音楽ナタリー Power Push - back number
照れ交じりに捧げる親への手紙
back numberの13thシングル「手紙」の表題曲は、両親への感謝の気持ちを叙情的に描いたミディアムバラード。ドラマティックなメロディ、照れと愛情にあふれた歌詞、サウンドプロデューサーを務めた小林武史の緻密なサウンドメイクなどが組み合わさって、幅広い層のリスナーにアピールできる楽曲に仕上がっている。
今回音楽ナタリーでは、メンバー3人にインタビューを実施。「手紙」の制作プロセスを軸にしながら、メジャーシーンのど真ん中へと向かうバンドの現状について語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 小原泰広
逃げ道がない歌
──ニューシングル「手紙」は、NTTドコモのCMソングとして大きな注目を集めています。このCMのために書き下ろした曲なんですか?
清水依与吏(Vo, G) いや実は2、3年前からあった曲なんですよ。次のアルバムに入れたいなと思って新たに編曲しようかと考えていたときに、このCMのお話をいただいて。それから歌詞を付けていった感じですね。
──家族、両親への感謝の気持ちをテーマにした歌詞ですが、若いときには書きづらいというか、今だから表現できる内容ですよね。
清水 今でも書きづらいですよ(笑)。こういう機会がなかったら自分からはあまり手を付けなかったんじゃないかなあ。「ささえる人の歌」っていう曲で親への感謝を濁しながら書いたことがあるんですけど、ここまで逃げ道がないというか……個人の感情が出ちゃうような歌を書いたことはなかったので。
──清水さんの個人的な思いが投影されている、と。
清水 ギリギリのラインで歌ってはいるんですけどね。2、3年前に比べると「以前は使えなかった言葉でも、ちゃんと深いところで歌えるようになってきたな」という感じもあるんですが、結局この曲では「愛されている事に / ちゃんと気付いている事 / いつか歌にしよう」って、遠回しにして歌ってますから。
──どうしてもストレートに歌えないというか、そういう性格なんでしょうね(笑)。
清水 性格が出がちですよね。自分だけの気持ちとして書くのは難しかったというか、やっぱり照れみたいなものが入っちゃうので。もう1つの人格のようなものを用意して書いたんですけど、できあがったものを聴いてみると「やっぱり自分の歌だな」って思ったり……。
小島和也(B, Cho) あはは(笑)。理想の親子像なのかもしれないですね、この歌詞は。自分自身もまだこんなふうに親に言えないですし、妹の子供とかを見て「親になるとこういう気持ちになるのかな」って思うくらいなので。
栗原寿(Dr) 「膝すりむいて帰った日は / なぜか僕より痛そうで」という歌詞を見ると「そういえば子供のとき、ケガすると大げさなくらいに心配されてたな」と思い出したりしますけどね。そのときはウザったいと思っていたことも、実はありがたいことだったんだなって感じたり。
清水 ……すごいですよね。俺、そんなふうに語れないですよ。
小島 俺らは(歌詞を書いた)本人ではないからね(笑)。
清水 なんなら「寿が歌詞を書いたってことでいいや」って思うくらい恥ずかしいんですよ。作詞のクレジットを変えようかな……。
栗原 変えなくていいでしょ(笑)。
──やっぱり照れちゃうんですね、こういう歌詞は。
清水 そうですね。新しい音源ができると、わりとすぐに親に渡したりするんですよ。実家に帰ったときも「聴いてよ!」みたいな感じだし、曲を聴きながら親父と酒を飲むこともあるんですけど、今回の曲に関してはダメですね。CMを観てもらったり、CDを自分で買っていただこうかなって。なんていうか、今までずっと「ここには愛がないから……」みたいなことを歌ってきたわけじゃないですか、俺らは。そういう歌を肩が壊れるまでリスナーに向かって投げ続ける、みたいなスタイルでやってきたんですけど、「手紙」はもっとシレッと届いてほしいというところがあって。そういう意味では、今までとはちょっと違うんですよね。
栗原 そうだね。
清水 今まではインタビューとかで「この曲を聴いて、どんな気持ちになってほしいですか?」と聞かれるたびに困ってたりしてたんですけど、「手紙」の場合はその人の親のことを思ってほしいんですよ。そう思ってもらわないとこの歌を作った意味がないので。
──聴いた人が自分と親との関係に思いを馳せるような曲になってほしい、と。
清水 半分フィクション、半分ノンフィクションみたいな感じになってほしいんですよね。完全にノンフィクションだったら「歌にしないで、自分の親に手紙を書けば?」ってことですから。ただ、僕も30歳を越えて、親も年を取ってきてるのは確かで。幸いにも今は両親とも元気ですけど、永遠に生きているわけではないですからね。周りを見ても同い年のヤツが死んでしまったり、他人事だと思っていたことがどうやら自分にも起こり得るってことがわかってきて「最終的には俺も死ぬんだな」みたいなことも少しずつ現実的になってくるんですよ。そうすると「じゃあ、ここからどう生きようか?」と考えたりもするんですよね。「手紙」の中で「愛されている事にちゃんと気付いている」と歌えたのは、いろんな現実を自分の目でちゃんと見ようとしているというか、気持ちの変化の表れなのかなっていう気はしています。
1つのことに執着したくない
──人生における意識の変化が、曲にも自然と出てきている?
清水 出てくるものみたいですね。周りの人に「(歌詞の内容が)少しずつ変わってきてるね」って言われても自分としては実感がなかったんですけど、「ラブストーリー」というアルバムを作って、自分がやりたいことを表現し続けていく中で少しずつ変化してきてるのかもなって思い始めて……。やっぱり、1つのことに執着したくないんですよね。たとえば恋愛の曲が評判いいからと言っても、そればっかり書いてると、先に僕らがつまらなくなると思うので。今が幸せでも不幸せでも「いろんな歌が歌いたい」というのは変わらないし、どの立ち位置にも立てる状態で曲を作っていきたいんですよ。それは演奏する側も同じですよね。「今日はこの曲の気分じゃないのでやりません」というわけにもいかないし。
──リスナーが増えて、ポピュラリティを獲得していく過程では起こる葛藤ですよね。ファンの期待にも応えないといけないけれど、バンドとしては幅広い表現をしたいっていう思いもあるだろうし。
清水 でも、悶々と悩んでいるような人のことを歌った曲をずっとやってきたバンドなのに「いつの間にかみんなのために歌うようになったな」と思われてしまうのも違うと思うし。頑なに変えない部分も必要なんですよね。今のback numberは自分たちなりにはカッコいいと思えているし、いい変化をしているのかなって思う。ライブにお客さんがいっぱい来てくれるようになってもちろん感謝していますが、「自分たちがやりたいからやってる」という意識はしっかり持っていないとね。
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CD収録曲
- 手紙
- 手紙(instrumental)
DVD収録内容
- 「手紙」MUSIC VIDEO
- レコーディング時、MV撮影時、アー写撮影時メイキング映像
- 「urban live tour 2015」@幕張イベントホールのライブ映像をダイジェスト収録
(bird's sorrow / 青い春 / SISTER / エンディング / アーバンライフ / 電車の窓から / ヒロイン / 海岸通り)
back number(バックナンバー)
2004年に清水依与吏(Vo, G)を中心に群馬で結成。幾度かのメンバーチェンジを経て、2007年に小島和也(B, Cho)と栗原寿(Dr)を加えた現在の編成に。2009年に発売した初のミニアルバム「逃した魚」は大手レコード店で絶賛され、全国的に話題となる。2010年にフルアルバム「あとのまつり」を発表し、美しいメロディに切ない歌詞を乗せるというスタイルを確立。2011年4月にシングル「はなびら」でメジャーデビューした。2013年には日本武道館でワンマンライブを成功させ、その後もコンスタントに作品をリリース。2015年1月には初めて小林武史をプロデューサーに迎えたシングル「ヒロイン」を発表し、大きな注目を集める。8月には再び小林をプロデューサーに迎えたシングル「手紙」を発表した。