ナタリー PowerPush - buck number
3人の成長を刻み込んだニューシングル
2004年に群馬県で結成されたスリーピースバンド・back number。昨年リリースした2ndシングル「花束」が全国のFMラジオのパワープレイやテレビ番組のエンディングテーマなど計73個のタイアップを獲得し、注目を集めた。さらに一度聴いただけで耳に残る美しいメロディラインと叙情的な歌詞で、口コミでもファンを増やし続けている実力派だ。
ナタリー初登場の今回は、HMC・TBS系ドラマ「スープカレー」主題歌であるニューシングル「日曜日」についてインタビューを実施。全ての作詞作曲を手がけるフロントマン・清水依与吏を中心に、今作の制作秘話や4月末で終了したワンマンツアーの感想を訊いた。
取材・文 / 川倉由起子 撮影 / 井出眞諭
ホールのお客さんが誰も座っていなかった
──ニューシングルのお話を伺う前に、まずは4月末に無事終了した「恋は盲目ツアー2012」について。バンド史上最大規模のワンマンツアーとなったわけですが、手応えはいかがでしたか?
清水依与吏(Vo, G) 今回はいろんな規模のライブハウスやホールを回ることができて。その土地土地のスタッフさん、お客さんともいろいろ話すことできましたし、全ての場所がすごく良い刺激になりました。ライブを作り上げていくことはどういうことか?というのも、もう1回教えていただいたような気がしますね。個人としては、やっぱりホールでの初ワンマンが叶ったことが大きくて。自分の中のこうしたい、ああしたいっていうものはちゃんと表現できたんですけど、自分の器をもっともっと広げて、またがんばっていかなきゃって思いました。
栗原寿(Dr) とにかく、すごく充実したツアーでしたね。自分たちの成長できた部分、逆にまだまだだなっていうところも確認できましたし。あとは一緒に回ったスタッフの方々や、現地でお世話していただいた方々との絆や結束力みたいなものがより深まって。僕ら3人だけでは何もできないんだなってことに改めて気付かされたし、そういうつながりも再確認できたのはうれしかったですね。
小島和也(B) これまで対バンツアーで回ってたところにワンマンで行けたのがまず大きかったです。開演前はもちろん不安もあったんですけど、実際ライブが始まると、目の前にお客さんがいてくれるっていう、その光景がまずうれしかったです。演奏面では今後やらなきゃいけないことが明確になったし、課題もたくさん見つかって。でも、それもまたうれしいなと思える自分がいる。本当に意味のあるツアーだったと思います。
──ツアーファイナルで初のホールライブとなった東京・渋谷公会堂公演ではどう感じました?
清水 渋谷公会堂の前がSHIBUYA-AXだったんですが、その前が新潟で今ツアーで最もキャパの少ない180人の会場だったんですね。だから、その感覚で2000人近いAXに立ったとき、ちょっと目がシパシパしました(笑)。渋公は、会場の作り的にまた別物って感じで。後ろのほうのお客さんまでもれなく手を挙げていただけたんです。それをしても恥ずかしくないような空気を作るのが僕らの最初の仕事だと思うから、渋公でその景色が見られたのは、自信にもつながりました。
──back numberは座ってゆっくり聴きたくなる曲も多いし、渋公だからこそ「ちょっと行ってみようかな」って思った方もいたんじゃないですかね?
清水 そうですね。ライブハウスには行きづらいけどホールなら……って方もいたと思います。でも今回、ホールのお客さんが最後まで誰も座ってなかったんですよ! バラードやスローな曲でも。疲れないかな、せっかく椅子があるのにもったいなって思ったくらい(笑)。ライブを短く感じていただけたのか、それはすごくありがたかったですね。
「幸福な人生とは?」に対する答え
──そんな大充実のツアーでは、今回のシングル「日曜日」も演奏していましたよね。
清水 はい。全公演、アンコールでやってました。
──その際の反応は後ほど聞かせてもらうとして、まずはこの曲が生まれた経緯から教えていただけますか?
清水 元々はドラマ「スープカレー」の主題歌に……ということでオファーをいただいて。そこから新たに書き下ろしました。
──ドラマサイドから、何かリクエストはありましたか?
清水 リクエストというか、先方からいただいたメールの中に「現状の肯定」という言葉があって、それをひとつのキーワードに書いていきました。現状を肯定するということは、今自分が幸せだと思うことが大事じゃないですか? じゃあ幸せな人生ってなんだろう?……というふうにイメージを膨らませて。簡単に言うなら、今の自分たちなりの「幸福な人生とは?」という問いかけに対する答えですね。あと事前にドラマを少し観せてもらったんですが、そこから「人間は大なり小なり、日々葛藤をしながら生きてるんだな」ってことを感じて。日常で生まれる、そういう小さな心の機微を描いていこうと思いました。
──ちなみに、元々清水さんの中で「幸福な人生」=「日常のささいな出来事も幸せに感じられること」みたいな価値観があったりするんですか?
清水 (幸福の)大きい小さいは人それぞれだと思うんですけど、例えば他の人から「小さい」と言われても、「これは自分にとってはすごく大切なものだ」って胸を張って言えることが大切なのかなと。もちろん僕も人間なので、現状全てを肯定できているかと訊かれるとちょっと疑問ですけど……。
──歌詞は、細かな情景描写まで全て目に浮かぶような、リアリティのある内容で。女性目線からすると、男性にこんなふうに思われたらすごく幸せだなって。
清水 あははは(笑)。僕も女性からこんなふうに思われたら幸せですね。それに、相手のことをこんなふうに思えたら、他のいろんなものも輝いて見えるんじゃないかなと思います。
──タイトルの「日曜日」に込めた思いとは?
清水 日曜日のお昼くらいって、一番幸せじゃないですか?(笑) 幸福な時間の象徴というか。歌詞に日曜日というワードは出てこないんですけど、これはまさに日曜日の場面だなと思ったのでタイトルにしたんです。
buck number(ばっくなんばー)
2004年に清水依与吏(Vo, G)を中心に群馬で結成。幾度かのメンバーチェンジを経て、2007年に小島和也(B, Cho)と栗原寿(D)を加えた現在の編成となった。最初の音源は、2009年に発売されたミニアルバム「逃した魚」。大手レコード店で絶賛され、全国的に話題となる。2010年にはフルアルバム「あとのまつり」を発表し、美しいメロディに切ない歌詞を乗せるというバンドのスタイルを確立した。2011年4月にシングル「はなびら」でメジャーデビュー。さらに同年、「花束」「思い出せなくなるその日まで」という2枚のシングルに加え、メジャー1stアルバム「スーパースター」を発表した。2012年に入ると初のワンマンツアー「恋は盲目ツアー2012」を敢行し、全公演大盛況にて幕を閉じる。そして、3月に4thシングル「恋」、5月に5thシングル「日曜日」をリリース。同曲はバンド初となるドラマ主題歌として、HMC・TBS系ドラマ「スープカレー」でオンエアされている。