佐々木李子インタビュー|「BanG Dream!」異色のヘヴィメタルバンド、Ave Mujicaが放つ“闇の光” (2/2)

歌詞の海に深く飛び込んでいくような感覚

──このたびAve Mujicaの新作ミニアルバム「ELEMENTS」がリリースされました。これまで発表してきた2作が自己紹介的な作品だった一方で、今作は非常にコンセプチュアルな1枚です。

全5曲でAve Mujicaの無限の可能性を提示していて、Ave Mujicaを紐解いた楽曲たちだと思っています。それぞれの感情がある。それが1つに合わさってAve Mujicaになっているように、「ELEMENTS」の5曲はどれも欠けてはならないAve Mujicaの大切な要素を歌っています。それぞれの楽曲でバンドの個性がしっかり伝わると思うし、Ave Mujicaの既成概念を壊すきっかけになる作品になっていると思います。

──本作に限らず、Ave Mujicaの楽曲のほとんどの作詞を、Diggy-MO'さんが担当していることが大きなトピックになっています。

Diggyさんは音楽が大好きで、音楽を通してご自身の生き様を見せている方ですよね。とにかく唯一無二の世界を持っている。絶対に誰も真似できない、確固たる世界観があるというのが本当にすごいです。まさか自分がDiggyさんの楽曲を歌わせていただけるとは思っていなかったですし、とにかく私は歌で応えようと、いつも歌詞の海に深く飛び込んでいく感覚で歌っています。

──本作の収録曲ではありませんが、「Angles」という楽曲の「don't be serious」という歌詞が非常にDiggyさんらしいと感じていて。Ave Mujicaのようなダークな世界観のバンドの歌詞に「気楽にいこう」「マジになるなよ」という意の言葉を紡ぐのは面白いですね。

確かに「ここでこの言葉がくるんだ!」と驚くことがたくさんあります。私は歌う前に歌詞を手書きするノートをいつも持参していまして。言葉の意味を調べたり英語の意味を書き込んだり……。あと、Diggyさんはブレスの位置を指定してくださることがあって、最初はその意味を理解し切れていなかったんですけど、練習していくとその位置にブレスを入れることで泣いているように聞こえることに気付いたりするんですよ。例えば本作だと、「Symbol III : ▽」などがそれですね。ノートは自分のソロの楽曲でも必ず書くんですけど、ここまでの分量で書いたのはAve Mujicaが初めてです。Ave Mujicaのメンバーの情報やライブで気付いたことなども全部メモしていますね。

びっしりとメモが記された佐々木のノート。

びっしりとメモが記された佐々木のノート。

──先日Diggyさんと打ち合わせしたときに「佐々木さんは音楽が大好きだから、いろいろ聞けると思います」とおっしゃっていたのですが、このノートを見て納得しました。

Diggyさん、ありがとうございます……! ここまで作り上げていただいた世界観を、絶対に伝えたいという思いがあります。ただ、歌詞に正解はないというか、自分なりに解釈していくのもすごく面白いので、あまりDiggyさんに意味を聞きすぎないようにもしています。自分のイマジネーションを信じて、音楽に寄り添いながら歌う。そこで初めて気付くこともあるし、謎を解くような感覚で楽しみながら歌うときもありますね。

──「Symbol II : Air」のサビの歌い出しが「まだまだよ まだね まだまださ まだ」というふうに「まだ」の連続になっている部分も、非常にDiggyさんらしいと思います。もっと言葉を詰め込みたくなるところだけど、あえてシンプルで口ずさみやすい音の連続で、耳に気持ちいい歌にしている。

本当にそう思います。「言葉ってこんなに遊び心があって面白いんだ」って。この曲は世の中に飽き飽きしてる雰囲気がサビの1行目ですぐ伝わるし、虚しさとか飄々とした感じとか……。もっと楽曲を深掘りしていきたいですし、歌うにつれてどんどん理解できると思います。「Symbol II : Air」は初めて聴いたときにびっくりするリスナーの方もいると思いますし、実際メンバーもデモをいただいたときに驚いていたんです。でも、Ave Mujicaのエッセンスは忘れずに、よく見ると目は笑ってないというか、そういうところを意識しながら歌っていますね。

佐々木李子
佐々木李子

Ave Mujicaは何者にもなれる

──「Symbol III : ▽」の演奏はピアノとチェロのみで構成されています。

初めて聴いたときは、私もびっくりしました。この曲はオブリビオニス(豊川祥子 / Key)の演奏に乗せてドロリスが歌っていますが、“2人だけでやっている”という感覚はあんまりなくて、メンバー全員で演奏する1曲だと思っています。この曲をライブで初めて歌ったのは、7月の「Ave Mujica 2nd LIVE『Quaerere Lumina』」の愛知公演だったんですけど、歌いながらメンバーの顔が思い浮かんできて、泣いてしまったんですよね。2人で演奏していたけど、心の中にメンバーがいて、“みんなの1曲”なんだと強く感じられて……。

──一方で「Symbol I : △」や「Symbol IV : Earth」は、Ave Mujicaのパブリックイメージのヘビーなサウンドが基調になっていますが、これまでになく美しいメロディやコーラスワークも特徴的です。

この2曲は特に、祐天寺にゃむ(アモーリス / Dr)役の米澤茜のドラムが心臓の奥深くまで、脳が揺れるほど響いてきますね。演奏以外にも、メンバーのコーラスが複雑で驚きますし、クワイアのような美しさがAve Mujicaの繊細なところを表現してくれています。お互いがお互いを支え合いながら1つの世界を作っている感覚があって、このメンバーじゃなきゃできない曲です。

佐々木李子

──そして「Symbol」と冠された4曲の最後に、「Ether」という楽曲が収録されています。

「Symbol」シリーズのいろんな要素を含ませているような楽曲です。急に一筋の光が広がっていくような箇所があったりして、レコーディングのときもメンバーそれぞれの顔が頭に浮かんできて泣きそうになりながら歌った記憶があります。「知ってほしい 真実(ほんとう)の輝きを」と歌っているように、もしかしたら光と思ってないものが本当は光かもしれないし、闇の中でしか輝けない光が本当の光かもしれない。それを忘れてはいけないという歌詞も大好きです。今後のAve Mujicaの指針になるような曲だと思います。「Symbol」の4曲は地球上の要素をイメージした曲なのですが、「Ether」ではもう宇宙まで行けるぐらい自由になれる。壮大な無限の可能性を歌っている1曲だと思います。

──改めて、ミニアルバム「ELEMENTS」はどのような1枚になったと思いますか?

「楽曲を“作品”として届けていく」という礎になった、そんな作品だと思います。いろんな要素の楽曲があって、「Ave Mujicaは何者にもなれる」という意思表明、宣戦布告の1枚になっています! これからも常に皆さんの予想をいい意味で裏切り続けていきたいですし、Ave Mujicaの魅力に、より浸ってほしいです。プレッシャーもあるけど、それすらも糧にして、皆さんの予想を遥かに超える面白い仕掛けや思惑を持って、唯一無二の世界観を築き上げたいです。1月にスタートするアニメは、映画を観ているかのような感覚になる作品で。私は観ていてもう言葉が出なくなって、知らぬ間に涙が流れていました。今まで観たアニメの記憶が覆されるぐらいの衝撃がある作品だと思いますので、放送を楽しみに待っていてほしいです!

プロフィール

Ave Mujica(アヴェムジカ)

ガールズバンドプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」から生まれたドロリス(G, Vo / CV:佐々木李子)、モーティス(G / CV:渡瀬結月)、ティモリス(B / CV:岡田夢以)、アモーリス(Dr / CV:米澤茜)、オブリビオニス(Key / CV:高尾奏音)からなる5人組バンド。ヘヴィメタルを基調とした音楽性とゴシックな世界観を持つ。2023年6月に東京・中野サンプラザで初ライブ「Ave Mujica 0th LIVE『Primo die in scaena』」を開催。2024年1月に神奈川・横須賀芸術劇場で「Ave Mujica 1st LIVE『Perdere Omnia』」を実施し、6月から7月にかけて神奈川・神奈川県民ホールと愛知・愛知県芸術劇場 大ホールで2ndライブ「Ave Mujica 2nd LIVE『Quaerere Lumina』を行った。10月にミニアルバム「ELEMENTS」をリリース。仮面を身に着けて活動を行っており、バンドの全貌はいまだ謎に包まれている。