BASI|フロアアンセム「愛のままに」を経て始まった、ソロラッパーとしての第2章

大阪を直撃した台風21号が、きれいごと抜きの現実に気付かせてくれた

──アルバムタイトルである「切愛」は「深く愛すること」という意味の言葉ですが、そこに注力しようと。

そうですね。プラス、今までの作品はすべてタイトルを英語にしてたんですけど、新章として、日本語にして内容にフィットするかどうかや、字にしたときのビジュアル感も考えて、「切愛」という言葉を名付けたんです。

BASI

──このアルバムは「myself」から始まりますが、「切愛」というアルバムタイトルや、「愛のままに」を想定していると、ちょっと驚くような、ショッキングな描写から始まりますね。

きれいごと抜きで「日常とはこういうもんやな」ということを、ごまかしたり、嘘をついたりすることなく書きたかったんです。この曲の制作に入る段階で、Olive Oilくんからビートが送られてきた直後に、去年の台風21号が大阪を直撃して、実際にうちも水道や電気っていうライフラインが数日止まったんですよ。そのときのリアルな状況や環境をリリックに落とし込んだら、「myself」のような情景描写になったんですよね。台風で被災した経験によって「こんな現実が自分の隣り合わせにあったんだな」と思ったし、そういう事実から目をそらしては「愛のままに」へ到達はできないと思ったんです。

──今作は鎮座DOPENESSやHANGといったラッパーの客演に加えて、SIRUPといったボーカリストの客演起用も印象に残ります。

1曲1曲、いろんな人と音を作ったり、制作に関して話し合ったりというプロセスがめちゃくちゃ楽しくて。全曲に客演を招いてもいいのかなっていう気持ちもありましたね。あと、今回の客演陣を呼べたのは唾奇のつながりも大きいですね。HANGは「愛のままに」のリリースライブで沖縄に行ったときに唾奇とのユニット・glitsmotelとして登場して、心臓に刺さるような言葉とラップの力に一気につかまれたんですよね。それで、こういうラッパーが「夕暮れ」のメッセージを歌ってくれたら、より鋭利な角度で刺るんじゃないかな、と思ってオファーしたんです。TOCCHIは北海道出身のシンガーソングライターなんですけど、彼も唾奇が「BASIさんのことを好きなアーティストがいるんです」って紹介してくれて。だから「愛のままに」を軸にアルバム制作が進んだところはあるし、唾奇が僕の音楽人生を豊かにしてくれたんです。空音はその流れとはまた別で、SNSで彼の「planet tree」という曲を知って、「10代でこのリリックとフロウをなぜ書けるんだ」と興味を持って、こっちから連絡したんですよ。

──SNSナンパだったと(笑)。

ははは(笑)。鎮くん(鎮座DOPENESS)は昔から一緒に作品を作りたいという話をしてて、それがやっと実現した感じですね。SIRUPは以前からつながりがあって、「今日からSIRUPっていう名義で活動します」っていうタイミングで一緒に対バンしてたんですよ。実は地元も同じで、一緒にライブ会場からバスで帰って来たり(笑)。彼の「LOOP」をライブでオマージュしたこともあるし、単純に好きなアーティストなんですね。

制作の根源はリル・ピープみたいな最先端のヒップホップ

──SIRUPとの共演は、いわゆるシティポップやネオソウルの流行が背景にあるのかと思ったら、またそれは違う流れだったんですね。BASIくんの音楽はそういったジャンルのリスナーからの需要も大きいと思いますが、それは意識してますか?

してないですね。客演ではサイプレス上野とロベルト吉野「RUN AND GUN pt.2 feat. BASI, HUNGER」みたいにゴリッとしたヒップホップもやってるし、境界線は自分の中では考えてないです。でも好みとしては、メロウなものだったり、柔らかいサウンドだったりが基軸にあるので、自分のソロはそういうサウンドをベースにしてます。

BASI

──2014年に「MELLOW」というアルバムを出しているように、作風の基本はずっと変わってないのに、時代の変化とBASIくんのアプローチが自然にリンクしていってるんですよね。

そうだとうれしいし、今いい反応をもらってることも幸せですね。

──鎮座DOPENESSとの曲はタイトル通り“普通”がテーマになっていますね。BASIくんのソロ曲は日常との接着面がどんどん広がっていると思うし、それが今のBASIくんのリスナーが増えている要因の1つだと思いますが、それをテーマにする理由は?

そもそも、自分のリリック自体が小説や映画からインスパイアされることはまったくなくて、友達と過ごした時間や、誰かとの会話が歌詞に反映される部分が強いんですね。日常の中の思い出や経験から、自分の表現が生まれてくるというか。だから何気ない、些細なことを紡ぎたいし、「普通」はそれをより明確にしたんです。そこに鎮くんのヴァースが入ることで、内容をより深く補強してくれたので、本当に彼を呼んでよかったと思いましたね。

──「薔薇」はアコースティックギターの音色も含めて、フォークソング的な色合いも感じますね。

大半の人が「フォーキーやな」って感じると思うんですけど、制作の根源は、リル・ピープみたいな(クラウド)ラップなんですよ。ああいう音楽からビートや声の処理の要素を抜いていくと、こういう曲になるんじゃないかなと思い浮かんで、そこから組み上げていったんです。だから、入り口は最先端のヒップホップなんだけど、いろんな要素を削ぎ落として、ひねり倒したら(笑)、こうなったんですよね。

BASIソロの第2章は「ラッパーとしての存在作り」

──アルバムは「かさぶた」で終わります。

「myself」で始まったのと一緒で、最後もきれいなものだけ、ハッピーなものだけ、美しいものだけで終わらせたくなかった。それで、傷を負いながらも自分で復活していくさまを書くべきだと思ったんです。

──その意味でも、このアルバムは自分自身というミクロからマクロに広がっていって、またミクロに戻って終わりますね。だからこそ、アルバムとして制作された意味を感じました。

そう思ってもらえればうれしいですね。リリックを書くのと同じぐらい、曲順とか曲間にこだわっているし。どれだけサブスクや配信で便利になっても、いつまでもブレずに“アルバムアーティスト”でいたいというのは僕の目標ですね。

──話は前後しますが、ソロ活動をスタートさせてから「LOVEBUM」までの“第1章”にはどういう手応えがありましたか?

ソロとして自分に何ができるのか、どこまでできるのかを見極めながら活動していた8年間、アルバム5枚分の期間だったと思います。そのうえで「愛のままに」を作ったことで、いろんな人たちと共同で曲を作りながら時間を共有したいと思うようになって。

──BASIさんの根本には韻シストというグループがあって、サッコンさんという相方のMCがいらっしゃいますね。その意味でも「ユニットのカウンターとしてのソロ」という側面もあったと思うんですが、このアルバム以降の第2章は、カウンターという形を超えて、BASIというラッパーを明確に存在させたい気持ちがあるのでは?

そうですね。第2章は「ラッパーとしての存在作り」と言ってもいいと思います。ソロラッパーとして動いてみたいという欲求は「LOVEBUM」までで満たされたと思うんで、それを突破した自分がどう存在感を出していくのかを、第2章では形にしたいというか。だから「またここからスタート」という気持ちはありますね。

ツアー情報

BASI RELEASE TOUR 2019 -切愛の時-
  • 2019年10月7日(月)東京都 WWW X
  • 2019年10月11日(金)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2019年10月25日(金)北海道 Sound Lab mole
  • 2019年11月15日(金)福岡県 DRUM Be-1
BASI