ナタリー PowerPush - Base Ball Bear
ブレない僕らの初ベスト
玉井健二さんから受けた猛特訓
──サウンドはギターロックをベースに、並びないクリエイティビティを注いでいくということ。歌詞は青い季節の情景や性の匂い、あるいはその残像を小出くんの成熟した作家性で描くということ。ベボベはその両軸を最初から貫いてきた気がします。
小出 特に歌詞に関しては、インディーズ時代からメジャー1stアルバム(「C」)の頃までは、ずっと名前のない感覚だったんですよ。
──名前のない感覚?
小出 自分の中に渦巻いてるものがあって、それをがむしゃらにアウトプットしていた。その一方ですごく理性的に切り取っていた感じもあって。で、2ndアルバム(「十七歳」/ 2007年12月リリース)のタイミングでプロデューサーの玉井健二さんと出会って。玉井さんと僕の関係性って、プロデューサーとプロデュースされる人というよりは、師匠と弟子に近いものだと思うんですね。玉井さんは今もいろんなバンドやアーティストをプロデュースしていますけど、おそらく僕は他の人にはない手ほどきを受けたと思います。それはagehaspringsに所属している方が玉井さんから受ける手ほどきに近かったと思う。あるいは、玉井さんの師匠は木崎賢治さんという、BUMP OF CHICKENやTRICERATOPSのプロデュースもされた方ですけど、もしかしたら玉井さんは木崎さんから受け継いだものを、噛み砕いて僕に与えてくれたようなところがあるのかなって。
──その話、詳しく聞きたいです。
小出 玉井さんと初めて会ったときに、玉井さんが僕に言ってくれたのは「君は名前のない感覚に突き動かされている。でも、それはすごくいい感覚だよ」みたいなことで。「言葉や音の選び方において、自分ではコントロールできない渦巻いている何かがあるにもかかわらず、それをうまく理性的に切り取って形にしている」と。「それができているから、こういう手法もあるし、こういう切り取り方もある。その技巧的な部分を磨けば、より曲が広がっていくから。それを僕が教えてあげる」っていう関係性だったんです。
──なるほど。
小出 それで、曲の作り方、歌詞の書き方、メロディの作り方を半年くらいかけて学んだんです。猛特訓で。
──猛特訓ってどういうやり方だったの?
小出 2006年の夏頃に「C」が完パケるんですけど。で、その次のリリースがシングルの「抱きしめたい」なんですね。それは2007年の春頃にリリースしていて。
──2007年4月4日ですね。
小出 うん。で、その年の8月か9月から半年間、玉井さんに曲のワンフレーズやリフやメロや歌詞の切れ端──とにかく素材をどんどん見てもらって。
──そこで分析してもらうの?
小出 聴いてもらって、「これは広がりそうだね」「こういう曲にできそうだね」「こういうふうに料理したら面白いんじゃない?」って1個1個査定してもらうんです。
──すごいね、それは。
小出 そこからある程度形にしてプリプロに入るみたいな。そこにうちのメンバーはいなくて、agehasprings所属のアレンジャーの人たちと一緒に作業するっていう鬼プリプロを繰り返してました。その流れで「おおきく振りかぶって」のタイアップの話がきたりとか。
──「ドラマチック」だね。
小出 「ドラマチック」は初めてのタイアップなんですよね。タイアップ先行で曲を作るという作業を初めてして。つまり、僕と玉井さんの鬼プリプロの中に実践編が出てきたわけです。“~アニメタイアップの場合~”みたいな(笑)。アニメ主題歌としてどういう強い曲を作るのかとか、変な話、どうやったらコンペを通ることができるのかとか、どうしたらリスナーにしっかり曲を届けて、さらにその手前にいる第三者の大人が納得する曲になるのかとか、いろいろ教えてもらいましたね。
ミュージシャンとしての土台を突貫工事してもらった
──玉井さんに手ほどきを受けたことが、例えば南波志帆さんやOKAMOTO’Sに歌詞を提供したり、東京女子流に曲を提供するときの礎になっているわけだよね。
小出 当然そうですね。
──玉井さんはそれだけ小出くんの才能を見込んだんだね。
小出 ありがたいですよね。本気かどうかわからないけれど、「こいちゃんはこっち側の人だから」って言ってくれて。当時はそう言われてもぜんぜん実感が湧かなかったですけど。でも、キャリアを重ねるにつれてどんどんその言葉の意味がわかってきて。3.5枚目の制作(「CYPRESS GIRLS」「DETECTIVE BOYS」 / 2010年9月リリース)の制作に入ったときに、玉井さんから植え付けてもらった種が、どんどん発芽してくる感覚を覚えたんです。
──そこから一気に「新呼吸」へつながっていく。
小出 そう。あともう1つ重要なのは、シンガーとしての側面で。玉井さんがプロデューサーとして一番重要視しているのは歌なんですね。最終的にリスナーが聴くのは歌だからって。だから、歌詞も重要になってくる。何を歌うのか、どういうふうに歌うのかということが、特に僕らがやっているポップスやロックにおいてはすごく重要になってくるという話を聞いて。で、僕は1stの頃は曲作りも歌も感覚でしかなかったんですよね。もともと歌うことが好きじゃなかったし、得意でもないし、流れでボーカルになったようなものだったから。そこで「歌とはどういうものか?」という手ほどきも玉井さんから受けるんです。で、それは身体で覚えるしかないから、プリプロと同時に玉井さんからボイトレも受けていたんです。
──ほお! そうだったんだ。
小出 プリプロのときは玉井さんのボイトレを受けつつ、あとは玉井さんの師匠のボイストレーナーを紹介してもらって。今でも僕はその方からボイトレを受けているんですけど、そこに通い始めたり。「ドラマチック」と「抱きしめたい」って時間軸的にはリリース順とは逆で「ドラマチック」を先にレコーディングしていたんですけど、「ドラマチック」のレコーディングはほぼボイトレでしたね。そこからでしたね。曲を作る人間としてセルフプロデュースもできるということ、シンガーとしても自覚的であれということ、すべてをひっくるめた総合力を意識したのは。
──玉井さんと出会えてよかったね。
小出 すごく感謝しています。僕のミュージシャンとしての土台を突貫工事してもらったようなもんだから。
- ベストアルバム「バンドBのベスト」/ 2013年2月13日発売 / 2980円 / EMI Music Japan / TOCT-29119~20
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DISC 1収録曲
- CRAZY FOR YOU の季節
- GIRL FRIEND
- ELECTRIC SUMMER
- STAND BY ME
- 祭りのあと
- 抱きしめたい
- ドラマチック
- 真夏の条件
- 愛してる
- 17才
- changes
DISC 2収録曲
- LOVE MATHEMATICS
- 神々LOOKS YOU
- BREEEEZE GIRL
- Stairway Generation
- kimino-me
- クチビル・ディテクティヴ
- yoakemae (hontou_no_yoakemae ver.)
- short hair
- Tabibito In The Dark
- 初恋
- 若者のゆくえ(Original Version)※ボーナストラック
- ニューシングル「PERFECT BLUE」/ 2013年2月13日 / 1000円 / EMI Music Japan / TOCT-45063
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CD収録曲
- PERFECT BLUE
- アイノシタイ
- Typical Girl
Base Ball Bear(べーすぼーるべあー)
小出祐介(Vo, G)、関根史織(B, Cho)、湯浅将平(G)、堀之内大介(Dr, Cho)からなるロックバンド。2001年、同じ高校に通っていたメンバーによって、学園祭に出演するために結成された。高校在学中からライブを行い、2003年11月にインディーズで初のミニアルバム「夕方ジェネレーション」をリリース。その後も楽曲制作、ライブと精力的な活動を続け、2006年にメジャーデビューする。2007年には「抱きしめたい」「ドラマチック」「真夏の条件」「愛してる」といったシングルや、アルバム「十七歳」を立て続けに発表。2010年1月には初の日本武道館単独公演を開催した。バンド結成10周年を迎えた2011年には、シングル3枚とアルバム「新呼吸」を発表。2012年は2度目の日本武道館公演を皮切りに活発なライブ活動を展開。2013年2月に初のベストアルバム「バンドBのベスト」とシングル「PERFECT BLUE」を発表した。