになっていたんですけど、関根さんがめっちゃうまくなったことで、その型がまず変わり、開けようがなかった引き出しがドカッと開きましたね。
──そうだよね。今回ベース、腰がバッチリ効いてて、リズム隊が素晴らしいと思いました。
関根 ありがとうございます!
小出 今まではやっぱりギターロック的なことをやろう、ギターロック的であろうとしてましたから、ギター2本で引っ張っていかなきゃいけないという感じで、もうギターを重ねて、重ねて……ってなってたんですけど、今回はリズム隊が土台となるグルーヴを生んでるんで、そこに僕らはウワモノとして乗っかっていけばいいんですよ。最初にそれができなかったから、ギターが引っ張るスタイルのバンドになっていったわけなんですけど、そこに対して後ろめたさみたいなものが正直あったんですよ。これは正攻法ではないよな、っていう。
──そっか。でもたしかに、今回で言うと「文化祭の夜」とかもう本当にドファンクでさ、どう考えてもこれリズム隊から作っていく曲だろうし。あれも今だからできるってことなんだね。この間のライムスへのインタビューで、こいちゃんは最近の安易な“ウェーイ”系四つ打ちロック的なものに怒ってたけど、今回、そのへんとの格の違いを見せつけてやるぜ!って気概を感じる曲が多かった。70年代サイケロックみたいな「ホーリーロンリーマウンテン」もあれば、ディスコはディスコでもバントとしての足腰の強さがすごく出てるミッドテンポな「どうしよう」もあったり。
小出 そのへんの曲に関してはもうベースありきですね。
──そういうところに、音楽面でも“大人になることに成功した”感じが出てるのかも。要するに勢いで引っ張っていく、ギターロックらしさというか、若い頃はそれが1つの叙情を生み出してたのかもしれない部分。なんかそれを超えた余裕とか、足腰の強さとか、そういうものがひょっとしたら聴いたあとのポジティブな感じにもつながってるんじゃないかな。第2思春期3部作の前2作は“もがいてる苦しみの様”そのものが1つのよさになってたと思うんだけど、今回はどうなの? こいちゃんの中で他者へのイラ立ちとか、自分に対するイラ立ちとかに対して、どこか区切りがついた感はあるんですか?
小出 うーん、これまでその渦中にずっといた感があって、沼の中でもがいてるっていう感じだったんですけど、今回はちょっとカメラが上にあがったというか。今は「そういう沼ってあるよな」って。その撮影をさらに上から撮影をしてるみたいな感じですね。
──それがきっと29歳と31歳の差なんだよね。第2思春期をちょっと抜け気味というか。苦いことを言うにしてもさ、「レインメーカー」とか、なんか大人じゃん。インディーズの頃は無邪気にロックしてる感じがまぶしかったから、なんか「はあ、あのキラキラしてた子たちが、今では人生の苦味を、こんなに渋い歌にするようになって……大人になったね!」って思えて泣けてきちゃって(笑)。
小出 ははは(笑)。確かにそうかもしれないです。
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- ニューアルバム「C2」2015年11月11日発売 / UNIVERSAL MUSIC JAPAN
- 初回限定エクストリーム・エディション [CD3枚組] 4860円 /UPCH-29203~5
- 通常盤 [CD] / 3240円 / UPCH-20399
- アナログ盤 [アナログ2枚組] 2015年12月2日発売 / 5184円 / UPJH-20002
初回限定エクストリーム・エディション DISC1 /
通常盤収録曲
- 「それって、for 誰?」part.1
- こぼさないでShadow
- 美しいのさ
- 曖してる
- 文化祭の夜
- レインメーカー
- どうしよう
- カシカ
- ホーリーロンリーマウンテン
- HUMAN
- 不思議な夜
- 「それって、for 誰?」part.2
初回限定エクストリーム・エディション DISC2収録曲
- 「それって、for 誰?」part.1(Instrumental)
- こぼさないでShadow(Instrumental)
- 美しいのさ(Instrumental)
- 曖してる(Instrumental)
- 文化祭の夜(Instrumental)
- レインメーカー(Instrumental)
- どうしよう(Instrumental)
- カシカ(Instrumental)
- ホーリーロンリーマウンテン(Instrumental)
- HUMAN(Instrumental)
- 不思議な夜(Instrumental)
- 「それって、for 誰?」part.2(Instrumental)
初回限定エクストリーム・エディション DISC3収録曲
- CRAZY FOR YOUの季節 <Album ver.>
- GIRL FRIEND
- 祭りのあと
- ELECTRIC SUMMER
- スイミングガール
- YOU'RE MY SUNSHINEのすべて
- GIRL OF ARMS
- DEATH と LOVE
- STAND BY ME
- ラストダンス
- SHE IS BACK
Base Ball Bear(ベースボールベアー)
小出祐介(Vo, G)、関根史織(B, Cho)、湯浅将平(G)、堀之内大介(Dr, Cho)からなるロックバンド。2001年、同じ高校に通っていたメンバーによって、学園祭に出演するために結成された。2006年4月にミニアルバム「GIRL FRIEND」でメジャーデビューを果たし、2010年1月には初の日本武道館単独公演を実施。近年は他アーティストとのコラボレーションも盛んになり、2012年に7月に発表したミニアルバム「初恋」でヒャダインや岡村靖幸と、2013年6月リリースのミニアルバム「THE CUT」では、RHYMESTERや花澤香菜と、それぞれ共演している。2015年は「シリーズ“三十一”」と題して8月から3カ月連続で“エクストリーム・シングル”を発表した後、バンド結成記念日である11月11日にニューアルバム「C2」をリリースした。
RHYMESTER(ライムスター)
宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年に結成され、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。メンバー交代を経て1994年にDJ JINが加入し、現在の編成に。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在となった。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、2007年には日本武道館公演「KING OF STAGE Vol.7」を大成功させた。その後、約2年の活動休止期間を経て「マニフェスト」「POP LIFE」「ダーティーサイエンス」という3枚のアルバムを発表する。2014年12月にレコード会社をビクターエンタテインメントへ移し、主宰レーベル「starplayers Records」を設立。2015年5月には東京・お台場野外特設会場で初の主催フェスティバル「人間交差点」を開催し、7月に移籍後初のアルバム「Bitter, Sweet & Beautiful」をリリースした。
なお宇多丸はラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のメインパーソナリティを務めるほか、テレビなどでも活躍している。Mummy-DとDJ JINはプロデューサーとしても活動中。