あたらよはあなたに寄り添う、初の音源集「夜明け前」インタビュー

あたらよが10月4日に7曲入り音源「夜明け前」を配信リリースした。

あたらよはひとみ(Vo, G)、まーしー(G)、たなぱい(Dr)、たけお(B)の4人からなる“悲しみをたべて育つバンド”。恋愛における悲しさ、切なさを映し出す歌詞、そして歌に寄り添いながらエモーショナルな音像を生み出す演奏で10代のリスナーを中心に注目を浴びている。また昨年11月にYouTubeで公開された初のオリジナル曲「10月無口な君を忘れる」は2550万回を超える再生回数を記録した。

音楽ナタリーPower Push初登場となる今回は、バンド結成のきっかけや「10月無口な君を忘れる」の誕生秘話、音源集の収録曲について話を聞いた。

取材・文 / 森朋之

結成のきっかけとなった「10月無口な君を忘れる」

──まずは結成の経緯から教えてもらえますか?

ひとみ(Vo, G) 出会いは音楽系の専門学校ですね。全員がプロミュージシャン学科で、それぞれボーカル、ドラム、ギター、ベースを専攻していて、授業などでよく顔を合わせていたんです。あたらよを組む前は、各々が別のバンドをやっていたんですけど……まーしー、しゃべって(笑)。

まーしー(G) (笑)。ドラムのたなぱいと居酒屋で熱く音楽の話をしてるときに、ひとみがTwitterに曲を上げていたんですよ。それが「10月無口な君を忘れる」で。

ひとみ 弾き語りの短いバージョンですね。

まーしー それを聴いたときになんとも言えない感情になったというか、衝撃を受けたんです。すぐ会計して店に出て、ひとみに電話して無理やりスタジオに入る日を決めて。それが最初ですね。

──「10月無口な君を忘れる」がバンド結成のきっかけだったと。

まーしー はい。とにかく曲がすごかったし、「この人の隣でギターを弾きたい」と思って。

たなぱい(Dr) 僕は「バンドアレンジにすれば、絶対にカッコよくなる」と思っていました。その前からひとみの曲は聴いてたし、めちゃくちゃ歌がうまい人だなと思っていたんですが、「10月無口な君を忘れる」は本当に衝撃的で。

まーしー その後、たなぱいがベースのたけおを紹介してくれて、「スタジオに入ろう」とちょっと強めに誘って。

たけお(B) かなりの圧でした(笑)。

ひとみ 私とたけおは圧に負けました(笑)。

まーしーたなぱい ハハハ(笑)。

あたらよ

ひとみ ただ、私自身はバンド向きじゃないと思っていたんですよ。以前やってたバンドがしっくりこなくて、シンガーソングライターとしてやっていこうと思って曲や歌詞のテイストを変えていて。「10月無口な君を忘れる」ができて「よし、1人でやっていこう」と決めた直後にバンドに誘われたから、最初は否定的な気持ちだったんですよ。でも、いざスタジオに入ってみると、2人(まーしー、たなぱい)の熱量がすごく伝わってきて。しっかり曲を聴き込んでくれて、歌詞も覚えてくれてたし、アレンジもよかったんです。そのときに「この人たちだったら自分の曲を任せられる」と確信できました。

まーしー どうすればこの曲を最高の形に仕上げられるか、考え抜きましたからね。

たなぱい うん。スタジオに入ってからも、「こういうアレンジはどう?」みたいな感じで新しいアイデアが止まらなくて。

たけお 僕も素敵な曲だなと思ったので、めっちゃ聴き込んで歌を聴かせるためのベースラインを考えました。

ひとみ そこまでしっかり聴き込んでくれる楽器隊は初めてだったんですよ。前のバンドでは言葉遊びを楽しむような歌詞が多かったんですけど、「10月無口な君を忘れる」は自分の内側にある感情を表に出している曲で。たなぱいは歌いながらドラムを叩いてたし(笑)、しっかり共感してもらえたこともうれしくて。

どうしたら差をつけられるだろう?

──「10月無口な君を忘れる」は恋人たちの別れの場面を切り取った描写が印象的ですが、歌詞はフィクションなんですか?

ひとみ ストーリー自体はフィクションが中心で、要所要所にリアルな要素として現実に見聞きしたことを入れてます。例えば「君はいつだって なんにも言わないくせに 顔にはよく出るから」とか。そういう人、いるじゃないですか。

──そうですね(笑)。「おはよ。朝だよ。朝っていうか もう昼だけど。」から始まる冒頭のセリフについては?

ひとみ まーしーたちが居酒屋から電話をくれたときは、Bメロからサビの終わりまでしかできてなかったんです。急にスタジオに入ることになったから「さすがにこれだけの尺じゃダメだな」と思って、フル尺作らなきゃと。で、Aメロを作ってるときに、なんとなく語りを入れてみたら「これでいいじゃん」と思ったんですよね。

──いきなり語り始めるって、かなり思い切ったアイデアですよね。

ひとみ それは専門学校の影響かもしれないです。音楽をやってる同じ年代の子たちが常に新曲を発表しているので、「どうしたら差をつけられるだろう?」と考えていたんですよ。コードを弾きながら「おはよ。」ってしゃべると情景も浮かびやすいし、メロディに乗せるのとは違った伝え方ができるかなって。スタジオでやってみたら、みんなも「いいじゃん」と言ってくれたので、こういう形になりました。

──「10月無口な君を忘れる」のMVは昨年11月に公開され、現時点で再生回数が2400万回を突破しています。(※取材は9月上旬に実施)

ひとみ メンバーのSNSの中で一番フォロワー数が多かったのが私のTikTokのアカウントだったので、まずはそこでアップしたんです。ショートムービー風の映像だったんですけど、その時点で50万回以上も再生されて。そのあとYouTubeでフルバージョンを公開したときも、TikTokでこの曲を知ってくれた人たちが観てくれたみたいで、再生数が一気に跳ね上がりました。

たけお ビックリしました。これだけ聴いてもらえるのは予想外だったし、ありがたいことだなと。

まーしー SNSのフォロワーの方からもたくさんメッセージをもらいました。

たなぱい 「発表するからには聴いてほしい」とは思っていたけど、ここまで多くの人に聴いてもらえたのはすごいですよね。ひとみの歌詞のよさ、歌のうまさ、メンバーの個性がしっかり出ている曲なので、多くの人に聴いてもらえたのは純粋にうれしいです。

メンバーそれぞれのルーツ

──皆さんはそれぞれどういった音楽を聴いてきたんですか?

たなぱい スタートはクラシックの打楽器ですね。専門学校にも最初は打楽器専攻で入って、そのあとドラム学科に入り直したんです。バンドで最初に好きになったのはRADWIMPSで、詩的な言葉選びがすごいなと思って。インストも聴くんですけど特に好きなのはSnarky Puppy。ドラマーのローレル・ルイスが最高にグルーヴィなんですよ。テクニカルなことにも興味があるんですが、あたらよでは余計なことをせず、歌を気持ちよく聴いてもらうことを意識してます。

ひとみ 私は4歳のときからピアノをやっていて、それが音楽に触れた最初のきっかけですね。歌を本格的に始めたのは高校生のときで、自分でバイトしてボイストレーニングに通っていました。家族みんな歌が好きで、家にカラオケの機械があったり、おじいちゃんが地元のカラオケ大会で優勝したりと、もともと歌が身近にある生活でした(笑)。

──いい話ですね(笑)。好きなシンガーはいますか?

ひとみ 高校生のときにアコギの弾き語りの部活をやっていたこともあって、家入レオさん、片平里菜さん、miwaさんなどをよく聴いていました。バンドのよさに触れたのは専門学校のオープンキャンパスがきっかけで、「こういう音の中で歌えたら気持ちいいだろうな」と思って最初にピアノボーカルのバンドを組んだんです。

あたらよ

──なるほど。お二人はいかがですか?

まーしー 僕は野球をやっていたんですけど、ケガで続けられなくなったんです。それでたまたま家にあった親父のギターを弾いてみたら面白くて。それから兄貴が持っていたELLEGARDENのライブDVDを観て、これがやりたいと思ったんです。生形真一さん(ELLEGARDEN、Nothing's Carved In Stone)の男らしいギター、引っ叩かれるような音が大好きなので、自分もそういうギターを弾きたいと思っています。

たけお ベースを始めたのは高1のときです。新入生歓迎会で軽音楽部の先輩の演奏を聴いてカッコいいなと思ったのがきっかけで。あと、自分はアニメも好きで「血界戦線」のエンディング曲だったUNISON SQUARE GARDENの「シュガーソングとビターステップ」を聴いて、「なんだこのカッコいいベースは!」と衝撃を受けてからよりベースにハマりました。

──4人ともかなり違いますね。あたらよというバンド名については?

ひとみ 専門学校の中で定期的にオーディションがあって、賞を獲ると学内でレコーディングできてCDにしてもらえるんです。みんなその賞を必死で獲りに行くんですけど、私たちがバンドを組んだ時点でチャンスは卒業までに1回しかなくて、「『10月無口な君を忘れる』で爪痕を残せたらいいね」ということになって。そのときは“ひとみバンド”というバンド名だったんですけど、さすがにダサいので、全員でバンド名を考えたんです(笑)。いろいろと言葉を探す中で、“あたらよ(可惜夜)”に出会って「これだ!」と。万葉集にも出てくる古語で、“明けてしまうのが惜しいほど、美しい夜”という意味なんですけど、そんな夜に聴いてもらえる曲を作りたいなって。「演奏が終わるのが惜しいと思ってもらえるようなバンドになりたい」という思いも込めて、このバンド名にしました。