ナタリー PowerPush - BAGDAD CAFE THE trench town
コアなレゲエファンもうならせる全方位型ニューアルバム誕生
包容力あふれるmaiのボーカルを武器に、スウィートなラヴァーズロックを聴かせるBAGDAD CAFE THE trench townがニューアルバム「We're Living」を完成させた。今回は新たに構えた自らのスタジオでセルフプロデュースによる制作を敢行。プロデューサー、トラックメーカーとしても進境著しいギタリストRAITAの才気をはじめ、ここ数年のBAGDAD本体以外の課外活動の成果が、11人のメンバーに新たな刺激をもたらしたようだ。
レゲエフリークを狂喜させる本格的な音作りを実践しながら、ユニバーサルな愛を歌うmaiの歌の世界が象徴するように、決してポピュラリティをおろそかにせず、ライフミュージックとしての説得力を高めている点がなにより素晴らしい。ナニワの人らしい気骨とDIY精神により独自のレゲエを追求し続ける彼らの話を聞こう。
取材・文/駒井憲嗣
ソロ活動で吸収したものをこのアルバムで吐き出した
──「SATISFACTION」から約2年ぶりのアルバムですね。前作以降RAITAさんのプロジェクトRUFF TRACKやバンド隊BAGDAD RIDDIM SECTION、そして女性ボーカル陣によるSISTERSと、各自のソロ活動を活発に行われていましたが、これは当初から予定していたことだったんですか?
mai 自然に、ちゃう?
RAITA ここまでコンスタントに1年に1枚ずつ出していたので、とりあえずこの1年はライブをしっかりやりつつ、個人的にもみんながんばって、いろんなものを吸収する期間にしようということは話し合って。その吸収してきたものを持ち寄って、このアルバムに臨んだ感じですね。
──リスナーとして、それからプレイヤーとしてインプットは多かったですか?
RAITA みんなけっこうダンスホールの現場に通ったり。僕だったらレコーディングに集中して取り組んで、他の人のプロデュースをしてみたり、そういうことが大きいですね。周りのエネルギーを吸収するというか、ヴァイブスをいただくというか。それはこの「We’re Living」にだいぶ活かせたと思う。
mai やっぱり私もSISTERSで、RYO the SKYWALERさんのダブに参加させてもらったり、RED SPIDERのJUNIORさんのダブに参加させてもらったりと、密にダンスホールの人と1曲やったというのは、すごく影響を受けましたね。
──ここ最近、BAGDADがダンスホールに急接近していったきっかけというのは?
RAITA 「DANCEHALL ALBUM MEETS THE REGGAE~PASSING POINT」というフィーチャリングアルバムでコンビネーションをやってみたことで、だいぶ注入されましたね。ダンスホールの人は、俺らバンドとは作り方も違うんです。僕らは曲に合わせてトラックメイキングしていたけれど、向こうはまず「どんなオケ?」って来るし、DJやシンガーの人によっては「これを歌ってほしい」と持っていっても、「他にない?」って言われたり。予備を用意しておかないといけないから、いつも4つぐらい持っていかなければならない。「PASSING POINT」のときから僕が録っているんですけれど、制作の現場でこうやってスピーディかつ正確にやるんだって思いながらやっていた、それが主流になってしまったようなところがあるんです。RUFF TRACKのときもシンガーに合わせていくというか、乗っかっていくようなやり方はすごく勉強になりました。
──動物的な勘なんでしょうね。
mai ほんま肉食系男子なんやろな(笑)。
RAITA maiちゃんもそう、「これは違う」って早いですよ。
mai それはRYOさんやJUNIORさんと一緒にやることで、自分らのいいラインとかをジャッジせなあかん状況を経験したからだと思う。
──メンバーが集まって気ままにセッションして作っていくというムードではなかったと。
mai でも同時にバンドでセッションして作る曲も絶対あっていいと思うし、BAGDADはその幅の広さが武器だと思うんですよ。ただやっぱりギター1本でもらった曲だと、実際11人で音を出したときに私が思ってたカラーと違ったら、また作詞もゼロからその曲のイメージから作っていかなあかんこともある。今回はRAITAからトラックを先にもらって、それをもとにバンドで音に出すことでブレずにできましたね。
自分たちのスタジオで気持ちが高まった
──今回から自分たちでスタジオを設立して、そこでの制作だったんですよね。
RAITA これがいちばん大きかったですね。例えばスタジオに行くと、スタッフもいていい意味の緊張感があって、時間が決まっているという意識もある。でも自分らのスタジオだと適当にみんなが来て始まって、「今日はあかんからやめとこか」っていうこともできるし、「いいの録れたから一気にいってまおう」とかもできたし、リラックスしてできましたね。ダラダラやってしまうんじゃないかって、切り替えが心配だという声もあったんですけれど、意外とみんな来たらバシッとやれた。
──やっぱりみなさんにとって自分たちのスタジオというのは念願だったんですか?
RAITA しっくいを塗ったり、自分の機材と合わせてシステムを組んでいくところからやったので、徐々にみんな盛り上がってきますよね。「スタジオっぽくなってきた」って。
──セルフプロデュースで1枚仕上げてみようという案は、RAITAさんがプロデュースワークをこなしてきて自信がついたから出てきた部分もあったのでしょうか?
RAITA RUFF TRACKで初めてミックスまで全部1人でやってみたんです。大きなスタジオと同じクオリティを出せるか不安もあったんですけれど、やりだしてみたら、作業していく中で勉強していってるみたいな感じでしたね。
──スタジオ作りも含めて、バンドの原点を見つめる作業でもあったんでしょうね。
RAITA 「みんなこんなプレイすんねや」とか「俺らってこんなバンドやったんや」ってすごく思いました。みんなのBAGDADの音楽に対する気持ちも話し合って、リディムはこうだから上物はこういうふうに攻めようとか、一人ひとりと細かく対話したというか。曲ごとにきっちりしたコンセプトがあったから、演奏することに対してもう一度意識した瞬間でもありましたね。全体で一発でレコーディングするときのゆるさを許さないというか、気合いみたいなものをみんなで確認しあったから、気持ちも高まったし。
CD収録曲
- We're Living
- FAMILY
- Hey My Bad Boy
- JOYFULLY
- You are everything
- FIVE STAR
- My Little Girl
- BACK YARD
- BON DANCE
- Shake me down
- Trippin' Sky
- Sky dub
- Jump the world
- Discover
- We're dubbing
BAGDAD CAFE THE trench town
(ばぐだっどかふぇざとれんちたうん)
総勢11人によるナニワのソウル・ロッカーズ。2003年8月にリリースした1stアルバム「Love Sunset」が、地元大阪のFM局で異例のヘヴィローテーションに選ばれ注目を集める。2005年9月の3rdアルバム「MOVIN' ON」でメジャーデビューを果たし、数多くの野外フェスにも出演。またリリース後に行われた全国ツアーも大成功させる。2006年8月発売の4thアルバム「GOOD TIMES」は、オーセンティックなラヴァーズロックサウンドを追求し話題を呼んだ。