ナタリー PowerPush - 馬場俊英
17年の音楽人生で奏でた“あのメロディ”を総括
1万人コンサートでようやく「自分の音楽を認めてあげよう」という気持ちに
──馬場さんはデビューから4年後、レコード会社との契約が切れて、1人で活動することを余儀なくされて。その時期も音楽に対する気持ちは変わらなかったんですか?
ダメかもしれないという気持ちもありました、正直言って。でも時代も少しずつ変わってきて、インディーズとかも盛んになっていたんですよね。レコード会社がないと何もできないっていうわけではなくて、1人でもなんとかやっていけるっていう風潮も生まれていたし、辞めにくい時代になっていたんですよね(笑)。もちろん「このままで終わるのは残念だな」という気持ちもありました。まず、自分の好きなように1枚CDを作ってみようと思ったんですよね。そのときに「いいな」と思えれば、自然とエネルギーも沸いてくるだろう、と。逆に「イマイチかな」と思ってしまったら──自分自身はだませないですから──情熱も沸かなくなってくるんじゃないかなって。そのときに作ったのが「フクロウの唄」(2001年発売)っていうアルバムなんですけど。
──「ボーイズ・オン・ザ・ラン」が収録されているアルバムですね。
自分でも「いいアルバムが作れたな」と思ったし、いろんな人に聴いてもらって、中には評価してくれる人もいて。そのときね、ラジオ局の人がすごくホメてくれたんですよ。しかも、僕がホメてほしい感じでホメてくれたというか(笑)、「そうそう、そこなんですよ!」っていう。そのことがすごくうれしかったんですよね。小さいことかもしれないけど、たった1人でも理解者がいてくれて「次も期待してるよ」って言ってくれて。その気持ちは裏切れないし「もっとすごいアルバムができたね」って言ってもらいたいなって。
──その後、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」のスマッシュヒットとともに徐々にライブの動員も増えてきて。当時の馬場さんの実感はどうだったんですか?
30人、50人くらいから始まって、少しずつ大きな会場でもライブができるようになってきて。ただ、初めて1000人くらいのホールでライブをやったときは、よくわからなかったんですよね。その前はお客さんに対して「ここで知ってくれたんだな」っていうのが見えてた気がするんですよ。でも、1000人になるとわからなくなって「本当に観たいと思ってくれる人はどれくらいいるんだろう?」とか「次は来てくれないんじゃないか」って考えてしまって(笑)。なんて言うのかな、うまくいってたとしても、どこかで「でも最後はきっとダメだろうな」って思っていたんですよ。実際、そういうことも多かったから、先回りして「ダメでもしょうがない」っていう前提で動いてしまう。そうすれば、うまくいかなかったときに傷付かないで済むし、ショックも少ないじゃないですか。
──まあ、なかなか結果が出なかったそれまでの経験も影響してるかもしれないし……。
そうですよね(笑)。でも、2008年に1万人規模のコンサートをやって(大阪城ホールで行われた初のアリーナコンサート「1万人のピース」)、そこでようやく「自分の音楽を認めてあげよう」という気持ちになれたんです。これだけの人が来てくれるということは、自分の音楽に何かがあるんだろうな、と。「楽しかった」「いい経験ができた」と思えば次も来てくれるだろうし、「ちょっと違ったな」と思えばおそらく次は来てくれない。それは音楽に詳しい人もそうでない人も同じなんですよね。
歌詞もメロディも、答えはひとつじゃない
──2007年には「NHK紅白歌合戦」にも出演し、アリーナクラスのライブも経験したあとも、地道なライブ活動でお客さんをつかんでいくというスタンスは変わらなかった?
そこは変わりませんが、新しい挑戦もしてましたね。それまでは自分に興味を持ってくれている人、その近くにいる人に向けて届けようとしていたわけですが、もっと広く自分の作品を伝えるための環境を作っていただいたり、メディアとより積極的に関わっていくっていうことにも挑戦して。ちょうど今のレーベルに移った時期ですね。楽曲で言うと「いつか君に追い風が」「明日に咲く花」「世界中のアンサー」がそうなんですけどね。
──より大きなポピュラリティの獲得を目指した、と。
正解はわからないし、いつも手探りですけどね。これを説明するのは難しいんですけど、音楽活動をしていく上で、何を分母にするか?ということだと思うんですよ。「ひとりだけでやる」のと、「一緒に楽曲を作る人、それをお客さんに届けてくれる人を含めてひとつの母体として考える」のでは、ずいぶん違いますから。何人かで一緒にやっていく場合、そのときの環境、周りの人たちとの関係によって、進んでいく方向も変わってくるんですよね。楽曲を作っていると歌詞もメロディも、答えはひとつじゃないんだなっていつも思うんですよ。行き先は海でも山でもいい。その中でみんなが力を発揮できればいいと思うし、もちろん自分自身もしっかり力を発揮したいっていう。楽曲にウソはないんだけど、工夫はたくさんあるっていう感じなのかな。
──すべては人との関係性の中で動いていく。
ええ。人生もそうですよね(笑)。
当たり前の暮らしの中にある言葉を大事にしたい
──ただ、音楽的な軸は全然ブレてないんですよね。ギターを中心としたシンプルなバンドサウンドだったり、歌を伝えることに重きを置いたアレンジだったり。ベストにはコブクロの小渕健太郎さんとのコラボ曲「三つ葉のクローバー」も収録されてますが、それ以外は企画的な楽曲もないですよね。
そうなんですよね。縁があればいろいろやってみたいんですけど、僕自身がそんなに器用なタイプではないし、対応できないこともあって。あんまり無理なことをやろうとしても、結局プラマイゼロになるような気もするし。音楽に関しても、確かに味付けはシンプルですよね。変わったスパイスを使うんじゃなくて、近所のスーパーに売ってる食材で作るというか(笑)。そういう音楽だなとは思います。
──それは「市井の人々のための音楽を作りたい」ということでもあるんでしょうか?
一緒にやってるプロデューサーの須藤晃さんともたまに話すんですが、僕らは「月に行って戻ってきました」みたいな曲を作ってるわけではなくて、あくまでもごく普通の世界を舞台にした曲を作ってるんですよね。でも、よく考えてみると“普通”ってそれぞれ違うし、1人ひとりの人生は本当にドラマチックじゃないですか。ストーリーに富んでいるし、言ってみれば過激な世界ですよね。インターネットを通してファンの人たちの声を聞いていても、皆さん、本当にいろんなことがあるんですよね。僕と同じ40代の方も多いんですが、家のこと、仕事のこと、子供のこと、親の病気のことなど、みんな問題を抱えていて。そこにはまさに喜怒哀楽が存在しているし、そんなことの1つひとつが曲のテーマになったりするんですよ。
──人生を知れば知るほど、楽曲の世界も豊かになりそうですよね。
いつの頃からか、変わった言葉やエキセントリックな言葉でビックリさせるんじゃなくて、当たり前の暮らしの中にある言葉を大事にしたいと思うようになったんです。例えば「ありがとう」にしても、言葉自体は記号みたいなものだと思うんですよ。でも「誰が、いつ、どんなときに、どんなふうに、誰に対して」ということを描くことで、使い古された言葉がちゃんと意味を持つ。そういう曲の作り方ができたら、すごくいいだろうなって思ってますね。
──今回のベストアルバム以降のテーマになりそうですね、それは。
そうですね。40代になる前は「青春時代が遠くなっていく」というのがひとつのテーマだったんです。30代を挟んで、20代の日々が壁の向こうに行ってしまう。もう若くないんだっていう。そこからさらに時間が経って、そのうちにアラフィフの段階に入ってくるわけですけど、そこから見えることも歌にしてみたいなって思いますね。ロックを聴いて育った人たちもみんな大人になったし、最近の60歳くらいの方って若々しいじゃないですか。そういう人たちに向けた音楽があってもいいんじゃないかなって。最近ロッド・スチュワートの新譜を聴いたんですけど、基本的なところは変わってないですからね。そういうふうに自然にやっていけたらいいと思うし。
──楽しみにしています。決して順風満帆ではなかったかもしれないけど、馬場さんの音楽人生はなかなか幸せですよね……?
こうやって活動を続けられてますからね。それはホントにありがたいなって思います。ほら、何事も晩年が楽しいほうがいいじゃないですか(笑)。そういう解釈で、これからも続けていきたいですね。あとはときどき、サンタクロースが贈り物を持ってきてくれたらいいんですけどね(笑)。
- オールタイムベストアルバム「BABA TOSHIHIDE ALL TIME BEST 1996-2013 ~ロードショーのあのメロディ」/ 2013年5月15日発売 / Warner Music Japan
- 初回限定盤[CD2枚組+DVD] 3990円 / WPZL-30606~8
- 初回限定盤[CD2枚組+DVD] 3990円 / WPZL-30606~8
- 通常盤 [CD2枚組] 3465円 / WPCL-11411~2
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CD収録曲THEATER1 ROAD MOVIE
- スタートライン -Album version-
- いつか君に追い風が
- 君の中の少年
- ボーイズ・オン・ザ・ラン -2002 Version-
- 向かい風は未来からの風
- 青春ラジオ
- スニーカードリーマー
- オセロゲーム -2013 Version-
- 平凡 -Edit Version-
- 悲しみよ、明日の星になれ
- 君はレースの途中のランナー -Single version-
- 働楽 ~ドウラク
- 勝利の風
- 弱い虫
THEATER2 LOVE STORY
- ただ君を待つ
- 一瞬のトワイライト
- 三つ葉のクローバー ~ババコブ(馬場俊英 × 小渕健太郎)
- 今日も君が好き -Album version-
- 小さな頃のように
- 世界中のアンサー -Single version-
- 明日の旅人 ~Live at 大阪城野音
2010.06.27~ - 君がくれた未来
- 二十年後の恋
- 鴨川
- 待ち合わせ
- 明日に咲く花
- 遠くで 近くで
- ロードショーのあのメロディ -2013 Version-
初回限定盤DVD収録内容THEATER3 OUTTAKES
「BABA TOSHIHIDE ALL TIME OUTTAKES 1996-2013 ~ダンボールの中のあのメロディ」
馬場俊英が秘蔵デモテープを聴きながら17年間の音楽生活を振り返り、当時の楽曲制作への思いや今だから語れるエピソードを自ら解説!
馬場俊英(ばばとしひで)
1967年埼玉県生まれの男性シンガーソングライター。1996年にメジャーデビューし、2001年より自主レーベルでの活動に移行。ライブ活動を中心とした地道な活動が実を結び、2005年に再びメジャーシーンに復帰する。2007年にはNHK紅白歌合戦に出場し、「スタートライン ~新しい風」を歌唱。デビュー15周年を迎えた2011年、音楽プロデューサーの須藤晃と出会い、タッグを組んで制作活動をスタートさせる。2013年5月には、キャリア初のオールタイムベストアルバム「BABA TOSHIHIDE ALL TIME BEST 1996-2013 ~ロードショーのあのメロディ」をリリースした。