あたらよが3月23日に1stアルバム「極夜において月は語らず」をリリースした。
恋愛における切なさ、痛み、悲しさを描いた歌、そして楽曲のストーリーや情景を際立たせるサウンドで若い世代を中心に注目を浴びる4ピースバンド・あたらよ。「極夜において月は語らず」には、「10月無口な君を忘れる」「夏霞」などの人気曲を含む全11曲が収められている。
音楽ナタリーでは、メンバーのひとみ(Vo, G)、まーしー(G)、たけお(B)、たなぱい(Dr)にインタビュー。「極夜において月は語らず」の制作秘話や各楽曲の魅力に迫った。
取材・文 / 森朋之
あたらよの新たな一面が詰まった1stアルバム
──昨年10月に1st EP「夜明け前」をリリースして以降、あたらよの知名度は確実に向上しているように思います。そのことを実感することはありますか?
まーしー(G) それはライブでよく感じますね。曲を知ってくれて、ノッてくれる人が増えて。
たなぱい(Dr) うん、体を揺らしてくれたりね。
たけお(B) 毎回ライブは緊張するんですけど、ステージでは楽しくやってます(笑)。
ひとみ(Vo, G) 私もけっこう緊張しちゃうほうだったんですけど、最近はいい緊張感の中で歌を届けられているのかなって。ライブのあとにエゴサすると、いいコメントをもらえることが増えました。
──そして記念すべき1stアルバム「極夜において月は語らず」が完成しました。
まーしー CDを作ること自体が初めてなんですよ。
ひとみ 私の中では「夜明け前」を作って1つ完結した感じがあって、次の章に進むつもりでアルバムの制作に入ったんです。どういう作品がいいんだろう?といろいろ考えたんですけど、今やりたいこと、今後やっていきたことを形にしようと思って。最初からテーマを決めていたわけではなく、「気付いたらこうなってた」という感じなんですが(笑)、結果的にあたらよの新しい一面が詰まったアルバムになったと思います。EPを聴いてくれた方も「こういうところもあるんだ」と楽しんでくれるんじゃないかなと。
──「10月無口な君を忘れる」のヒットによって、あたらよはバラードのイメージが強くなったと思うんですが、今回のアルバムにはアップテンポの曲、バンドサウンドをしっかり打ち出した曲も入ってますよね。
ひとみ はい。私以外のメンバー、特にギターのまーしーはそういうジャンルが得意なので。本領発揮ですね(笑)。
まーしー テンポが速めだったり、重めの音も好きなんですよ。やりたいことがいろいろあって整理するのが大変でしたけど、いい感じにまとまったと思います。
──ひとみさんが手がける楽曲の世界観と、サウンドメイクのバランスもうまく取れた?
まーしー そうですね。楽曲制作はまず、ひとみの歌詞をみんなで読むところから始まるんです。それを自分なりに解釈して、アレンジや音作りを決めていて。ひとみの歌がガッと出てたらギターも強く出るし、静かだったらそれに合わせた弾き方になる。そこは自然にやってますね。
たなぱい 前作とは一味も二味も違う感じになりましたね。これまでは悲しみのどん底みたいなイメージだったんですけど、今回は「外側は楽しそうなんだけど、中を覗いたら暗い」みたいな曲もあって。あたらよの印象を上塗りできたんじゃないかなと。
たけお レコーディングはけっこう大変でした。みんなに「今のテイク、いいんじゃない?」と言われても、「これじゃダメだ」と思うことがあって。スタジオで弾いたときはよくても、録ってみるとフレーズがハマらなかったり。
ひとみ 歌は最後に録るので、たけおがこだわった結果、終電を逃したこともありました(笑)。
たけお ご迷惑をおかけしました……。
ひとみ 全然大丈夫(笑)。こだわるのはいいことだから。
──当然、作詞作曲にも時間が許す限りこだわった?
ひとみ そうですね。年明けの1週目が締め切りだったので、年末は根を詰めてやってました。終着点を決めずに1曲1曲作っていたので、アルバムを通しての共通点が見つかるか不安もあったんですけど、「私が作るんだから自然と共通点は見つけられるはず」と言い聞かせてました(笑)。
──共通点は見つかりましたか?
ひとみ あたらよは“悲しみをたべて育つバンド”というコンセプトを掲げてるんですけど、まさに悲しみが詰まったアルバムになったと思います。私はハッピーな曲が苦手というか、書こうとしてもチープになっちゃうことが多い。それよりも自分が得意なこと、悲しい気持ちを吐き出すような曲を突き詰めたほうがいいなと。自然体で作った歌のほうが、聴いてくれる人にもより受け取ってもらいやすくなると思うので。
これを残さないと後悔する
──アルバムに収録される新曲についても聞かせてください。1曲目の「交差点」は、「ねぇ今からじゃ追いつけないかな」「痛みが心を支配していく夜」というフレーズが印象的でした。しなやかで切ないバンドのグルーヴも素晴らしいなと。
ひとみ 「交差点」はアルバム制作の後半に作った曲で、できたてホヤホヤです。この曲、最初にギターを弾きながら一気に録ったんですよ。歌詞とメロディを頭から歌って、1回形にしてから、必要ないなと思ったフレーズを省いて。
──衝動的に作った曲なんですね。
ひとみ 衝動ですね。日常生活の中で、楽曲がグワッと浮かんでくることがあるんですよ。「やばい。これを残さないと後悔する」と思って、すぐにギターを持って夢中で歌って。なんと言うか、もともと存在している曲を歌うような感じなんです。「交差点」もそういう感覚で一気に作って、メンバーに送ったら、まーしーが「この曲は絶対やりたい」と返信をくれて。たなぱい、たけおも「いいね」と言ってくれので収録することになりました。
まーしー 最初に聴いたとき、普通に号泣しました。
ひとみ そうなの?
まーしー うん(笑)。めっちゃいいと思って。それも衝動的というか、理由はわからないんですけど。
たなぱい 感情で動くタイプだからね。
ひとみ 私とまーしーは感情的かも(笑)。
──終盤の厚みのあるコーラスワークも印象的でした。全員で歌って伝えるという意思が感じられて。
ひとみ みんなで歌うコーラス、やってみたかったんですよ。この前、初めてライブで披露したんですけど、楽しかったですね。状況がよくなれば、お客さんと一緒に歌いたいです。
「祥月」のアナザーストーリーを描いた「極夜」
──「極夜」は鋭利なギターリフから始まるアッパーチューンです。アルバムの中でも特にロック的なテイストが強いですよね。
ひとみ 「極夜」はまーしーがデモ音源を作ったんです。私に送ってくれたときに、「『祥月』のアナザーストーリーみたいな曲にするのはどうだろう?」みたいなメモ書きがあって。私も面白そうだなと思ったので、その方向で歌詞を書いてみました。
──歌詞は“月”をモチーフにしながら、大切な人を失った痛み、切なさ、後悔が滲んでいて。確かに「祥月」と続けて聴くと、さらに深みが増しますね。
まーしー 冒頭のギターのフレーズが出てきたときに「来た!」と思いました。そこから楽曲を構成していって、その時点で「祥月」とつながるような曲にできたらよさそうと思ったんですよね。しかも、ひとみがめちゃくちゃカッコいい歌詞を書いてくれて……ビックリしました。
──メンバーのリクエストに応えることもあるんですね。
ひとみ そうですね。私も普段「こういうイメージで作った曲なんだよね」と伝えているし、3人がその世界観を大事にしながらアレンジを作ってくれるので。無理なときは無理と言いますけど(笑)、よさそうだなと思ったらやってみたいし、自分にとってもチャレンジになるんですよ。「極夜」の歌詞、気に入ってもらえてよかったです。
──「極夜」がアルバムタイトル「極夜において月は語らず」につながったんですか?
ひとみ いや、実はアルバムの題名を先に決めたんですよ。あたらよというバンド名は、“明けてしまうのが惜しいほど美しい夜(可惜夜)”という意味だから、夜に関連する言葉にしたくて。“夜が明けたあと”みたいなイメージはまだ早いし、どうしようかなといろいろ探しているうちに、“極夜”という言葉を見つけたんです。白夜の逆で「1日中、太陽が昇らない日」のことで、日中でも明け方くらいの暗さがずっと続くみたいなんです。太陽がずっと地平線の下にあって、月も見えないこともあるらしいんですね。その光景を想像したり、連想を巡らせている中で、「極夜において月は語らず」というタイトルにたどり着きました。月は見えなくても、そこに存在している──その様子があたらよの楽曲にもつながってる気がして。存在をアピールするわけじゃないんだけど、確かにそこにあって、聴く人に静かに寄り添う。そういう音楽を作っていきたいし、このアルバムにも出ていると思います。
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気持ちが入り過ぎた「悲しいラブソング」