ナタリー PowerPush - 中孝介×伊東歌詞太郎
ジャンルの垣根超える異色デュエット対談
中孝介が日本の名曲群をカバーしたアルバム「ベストカバーズ~もっと日本。~」がリリースされる。新旧問わず、さまざまな楽曲を自身の色に染め上げる本作には、モーニング娘。OGの高橋愛をフィーチャーした「雨の降らない星では愛せないだろう?」や、河口恭吾をコーラスに迎えた「桜」など、オリジナル楽曲の歌唱者との豪華コラボ曲も収録。さらにはニコニコ動画などで人気を博す“ボカロ曲”のカバーにもトライし、卒業ソングの新たな定番として認知されている「桜ノ雨」ではネットを中心に活躍する歌い手・伊東歌詞太郎とのデュエットも披露している。
時代やジャンルの垣根を飛び越えた画期的カバーアルバムとなった本作のリリースを記念し、今回ナタリーでは異色のデュエットを実現させた中孝介と伊東歌詞太郎の対談を企画。ルーツもタイプも異なる2人のボーカリストが抱く歌に対する熱い思いを訊いた。
取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 佐藤類
中孝介と“ボカロ”文化
──中孝介さんと伊東歌詞太郎さん。正直なところ、かなり意外な組み合わせだなあという印象がまずあったんですよね。
伊東歌詞太郎 うんうん、確かにそうですよね。
中孝介 だって僕、そもそもボカロっていうものを全然知りませんでしたからね。スタッフさんに薦められて初めて聴いた感じなので。でもね、今回カバーしている「紅一葉」を聴いたときにすごく感動したんですよ。すごいいい曲だなって。で、そこからいろいろ聴くようになって、歌詞太郎くんの歌にも出会ったっていう。
──実際、お2人が対面したのは?
中 歌詞太郎くんと桃知みなみさんと一緒にニコ生をやらせてもらったんですよ。
伊東 そうそう。中くんとの間に共通の知人がいて、その方に「出ない?」って言われたので、「そんなんぜひやらせてください!」と(笑)。
中 僕がボカロのことをあまり知らないから、歌詞太郎くんに指南役をお願いした感じでしたね。彼はもうニコ生で絶大な人気を持ってる方なんで。
伊東 いやいやいや。そこでは今回のカバーアルバムに関してリクエストを募ったりもしたんですよ。中くんにどんな曲を歌ってほしいかっていうのをコメントで流してもらって。
──ああ、なるほど。そういう意図もあったんですね。
中 はい。その放送で歌詞太郎くんと出会って、その後の4月27日には「ニコニコ超会議2」にも出させてもらい、そこでは一緒に「桜ノ雨」を歌ったんです。
「ポッと出のこいつはいったいどんだけやれるんだ?」
伊東 あれは歌ってて快感でしたよね。中くんと2人で歌うことの喜びを確かに感じることができました。
中 お客さんもすごくあったかかったもんね。歌詞太郎くんのおかげではありましたけど。正直、ステージに上がるときまでは、僕なんかが出て大丈夫なんだろうかって思ってましたから。「ポッと出のこいつはいったいどんだけやれるんだ?」みたいな目で見られるんだろうなあって(笑)。
──ポッと出って(笑)。でもそういう不安はあったわけですね。
中 ものすごくありましたよ。
伊東 いやでもね、最初のニコ生のときに中くんが1人で歌ったりもしたじゃないですか。そのときに僕はコメントをじっくり見てたんですけど、「この放送を観ることができてよかった」とか「アニメ『夏目友人帳』の曲(「夏夕空」)を聴いたことがあったけど、生歌もすごくいいんですね」とか、そういう反応がすごく多かったんですよ。その後の「超会議」もそうでしたけど、やっぱり内面がにじみ出ている歌はどんな場所であっても聴き手に刺さるものなんだって改めて感じたんですよね。
中 ほんとみなさんいい方たちばかりで(笑)。僕としても、ちゃんと受け入れてもらうことができた実感はありました。で、そういう経緯があったので歌詞太郎くんとカバーアルバムでも一緒に歌いたいなと強く思ったんです。
伊東 僕は以前からずっと中くんという存在は知っていましたし、声も聴いたことがあったので、「そんなんぜひやらせてください!」っていう感じでしたね。
お互いの印象
──歌詞太郎さんは中さんの歌に関してどんな印象を持っていました?
伊東 さっき言った通り、中くんの歌を聴いていると人柄がすっごい伝わってくるんですよ。優しい性格とか、奄美という島で育った環境とか、そこでの思い出とかっていうのが完全に歌声に出ている。何を歌ったとしても、それが表現として伝わってくるのがすごいなあっていう印象がずっとありますね。僕の絶対的な持論として、今まで生きてきた環境やそこで育まれた性格が表現に出ていないものはダメだと思うんですよ。そういう意味で中くんの歌はほんとにすごいんです。
中 うれしいですね。自分自身、歌っているときにそういう部分が伝わっているかどうかの確信はないんですけど、僕にはそういう歌しか歌えない、そういうふうにしかならないんですよね、どうしても。
──そこは意識して伝わるものでもないでしょうしね。
中 ですね。まあでも、僕はそこまで性格よくないと思いますけどね(笑)。
伊東 いやいやいや、そうですか? 中くんの歌聴いてるとめちゃくちゃ優しい気持ちになれますよ! 性格すげえいいですよ!
──じゃ逆に、中さんは歌詞太郎さんの歌の魅力についてどう感じていますか?
中 とにかく声も表現も、ものすごくストレートなんですよ。ガツンとくるその表現方法が大きな魅力ですよね。いろんな曲を聴かせてもらったんですけど、バラードからアッパーな曲まで、歌える曲がめちゃくちゃ幅広いし、僕だったらファルセットで歌うようなところでも全然地声で行けちゃうし。そういうところもすごいなって思いますね。
伊東 いやあ、うれしいな。僕はもう物心ついた頃から歌うことが大好きで、歌うことがずっと生活の一部になってたんですよね。家でも学校でもずっと歌ってた。しかも昔からとにかく声がデカくって。授業中に友達としゃべってたりすると、必ず僕だけ怒られるっていう(笑)。
中 あははは(笑)。今回、一緒にレコーディングやったときも、エンジニアさんに「ちょっと下がってもらえますか」って言われてたもんね。
伊東 そうそう。「歌詞太郎さん、ちょっとうるさいんで」って(笑)。
中 うるさいとは言われてなかったですけどね(笑)。歌詞太郎くんはほんとに声量も、声のレンジの幅もあるから、そこは僕としてすごくうらやましいところではありますね。
- ニューアルバム「ベストカバーズ~もっと日本。~」 / 2013年7月31日発売 / アリオラジャパン
- ニューアルバム「ベストカバーズ~もっと日本。~」初回限定盤 [CD+DVD] / 3800円 / BVCL-519~20
- ニューアルバム「ベストカバーズ~もっと日本。~」通常盤 [CD] / 3059円 / BVCL-521
CD収録曲
- 瑠璃色の地球(オリジナル:松田聖子)
- 雨の降らない星では愛せないだろう? / 中孝介 feat. 高橋愛(オリジナル:モーニング娘。)
- 桜 / 中孝介 feat. 河口恭吾(オリジナル:河口恭吾)
- 少年時代(オリジナル:井上陽水)
- もしも明日が(オリジナル:わらべ)
- 紅一葉(オリジナル:黒うさP×初音ミク)
- 糸(オリジナル:中島みゆき)
- 花
- 歌に形はないけれど(オリジナル:doriko×初音ミク)
- サンサーラ
- 春なのに / 中孝介 feat. カサリンチュ(オリジナル:柏原芳恵)
- 上を向いて歩こう(オリジナル:坂本九)
- 明日があるさ(オリジナル:坂本九)
- 愛燦燦 (オリジナル:美空ひばり)
- 桜ノ雨 / 中孝介 feat. 伊東歌詞太郎(オリジナル:halyosy×初音ミク)
- 夏夕空
- ありがとう(オリジナル:大江千里)
初回限定盤DVD収録内容
- 春 世界遺産・吉野山金峯山寺蔵王堂ライブ映像
- 花 世界遺産・吉野山金峯山寺蔵王堂ライブ映像
- 家路 世界遺産・吉野山金峯山寺蔵王堂ライブ映像
- 中孝介『もっと日本。』投稿写真解説
中孝介(あたりこうすけ)
鹿児島県奄美大島出身・在住のボーカリスト。高校生の頃に同年代の女性がシマ唄を歌う姿に衝撃を受け、独学で歌を始める。2000年に奄美民謡大賞での新人賞をはじめ、数々の賞を受賞。インディーズからシマ唄のCDを4枚リリースし、2005年9月にはミニアルバム「マテリヤ」を発表。外資系CDショップでヒットを記録する。2006年3月にシングル「それぞれに」で待望のメジャーデビュー。 森山直太朗作曲、御徒町凧作詞の3rdシングル「花」は世代を超えて愛されるロングヒットとなった。2013年には故郷である奄美大島の日本復帰60周年を記念した「もっと日本。」プロジェクトを始動。7月31日には古今のジャパニーズポップスをカバーしたコンセプトアルバム「ベストカバーズ~もっと日本。~」を発表する。
伊東歌詞太郎(いとうかしたろう)
ニコニコ動画を中心に活躍する男性歌い手。2012年1月に投稿された動画「【メルト】(男性キー)を歌ってみました」より伊東歌詞太郎を名乗り、人気ボーカロイド楽曲などのカバーで大きな注目を集める。プロデューサー・レフティーモンスターとのユニット「イトヲカシ」としても活動しており、 2013年1月にはミニアルバム「音呼治心」を発表した。