キャラクターとリアルライブがリンクする次世代ガールズバンドプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」から生まれた5人組ヘヴィメタルバンド・Ave Mujica。2025年1月からは彼女たちにスポットを当てた新作テレビアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」が放送される予定だ。
音楽ナタリーではアニメの放送に先駆けて、Ave Mujicaの音楽にフィーチャーした特集を連載。本特集では、Ave Mujicaのほぼすべての楽曲の作詞を手がけるDiggy-MO'にインタビューを行った。10月2日にリリースされたAve Mujicaの最新ミニアルバム「ELEMENTS」では作曲も手がけており、本ミニアルバムの制作の話を通して、バンドの世界観を解き明かす。なおインタビューと併せて、Diggy-MO'によるミニアルバムの全曲解説も掲載する。
取材・文 / 杉岡祐樹
モチーフは“五大元素”
──最新ミニアルバム「ELEMENTS」の楽曲には、シェイクスピアの「テンペスト」がモチーフになっている曲もあるんですね。
おお! なんで知ってるんですか?(笑)
──歌詞の一部にとてもいい一節があって感動したので、調べていたらたどり着きました。そうしたコンセプトは、制作側からリクエストがあってのことだったのでしょうか?
そういうのは特にないんです。「ELEMENTS」に関して、プロデューサーさんから「五大元素をモチーフにしたい」という話はありましたけど、それくらいで。前回のシングル(2024年4月リリースの「素晴らしき世界 でも どこにもない場所」)のときも“破壊”や“創造”というように、いつもだいたいワンワードのみをいただく形なんですよ。「あとは任せます!」みたいな感じで信頼してもらえているので、自由にやりつつも、自分なりにいろいろな背景やルーツなどうまく関連性を作りながら、世界観の統一を図ってやっていっている感じです。
──Diggyさんは、これまでにもご自身の制作以外に、ほかのアーティストへの楽曲提供や、海外映画の日本語版制作など、多方面でいろいろと活動されてきていますが、今回このAve Mujicaというプロジェクトにはどのような経緯で参加されたのでしょうか?
もともとこのコンテンツには明るくなかったので、最初にオファーをいただいたときに、まずはプロデューサーさんからいろいろとお話を聞かせていただいたんです。その中で、それこそ僕のソロの作品の「PTOLEMY」(2017年に発表されたDiggy-MO'の4thアルバム「BEWITCHED」収録曲)や「GOD SONG」(2018年に発表されたDiggy-MO'のベストアルバム「DX - 10th Anniversary All This Time 2008-2018 -」収録曲)に代表されるような、「フィロソフィの強いアーティスティックな世界観を強く打ち出したい」というコンセプトがこのAve Mujicaにはあるというお話をされていて、そのうえで「作詞を担当してほしい」ということだったんですよ。そしてさらに、資料の中にあった中世ヨーロッパやゴシックという世界観も、僕がもともとすごく好きなものだったりしたので、自分の中に脈々とあるいろいろなものを投影できていくのであれば面白いかなと思ったんです。僕自身のパブリックイメージとしては、ラップやストリートカルチャーの印象が強いと思いますけど、僕の実質的な音楽のルーツはピアノやクラシックなので、ラップ系統のアーティスト像だけではない自分の側面とか、歌モノとしての作詞作曲や世界観、自分の持てるスキルなどを最大限に発揮してばっちりやっていくと、このプロジェクトにも楽しく貢献できるかなって。
──Diggyさんはデビュー当時からルーツの1つにQueenを挙げられていましたし、ロック要素を取り入れた楽曲も数多く存在していましたから、ファンの方は地続きに感じるところもあると思います。
確かにそういう理解もあるかもしれませんね。もちろんギャップで楽しんでくれるのも全然アリですし。自分はバンド世代で、ハードロックやヘヴィメタルは聴きまくっていた時期があったり、もちろんクラシックも根底にあります。でも究極を言ってしまうと、このAve Mujicaをやる際に、これはこれでハードロックかメタルかみたいなことも実はあまり考えていないんですよ。自分が今まで出してきた系統のラップやファンクも、そのジャンルの中だけでやっていないし、このAve Mujicaもロックやメタルの中だけでやっていない。だから“聴いていたり、やっていたりしたから馴染みがある”という見方も単純化しすぎで、結局、ジャンルで簡単に棲み分けなんてできないんですよね。全部一緒なんです、音楽は。自分の感覚の中では、その言い方が一番正しい感じがします。
1つのストーリーになった感じがあります
──「ELEMENTS」ではこれまでのAve Mujicaの楽曲と異なり、1曲を除いて作曲にもDiggyさんの名前がクレジットされています。
クレジットってひと口に言ってしまうと曖昧なんですが、いろいろグラデーションがあるというか。実は最初の「黒のバースデイ」のデモ段階から、遊び心で勝手にコーラスをつけて提出してみたり、歌詞を書くときに連動していくような必然的なアレンジも含め、自分のセッションとして、ちょっとしたアイデアみたいなものを盛り込みながら作っていたりしたんですよ。僕自身も最初は若干手探りだったんですが、結果、いろいろ気に入ってくださって、流れの中で自然と徐々にポイントが増えていった感じなんです。今では、もはやメロディメイキングやコーラスワークはマストになっていたり、ボーカルアレンジ全般については、けっこうこのバンドの売りの1つだとも自負していますね。そして、このAve Mujicaの実質的な楽曲のサウンドプロデュースとして、現在ではコンセプトメイキングとクオリティコントロールを一任されているというふうに役割ができていった感じです。なので、作詞は当然なんですけど、今は作曲やアレンジについてもけっこう細かく見ていて、責任を持って1曲1曲トータライズしているという形です。
──「ELEMENTS」の収録曲「Ether」には、2コーラス目のAメロにメロディもコードもがらりと変わるところがありますよね? あそこがめちゃくちゃ気持ちよくて。あそこって……。
おお、よくわかりますね! すごいなあ(笑)。そこは意図的にやりました。最初のデモは短調が続く形だったので、起伏をつけたくてメジャーコードで開ける感じに、2番のAパートはもうセクションごと全部提案しました。あと最後のパートも、繰り返して終わっていくんじゃなくて、3拍子に変えてドラマチックに。そこについてはリクエストを出して、改めてメロを考えたら、そのメロに合わせてギターソロを合わせてくれて。そうやって作家さんと投げ合って作っていきました。
──そういった「Ether」の最後のパートもそうですし、ほかには「Symbol I : △」の構成にもDiggyさんらしさを感じます。
「Symbol I : △」は、2番終わり以降はまったく新しいセクションを作って、最後のサビのコーラスワークまでつながっていくような緊張感やダイナミズムがある流れを構築しました。「5曲中、わりと全方位に強い楽曲を1つは作るべきだ」みたいな考えも自分の中にあって、そこに会場での合唱が想像できるようなパートもあったほうがいいなって思ったし、やっぱり何より、そのあとの「迎えにきたのね」からのサビのコーラスまでは特に気に入っていますね。ストーリー的には、その「Symbol I : △」で抗うところから始まって、「Ether」で総括していくような感じです。“五大元素”と聞いたときから、すでにだいたいのイメージは描けていたので、5曲を同時に作り始めたんですよ。この世界観をどう踏襲しながら各曲に割り振って、より説得力を持った広がりを見せるかを考えながら組み立てていく必要があったので。結果、「ELEMENTS」は全曲を通して1つのストーリーになった感じがありますね。
オファーを受けようと思った決定打は“彼女”の歌
──ドロリス(G, Vo)役の佐々木李子さんへのインタビューで印象的だったのが、彼女が持参していたノートで。それぞれの歌詞の解釈や、歌ううえでのポイントなど、膨大な情報量を書きつづっていました。
へえ、偉いなー! 彼女はすごく真摯な方という印象ですね。わざわざいろいろに質問もしてきてくださったり、とても熱心だなって。ちゃんと複雑な中身のある人で、すごくリスペクトしています。好きなことに好奇心があって、気遣いもあって、目指すところへのエネルギーも強いし、また処世術のようなものもちゃんとしていらっしゃって。ご本人はとても疲れるだろうなって思ったりするけど(笑)。でも、何よりこのオファーを受けようと思った決定打が彼女の歌だし、心から尽力したいと思える稀有な存在ですよね。やっぱり、僕は自分の経験もあってか、とりわけボーカリストにすごいこだわりがあるんですよ。理想が高いので欲張っちゃいますね(笑)。でも、彼女はそこにかなう方で、それは自分にとってはけっこう珍しいことですね。
──今回の取材に際して、佐々木さんの経歴を調べたり、発表してきた楽曲を聴いたりしていく中で“本気で音楽の表現を目指している人”という印象を受けました。
わかります。そういうことになりますよね。だからAve Mujicaのような音楽は、彼女の表現力をより高めてくれる可能性を感じますよね。「佐々木李子」というソロのアーティストで行く場合は、ここまでできあがった世界観でマニアックに展開しすぎてもまた違うとも思いますが、でもAve Mujicaの楽曲やそのプロセスというのは、確実に彼女をフックアップするというか。コンテンツの系譜とそのビジネスラインも含めた基盤で、その中で新しいことにも挑戦できて。そもそも今回のプロジェクト自体、僕のような音楽家を起用して、“アーティストが作っていくやり方でアプローチしていきたい”という趣旨があったり、僕にとっても、そういう考え方で企画できる人たちと陣営が組めているというのは、けっこう珍しいと思っているんですよね。そういう人たち特有のエネルギーって、何かあるじゃないですか(笑)。やっぱり大きなプロジェクトの中で改革的なことってすごく大変だから。僕の個人的な考え方としては、“すでにあるものにはもう価値がない”という角度もあるので、やはり何か新しい考え方ができるようなところに可能性を感じるんです。目先を取りに行くコスパのいいビジネスがどうしても時代的に求められる中で、そこで何かが見えないと次がないっていう現実も当然あるので難しいとは思うんですが。だからこういう一連のことって、本当に勇気と心意気の話になってきちゃうんです(笑)。
──「バンドリ!」シリーズという非常に大きなプロジェクトがDiggyさんを起用したことは素晴らしい選択だったと思います。
制作チームの皆さんが音楽にしっかり熱量を持っていらっしゃるということが、始めてみてわかったんですよね。やはりそこが一番共感できるところで、挑戦する意欲みたいなものを感じますね。皆さんいつもそういうお話をなさっていて。雑談の中の「面白いことやりましょうよ」みたいな話を、ちゃんと実現していきたいよねって。
──意欲があっても、実行できる人は本当にひと握りです。
ただ、今僕らはこうやってチームでいろいろに作っていますけど、しかしながら、作品にはまた違う要素もけっこう必要かなと思ったりもするんですよ。これは今やっていることだけに限った話ではないんですけどね。例えば、こういった作品やアーティストに対して、いろいろと洞察的に解像度を上げて語れる人、みたいな存在が然るべき立ち位置で出てきたりすると、それがどういう角度の話でもわりと面白くなったりする。僕は大それたことは言えないですが、客観的にいろいろなムーブメントに対してそう感じたりするので、そういう作用って面白いなっていうだけですけどね。作品と大衆認識の接続みたいなところで。
──それはある意味、「ファンの方たち以外でもコアにいろいろな認識ができうる」みたいな捉え方での“接続”ですか?
どのみち時間や年月がかかるものですね(笑)。人は情報に傾倒しながら認識を作っていくところも多分にあるので、そういったコントロール外の設定や仕組みのようなものってけっこう重要だし、とても大きな作用になってくるというか。で、ここが運次第みたいなところもあるように感じます(笑)。
──そういう意味では、特に2000年以降の日本の音楽史を振り返ったとき、Diggyさんもデビュー当時から話題性の中で称賛や批判の対象になるなど、いろいろな経験をされました。先ほどおっしゃったようなことは、そんな経験を踏まえたDiggyさんが、今、改めて感じていることなのでしょうか。
ああ、でもなんていうか……この話は、そういう類ではないんです。逆にそういうのは、みんなある程度好きなように楽しんでもらえばいいと思うんですが、なんかそういった類ではなくて。重要なのはやっぱり……洞察眼とともに話されている話かどうかなんですよね。いわゆる、もっと本質的なものでないと。だから批評的であったとしても、ただワチャワチャしたそれではないというか(笑)。本質的に語られていないものは風化するし、どのみちたいした意味は持たないんですよ。だからそういう盛り上がりは、普通に楽しむべきものとしてあっていいけど、本当の意味で作品との接続にはなっていかないんです。それこそ「ボヘミアン・ラプソディ」の映画以降、Queenもいろいろに語られて若年層にも少し届くようになりましたね。
──なるほど。そういうことについては、やはりご自身のさまざまな活動の中で、諦めたり、さらに思うところも多いという感じですか?
いや、特にそうでもないんですよ。むしろ僕はそういう意味でいうと恵まれていると思っています。でも、恐れ多いですね。それに、今の話はわりと実態を捉えづらい複雑な仕組みの話なので、いずれにせよ、そもそもいろんなことは望んでいないというか。今はこのAve Mujicaというプロジェクトに参加していて、そこに貢献したいというアングルがあるので、必然的に作用についてもみんなで考えたりするっていう話なだけで。それこそバンドの音がかっこよく響く方法を常々考えているし、歌詞についても、佐々木李子さんの言葉かのように聞こえてくることが大事だったりするので、そういう解像度でイメージを作って書いています。自分の紡ぐ言葉なんだけど、彼女がまとう言葉になるので。そのイメージの解像度を上げていけばいくほど、じゃあメロディや展開はこうだよねって話になってきて、曲単位でちゃんとやりとりが始まるみたいな。ある種クレジットの形はどうでもよくて、分業以外の手数も派生的に、正しくエスカレートさせて改めてモノ作りの面白さをみんなで体感していくような感じです。なので、チームのバランスみたいなものもすごく大事で、プロデューサーさんをはじめとする皆さんの核になるようなお話は聞かせていただくようにしていますね。
──このプロジェクトで、今後Diggyさんのエスカレートがさらに許されるような曲があったらいいなと思います。
これは何をするときでも同じなんですけど、結局いろいろな人間が集まってやっていることなので、ゆっくりでも、お互いを正しく知っていくことは何より大事になってきますよね。例えば、今こうしてチームのスタッフ皆さんで、この僕らのインタビューを聞いているみたいな状況も、けっこう面白くて重要だったりしますよね(笑)。で、わりとこういう1つひとつが、ナラティブを作っていくじゃないですか。そしてそういうものが少しずつできてくると、相手への解像度が上がっていって理解が深まる。つまりは許容範囲のレンジがそれぞれの中で広く取れてくるんですよね。そうやって何かが生まれて信頼関係が築かれていくと思うんです。人は結局は信頼し合えるかどうかだから、少しだけ踏み込んでいける土俵を作っていくのもすごく大事なんですよね。実は、現在僕がここまでで書いてきたAve Mujicaの楽曲は、まだ未発表のものも合わせてトータルで換算すると、かなりの曲数になってきているんですけど、それだけ書いて、今この地点なんです。だから時間がかかるし、むしろ時間をかけたほうがいい。ただ“2年間Ave Mujicaを仕事でやりました”というだけに終始してしまうと、それはもったいないことなんですよ。これまでにも、プロジェクトというものが進んでいくうえで、チームの皆さんの中にも、いちいち言えないいろいろなことはおそらくあって。その中にそれぞれ多元論的な思考プロセスみたいなものが必ずあったと思うんですよね。そのうえで結果、“決定的な次”というものが出てきていると思うんです。だから今、特に個人的に何かエスカレートさせて面白いことをやってみようということではなくて、まずはゆっくり深めていくのがすごく大事で、その先におのずと、でOKなんです。そういうのも全部ご縁なんですよ。
──なるほど。ということは現在制作中の曲もまだたくさんあるということですね。
アニメが来年に控えているので。
──やはりそういった楽曲は、アニメの内容と連動していくのですか?
もちろんその側面も当然考えてはいますが、そういうコンテンツの世界観に左右されない音楽そのものの独立性も、楽曲にとっては重要なんですよ。僕の考え方としては、この2つを両立していることが大事かな。そして個人的には、この独立性の重要度が、比重としてはとても大きくて。なぜかというと、のちにそういう前置きがないと語れない曲って、どうもこうも本質的ではないように感じるんです。アニメを観ている皆さんは作品に対するメモリーもともにある。一方で、曲から知った人たちにも、それはそれでちゃんと楽しんでもらえる。そこを理想として目指していますね。
──このプロジェクトに携わったことで、ご自身の中で変化した部分や影響を受けたところはありますか?
一番大切なことなんですけど、楽しくなってきた。楽しいって、やっぱり幸せじゃないですか。「ELEMENTS」の制作に入った段階でいよいよそんな感覚になったので、このプロジェクトに対して、そういう気持ちが芽生えてきたのは一番ハッピーなことですよね。お話ししてきたように、ここまでさまざまなプロセスを経て、楽曲制作もみんなでより細かく詰めていけるようになってきたし、「ELEMENTS」は、自分自身の現在のメッセージやいろいろな要素もたくさん投影できた作品なので、聴きながら何かを感じてもらえたらうれしいですね。