バンドハラスメントが新作CD「鯉、鳴く」を 2月7日にリリースした。
本作には“社会と僕”“青”という2つのテーマのもと制作された「鯉、鳴く」「Sally」「モノ」の3曲に加え、昨年行われたツアーより「サヨナラをした僕等は2度と逢えないから」のライブ音源が収められている。今回音楽ナタリーでは、2組に分けてのインタビューを実施。ボーカルの井深と作詞作曲を手がけるドラムの斉本佳朗には主に本作のテーマや歌詞に込められた思いを聞き、ギターのワタさんとベースのはっこーには演奏面でのこだわりやバンドの変化について語ってもらった。
取材・文 / 大橋千夏 撮影 / moco.(kilioffice)
井深(Vo)&斉本佳朗(Dr)インタビュー
いろんなことに不感気味になってる
──これまでバンドハラスメントは恋愛について歌った曲を多く発表してきましたが、今作のテーマは“社会と僕”だと伺いました。
斉本佳朗(Dr) 過去の恋愛をテーマにした曲作りは一旦終わりにしようと思っていたので、前作はリリースのタイミングを以前付き合っていた彼女の誕生日に合わせたり、いろいろ仕込んだんですけど(参照:バンドハラスメント「解剖傑作」インタビュー)。それで一区切り付けて「次は何書くかな」と思ったときに、「鯉、鳴く」の歌詞にある「人間社会と僕と群青」ってフレーズが浮かんできたんです。
──何かきっかけがあったんですか?
斉本 メンバーとハイエースで移動してるときだったんですけど、運転中にふと自分のいる世界がゲームっぽく見えて。自分の意識はあるけど、レーシングカーゲームの操作画面みたいに、プレイヤーの手だけが存在してるような感覚になったんです。窓の外にはビル群とかいわゆる“人間社会”が広がっていて、さらにその奥には空があって。そのイメージから派生していろんなことを考えて、1曲にまとめていきました。
──なるほど。歌詞では自分と他者との間に存在する絶対的な距離感だったり、他人を簡単にジャッジしてしまう人間の残酷さを描いているのかなと感じました。
斉本 今回曲を書くときに思い出したのが、中学のときに地元の高校生が亡くなったことなんですよ。僕はその人と同じ地元だっただけなんですけど、その出来事がものすごい衝撃だったんですよね。それから中学校の小さなコミュニティの中で「次は誰が死ぬんだ?」みたいな空気になって、そのときに人間のいい部分とか悪い部分とか、いろいろと考えることがあったんです。でも大人になった今、いろんなことに不感気味になってきてるなって。
──つまり、本作では今の斉本さんが忘れかけている感情が歌われている?
斉本 そうですね。当時の自分の感情だったり、考えていたことを思い出しながら書いていきました。
求められるレベルを超えていくボーカルでありたい
──「鯉、鳴く」のシリアスな世界観を成立させるにはボーカルの表現力が求められたと思うのですが、井深さんの声の持つ説得力が前作までに比べてぐっと増しているなと感じました。
井深(Vo) 今回のボーカルは自分の中でも、今までで一番納得のいく出来になっていて。恋愛以外の新たなテーマに向き合うことで新鮮な気持ちになれたのもそうですし、「この曲の主人公はどんな気持ちなんだろう」とじっくり考えて理解したうえで、その思いを声に反映できたのかなと思います。
──斉本さんは井深さんのボーカルのディレクションもされるんですか?
斉本 そうですね、プリプロの段階でけっこう話し合います。2人で決めていく感じですね。
井深 ちょっとした声の擦れとか息の抜き方が楽曲の世界観に大きく影響してくると思ったので、そこはすごく意識しました。
斉本 1文字1文字ね。
井深 作品を重ねるごとにボーカルに求められるレベルが1つずつ上がってきている感じはしてて。でもそれに付いていくんじゃダメで、その想定を超えていくボーカルでありたいと思っているので、今回の曲を歌えたことは自信になりましたね。ツアーでいろんなジャンルのバンドと対バンしてきた中で、改めて自分の声と客観的に向き合うことができたのもよかったのかなと思います。
ホント空ってヤバいんですよ
──今作のもう1つのテーマは“青”だと伺いましたが、青は「人間社会と僕と群青」というフレーズにも出てくるキーカラーですね。
斉本 なんか今、青がすごくいいなと思っていて。青い空とか、青い恋愛とか。さっきの話の続きになるんですけど、車を運転していてビルの奥に広がる空を見て「空って青いな……」とふと思って。いや、よくよく考えると、ホント空ってヤバいんですよ。感覚なので「ヤバい」しか言えないんですけど(笑)。
井深 (笑)。
斉本 車とかビルは地面にくっ付いてるから自分の体と地続きな感じがするんですけど、空は違うじゃないですか。僕らが作れるものじゃないし、自分たちのものではないものに対するちょっとした脅威を感じて。
──今おっしゃった「青い恋愛」とはどんなイメージですか?
斉本 僕は恋愛においても、赤と青だったら青い恋愛のほうがいいなと思うんです。赤い恋愛っていうのは、相手のことを考えながら行動するとか、思いやりのイメージ。対する青は、相手とか周囲がどう思うかはわりとどうでもいい、みたいな。
──でも、それは決してネガティブな意味じゃないんですよね?
斉本 じゃないですね。ただ、あんまり相手を思いやりすぎても、それって実は相手に合わせているだけで自分の思いはそこにない気がして。今の僕は、自分が自分らしくいられる恋愛のほうがいいなと思うんです。
──なるほど。そんな斉本さんの今の恋愛に対するモードが顕著に表れているのが2曲目の「Sally」ですね。
斉本 そうですね、ホントにその通りです。やっぱり過去の恋愛を振り返るだけじゃなくて、僕自身が新しい恋愛を始めていかないといけないのかなって。
──ちなみにタイトルに込められた意味は?
斉本 曲ができたときから「女性の名前にしよう」と考えていたんです。で、レコーディングが終わってから決めました。
──sallyという単語には反撃とか出撃といった意味がありますが。
斉本 ああ、そういう意味はまったくないです。感覚的に“Emma”じゃ違うしな、みたいな(笑)。一番しっくりくるのが“Sally”だったってことですね。
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記憶はないけど、曲はできてる
- バンドハラスメント「鯉、鳴く」
- 2018年2月7日発売 / SANTA IS PAPA
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[CD]
1512円 / SANPA-0003
- 収録曲
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- 鯉、鳴く
- Sally
- モノ
- サヨナラをした僕等は2度と逢えないから(LIVE ver.)
- バンドハラスメント「鳴けば少女は鯉となるツアー」(※終了分は割愛)
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- 2018年2月16日(金)愛知県 ell.FITS ALL
- 2018年2月18日(日)奈良県 生駒RHEBGATE
- 2018年2月20日(火)大阪府 梅田Zeela
- 2018年3月9日(金)福岡県 小倉FUSE
- 2018年4月5日(木)東京都 TSUTAYA O-Crest
- バンドハラスメント
- 井深(Vo)、ワタさん(G)、はっこー(B)、斉本佳朗(Dr)からなるロックバンド。2015年10月に現在のメンバーが集まり、名古屋を拠点に精力的なライブ活動をスタートさせる。2016年には「SUMMER SONIC」、「METROCK ZERO」と大型ライブイベントに相次いで出演。10月に1stシングル「君がいて」を名古屋地区限定でリリースし、初の全国ツアーを敢行した。2017年5月に初の全国流通盤となるミニアルバム「エンドロール」を発表する。10月には2ndシングル「解剖傑作」をリリースし、本作を携えた全国ツアー「僕と少女の解剖ツアー」を実施。2018年2月7日に4曲入りCD「鯉、鳴く」をリリースした。