Awesome City Clubインタビュー|ドラマ「モダンラブ・東京」主題歌で描く、さまざまな愛の形 (2/2)

日本人の感覚にフィットするように

──そうしたドラマの世界観を踏まえ、主題歌「Setting Sail ~ モダンラブ・東京 ~」はどのように作っていったのでしょうか。ゲイリー・クラークによるオリジナルの歌詞は、そのまま受け継いだのですか?

atagi 今回、僕らにオファーをくださった意味を自分たちなりに考えて、ローカライズといいますか、この曲の歌詞をどう料理したら自分たちの感覚にしっくりくるかをたくさん考えました。オリジナルの歌詞はかなり雄々しいんですよ。「大海原に向かって帆を立てて進んでいこう」みたいな、大陸的発想の歌詞世界なんですけど、日本人はもっと控えめじゃないですか。それで、“心の波間を旅してきた僕ら”みたいな表現を入れたりして。同じことを言っているようで、取り巻く環境というか前提にある世界観が大きく違っているから、できるだけ“日本味”にしたいと思いましたね。

──「さあまた、旅に出よう」というフレーズには、再出発の意味も含まれているのかなと思いました。

atagi 恋愛に限らず、家族とか愛を持って接する相手って、その都度その都度で確認作業というか、愛を確かめ合うポイントがきっとあると思うんです。この人のことが好きだな、大事だなと思えるかどうか。そういう、いわばチェックポイントの曲なんですよね、これは。

──確かに、どんな関係性も不変的なものなどあり得なくて、メンテナンスが大切なんですよね。

atagi そう思います。口にするかしないかはまた別の問題ですけど。

atagi

atagi

──この歌詞について、お二人はどう思いましたか?

モリシー オリジナルドラマが好きで、ずっとオリジナル曲を聴いていた自分にもまったく違和感なく響きました。洋楽の日本語カバーに関しては、個人的に得意じゃないものが多いんですけど(笑)。atagiの声だからというのもあるかもしれないですね。あまり日本人っぽくない声というか、ソウルフルな歌い方なので、そういうのも相まってすんなり聴けました。

PORIN やっぱり海外の方と日本人とでは感覚が違うところもあると思うんですけど、このカバーは日本人ならではの感性にフィットした楽曲に仕上がったなと思います。歌詞に使われている言葉も美しいですし、メロとのはまり具合もすごく気持ちいいので、自分でも気に入っていますね。「声に出して伝えるから」というフレーズが、歌っていて一番好きです。

──オリジナル曲ともっとも違うのは、やっぱりPORINさんのハモリが入ってくるところなのかなと。そこでAwesome City Clubらしい和声が加わるというか。

atagi ありがとうございます。そこはやっぱり、原曲の持っている雄々しさとの一番の違いでもある。これは今気付いたことですが、原曲は1人の精神世界というか、「さあ、俺はこれからまたお前と幸せになるため、大海原に漕ぎ出していくんだ」という決意表明の歌なんですよね。でも僕らのカバーはパートナーとの確認作業の歌になっていて。そこが自分の思う“日本人っぽさ”なのかもしれない。

──PORINさんと2人で歌うことで、そこがより強調されるのでしょうね。そしてモリシーさんのギターソロも聴きどころの1つです。

モリシー 後半で思いっきり出てきますね。

モリシー

モリシー

atagi 最後の最後に思う存分弾いてもらっています(笑)。こういう曲ってオーサムでは珍しいので、やれてよかったなと。ストリングスとの絡みもあって、カタルシスをボーカルではなくギターソロで迎えるというのも面白い。

──カバーだからこそオーサムの今のメンバーのバランスみたいなものが可視化されたような気がします。

atagi そうなっているとうれしいです。

ちゃんとそれぞれの幸せに行き着いてほしい

──11月2日には、ドラマのインスパイアソング「ユメ ユメ ユメ」もリリースされるとのことで。歌詞の中に出てくる「今すぐ抱きしめてよ いっそ未来ごと混ざってしまえばいい ただ片っぽの幸せでいいの 君とならそう思えるから」というフレーズが印象的でした。この“片っぽの幸せ”とは?

atagi 今の若い子たちって、「私には『両方の幸せ』なんてもったいない、あなたが幸せでいられればそれで充分」みたいに思っちゃうところがある気がしていて。それって相手への優しさというか、自己犠牲的な精神だと思うのだけど、本当はまるっと全部の幸せが欲しいのに、それを言えないいじらしさやもどかしさ、もっと言えば寂しさみたいなものを僕は感じてしまうんですよね。それを、この曲で表したかった。音楽的にも、感情のたかぶりみたいなものを直接的に出さないようにして。相手とうまく歩調を合わせながら、確認し合いながら進んでいく姿を描くよう意識しました。

PORIN この“片っぽの幸せ”は、ドラマで描かれているそれぞれの愛を的確に表現したフレーズだなと思いましたね。

──それを、イヤホンで片耳ずつ分け合って音楽を聴く姿と重ね合わせたわけですね。

atagi はい。そこはエピソード7のストーリーにインスパイアされた部分です。あの作品の余韻が残る終わり方というか、じんわりと温かくなっていく、その時間のかかり方も含めて自分たちの今の温度感に合っている気がしていて。今のオーサムは、みんながちゃんとそれぞれの幸せに行き着いてほしいと純粋に思い合っているし、そういう関係性で活動ができているのはすごく幸せだなと思っているんです。

──さて、2022年も残すところあと3カ月ですが、これからのオーサムの展望を最後に聞かせてもらえますか?

atagi 2022年は制作をすることがすごく多くて。作品としてみんなに「これを聴いてください」と言える機会があまりなかったのですが、今仕込んでいることは今後またいろいろ発表していけると思うので、楽しみに待っていてほしいです。ようやく有観客でのライブもできるようになってきたし、このまま年末までいいムードで進んでいけたらいいなと思っていますね。

モリシー やっぱり、ライブが戻ってきたのが何よりうれしかったですね。来年はどうだろうね。大晦日は「COUNTDOWN JAPAN」に出演することが発表されていますし、最後ははっちゃけたいですね(笑)。で、元日はコーヒースタンドに立つつもりっていう。

PORIN うわ、寝られないじゃん! 私はライブ後のお酒が本当においしくて、そういう日常が戻ってきたのが本当にうれしかったです。来年も引き続き、この感じでやっていけたらいいなと思っていますね。そして「モダンラブ・東京」の主題歌に抜擢していただけたので、これからは“東京一モダンなバンド”としてがんばっていきたいです。

モリシー おお! 素晴らしいまとめ方だ。

atagi やはりさすがですね、あなたは。

PORIN あははは!

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プロフィール

Awesome City Club(オーサムシティクラブ)

2013年に東京で結成された男女ツインボーカルの3人グループ。2021年公開の映画「花束みたいな恋をした」に出演し、インスパイアソング「勿忘」をリリースすると各配信サイトでのストリーミングは関連動画を含め10億回を突破した。同年12月には「第63回日本レコード大賞」で「勿忘」が優秀作品賞を受賞。さらに年末には「NHK紅白歌合戦」へ初出場を果たした。2022年3月に4thアルバム「Get Set」をリリース。夏には「SUMMER SONIC 2022」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2022」などさまざまな音楽フェスへの出演を果たした。10月にはドラマ「モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~」の主題歌「Setting Sail ~ モダンラブ・東京 ~」をリリースした。