back number|3人の衝動を閉じ込めた6thアルバム

back numberが6thアルバム「MAGIC」をリリースした。前作「シャンデリア」から初のベスト盤「アンコール」を経て、3年3カ月ぶりとなるニューアルバムには、シングル「瞬き」「大不正解」「オールドファッション」「HAPPY BIRTHDAY」のほか、新曲4曲を含む全12曲が収録されている。昨年、全国ドームツアー「back number dome tour 2018 "stay with you"」を成功させるなど、音楽シーンを代表する存在となった彼ら。ロックバンドとしての力強さ、幅広いリスナーを魅了するポップネスが1つになった「MAGIC」は、back numberの新たな傑作として認知されることになりそうだ。

音楽ナタリーでは、清水依与吏(Vo, G)、小島和也(B, Cho)、栗原寿(Dr)にインタビューを実施。前作以降の軌跡が詰まった本作「MAGIC」について語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 笹原清明

アルバムはヤンキースみたいな感じに

──3年3カ月ぶりのオリジナルアルバム「MAGIC」が完成しました。まずはメンバーの皆さんの手応えを教えてもらえますか?

清水依与吏(Vo, G)

清水依与吏(Vo, G) 自分たちもけっこう聴いてるんですよね。移動中の車の中で聴いたりしてるうちに、少しずつ客観視できるようになってきたんですけど、頑ななアルバムだなと思いますね。サウンドもいろいろだし、歌詞でもいろんなことを語ってるんだけど、全部バンドの音だと思うし、ちゃんと統一感があって。back numberというバンドのアルバムだなと。どの曲もバンドの音がうるさいですから(笑)。

栗原寿(Dr) すごくいいアルバムができたと思うし、今依与吏さんが言ったように、ずっと聴いていて。曲順がライブのセットリストっぽいせいか、飽きずに聴けるんですよ。最後まで悩んでこの曲順にしたんですけど、正解だったなと。アクが強い曲も多いけど、何度も聴けるアルバムになったと思います。

小島和也(B, Cho) 新曲を含めて、全部シングルにしてもいい曲が集まったと思いますね。全国ツアー「NO MAGIC TOUR 2019」に向けて、どう表現してくべきか考えて、努力したいなと。

──ベストアルバム「アンコール」以降にリリースされたシングル(「瞬き」「大不正解」「オールドファッション」「HAPPY BIRTHDAY」)はすべて収録。オリジナルアルバムはひさしぶりですが、ずっと制作を続けていた印象もあります。

清水 そうなんですよね。アルバムの12曲のうち、新曲は4曲だけなんですけど、まったくサボってないんですよ(笑)。振り返ってみると、ずっとレコーディングしてたなって。

小島 そうだね(笑)。

清水 シングルに関して言うと、“3曲入れる”って早い時期に決めちゃってたんですよ。スタジオで楽しく曲作りしてるときはいいんだけど、締め切りが近付いてきて、「ここまでに3曲」となると、いつも「うわー、ヤバい」って(笑)。それでも妥協せず作ってこれたのはよかったですけどね。アルバムから外れた曲もけっこうあるんですよ。「Jaguar」(2018年11月発売「オールドファッション」収録)も好きだし、「ゆめなのであれば」(2017年12月発売「瞬き」収録)も入れたかったし。友達にも「『ゆめなのであれば』をアルバムに入れないでどうするの?」って言われたんですけど、「瞬き」からは「ARTIST」をアルバムに入れました。

──「ゆめなのであれば」は、ユーモアのある曲ですからね。確かにアルバムに入れるとなると「ARTIST」かも。

清水 そうなりますよね。友達にも「アルバムはヤンキースみたいな感じにしたいんだよね」って言って。

栗原 “全員4番”ってことですね(笑)。

依与吏の歌詞が前に戻った

──それだけ強い曲がそろったと。アルバムの制作に入った段階では、何かテーマみたいなものはあったんですか?

清水 今回のアルバムは「シャンデリア」以降の曲が入っていて。「シャンデリア」以前は、「俺たちのバンド、すげえいいと思うんだけど、なんで売れないんだろう?」という葛藤があったんですよね。その中で戦ってきたんですけど、「シャンデリア」と「アンコール」をたくさんの人に聴いてもらえたことで、自分たちのペースで活動することの意味合いが変わってきたというか、平常運転ができなくなってきて。

──大型のタイアップが続いて、ドームツアーもあって。メディアでの露出、リスナーからの注目度を含めて、以前とはまったく違いますからね。

清水 その中で考えていたのが、価値ということで。「あの人にとっては価値があることかもしれないけど、俺にとってはなんの価値もない」ということもあるし、とにかく価値という言葉の周りをグルグル回ってたんですよ。その中で制作を続けていたら、なんかずっと怒ってるというか、何かに反発してるような曲が増えてきて。さっき「バンドの音がうるさい」って言いましたけど、ギター、ドラム、ベースの音がデカくなったのも、そういうことだと思うし。怒りとか反発も、ロックだったりするじゃないですか。自分たちが高校生くらいのときに聴いてた音楽、そのときに感じてた衝動に少し寄ってるかもしれないですね、今回のアルバムは。

──たくさんのリスナーに届けることよりも、まずは自分たちの衝動に素直になったということですか?

清水 はい。例えばファンクラブに入ってくれてる人たちは、一歩も二歩もこっちに近付いて聴いてるわけじゃないですか。その人たちの期待は裏切れないし、「やっぱりback numberはいいな」と思ってほしいですから。あと、下の世代のバンドに抜かれるのも癪だし(笑)。

──そういう清水さんのモードは3人で共有していたんですか?

清水 いや、そういう話はしてなかったですね。2人には俺が書いた曲、歌詞を聴いて、それを表現してもらったほうがいいと思ったので。制作の最後あたり、アルバムのタイトルを決める時期に少し話をしましたけど。

小島 うん。アルバムの制作の中で感じてたのは……依与吏の歌詞が前に戻った気がしたんですよね。作家的というか、俯瞰しながら歌詞を書くことが増えてきたんですが、今回は自分の中で生まれた歌が多くて。葛藤や怒りもそうだし、思ってることを吐き出している印象もありますね。

栗原寿(Dr)

栗原 1曲1曲に対するメンバーの理解度も上がった気がしますね。その結果、深くて濃いアルバムになったかなと。曲作りとレコーディングに集中できる環境を整えてもらえたのも大きいですね。

清水 取材だったり、メディアにもあまり出てなかったですからね。別に休んでいたわけではないんですよ。海外で羽を伸ばすこともなかったし(笑)。スタッフも「あいつらが暇になっちゃいけない」と気を使ってくれたのか、ちょこちょこ仕事も入れてくれて。まだまだ馬車馬なのかなと思ってますけどね。

小島 はははは(笑)。

清水 ただ、ちょっと集中しすぎたというか、結局、人生の話になっちゃうんですよ。「人間として、何が残せるか?」だったり、「この先、どう生きたいか?」とか。

──それも価値の話につながりそうですね。

清水 そうですね。これまでのback numberのイメージとも決着をつけないといけないと思っていたし、だからと言って、安っぽい音楽をやるわけにはいかなくて。1つのきっかけになったのは、「瞬き」ができたことなんですよね。あの曲を書いたときに、「これは嘘じゃないし、安っぽくもない」と思えて。「瞬き」で人生観みたいなものを表現したことによって、その後の曲「大不正解」「ロンリネス」「ARTIST」で感情を歌にできるようになって。

ギリ、アウトだな

──「大不正解」もきっかけの1つになったと思います。あれだけとがったサウンドの曲をシングルの表題曲にしたことはなかったし、当時のインタビューでも、清水さんが「“ギリ、アウト”だと思う」と言ってて。

小島和也(B, Cho)

清水 アルバムの中で聴いても、「ギリ、アウトだな」と思いました(笑)。確かに「大不正解」を出したことも大きかったですね。それまでと全然違うサウンドだし、いい意味でブッ壊してくれたというか。蔦谷好位置さんにアレンジを頼むときは、そういうタイミングが多いんですよ。「高嶺の花子さん」もそうで、「これ、俺らの曲なんですか?」というくらい素敵な曲にしてもらえて。「大不正解」はドームツアーでも違和感なくやれて、それもよかったと思うし。

──東京ドームでも盛り上がってましたよね。

清水 そうなんですよ。MCのあと、最後のブロックの最初の曲っていう重要な位置に置いたんですけど、めちゃくちゃ盛り上がってくれて。「ここは盛り上げないとヤバいだろう」って気を使ってもらったのかもしれないけど(笑)、お客さんに反射的に盛り上がってもらえたのはうれしかったですね。

小島 実際に演奏するまでは、距離を測りかねてところもあって。煽っていいのかもわからなかったし。あの盛り上がりを目の当たりして、安心しましたね。

栗原 「大不正解」はライブ映えする曲だし、自分たちもすごく感情が高ぶるんですよ。叫びたくなるような衝動を感じながら演奏していたし、それは目の前にいる人たちにも伝わるだろうなと。

back numberが生み出すラブソング

──最新シングル「HAPPY BIRTHDAY」は、切ない片思いをテーマにしたナンバーです。“back numberらしい”と感じるリスナーも多かったと思いますが、切ないラブソングのイメージを引き受ける覚悟もあったのでは?

清水 そうですね……まったく同じことをやるのは抵抗があるけど、似たテーマであっても、マイナーチェンジだったり、自分たちの中でアップデートしていけたらなと。だいたい、かわいそうじゃないですか。これまで「これがいいんだ」と思って一生懸命に作ってきた曲を自分たちが否定しちゃったら。そのときどきで自分たちの好みは変わるかもしれないけど、例えば街でファンの人に声をかけられて「あの曲が好きなんです」と言われたら、それが何年前の曲であってもデビュー曲であっても、「ありがとう。うれしいよ」と心から言えないと。そういう意味では、どの時期のどんな曲も引き受けたいと思ってますね。

──アルバムの新曲にも、切ないラブソングがありますからね。

清水 はい。そんなにたくさん得意技を持っているわけではないし、自分たちが「いい曲だ」と言い切れるのが大事かなと。あとは、どういうサウンド、どういうアレンジにしてあげるかですよね。一度生まれたメロディの形は変わらないけど、しっかり飾るのか、なるべくそのまま出してあげるのがいいのか、そこは間違えないようにしたいなと。「MAGIC」では、そこもうまくいったと思います。