「VINTAGE VIOLENCE~鮎川 誠GUITAR WORKS」特集|ロックンローラー鮎川誠の魅力を徹底解説 (2/2)

「VINTAGE VIOLENCE~鮎川 誠GUITAR WORKS」DISC 1解説(後編)

09. VINTAGE VIOLENCE / THE ROKKETS
10. DYNAMITE / THE ROKKETS
11. BLACK SNAKE / THE ROKKETS

いずれもシーナが産休中にシーナ抜きのトリオとして活動していたTHE ROKKETS唯一のアルバム「ROKKET SIZE」(1984年3月)から。サンハウスの再結成プロジェクトと並行して制作された。「VINTAGE VIOLENCE」はこのコンピレーションのタイトルにもなった名曲で、もともとサンハウス再結成のために用意していたものの演奏されなかった曲だ。「ROKKET SIZE」にはほかに「ホラ吹きイナズマ」「ROCK IS ALRIGHT」など、後年まで歌い継がれた名曲も多く、シーナの華やかさとはひと味違う鮎川の無骨で男臭いボーカルの魅力もあって、いまだに彼の最高傑作として挙げる向きは多い。アルバムは全曲柴山作詞、鮎川作曲。

12. 火の鳥 / 泉谷しげる

1980年代はやや低迷するもビクターに移籍してから傑作「吠えるバラッド」(1988年1月)で見事に復活した泉谷しげる(1948-)。彼が過去の楽曲を当時のバンドLOSERとリメイクしたアルバム「IZUMIYA・SELF COVERS」(1988年12月)から。1974年のアルバム「黄金狂時代」収録曲の再演だが、オリジナルよりはるかにアグレッシブでハードなサウンドになっていて圧巻。村上“ポンタ”秀一(1951-2021)、仲井戸“CHABO”麗市(1950-)、吉田健(1949-)、下山淳(1959-)というLOSERのメンバーに鮎川という当時最強とも言えるメンツの演奏で、SION(1960-)もコーラスで参加。仲井戸、下山、鮎川によるトリプルギターもド迫力だ。泉谷が一番ロックをしていたころの演奏である。アルバムにはほかに山口冨士夫(1949-2013)や忌野清志郎(1951-2009)も参加している。

鮎川誠(撮影:西岡浩記)

鮎川誠(撮影:西岡浩記)

13. RUMOUR / 鮎川誠
14. DOBUNEZUMI / 鮎川誠
15. CATFISH / 鮎川誠

生涯の友となった元Dr. Feelgoodのウィルコ・ジョンソン(1947-2022)との共演盤から(「RUMOUR」「DOBUNEZUMI」は1993年6月発表の「London Session #1」、「CATFISH」は1993年11月発表の「London Session #2」収録)。アルバムはブルースカバーからThe Ronettes、Dr. Feelgood、ジーン・ヴィンセント(1935-1971)、リンク・レイ(1929-2005)までと幅広いが、この企画盤にはいずれもサンハウス時代の楽曲が選ばれ、鮎川の楽曲の中でも特にブルース色の濃い曲が取り上げられている。「RUMOUR」は「あとのまつり」というサブタイトルが付いている。サンハウスでは未発表のままで終わり、シナロケの1stアルバム「#1」にも収録しようとしたが実現せず、ここでやっとお披露目となった。ハウリン・ウルフ(1910-1976)やFleetwood Mac(もちろんピーター・グリーン時代)をヒントに作られた曲。「DOBUNEZUMI」はサンハウスのアルバム「仁輪加」(1976年)に柴山が歌ったバージョンが収められている。この曲はボ・ディドリー・ビートがポイントだが、Dr. Feelgoodの「I Don't Mind」という似たリズムの曲があり、鮎川はウィルコにそれ風に弾いてくれとリクエストしたという。「Catfish」はサンハウスでは「なまずの唄」というタイトルで「有頂天」に収録された。マディ・ウォーターズ(1913-1983)あたりを想起させる泥臭いシカゴブルースの曲だ。いずれもバックは当時のウィルコのバンドメンバーを中心としており、ウィルコ・ジョンソン・バンドの演奏に鮎川がゲストで参加した、という雰囲気もある。張り詰めた真剣勝負というよりはリラックスしたセッション風のサウンドになっており、まるで両者が演奏するスタジオに居合わせたような臨場感が楽しい。

16. From Dusk Till Dawn / 佐山雅弘

ジャズピアニストで、RCサクセションのサポート経験もある佐山雅弘(1953-2018)が、沢田研二(1948-)やFLYING KIDSの浜崎貴司(1965-)といったゲストを迎えて作ったアルバム「a point of the globe」(1997年2月)に収録された曲。佐山の弾くラグタイム風のピアノに合わせ、珍しく鮎川はアコースティックギターを弾いている。もちろんこれも鮎川流のブルースアプローチである。セッションの現場にはシーナもいたようで、終了後に声が聞こえる。リラックスした味わい深い演奏だ。個人的には鮎川のこういうプレイをもっと聴きたかった。

17. Say Good Bye(赤バージョン) / イジワルケイ・オールスターズ

イジワルケイ・オールスターズとはテレビアニメ「おれたちイジワルケイ」のイメージアルバムのために企画されたプロジェクトで、九州のパンクバンド赤と黒のボーカリストTAKAこと岩口タカユキが音頭をとっている。この曲は「赤イジワルケイ」(2002年11月)というアルバムに収録されており、鮎川も参加。鮎川はアルバム全体のサウンドアドバイザーという肩書きでもあるようだ。冒頭から甲本ヒロト(1963-)、清春(1969-)という個性の強すぎるボーカリストが持ち味全開で歌っていて面白い。ほかにシーナ、チバユウスケ(1968-2023)、花田裕之(1960-)など、TAKAの人脈の豊富さを示すような豪華メンバーが順に歌っている。ギタリストの顔ぶれもすごい。

18. ロックンロール・ミューズ / 菊 feat. 鮎川誠、SHEENA & THE ROKKETS

2016年6月9日に69歳を迎えた菊こと柴山俊之が、誕生日に発表したアルバム「ROCK'N' ROLL MUSE」のタイトル曲。全曲柴山と鮎川の作詞曲で、サンハウスの曲の再演もある。バックはSHEENA & THE ROKKETSが務める。柴山と鮎川のゴツゴツとした尖りっぷりはすごい。とても当時古希を目前に控えた前期高齢者とは思えないエネルギーだ。やはりこの2人がそろうと、自然とそうなってしまうのだろう。

鮎川誠(撮影:石澤瑤祠)

鮎川誠(撮影:石澤瑤祠)

「VINTAGE VIOLENCE~鮎川 誠GUITAR WORKS」DISC 2解説

01. I'M FLASH "Consolation Prize"(ホラ吹きイナズマ) / 鮎川誠 & BLANKEY JET CITY

先行配信されて大きな話題を呼んだ曲。鮎川が「ROKKET SIZE」収録曲をBLANKEY JET CITYのメンバーとともに再演している。もともと「VINTAGE VIOLENCE」同様、サンハウス再結成のために用意していたものの演奏されなかった曲だ。このバージョンはアートディレクターの信藤三雄(1948-2023)が監督した映画「代官山物語」(1998年)の続編「代官山物語 2」のために1999年12月にレコーディングされたものの、映画自体がお蔵入りになって楽曲も未発表となっていた。鮎川とブランキーという座組は両方のジャケットデザインを手がけたことのある信藤のアイデアと思われる。ブランキーはこの曲をレコーディングした翌2000年にラストアルバム「Harlem Jets」を作って解散してしまうが、当時はまだ解散は決まっていなかったはず。こういう形で他アーティストと共演したりコラボしたりすることはめったになかったバンドなので、非常に貴重な録音と言える。ボーカルギターの浅井健一(1964-)が常々鮎川への尊敬の念を表明していたこともあり、ここでの彼らの演奏は鮎川と真っ向対峙するというより、バックアップに徹しているように聞こえる。

02. STIFF LIPS / 鮎川誠 & シーナ & 小山田圭吾リモデル

シナロケの結成25周年記念のベスト盤ボックス「25TH ANNIVERSARY DREAM BOX」(2003年7月)に収録予定だったものの、結果的に収録されず未発表のままだった音源。オリジナルは「真空パック」に収録されているが、これは単なるリミックスではなく、小山田圭吾(1969-)による大胆なアレンジを施した新録のリズムトラックをバックに鮎川がギターとボーカル、シーナがボーカル、そして小山田がベースというバンド形式でともに演奏したものではないかと推測される。「25TH ANNIVERSARY DREAM BOX」に収録されなかったのは、おそらく他収録曲とあまりに色合いが異なるからではないか。小山田のCorneliusは「POINT」(2002年10月)リリースの直後。「POINT」で大きく音楽性が変わった時期の演奏で、この時期は他者とこうした形で共演することはほとんどなかったので貴重。ベースを弾いているのも珍しい。

鮎川誠(撮影:石澤瑤祠)

鮎川誠(撮影:石澤瑤祠)

03. HIROSHIMA(LIVE) / ジョー山中 feat. 鮎川誠

2004年9月19日にCLUB CITTA'で行われたジョー山中(1946-2011)のライブ音源。映像は2006年12月6日にDVDとしてリリースされたものの、CD化は初めて。ジョーの60歳を記念してのライブで、ゴダイゴのミッキー吉野(1951-)などなじみのミュージシャンが集ったバンドに鮎川も加わり、ジョーのフラワー・トラベリン・バンド時代の代表曲を演奏している。これはフラワーの最終作「Make Up」(1973年)に収録された曲で、ジョーは晩年までこの曲をライブで必ず演奏していた。鮎川は彼にしては珍しく、東洋風の旋律のサイケデリックなギターを弾いているが、もちろんこうした一面も彼の音楽的経験として蓄積されてきたものだ。ジョーのボーカルは還暦を迎えても強力の一言。

04. White Room(LIVE) / SHEENA & THE ROKKETS with Char
05. ビールス カプセル(LIVE) / SHEENA & THE ROKKETS with Char

2015年4月7日に東京・下北沢GARDENで行われたシーナ追悼イベント「『シーナの日』#1 ~シーナに捧げるロックンロールの夜~」でのライブで、シナロケのほか仲井戸“CHABO”麗市、柴山俊之、花田裕之、浅井健一、永井隆(1950-)、金子マリ(1954-)といったゆかりのミュージシャンが2015年2月14日に逝去したシーナを見送った。本作に収録されているのはChar(1955-)が参加した2曲で、「White Room」は言わずと知れたCreamの大ヒット曲。最近では映画「ジョーカー」クライマックスの暴動の場面でドラマチックに使われたことが記憶に新しい。ボーカルはChar。

06. MY WAY(LIVE) / SHEENA & THE ROKKETS

2020年2月14日に福岡・LIVE HOUSE CBで行われた、シナロケのレア音源集「LIVE FOR TODAY!」のレコ発ライブから。ポール・アンカ(1941-)作詞、フランク・シナトラ(1915-1998)の歌唱で大ヒットしたスタンダードだが、パンク誕生以降のリスナーにはSex Pistolsのパンクカバー(シド・ヴィシャス[1957-1979]がボーカル)のほうが馴染み深いだろう。シナロケはシドバージョンを下敷きに演奏。まさにロックンロール道、ブルース道、レスポール道を脇目も振らずに歩いた鮎川の“我が道”がここに万感を込めて歌われる。

07. やらないか(LIVE) / SHEENA & THE ROKKETS

2022年5月2日に下北沢シャングリラで行われた鮎川の74歳のバースデイライブから。これもサンハウスの曲だが、やりたいことが思うようにやれなくて悩み、押し黙ってしまう若者の背中を押すような歌詞を74歳の鮎川が歌っている。その音源を今回あえてアルバムの最後に持ってきた意図を感じたい。サンハウスバージョンではハーモニカを柴山が吹いているが、ここでは鮎川の愛娘LUCY MiRRORが吹いている。アレンジはRoxy Musicの「Re-Make/Re-Model」を参考にしているのかもしれない。

鮎川誠(撮影:石澤瑤祠)

鮎川誠(撮影:石澤瑤祠)

プロフィール

鮎川誠(アユカワマコト)

1948年、福岡県久留米市生まれ。SHEENA & THE ROKKETSのバンマス、ギタリスト。1970年にロックバンド・サンハウスを結成し、リードギタリスト兼コンポーザーとして活動。1978年には妻・シーナとともにSHEENA & THE ROKKETSを結成。同年10月にシングル「涙のハイウェイ」でデビューし、「ユー・メイ・ドリーム」「ピンナップ・ベイビー・ブルース」「レモンティー」など数々の名曲を発表する。1981年にはアルバム「SHEENA&THE ROKKETS」でアメリカデビューも果たし、エルヴィス・コステロやRamonesともライブで競演。1981年にはソロアルバム「クール・ソロ」を発表した。音楽以外にモデルとして多くのテレビCMや広告に出演するなど、その独特の存在感で多くの人を惹きつけた。俳優としてNHK連続テレビ小説「ちゅらさん」、映画「ジャージの二人」などに出演。2007年公開の映画「ワルボロ」では映画音楽を手がけた。書籍「'60sロック自伝」「200CDロックンロール」「DOS/V ブルース」や、山川健一と共著による「ローリング・ストーンズが大好きな僕たち」など著作も発表した。2015年2月にシーナが子宮頸がんのため亡くなったあとも、オリジナルメンバーの奈良敏博(B)、川嶋一秀(Dr)とともにSHEENA & THE ROKKETSとして活動を継続。2023年1月に膵臓がんのため死去した。