ナタリー PowerPush - AZUMA HITOMI

渋谷慶一郎と徹底対談「私はどうすれば売れるのか」

AZUMA HITOMI×渋谷慶一郎対談

アブストラクトなリミックスは現状やる意味がない

AZUMA 渋谷さんのリミックスっていうと、ピアノ演奏かコンピュータのノイズかのどっちかだろうと予想してたんですけど、今回の「ハリネズミ」は4つ打ちで踊らせる感じになっててビックリしました。

インタビュー風景

渋谷 最近リミックスをすることが多いから、リミックスの意義について落ち着いて考えてみたんですよ。普段マジメに考えたりしないんだけど。で、現状、アブストラクトなリミックスってやる意味があまりないという結論に落ち着いた。というのも、それだと僕のファンが僕のリミックス1曲のためだけにCDを買うか、そのアーティストのファンが聴いても「よくわかんないのが入ってるな」って飛ばすだけという「棲み分け」を強化することにしかならないのね。それに比べると、原曲を活かしつつトラックを踊れるものに変えるというほうが自分にとっても新鮮だし、まあほとんどの人が聴いてられるし(笑)。あと、最近やってるATAK Dance Hallみたいなクラブでのライブでも変型して使えるし、いいことばっかりなんですね。

──ビートが4つ打ちなのも新鮮でしたが、歌メロを丸ごと活かしたことが意外でした。

渋谷 最近やったリミックスは全部活かしてるんだよね。今回もコードはちょっと変えてるけど歌メロはそのまま使って、原曲が持ってるエモーショナルな部分を、ちょっとケミカルな毒がある感じにしてみた。

AZUMA なんかワルな感じがしますよね(笑)。荒廃したビルの前に佇むみたいな絵が浮かびます。

音楽は5秒つまらなかったらアウト

渋谷 AZUMAさんって打ち込みで作ってるんでしょ。楽譜とかは使ってるの?

AZUMA 全く使ってないです。小さい頃にエレクトーンを習ってたので何が書いてあるのかくらいはわかりますけど、自分では全然書けないし、読むのもあんまり得意じゃないです。

──あのコード感を聴いたらそういう感じはしないですけどね。

渋谷 そうなんだよね! 作曲の素養がある感じだよね。

インタビュー風景

AZUMA コードに凝るのはちっちゃい頃から好きだったんです。でもそこにあんまり甘え過ぎると、ただのドミソでいいのに余計な音を入れちゃって、そのままの曲の良さがダメになっちゃう。

渋谷 はっきり言ってブチ壊しだよね(笑)。メジャー7thの安易な平行和音とかさ、ホント嫌い(笑)。

AZUMA うふふ(笑)。なんかちょっとイイ感じに聴こえちゃうから?

渋谷 音楽が薄まるから。僕もポップスのプロデュースやるときには、ギターがテンションの音にかかってるとメロディの印象が弱くなるから、テンションの音を外してフレーズ作ってくれってよく言いますよ。だから僕がディレクションしたほうが和音は簡単になる。

──意外です。

渋谷 特に歌モノに関してはなるべくシンプルなほうがいいと思う。AZUMAさんの「ハリネズミ」も、僕はリミックスするときにもっと下世話なというか、いわゆる泣ける的なコード進行に変えちゃったの。

AZUMA そういえば、前に渋谷さんがトークショーで「感動できる歌って言うけど、それは歌が泣けるわけじゃなくて、感動できる瞬間が集まってるだけだ」っておっしゃってて。それを聞いてすごく納得したんです。聴く人は細かいタイミングの積み重ねでグッとくるんですよね。

渋谷 音楽の勝負どころはそこだよね。CD屋で試聴機で使ってる人を見てるとさ、5秒くらいでヘッドフォン外す人いるじゃん。それは瞬間的につまんないって感じてるわけで。1分間つまらない曲は1分経つ前に停止ボタンを押される。だからその瞬間瞬間が面白くないと。情報密度の緩急も含めてずっと面白い瞬間が続いてないと、聴き捨てられるっていう危機感がある。

AZUMA 例えばライブペインティングだと「何もないところから時間が経つごとに生まれていく、その過程が作品だ」みたいなことが言えますけど、音楽では難しいですよね。

渋谷 そう! だから「サビの前がつまんなくても、それはサビの良さを際立たせるためにあえて平坦にしてるんです」とかいう良識的なポップスの人がいるけど、本当にバカだと思う。そんなもん誰も聴かないし(笑)。

──昔だったら通用したのかもしれないですけどね。今はつまらないと思った瞬間にワンクリックで曲を飛ばせるし。

渋谷 昔は良かったのかもしれないけど、今は選択肢がありすぎる。だから5秒つまらなかったらもうアウトってすごく意識してるんだけど、でもそうやって考えた結果どんどん音が増えていくのも良くないから、そのサジ加減が一番難しいね。音が増え過ぎると今度は繰り返し聴けないから。

AZUMA 複雑で良いことは何もないなって私も思います。人の耳が同時に聴ける音は結局1個だけなんじゃないかって気がしてて。私の場合はあくまで歌を聴かせるのが目的なので、例えば「ここのベースがめちゃめちゃカッコいいんだよ」って思っても、歌とのバランスを考えちゃいますね。

エレクトロニックな歌モノで大ヒットした例は少ない

──AZUMAさんがこれから売れるためにはどうしたらいいと思いますか? というか、そもそも売れるべきですか?

インタビュー風景

渋谷 絶対売れるべきでしょ! 僕みたいに自分でほとんどできる音楽家は別に売れなくてもいいのよ。でもボーカリストの場合、売れないと周りで仕事してる人間がみんな不幸になっていくから(笑)。だから僕、アレンジャーやってたときもボーカル曲に関してはすごくシビアだった。「ここでF#マイナーの9thを入れると、5万枚売り上げ減るけどカッコいいです。でもF#の9th外せば、ちょっとカッコ悪いけど売れます。どっちにしますか?」って具体的に訊いてたもん。

──バッキングのコード進行がちょっと変わるだけで、そんなに売り上げが変わるもんなんですか?

渋谷 絶対変わる! それで「F#マイナー入れてください」って言われて、ホントに売れなかったもんその曲(笑)。

──へえー!

渋谷 マクドナルドでその曲が流れてきたときに、なんだかわからないなって思ったんですよね。自分が手がけた曲なのに。スタジオで聴いてるぶんには確かにカッコいいんだけど、日常の中で流れたときに耳に引っかからない。もう音楽として良いか悪いかじゃなくて、ボーカルのあるポップスっていうのはそういう世界なんだよね。そこで生きてくわけだから売れないとダメだよ。AZUMAさんの場合だと、具体的にはドラムの音をどうするかかな。

AZUMA 生ドラムもアリだと思いますか? その上にピコピコが乗る感じですか?

渋谷 っていうか一番売れる音楽は、ギターもベースも使ってる生バンドで、シンセもちょっと控えめに鳴ってるのなんだけど、そこは競争がすごく激しい。

──生バンドが良いのはどういう部分ですか?

渋谷 例えば音圧とか。音圧って音域のレンジによるところが大きいんだけど、ギター、ドラム、ベースっていうのはオーケストラみたいに倍音構成がよくできてるから、生バンドはすごく音域が稼げるんだよね。とはいえ、最近はソフトシンセもかなり音が良くなってきてるけど。

インタビュー風景

AZUMA 私は今のところ歌以外は生音を使ってないんですけど、いつかバンド編成でやるのが理想なんです(笑)。

渋谷 でもバンドってリスクが高まるんだよね。売れないもの一発出すと雰囲気が如実に悪くなってったり。あと、技術がついていかなくて、実際のレコーディングには参加しないでスタジオで延々クロスワードパズルやってる奴が出てきたりするんだよ(笑)。

AZUMA あー(笑)。

渋谷 でも日本って、エレクトロニックな音楽のシーンは盛り上がってるけど、それで歌モノをやって大ヒットした例って少ないよね。例えばダブステップで歌って大ヒットっていうのもあり得ると思うんだけど。歌謡曲でダブステップって、小泉今日子さんの「木枯らしに抱かれて」くらいしか思い浮かばない(笑)。あのタイコはダブステップでしょ(笑)。

AZUMA Perfumeはそこに当てはまりませんか?

渋谷 ああ、Perfumeはエレクトロでヒットしたよね。あれは歌謡曲の流れというよりクラブミュージックの範疇にあるもので、ポップスとはまたちょっと違う感じがするけど。あと最近はLADY GAGAみたいなことやって失敗していく人をよく見かけるけどね(笑)。

ニューシングル「きらきら」 / 2011年8月10日発売 / 3000円(税込) / EPICレコードジャパン

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  • 初回限定盤[CD+DVD] / 1600円(税込) / ESCL-3712~3 / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤[CD] / 1223円(税込) /ESCL-3714 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. きらきら
  2. ヒーロー
  3. ハリネズミ -DJ JIMIHENDRIXXX(a.k.a. Keiichiro Shibuya)Remix-
AZUMA HITOMI(あづまひとみ)

1988年東京生まれのシンガーソングライター / サウンドクリエイター。小学校高学年より曲作りを始め、中学生でデスクトップミュージック制作を開始。大学進学後にライブを中心とした本格的な音楽活動をスタートさせる。2010年には都市型フェス「KAIKOO POPWAVE FESTIVAL'10」に出演。同年12月にネットレーベル「マルチネ・レコード」より初の配信音源をリリース。2011年3月、フジテレビ系アニメ「フラクタル」の主題歌「ハリネズミ」でメジャーデビューを果たした。2011年8月には2ndシングル「きらきら」をリリース。

渋谷慶一郎

渋谷慶一郎(しぶやけいいちろう)

音楽家。東京芸術大学作曲科卒業。2002年に音楽レーベルATAKを設立。国内外の先鋭的な電子音響作品をCDリリースするだけではなく、多様なクリエイターを擁し、精力的な活動を展開する。2009年、初のピアノソロアルバム「ATAK015 for maria」を発表。2010年には「アワーミュージック 相対性理論+渋谷慶一郎」を発表し、TBSドラマ「Spec」の音楽を担当。2011年の夏にAZUMA HITOMI、cradle orchestra、COALTAR OF THE DEEPERS(feat. 堀江由衣)のリミックスをDJ JIMIHENDRIXXX名義で手がける。ATAK Dance Hallセットで8月に「FREEDOMMUNE 0<ZERO>」、9月にTAICOCLUBに出演。