ASPが10月2日にメジャー1stアルバム「Terminal disease of ASP」をリリースした。
10月8日に行われたグループ初の東京・日本武道館での単独公演「We are in BUDOKAN "The floor is all ours!!"」を成功に収めたASP。このライブで彼女たちは新作からの楽曲も多数披露した(参照:ASPがついに立った日本武道館で堂々パフォーマンス、7人の挑戦は続く)。今作には全13曲中5曲が新曲、残る8曲が既発曲で時代やジャンルを超えた幅広い楽曲が収録されている。ならず者(ASPファンの呼称)にとってはおなじみのメジャーデビュー曲「Hyper Cracker」、ライブでの初披露から今作で待望の音源化となった「Tokyo Sky Blues」など、進化を続ける最新のASPサウンドが詰め込まれた「Terminal disease of ASP」。本特集ではアルバムを深堀りするサブテキストとして、音楽ライター・森朋之による全曲レビューをお届けする。
文 / 森朋之
01. TOTSUGEKI!!!!!(新曲)
[作詞:竜宮寺育 / 作曲:AxSxE、Yohji Igarashi / 編曲:AxSxE、Yohji Igarashi]
「Terminal disease of ASP」(“ASPの死に至る病”)というタイトルを冠した1stフルアルバムは、メンバー全員による「凸激」というシャウトで開幕。鬱屈とした空気を切り裂くようなギターのリフ、強靭な四つ打ちのビート、飛び跳ねるベースラインが響き合うトラックとともに、メンバーそれぞれの必死で瑞々しいボーカルが聴き手に向かって飛び込んでくる。「きつくきつくきつくきつくきつく 傷つけてよ」に象徴される共依存的な歌詞、オルタナロックとエレクトロをぶつけ合うようなサウンドメイクを含め、本作の中軸を担う楽曲の1つと言えるだろう。
02. Hyper Cracker
[作詞:Pecori / 作曲:Yohji Igarashi、Pecori / 編曲:Yohji Igarashi]
ラッパーのPecori(ODD Foot Works)、DJ兼プロデューサーのYohji Igarashiのコライトによるメジャーデビュー曲。インディーズ時代のオルタナロック / メロコア路線から一転、ハイパーポップの要素を取り入れた「Hyper Cracker」は、ASPの新機軸を示すと同時に、海外を視野に入れた活動を予感させた。レトロフューチャー的なトラックと生楽器を融合させた音像、さらにヒップホップの要素も加わった独創的なミクスチャー感もこの曲の魅力。問題山積みで「頭が割れそうな Everyday」と向き合いながら、自らの歌とパフォーマンスで未来を切り開こうとするASPの姿を想起させられる歌詞も極めてリアルだ。
03. MAKE A MOVE
[作詞・作曲・編曲:Sam Matlock]
イギリス・ロンドンを拠点に活動するロックユニット・Wargasmのプロデュース楽曲。1990年代デジタルロックの進化系と呼ぶべき刺激的なサウンド、切れ味のいいラップと浮遊感をたたえたメロディの対比など、ASPの音楽的な可能性を大きく広げた楽曲と言えるだろう。すべての人間がシステムに取り込まれてしまう現代の在り方に反旗を翻し、自らの意思で動き、走り出そうと呼びかけるリリックも、アグレッシブなトラックによく映えている。英語の歌詞に鋭いグルーヴを与え、強いメッセージに生き生きした表情を与えるメンバーの歌いっぷりにも注目してほしい。ミュージックビデオの監督は、「拝啓 ロックスター様」「TOXiC iNVASiON」も手がけたOSRIN(PERIMETRON)が担当。楽曲のスピード感、90'sテイストとリンクした刺激的な映像に仕上がっている。
04. Anyway(新曲)
[作詞:Jw undersex / 作曲・編曲:友成空、Yohji Igarashi]
2002年生まれのシンガーソングライター、友成空が作編曲に参加した「Anyway」は、「いいじゃん好きにさせてくれよ」「どうせ何も出来ないんだし」というフレーズが突き刺さる、ダークかつエッジーな楽曲。サブベースを効かせまくったトラック、陰鬱なサウンドスケープ、激しく歪んだギターの音色が響き合い、不穏で怠惰なイメージを振りまいている。ヘビーロックとヒップホップを両軸に、ASPのアグレッシブな側面をダイレクトに打ち出した楽曲と言えるだろう。挑発的でダウナーな雰囲気を感じさせるボーカルも気持ちいい。
05. Black Nails
[作詞:Shimizu Eisuke、JUBEE / 作曲・編曲:AFJB]
エキゾチックな手触りのビートがゆったり鳴り始めた直後、いきなり獰猛なギターが炸裂しBPMがアップ。濃密なグルーヴを描くベースライン、強烈なパワーをたたえたドラムが鳴り響き、聴き手のテンションを強引に上げる。さらに「暗闇じゃ見えない 光る青いBlack light」で始まるサビは驚くほどカラフルに展開。ロックバンド・Age FactoryとラッパーのJUBEEによるユニット・AFJBのプロデュースによって制作されたメジャー4thシングルの表題曲「Black Nails」は、ポップとオルタナを自在に行き来するASPのアンビバレンツな在り方、メンバーの過激な表現力が凝縮された楽曲だ。
06. I HATE U
[作詞:LINNA FIGG / 作曲:LINNA FIGG、kyazm / 編曲:kyazm]
メロコア~オルタナが混ざり合った鋭いギター、気だるい怒りを感じさせる歌声で始まるメジャー2ndシングル。制作を担当したのは、LINNA FIGG(Vo)とKyazm(G, Manipulator)によるロックデュオ・SATOH。シンプルな四つ打ちを軸にしたビート、装飾を削ぎ落としたアレンジがメンバーそれぞれの声の個性を浮き彫りにし、極上のロックミュージックに仕立てている。「このスタジオからベッドサイドの君」へと向けられた歌詞では、うざい、黙ってろという苛立ちを露にしながら、最後は“今に見てろよ”という強い思いを表現。その根底にあるのは、紆余曲折を経験しながら、それでも高みを目指し続ける7人の軌跡だと思う。
07. NO COLOR S
[作詞:Jw undersex / 作曲・編曲:329]
TikTokで音源が先行公開された際、ミュージックビデオで使用されたメンバーの足つぼマッサージ動画が連日更新されたことも話題となった「NO COLOR S」は、キャッチーで奇妙なギターリフ、推進力にあふれたトラックを軸にしたナンバー。誰かに決められた未来をきっぱりと拒否し、全方向に中指を立てながら、「やり切る以外手段はないね」という意思を示すメッセージソングだ。感情を爆発させることなく、どこか冷めた表情を感じさせる歌声にも惹き付けられる。ひんやりとした手触りの、ポストパンクの進化系と称すべきサウンドメイクもカッコいい。
08. darma(新曲)
[作詞:及川千春 / 作曲・編曲:鋭児]
ロックバンド・鋭児が作編曲を手がけたオルタナティブロックナンバー。骨太で不穏なベースラインと「ダルマさんが転んだ」というフレーズで始まり、目まぐるしく展開するサウンドに翻弄されているうちにテンションが爆上がりしていく。ファンク、エレクトロ、ニューウェイブなどが混然一体となったアレンジメント、浮遊感と鋭さを併せ持ったメロディなど、本作の中でも最も特異な楽曲と言えるだろう。エクスペリメントな音像をポップミュージックへ昇華させているのはメンバー自身のセンスと表現力。ボーカル、パフォーマンスの進化を実感できる1曲だ。
09. I won't let you go
[作詞:Jw undersex / 作曲・編曲:329]
海外のインディーロック、エレクトロポップの潮流を捉えつつ、ASP流のポップチューンへと結び付けた2022年リリースのデジタルシングル。はかなくも美しいシンセのフレーズ、疾走感とダンス感を内包したトラックメイク、抑制を効かせたメロディラインは、“過激にぶっ飛びまくるアイドル”というパブリックイメージとは真逆の魅力につながっている。可憐な雰囲気の歌声、「今なら絶対言えるのに 離さないよ」という健気な歌詞を含め、ASPの幅広い音楽性、1つの枠には固定できない多様性を指し示す楽曲だ。
10. Tokyo Sky Blues(新曲)
[作詞:Pecori / 作曲:Yohji Igarashi、Pecori / 編曲:Yohji Igarashi]
冒頭の「そう鳴らせ!感動!瞑想!群青!」というフレーズは間違いなくライブでシンガロング必至。強打され続けるビート、高揚感を生み出すシンセとギター、そして「Tokyo Fire」というシャウトで始まる大サビの爆発力など、新たなライブアンセムの誕生!と快哉を叫びたくなる超アッパーチューンだ。ドープなエレクトロサウンドと尖ったギターがぶつかり合う音像は、まさにASPの真骨頂。東京のど真ん中で開催されるライブシーンを思い起こさせながらオーディエンスを煽りまくる歌詞、心地よい解放感とアグレッシブな姿勢を同時に感じさせるボーカルも最高。
11. Heaven's Seven
[作詞:Pecori / 作曲:Yohji Igarashi, Pecori / 編曲:Yohji Igarashi]
雪が降り積もり聖なる夜に停電が起こる──。ロマンチックで切ないシチュエーションを映し出したウインターソング。といっても抒情的なバラードではなく、カラフルに飛び跳ねるリズム、きらびやかなサウンド、軽やかなラップと美しいメロディが響き合うポップソングに昇華しているのがASPらしい。子供みたいにはしゃぎまくり、ぶつかり合い、“君”(≒ファン)に会いたいという思いをストレートに表現するリリックも心に残る。悪ノリ感と飛びぬけた楽しさ、解き放たれたパフォーマンスがひとつになったASPらしさ全開の楽曲だ。クリエイティブユニット・Margtが監督を務めたMVでは、メンバーをコラージュの素材として使用。時空を超える前衛的な映像作品となっている。
12. TOXiC iNVASiON
[作詞・作曲:Pecori / 編曲:Yohji Igarashi / Original Song by Maxim]
「TOXiC iNVASiON」の原曲を手がけたのは、90年代始めのダンスミュージックシーンを牽引したことで知られるThe Prodigyのフロントマン・マキシム。ロックとテクノを融合した超アッパーなトラックを軸にしながら、Pecori、Yohji Igarashiのセンスを加えることで最先端のエレクトロミュージックへ昇華している。誤解や葛藤、悩みなどをぶちまけながら、「このビートの上でおサラバです」と言い放つメンバーのテンションも最高潮。日本語の歌詞に鋭い響きを与えながら、自らの意思や決意をしっかりと刻んだボーカリゼーションは、本作の収録曲の中でも際立っている。MVはOSRINが担当。シチュエーションやメイクが変化しまくるぶっ飛びまくった映像が、ASPのエッジーな魅力と完璧にリンクしている。
13. Too young to get it, too fast to live.(新曲)
[作詞:ナ前ナ以、JxSxK / 作曲・編曲:友成空、Yohji Igarashi]
アルバム「Terminal disease of ASP」の最後を飾るのは、“わかるには若すぎる、生きるには早すぎる”というタイトルを冠したパンキッシュなナンバー。ギター、ドラム、ベースによる超シンプルなバンドサウンド(楽曲の後半でBPMアップ!)、エモーショナルなメロディラインとともに歌われるのは、「明日も馬鹿げた事ばかり言って」まったく大人になれそうにない自分たちの姿。物わかりのいいフリなんてできないし、常識に縛られたくもない。それよりも直感を信じてまっすぐに生きていきたい──この曲で歌われていることは、ASPの本質そのものだろう。
プロフィール
ASP(エーエスピー)
音楽事務所WACK所属のガールズグループ。現在のメンバーはユメカ・ナウカナ?、ナ前ナ以、モグ・ライアン、マチルダー・ツインズ、ウォンカー・ツインズ、チッチチチーチーチー、リオンタウンの7人。2021年3月に行われた合宿型オーディション「WACK合同オーディション2021」の最終日に覆面姿でお披露目され、5月に1stアルバム「ANAL SEX PENiS」をリリース。同月に東京・中野heavysick ZEROでお披露目ワンマンライブを開催した。その後11月の東京・LIQUIDROOM公演でナアユが脱退。入れ替わるように新メンバーとして双子の姉妹であるマチルダーとウォンカーが加入した。2022年4月にチーチー、リオンが加入。8月にシングル「Hyper Cracker」でavex traxからメジャーデビューし、東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)で初のワンマンライブを行った。精力的なライブ活動を重ね、2024年春には10月8日に行う東京・日本武道館での単独公演「We are in BUDOKAN "The floor is all ours!!"」に向けて、Zeppツアー「MARCH with ROGUES to BUDOKAN」を全国5都市で行い、5月からは47都道府県ツアーを実施。10月にメジャー1stアルバム「Terminal disease of ASP」を発売した。
マチルダー・ツインズ (@ASP_MATiLDER) | X
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