ナタリー PowerPush - GREAT HUNTING 15周年記念オーディション「BAND ON THE RUN」

名門新人発掘部によるバンドオーディション徹底解剖

ビックリできる音楽であればなんでもOK!

──今や「GREAT HUNTING」のビックリの射程ってロックだけでは収まっていないですよね。「GREAT HUNTING NIGHT」だけでなく、アイドルのショーケース「アイドル・フィロソフィー」や、女性アーティストを集めた「シブヤ・ガール・ハンティング」といったイベントも展開しているわけですし。

それはEMIがユニバーサルと一緒になった影響なんです。当時のEMIにはアイドルの受け皿がなかったからビックリするようなアイドルを見つけてきても一緒に仕事のしようがなかったんだけど、ユニバーサルにはアイドルの仕事ができるディレクターがいるので。だったらロックであること、バンドであることにこだわる必要もないのかな、とは思ってます。

──とにかくビックリできることが最優先事項だ、と(笑)。

湯川潮音

そうですね。オリジナル曲を作ってなきゃダメだっていう縛りすらないですから。湯川潮音ちゃんなんか、高校2年生のときに「The Water Is Wide」ってスタンダードのカバー音源を送ってきてるんですよ。そういうMDが送られてきたら「高校2年生の女の子が『The Water Is Wide』のカバーって!」「何考えてるんだろ?」ってビックリするじゃないですか(笑)。送り主の名前を見たら「あっ、(湯川)トーベンさんの娘さんか」ってすぐにわかったけど、それよりも気になったのはやっぱり「The Water Is Wide」をセレクトするセンスでしたし。

──そうか。ひと口にカバーっていっても、どの曲を選び、どういう楽器の編成で、どう歌うのかっていうところに……。

個性は絶対に表れますから。カバーであれ、ビックリさせてくれれば会いに行きますよ。ただまあ、ビックリできないバンドだからダメっていう話ではないんですけどね。氣志團やナンバーガールや相対性理論にはビックリさせられたけど、Base Ball Bearやフジファブリックでビックリするかといわれたら……。

──ビックリの種類が違うというか、端正なメロディやレトリックにビックリしますよね。

そうそうそう。だから衝撃や完成度より将来性、成長性を買ったっていう感じなんです。

ビックリできるバンドにまた出てきてほしい

──15年もインディーズアーティストを見続けていると目と耳が慣れるというか、ビックリしにくくなるっていうことは?

それはあります。「アイドル・フィロソフィー」を立ち上げたのには、ここ2~3年、僕自身、ロックバンドよりもアイドルにビックリさせられる機会が多かったからっていう理由もあるんです。「何考えてこんなことやってるんだろう?」「これアイドルっていわなくないか?」っていう子たちが当たり前のように出てきている状況が面白かったから。逆にロックでビックリすることっていうのがほとんどなくなっちゃっている気はします。

──であれば、なぜ「GREAT HUNTING」15周年企画として“バンド”オーディションである「BAND ON THE RUN」を開催しようと?

加茂啓太郎

だからこそなんです。「ビックリするようなバンドにまた出てきてほしいな」っていう希望や期待はありますから。2000年前後ってJ-ROCKのビッグバンが起きた時期だと思うんですよ。BLANKEY JET CITYやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTがいて、くるり、ナンバーガール、椎名林檎、スーパーカーもいる。あの頃、日本のロックのあり方が大きく変わったんだけど、そこから15年、ずっとその影響下でしかシーンは動いていない。新しいムーブメントが起きていないような気がするんです。いいバンドはたくさんいるんだけど「ビッグバン以降のバンド」っていう括り方ができてしまうというか。でも15年前のことなんて、イマドキの若い子は知らないじゃないですか。だからまたビッグバンを起こしてみたいんですよね。毎月毎月すごいバンドが出てきていたあの頃みたいな状況をまた作りたいんです。若い子がわくわくしながらシーンをチェックし続けられるような状況を。

ビックバンが起こせるバンドを信じて

──この15年、国内のロックシーンでビッグバンが起きなかった理由ってなんなんでしょう?

うーん……。これは印象論だし、説教くさくなっちゃうんですけど、最近のバンドって日本のバンドをリファレンスしているだけで、それ以上の奥行きがないんですよね。洋楽を聴けばいいって話ではもちろんないんだけど、それにしてもリファレンスの量が少ない印象はありますね。

──それもある意味、15年前のビッグバンがいかにすごかったかの証左ですよね。当時のバンドの今のバンドに対する影響力たるやっていう話ですから。それこそ「英語に明るくないのにガイジンの曲なんて別に聴かなくてもいいじゃん」って思わせちゃうくらいにインパクトがあった。

確かにそうなんですけど、だからこそケミストリーが起きている感じがあんまりしないんですよ。簡単に因数分解できてしまうというか。

──そういう状況下でビッグバンを起こせるバンドを探す「BAND ON THE RUN」ってすごくチャレンジャブルな企画ですよね。

だと思います。ただ、ビックバンが起こせるバンドが出てくることを信じてみようかな、っていう気持ちではいる。ブランキーのベンジーとか、ミッシェルのチバとか、エレカシ宮本とか、向井くんとか、eastern youthの吉野さんみたいなカリスマティックなアーティストは確かに今はいないんだけど、ああいう手に負えないくらいの存在にまた出てきてほしいんです。

GREAT HUNTING 15周年記念オーディション「BAND ON THE RUN」
<応募条件>
12月14日に東京・原宿アストロホールで行われるライブ審査に参加可能であること。バンドであれば、音楽性、編成、年齢は問いません。
<審査員>
亀田誠治 / 木村豊 / 島田大介
<審査スケジュール>
2014年12月1日:応募締切(12月1日必着)
2014年12月8日:ファイナリスト発表
2014年12月14日:東京・原宿アストロホールにて最終ライブ審査
2015年2~4月:レコーディング、ビジュアル&ビデオ作成
加茂啓太郎(カモケイタロウ)

ユニバーサルミュージックの新人発掘セクション・GREAT HUNTINGのチーフプロデューサー。1960年生まれ、東京都出身。1983年に東芝EMI(現ユニバーサルミュージック)に入社。主に邦楽ディレクターを務め、1998年から新人発掘・育成を担当して現在に至る。発掘に関わった主なアーティストはウルフルズ、SUPER BUTTER DOG、ART-SCHOOL、氣志團、フジファブリック、Base Ball Bearなど。2013年8月に著書「ミュージシャンになろう!」を刊行した。


2014年11月14日更新