ナタリー PowerPush - AZUMA HITOMI

渋谷慶一郎と徹底対談「私はどうすれば売れるのか」

ずっとテクノを続けていこうとは思ってない

──AZUMAさんの楽曲はサウンド的には完全にダンスミュージックなんですが、どことなくシティポップを聴いているような感覚があったんですよ。そうしたら好きなアーティストが八神純子だって聞いて「ああ、なるほどなあ」と思って。

歌謡曲がすっごい好きなんです! 当時のアイドルの歌い方がすごくかわいいなと思ってて……、例えば(山口)百恵ちゃんとかの、フリに余計な動きが一切なくてまっすぐ飛ばす感じ。私もライブのときに、園まりの「瞬きをしない具合」を参考にしてますね。目が乾いちゃってウルウルになってくるんですよ。そうすると迫力が出るんです!

──ストレートに歌謡曲をやるのではなく、そこにクラブミュージック的な要素を入れたのはどうしてですか?

ライブのことを考えたときに、踊れるっていうのはすごく大事なことだと思うんです。私はほかの人の音楽を聴いていても、腰に来る感じっていうか、フィジカルな部分を楽しんでいるので。

──ちなみにクラブミュージックだとどんな曲が好きなんですか?

インタビュー風景

実はあまり詳しくないので、そう訊かれると困るんですけど……。小さなころに「ディスコ・ヒッツ」みたいなCDがうちにあって、それはよく聴いてました。私の中ではダンスミュージックといえば(EARTH, WIND & FIREの)「宇宙のファンタジー」とかですかね。

──AZUMAさん自身がダンストラックを作っているのに、自分ではそういう音楽をあまり聴かない?

ダンスミュージックは自分のルーツっていうより、ライブで目立つためにどうするかっていう手段なので。弾き語り女子との差別化を考えて取り入れたっていう感じなんです。もちろんフィジカルに人を動かすことの素晴らしさも感じているので、ダンスミュージックを徹底してやってみたいとも思うんですけど。私の中では歌謡曲がメインだと思っているから、とりあえず今は歌を第一に考えてます。

──そのお話はちょっと意外でした。

あと私、もともとHEATWAVEが大好きで。

──それもかなり意外ですね(笑)。

あはは(笑)。私の曲のアレンジを手伝ってもらってる細海魚さんが、HEATWAVEの曲をテクノアレンジした作品をリリースしてるんです。HEATWAVEは生演奏のロックバンドだし、電子音楽とは全く離れてると思ってたのに、エレクトロが加わることですごくフィジカルな感動があって。そういう体で感じる感動っていうものも、歌と同じように信じていきたいなって思ったんです。

──HEATWAVEみたいに、自分でバンドを組もうとは思わなかったんですか?

宅録だと1人で全部できますからね。私が曲を作り始めたきっかけは「自分が歌いたいから」じゃなくて「曲そのものを作りたい」だったんです。それが形になることが最優先だったから、中学生のときにカセットMTRにエレクトーンの音を重ね始めて、そのままここまで来ちゃった感じですね。バンドもちょっとだけやっていたこともあるんですけど、「ちょっと違うと思う」とか言われてみんな離れていっちゃうんですよ(笑)。

──あはは(笑)。

今は1人でいろんな機材を操ってライブしてますけど、いつかはやっぱりバンドでやりたいって気持ちがあって。イコライザーがどうのとかコンプがどうのとか、そういうことをやってるのは、いつかバンドとしてデビューして、エンジニアさんに「もっとこうしてほしい」ってはっきり言えるようになるためで(笑)。いろんな楽器のことを知ったり、歌のレベルを上げるのも、いつかバンドを組んだときのためという気持ちがありますね。ずっとテクノを続けていこうとは思ってないです。

どこかのシーンに馴染んじゃってる暇はない

──AZUMAさんの曲を聴いて「すごくいいな!」と思ったんですが、どこが良いのかうまく言語化できないというか、ストレートな褒め言葉が思い浮かばなかったんですよ。もちろん歌詞も曲もアレンジも良いんだけど、でもそこじゃない気がするんだよなあ、って思ってて。

それ、うれしいです! 私は「なんかいいね」って感覚を大事にしてて、「理由はわからないけど聴いた瞬間にピンとくる」を目指してるんです。

──僕はまさにAZUMAさんの思惑どおりに感じたんですね(笑)。

そのためには人と同じことをやってもしょうがないですからね。ライブのときにステージにたくさんの楽器を並べてるのも、もちろん曲をうまく伝えるために必要だからやってるんですが、初めてライブを観たお客さんが第一印象で「なんだこれ?」って反応してくれるのを狙ってる部分もあります。

──そもそもAZUMAさんの存在自体、つかみどころがないですしね(笑)。どこのシーンに属している人なのかもわかんないし。

インタビュー風景

そうですね、わざとわからないようにしてます、なーんて(笑)。

──例えば、ネットレーベルのマルチネ・レコードから作品を発表しているけど、マルチネっぽい人という印象もないですよね。彼らと世代が近くて、同じように中高生くらいからDTMを続けてるとか、バックグラウンドの共通点はあるかもしれないけど。

よく「居場所がないね」って言われるんですけど、褒め言葉だと思ってます(笑)。例えば私のことを「マルチネ周辺の人」とか「『フラクタル』の主題歌を歌ったアニソンの人」みたいに覚えててくれている人もいると思うんですけど、そういうところに馴染んじゃってる暇はないと思うんですよね(笑)。

──わはは(笑)。

メインストリームがどこにあるのか、今はわからないじゃないですか。これまではテレビの中にメインストリームが存在してたのかもしれないけど、もうそんな時代でもなくなって。こうなると、今は何がメインストリームなのかを探しながら活動するのは手間だと思うんですよね。自分の音楽がメインストリームになるんだっていうくらいの気合でやってないとダメだって思ってます。

ニューシングル「きらきら」 / 2011年8月10日発売 / 3000円(税込) / EPICレコードジャパン

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  • 通常盤[CD] / 1223円(税込) /ESCL-3714 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. きらきら
  2. ヒーロー
  3. ハリネズミ -DJ JIMIHENDRIXXX(a.k.a. Keiichiro Shibuya)Remix-
AZUMA HITOMI(あづまひとみ)

1988年東京生まれのシンガーソングライター / サウンドクリエイター。小学校高学年より曲作りを始め、中学生でデスクトップミュージック制作を開始。大学進学後にライブを中心とした本格的な音楽活動をスタートさせる。2010年には都市型フェス「KAIKOO POPWAVE FESTIVAL'10」に出演。同年12月にネットレーベル「マルチネ・レコード」より初の配信音源をリリース。2011年3月、フジテレビ系アニメ「フラクタル」の主題歌「ハリネズミ」でメジャーデビューを果たした。2011年8月には2ndシングル「きらきら」をリリース。

渋谷慶一郎

渋谷慶一郎(しぶやけいいちろう)

音楽家。東京芸術大学作曲科卒業。2002年に音楽レーベルATAKを設立。国内外の先鋭的な電子音響作品をCDリリースするだけではなく、多様なクリエイターを擁し、精力的な活動を展開する。2009年、初のピアノソロアルバム「ATAK015 for maria」を発表。2010年には「アワーミュージック 相対性理論+渋谷慶一郎」を発表し、TBSドラマ「Spec」の音楽を担当。2011年の夏にAZUMA HITOMI、cradle orchestra、COALTAR OF THE DEEPERS(feat. 堀江由衣)のリミックスをDJ JIMIHENDRIXXX名義で手がける。ATAK Dance Hallセットで8月に「FREEDOMMUNE 0<ZERO>」、9月にTAICOCLUBに出演。