BAND-MAIDが9月21日に新作EP「Unleash」をリリースした。
“解放”を意味する「Unleash」と名付けられた本作には、攻撃的なバンドサウンドが印象的なインスト曲「from now on」や、アニメ「プラチナエンド」のオープニング曲で壮大なストリングスの要素を取り入れた「Sense」、小鳩ミク(Vo, G)とSAIKI(Vo)のツインボーカルによるかけ合いが光る「I'll」など8曲が収録されている。
音楽ナタリーでは「世界征服第2章の幕開け」をテーマにしたという本作の制作エピソードを中心に、約2年半ぶりとなる有観客でのお給仕(ライブ)への思い、来年の結成10周年イヤーの活動について話を聞いた。
取材・文 / 西廣智一撮影 / 斎藤大嗣
もう我慢ならん!
──2021年1月の4thアルバム「Unseen World」のリリース以降も、有観客でのお給仕(ライブ)はなかなか実現しませんでした。特にBAND-MAIDの場合、ご主人様・お嬢様(BAND-MAIDファンの呼称)とのコミュニケーションを含めてお給仕が成立していたイメージがあって。そういった場所が奪われてしまった昨今、皆さんはどのようにモチベーションを保っていましたか?
SAIKI(Vo) この2年の中で自分たちの感情の起伏はあったんですけど、それ以上に最初の頃はご主人様・お嬢様のことのほうが心配で。
小鳩ミク(Vo, G) 私たちのことよりも、日本武道館公演だったり、いろんなお給仕をキャンセルしたことで心配させてしまったんじゃないかって。
SAIKI 「やりたいのに、ごめん!」という気持ちが強かったので、「about Us」を配信で出したときは「私たちは強くいよう。みんなを輝かせてあげよう」みたいな気持ちでした。
小鳩 「一緒にがんばるっぽ!」と、こっちが応援するみたいなね。
SAIKI うん。でも去年の後半あたりからは「もう我慢ならん!」というのが曲に出始めちゃったかなという感じがしていて(笑)。
小鳩 ストレスを曲にぶつけているというか、そういう衝動が曲にも表れる感じでしたっぽね。でも制作としてはコロナ禍になったからこそ、じっくり時間もかけられるようになったというメリットもありましたっぽ。今まではツアーの連続で走り続けてきたので、日々バタバタする中で「この日までに録らなきゃっぽ!」と焦ったりもしていて。それが集中して制作できるというよさにつながっていたところもありましたっぽ。コロナ禍になってからは、ツアーができない分、それぞれデータでやりとりしたり、レコーディング前にメンバー間でコミュニケーションを取る時間が増えましたっぽ。それに機材をそれぞれ新調したりして、できることを増やしていったので、作る曲の幅やメンバーのレベルが上がったのは大きかったと思いますっぽ。
SAIKI コロナ禍がなかったら、そこまで踏み出せなかったかもしれないです。以前はKANAMI任せの制作だったんですけど、今はKANAMIの負担を減らせるようになったかな。
──以前は楽曲と真剣に向き合う時間や考える時間を作る前に、物事がどんどん先に進んでいってしまったと。
小鳩 そうですっぽね。止まれないどころか、走り続けてる感覚でしたっぽ(笑)。
SAIKI だから、このEPを含めコロナ禍に制作した楽曲には、私たちのリアルタイムの感情を乗せられたと思います。
世界征服第2章の幕開け
──「Unseen World」を最初に聴いたとき、いい意味で“オラオラ”感が強まっていると思ったんですが……。
全員 (笑)。
小鳩 確かにそうですっぽね(笑)。
──聴き手としてもコロナでモヤモヤしている中、スカッとさせてくれたんです。今回のEPはさらに輪をかけて“オラオラ”感が増していますよね。
SAIKI 自分たちでも、より攻撃的にしたいという意思はありましたね。
──それはここ数年の閉塞感も影響していますか?
小鳩 はい。このEPを制作するにあたってまずテーマを考えたんですけど、BAND-MAIDの世界征服第2章というか。SAIKIなりの言葉だと……。
SAIKI 海の中にずっと沈められて「出られない! 出たい出たい!」と海面に向けて手を伸ばしているような感覚が自分自身に付きまとっていたので、それを伝えようとしたら「Unleash!!!!!」ができたんです。
小鳩 解放されて息が吸えるようになる、その感覚をEPに詰め込みたいと言っていたので、だったら世界征服の第2章として「解放感や爆発する感じを強く出せたらいいね」ということになったんですっぽ。そこから“解放”ということで「Unleash」という言葉がすごくぴったりだったので、そういうイメージにしましょうと。
AKANE(Dr) いつも独特な表現を……。
SAIKI 本当によく汲み取ってくれるよね(笑)。
小鳩 10年一緒にいるからっぽね。昔は今ほど汲み取れていなかったと思いますっぽ(笑)。
──バンドのアンサンブルにしても相手がこう来たらこう返すじゃないですけど、そういうこともわかってきたんでしょうね。
小鳩 「きっとこうだろう」という予測が立てられるようになりましたっぽ。
MISA(B) KANAMIから曲が届いて、「たぶんKANAMIはこういうベースラインを弾いてほしいんだろうな」というのを短時間で汲み取れるようになったかもしれない。
AKANE それこそKANAMIから届いた楽曲でのドラムのアレンジにしても、昔は私がアレンジしたものをKANAMIがまた手直しをすることも多々あったけど、それが最近はまったくなくて。KANAMIが欲しいもの、求めているものを提示できるようになった気がします。
SAIKI KANAMIがくれるデモ自体、最近は完成度が高いからイメージを共有しやすくなったよね。
AKANE KANAMI自身の作曲家としての成長度合いがすごいからね。
KANAMI(G) ありがとう(笑)。
SAIKI それによって、みんなの中で「BAND-MAIDならこう」というイメージが固まってきたのかも。
小鳩 それこそ、初期の頃は指針の1つとして「Thrill」という曲があったものの、まだいろいろ模索していた時期でしたし。
SAIKI どれぐらいハードにしていいんだろうとかね。ハードロックと言っても本当に幅広いじゃないですか。特にその頃は曲を全部自分たちで作っていなかった頃でしたし。そういう意味でも、今回の「Unleash」は自分たちのキャラが全開に出せたEPになったと思います。
1曲目にインストを持ってくるだけの実力がついてきた
──このEPを聴くと「大きな一歩を踏み出すぞ!」という強い意志が伝わってきます。ハードさ、ヘビーさに関しては「Unseen World」以上だなと思いました。
SAIKI ここに優しさはいらないだろうという(笑)。
小鳩 「解放」と言ってるのに優しくするのは違うっぽ(笑)。とはいえ、なかなか攻めすぎているなとは思いますっぽ。
SAIKI 激しいけど、何回でもリピートできるEPかなと思っています。
──8曲ってフルアルバムに手が届くか届かないかのボリューム感で、絶妙ですよね。
小鳩 8曲は全速力で走り切れる、ギリギリのボリュームというか。インスト曲の「from now on」で始まるので、そのあたりも含めて新しさもありますっぽ。
SAIKI 最近のBAND-MAIDはインスト曲への支持も厚いので、私たちも自信を持って1曲目に持ってくることができました。
──これだけ個性的なシンガーが2人もいるのに、インスト曲で始まるというのも確かに斬新ですね。
SAIKI そうですね(笑)。でも実はずっとやりたかったことだったんです。
AKANE それこそ5年ぐらい前からね。
SAIKI でもタイミングとか、自分たちの実力が追い付いていないというのもあって。今回は「from now on」という文句なしの1曲が完成したことで、「これは絶対に1曲目だろう」と。
──各楽器のフレーズや音の鳴り含め、今まで以上に耳に残る楽曲だと思いました。それぞれの個性が完全に確立されたからこそ、今までのインストとも違った響き方をするところもあるのかなと。
AKANE そうですね。ギターもベースもドラムも、今までよりもレベルが高いことに挑戦しています。
SAIKI 難しいことをしてるよね。
AKANE ドラムに関しても、単にビートに徹さないということが1つの変化といいますか。ほかのインスト曲と比べてもドラムが前に出ていて、ずっと動きが感じられるのは聴きどころかなと思います。
小鳩 今までと違う感じになった要因の1つに、メロディを作って乗せても成立するというのもあるのかなと。だからボーカルの代わりにギターが歌っている曲なのかなと思いますっぽ。
──なるほど。KANAMIさんはこの曲を制作する際、どういうイメージで臨みましたか?
KANAMI 実はオーケストラのオケを入れたインストが欲しいとずっと言われていたんです。「Sense」を制作する際にテレビアニメ「プラチナエンド」の制作サイドから「オーケストラサウンドを入れてほしい」という要望があったので、そこでしっかり勉強させていただいた経験があって。それを経ての今なら、オーケストラの音を入れたインストが作れそうだと思ったんです。
──じゃあ「Sense」で試したことが、「from now on」にしっかり生かされていると。
KANAMI そうですね。「Sense」を経てだいぶ経験値が上がったと自分でも感じています。でも、一度勉強しただけだと忘れちゃうので(笑)、またどこかのタイミングでそういう曲を作らないとダメだなと思っています。
SAIKI 楽しみにしてます(笑)。
KANAMI ふふふ。がんばらないと。
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「Balance」に込めたそれぞれのこだわり