ナタリー PowerPush - BAGDAD CAFE THE trench town
コアなレゲエファンもうならせる全方位型ニューアルバム誕生
同じオケなのに別の曲ですよね、と言われるのがうれしい
──今回は、これまでもシングルのカップリングなどで挑戦してきたダブの手法がきっちりアルバムの中に組み込まれているのも特徴ですね。タイトル曲の「We're Living」とそのダブバージョンの「We're dubbing」が最初と最後にあって、ちょうど真ん中にメロディカをフィーチャーした「BACK YARD」が置かれていたり、「Trippin' Sky」の後にそのバージョン「Sky dub」が続いていたり。
RAITA 今回、ワッキーズというニューヨークのレーベル兼スタジオに行ってダブを作ってきたんです。歌が入っている曲がトラックだけになって違う音楽として変わっていく、その差を聴いてもらいたかったし。レゲエだとバージョンというのは当たり前だけど、そこまでレゲエを深く聴いていない人に、カラオケに聴こえてしまうんじゃなくて、ひとつの芸術品としてどうやってそれを伝えていくかを考えた。「BACK YARD」はマイケル☆パンチのメロディカをロイド・バーンズに一発で録ってもらったので、ヴァイブス全開になってて。おんなじオケなのにまったく別の曲ですよね、と言われるのがうれしいんです。こういう楽しみ方ができるのはレゲエならではですよ。
──ワッキーズのサウンドはルーツレゲエに属するかもしれませんけれど、とても現代的な質感があります。
RAITA 向こうに行ってわかったのは、やっぱりワッキーズはルーツだけをやっているわけではないし、ダンスホールもいろんなサウンドに取り組んでいて進んでいる。そこは僕らと同じ感覚だったのですごく感動しました。
ダメな男をDISるだけじゃなく柔らかさを入れたい
──「Hey My Bad Boy」はダメな男の姿がリアルに描かれています。男性DJのバッドボーイな感じへの返答というか。
mai リアルでしょ。でもダメな男を歌っているんだけど、完全DISなのは自分にとっては等身大じゃないんです。歌としてどこか柔らかさがないと。ダメだけど憎めない、と入れるあたり、ちょっと救ってるやん。
RAITA だからKON KENくんとも、この詞の女の人はすごく文句言ってるけど最後許してくれるから、そういう音にしようって話し合って、すごくはじけたミックスになりました(笑)。
──「BON DANCE」もスリリングなダンスチューンで、血が騒ぎます。
mai この歌詞はほんと意味ないんですよ。何語かわからず適当に仮歌を載せていたら、キメでBON DANCEっていうのがハマったんです(笑)。ニュアンスですよ。
──maiさんのリリックも、前のアルバムぐらいからストーリー性のある内容が出てくるなど、変化が現れているように感じたのですが。
mai これまでの経験がちゃんと活きてるなっていうのが、今回自分でリリック書いてて思いました。煮詰まることもありますけれど、最終的にぜったい出せる! って思えるし。勢いにもっと身を任せてみようみたいなところがありました。
──頭で考えこむよりも、もっと発語の気持ちよさを求めたり?
mai それはあります。改めて言葉の響きを大事にしている感はありますね。
maiが歌えば大丈夫という信頼
──アルバム全体を通して、今回はやはり「FIVE STAR」のようなダンスホールのリズムがポイントでしょうか?
RAITA 特に意識はしていないんです。たまたまバンド内でこのリズムで合わせてみたら面白いんちゃう? みたいなところから始まっているから。結果リズムがダンスホールだとしても、自分らでカテゴライズしてはいないです。ルーツもダンスホールもラヴァーズロックも同じように並べる、僕らはそういう世代だと思う。
mai 私たちの強みはダンスホールのイベントだけじゃなく、ロックやサーフ系のイベントにも呼んでもらえることだと思うんです。そういう位置にいれてるのがすごいうれしい。それぞれの現場に応じて最強のセットリストを作ってるつもりだし。
──「We’re Living」は、そんないまのBAGDADのムードを反映して、コアなレゲエファンにも、ソウルや歌もののリスナーにも楽しんでもらえる、全方位的なアルバムになっていますよね。
RAITA 全方位っていいですね。みんなまとめてやったろうかい! みたいな(笑)。
──確かに音楽性の幅は広がっているのに、それが拡散しているのではなくて、グッとBAGDADの濃度として現れている。
mai 確かに濃さが出ている気はしますね。曲ごとに自分の声にカラーを出せたというのは一貫してありました。リリックもバラエティに富んで、やりきった感はあるので気持ちいいです。
RAITA スタジオでも最後maiちゃんが歌えば大丈夫だというのがあったし、それは完全なる信頼ですよね。
今も通過点だし、完成はないと思ってる
──アルバムがリリースされた今、お二人は“BAGDAD的レゲエ”というのはどんなものだという気持ちがありますか?
RAITA 「PASSING POINT」のときはほんまに“通過点”という気持ちで、今もそれは同じ。完成はないんやと思ってます。だからバンドも続けていけるし、まだまだできるって思っている。ダブもダンスホールもラヴァーズも、レゲエという音楽をぜんぶ極めていきたいってバンド全員が思っているから。1人がヴァイブを持って帰ってきたら、それをもとに話し合ったりもする。すべての欲求がかなえられるから、BAGDADはほんま楽しいですよね。
mai みんながマンネリにならんためには、閉じこめたらあかんし、適度な距離っていうか、外向いていて、個人それぞれが気持ちよくちゃんとバンドをリスペクトして動いたらいいんちゃうかな。ホームがBAGDADっていうことをみんな忘れず、みんなが受けた影響を共有できて、どんどん進化できたらいいなと思います。
RAITA 僕ら来年10周年なんですけれど、11人全員がBAGDAD最高! って思える時間をまた味わいたいからやってるんだと思います。日々意見がぶつかることがあっても、あの一瞬のためにやってる。
──それこそアルバムのテーマである「We're Living」と感じられる瞬間なんでしょうね。さて、9月には、恒例の緑地公園でのBAGDAD主催の野外ライブも控えています。
mai いろんなアーティストを呼んでBAGDAD RIDDIM SECTIONの上で歌うという、このコンセプトはBAGDADの強みだと思う。PUSHIMさん、RANKIN TAXIさん、Shing02と今の時点でもかなり面白いラインナップですけれど、まだ発表できないゲストもいるから、ぜひ楽しみにしていてほしいですね。
CD収録曲
- We're Living
- FAMILY
- Hey My Bad Boy
- JOYFULLY
- You are everything
- FIVE STAR
- My Little Girl
- BACK YARD
- BON DANCE
- Shake me down
- Trippin' Sky
- Sky dub
- Jump the world
- Discover
- We're dubbing
BAGDAD CAFE THE trench town
(ばぐだっどかふぇざとれんちたうん)
総勢11人によるナニワのソウル・ロッカーズ。2003年8月にリリースした1stアルバム「Love Sunset」が、地元大阪のFM局で異例のヘヴィローテーションに選ばれ注目を集める。2005年9月の3rdアルバム「MOVIN' ON」でメジャーデビューを果たし、数多くの野外フェスにも出演。またリリース後に行われた全国ツアーも大成功させる。2006年8月発売の4thアルバム「GOOD TIMES」は、オーセンティックなラヴァーズロックサウンドを追求し話題を呼んだ。