ナタリー PowerPush - 「BALLOOM BEST」
とくPが見つめたボカロシーンの6年間
世代が変わってきた2013年
──2013年現在のボカロシーンについては、どんな風に捉えてますでしょうか? 初期から活躍するクリエイターには「聴かれる音楽の好みが変わってしまった」と言う人もいる一方、先日に横浜アリーナで行われたイベント「マジカルミライ」では、小学生や中学生など若い世代のファンも多く見受けられました。そのあたりは、いかがでしょうか?
単純に、ニコニコ動画とかをスマホで観られるようになって、スマホで観てる人が増えたのはすごく感じていますね。パソコンを買わなくても動画を観られる。そういった意味で敷居は下がった部分はあるだろうし。周りに聞くと、今の小学生や中学生って、わりと親と共有でプレミアム会員になってる子とか多いんですよね。そういう層が好きな音楽がシーンに反映されてるかなとは思いますね。
──そこにおいてのBALLOOMの立ち位置は?
そういうところで伸びる楽曲を見ると「いいなあ」とは思うんですけど(笑)。まあ、僕らはそこを見つつも、やりたいことのカラーをすでに打ち出してやっているんで。ある意味共存共栄してるのかなとは思います。爆発的なヒットは生んでないにせよ、わりとちゃんと食えてるというか、そういうところまではアーティストを牽引できたのかなっていう思いはあります。
──世代が変わってきたという実感はありますか?
2007年からやってればもう6~7年経ってるわけですから。その一方で、今はスマホを初めて持った子供たちがニコ動に集まっている現状がある。「これが伸びてるんだ」ってみんなで見たらそりゃ再生数も伸びますから。そこから何年か経ったあとにその音楽を聴き続ける子は何人ぐらいいるのかなとか、もっと新しいジャンルを知りたいなと思って広げていく子はどれくらいいるのかなとか、今はそういうことを考えていますね、僕の世代は、音楽好きだったらCD屋とかレコード屋で買って聴いてた世代で。それをネット上でできるっていうのはある意味うらやましい環境だなって思うけれど、そこで今の子供たちにいかに広く音楽を聴いてもらうか。そういう手段はやっぱり考えないといけないと思ってます。
──この先のBALLOOMレーベルの展望に関してはどのように考えてますか?
出したいクリエイターさんがいればもちろん。今のところ具体的な予定はないんであれですけど。ある意味、BALLOOMをもっと知ってもらいたい部分もあります。レーベルの名前よりもクリエイターの個性が先に伝わっている部分があるので、実際のBALLOOMの内情というか、精神的なものも含めて伝わればBALLOOMの見方はもうちょっと変わるのかなと。
──まだまだやれることはたくさんある。
これだけバラエティに富んでるBALLOOMというレーベルは、すごく面白いと個人的には思うので。「ポスト厨二」な部分を牽引できたらなとは思ってます。
とくPから見たBALLOOMのクリエイターたち
──ここからは、とくさんから見たBALLOOMのクリエイターの作風や音楽性について、ベスト盤の収録楽曲を通して改めて語ってもらえればと思います。まずwowakaさんはどうでしょう?
wowakaさんはやっぱりロックで、シーケンスフレーズのようなギターとかが特徴的な要素かなと思うんです。歌詞を含め全体的に「偏差値高!」っていう(笑)。当時からやっぱりバンドサウンド的なものをやりたいという話もあったし、今やっているヒトリエっていうバンドにつながる感じはありましたね。BALLOOM全体に言えるんですけれど、「芯の通った」というか「筋の通った」アーティストだなって思います。
──古川本舗さんはどうでしょう?
彼はデザインもやるし、トータルで世界観がすごくしっかりしていますよね。彼が選ぶシンガーや参加してくれるミュージシャンも個性的だし。ちょうど彼のアルバムの「Alice in wonderword」に野宮真貴さんとカヒミ・カリィさんが参加したというのは、BALLOOMとしてもかなり「ここががんばりどこだ!」みたいなブッキングができたのかなとは思ってます(笑)。
──彼は、90年代の渋谷系と2000年代以降のネットカルチャーをつなぐ存在ですよね。
そうですね。彼の作品でヴィレッジヴァンガードのようなお店も開拓できたし、自分の音楽を知っているクリエイターだと思います。
──ナノウさんはどうでしょう?
彼は本当に底なしのクリエイターだと思いますね。Lyu:Lyuのフロントマンでもあり、弾き語りもやって新しいことにもチャレンジしているし。あと、彼が作るボーカロイドの楽曲には、Lyu:Lyuとも違う「ナノウ節」があって。R&Bテイストとかちょっとブラックな感じの楽曲も作れるんだっていうのを見せてくれましたね。
──ボカロPのとしての自分、歌い手としての自分をうまく両立しているタイプですね。
そうですよね。持ち味はライブにある感じもするし、盤を聴くと盤もやっぱりいいし。カッコいい。
──OSTER “BIG BAND” project は?
天才ですね。制作もめちゃめちゃペースが速いですし。アルバムの「GOSSIP CATS」は、ビッグバンドなのですごくゴージャスなレコーディングでしたね。ここまでたくさん人を入れてのレコーディングって今はなかなかできないので、そこにはチャレンジした部分もありました。
──アゴアニキさんはどうでしょうか?
彼は詞も練られてるし、絵もかわいいんですけど、トータルでもうアゴアニキっていうブランディングが確立されていて。上がってくるのは遅いですけど、いいものを確実に上げてくるクリエイターだなと思っています。しかも彼はひどい部屋から何から全部自分をさらけ出せるアーティストなんですよね。みんながみんなこうだとちょっと困りますけど(笑)。
──「愛され枠」みたいな?
そうですね。僕も彼のことは大好きです(笑)。
──すこっぷさんはどうですか?
楽曲自体、女子の気持ちがすごく強い上に、まつとりさんというイラストレーターとのタッグが素晴らしいんです。動画もそうですけど、ジャケットのアートワークもかなり力が入っていて、作品を盛り上げる感じになってますね。
──トータルでの魅力が大きい。
すこっぷさんとまつとりさんのコンビって、作品としてめちゃめちゃクオリティが高いんです。音楽先行のときもあったし、まつとりさんのイラスト先行で音楽ができるときもあるようですし、このタッグが続いてほしいなっていう思いがありますね。
──米津玄師さんはどうでしょう?
彼はもう、スーパー天才野郎なんで(笑)、このまま日本を代表する作家になってほしいなっていう気もしますね。
──それまでハチという名義で活動していた彼が、米津玄師として活動し始めたのがこのBALLOOMなんですよね。そこにはどういう経緯があったんでしょうか。
最初のミーティングのときからそういう話だったんです。絵も全部自分で描くし、曲も作っているし、最初のミーティングの時点で全部の構想がまとまってたというか。彼も若いので、ここまで話が全部できあがってるとは正直思ってなくて。すごく驚きました。
──わかりました。最後に、とくさんについては、このベスト盤に収録されたご自身の楽曲についてお話を聞かせてください。
僕は企画する側でいたほうがいいかなという思いもあってアルバムは出してないんです。でも、「2009年組」という意識もあるので、僕がこの中に参加するなら「SPiCa」のような2009年を代表する楽曲じゃないとバランス悪いかなっていうのもあって。それでこの曲を選びましたね。それから、僕は今GARNiDELiAというユニットをやっているので、ボーカル盤にはそのユニットのMARiAが歌った楽曲を収録しました。それでこの収録内容になりました。皆さん名刺代わりの曲を収録しているので、僕もそうしようと思った感じですね。
DISC 1
- アンハッピーリフレイン / wowaka
- 裏表ラバーズ / wowaka
- 日常と地球の額縁 / wowaka
- ソレカラ / ナノウ
- ゴシップ / OSTER“BIG BAND”project
- ダブルラリアット / アゴアニキ
- わすれんぼう / アゴアニキ
- パラダイス明晰夢 / アゴアニキ
- ドミノ倒シ / すこっぷ
- 嘘つきの世界 / すこっぷ
- 指切り / すこっぷ
- SPiCa / とく
DISC 2
- ムーンサイドへようこそ feat.ちびた / 古川本舗
- 三月は夜の底 feat.花近 / 古川本舗
- グリグリメガネと月光蟲 feat.クワガタP / 古川本舗
- 青空の日 / ナノウ
- 文学少年の憂鬱 (UNSUNG ver) / ナノウ
- ミラクルペイント feat.野宮あゆみ / OSTER“BIG BAND”project
- ピアノ×フォルテ×スキャンダル feat.ウサコ / OSTER“BIG BAND”project
- ゴーゴー幽霊船 / 米津玄師
- 駄菓子屋商売 / 米津玄師
- 乾涸びたバスひとつ / 米津玄師
- Butterfly feat.MARiA (from GARNiDELiA) / とく
- Arrow of Love -ReACT- feat.MARiA (from GARNiDELiA) / とく
とく
ボーカロイドを使った自作曲をニコニコ動画に投稿しているボカロP。作曲家やマニピュレーターとしてアンジェラ・アキなど数多くのアーティストに楽曲を提供するプロミュージシャンでもある。ミリオン再生を記録した2009年発表の「SPiCa」や、制作に関わったサークルメンバー全員がプロということで圧倒的なクオリティが話題になった「ARiA」などが代表作。ボカロ曲を中心にオリジナル曲を制作する同人サークル・へっどほんトーキョーや、メイリアとのユニット・GARNiDELiAとしても活動している。2010年末には古川本舗、ハチ(米津玄師)、wowakaとプロデュースユニット・estlaboを結成し、翌年春放送のアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のエンディングテーマ「secret base ~君がくれたもの~」を制作。その後、ニコニコ動画で人気を集める音楽クリエイターたちとともにインターネット発のレーベル、BALLOOMを発足させた。