ASKA「僕はデイヴィッド・フォスターの音楽を聴いて目覚めた」世紀の共演コンサート直前インタビュー (2/2)

デイヴィッドとその日限りの即興曲を作りたい

──実際にデイヴィッドさんにお会いされていかがでしたか?

すごく陽気な方ですね。それでいてとにかくジェントルマン。でもきっとそういう人ほど仕事の面では厳しいところがあると思うので、ステージを作るうえでどういうところにこだわるのかを見てみたいですね。今回のコンサートが決まってからさっそくいろいろ送ってきてくれてますよ。だから仕事が早いというか、ああ、この人は設計図をちゃんと作る人だなと。僕なんか闇雲にバンバン並べていって、そこをつないで、ここは面白くなかったからこっちに変えようなんてやり方をするんですけど、デイヴィッドは1から10までスケールを引くタイプみたいですね。

──そのデイヴィッド・フォスターさんのやり方に沿いつつ、そこにASKAさんの色をどうやって入れていくのかも見どころの1つですね。

影響されながらも僕はその通りにはならないと思うので、本当に何があるかわからないですね。僕は最初の出会いのときにデイヴィッドに「何か歌ってみろ」と言われて、「じゃあアドリブで歌うよ」って目の前で1曲作って歌ったんです。それがあって2回目にステージで歌ったときも「あのときみたいにアドリブでやろうよ」って話になったんです。なので今回は最初からそのコーナーを設けて、デイヴィッドとその日だけのアドリブの曲を作ってみたいですね。

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──優れた音楽家同士だからこそできるセッションですね。

でも作曲家にとって即興で1曲を作るなんてことは、別に難しいことじゃないです。それが世の中に受け入れられるか、受け入れられないかは別ですけど。Aメロで始まってサビでぐっと前に出ていくという流れで1曲を作ることはもう、わけないです。

──さらっとお話しされてますが、すごいことです。そして今回のライブではASKAバンドの皆さんがデイヴィッド・フォスターのバックも務められます。通常ですとデイヴィッドさんはライブの際、クインシー・ジョーンズやバーブラ・ストライサンドのドラマーを務めるジョン"JR"ロビンソンをはじめ、指名したミュージシャンを連れてくるところですが。

ありえないですよね。今回「僕のバンドでやらせてください」っていうのは、こっちからの希望だったので。バンドメンバーも喜んでますし、楽しんでリハーサルに臨んでますね。

──「デイヴィッドのことを信奉しているミュージシャンぞろいだから信用してほしい」と連絡されたそうですね。

そうそう。よく受けてくれたなと思ったら、デイヴィッドって、シャリース(フィリピンのシンガー。2010年にデヴィッド・フォスターのプロデュースで全米デビュー。アジア人初となるビルボードアルバムチャートトップ10入りを果たした)をプロデュースしてたんですよね。うちのバンドメンバーはシャリースのバックをやったことがあるから、もしかしたらそういう話が伝わってたのかもしれない。たぶんYouTubeに上がっているライブ映像も観てくれたと思いますよ。

──ASKAバンドのメンバーは澤近泰輔(Piano)さん、江口信夫(Dr)さん、是永巧一(G)さん、鈴川真樹(G)さん、荻原基文(B)さん、一木弘行(Cho)さん、SHUUBI(Cho)さんというそうそうたる顔ぶれです。

ぜひ澤近とデイヴィッドのピアノバトルの場面を作ってみたいですね。ダブルピアノですから。僕が1989年に「PRIDE」を作ったとき、編曲してくれた澤近に言ったのは「この曲はChicago、デイヴィッド・フォスターで」と抽象的なことだけだったにも関わらず、彼はその意図を汲んでくれました。でも考えたら、あの当時、日本の音楽もデイヴィッド・フォスターだらけでしたよね? だってデイヴィッド・フォスターのビッグスネアの鳴りが全世界で流行ったし、楽器メーカーでは“デイヴィッド・フォスターピアノ”という音源を出してました。そのくらいデイヴィッドのピアノは独特の音でした。もはや存在自体が音楽ですよね。僕は彼に対して多大なリスペクトがあるので、胸を借りて、しっかりボーカリストとして共演させていただきます。

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──セットリストの内容は?

デイヴィッドが選んできたのは、僕が実際に影響を受けた曲でした。でもこちらはそれとは違う方向の楽曲を用意しています。デイヴィッドがおおよそやってこなかったであろう楽曲をやってみようという気持ちがあるので、「あなたの音楽に影響された僕が、こういうロックテイストな曲を作ってみましたがどうですか?」と。エンタテインメントって、お客さんはもちろんですが、ステージ上での満足がないとダメですから。そこはちゃんと果たせるような時間にしたいです。

常にワールドワイドを意識して

──ゲストボーカルでASKAさんのお嬢様、宮﨑薫さんが参加されることも話題です。幼少期をロンドンで過ごされたこともあって英語の発音もとてもきれいですね。当日どういう曲を歌われるのか楽しみです。

薫は英語の曲をネイティブで歌えますし、これは親目線じゃなく「自分がこの歳の頃、あんな歌を歌えてたかな?」と思うぐらいうまいんですね。ちなみにもう歌う楽曲は決まったみたいですよ。

──個人的な願望ですが、以前音楽ナタリーのインタビューでASKAさんがお話しされていた、セリーヌ・ディオンさんがデビュー前にレコーディングしていたというASKAさんの曲「WALK」を、デイヴィッドの目の前で薫さんに歌っていただけたらなと思いました。思いをつなぐ意味で。

「WALK」ね。そう、セリーヌに提供したお蔵入りのトラックがあるんです。歌入れは終わってるはず。僕も聴いてみたいんですけど、逆に今セリーヌはお蔵入りしている昔の楽曲を出されるのは精神的によくないでしょうね(セリーヌは昨年末、難病のスティッフパーソン症候群を患っていることを公表)。いまだに信じられないですよ。彼女が突然あんなふうになるなんて。

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──そうですね。また、デイヴィッド・フォスターさんがプロデュースするASKAさんの曲を待ち望んでいるファンも多いと思います。

いつかそのときが来たらアルバムの中で数曲をお願いしたいですね。まだまだ僕は新曲を作り続けていきますから、そのうちにそういうことがあるかもしれないです。海外アーティストとのコラボと言えば、1996年に「one voice THE SONGS OF CHAGE&ASKA」(チャカ・カーン、マキシ・プリースト、ボーイ・ジョージらによるトリビュートアルバム)が出て。そこでInxsのマイケル・ハッチェンスが「RED HILL」をカバーしてくれたんです。そのカバーでは僕の声がハーモニーで乗っかっていて。すごくセクシーな男性でしたね。海外で一緒に取材を受けたとき、イタリアかな? 向こうの報道陣が何か失礼なことを言ったらしいんです。僕は聞き取れなかったけど、マイケルが「なんてこと言うんだ。彼らはアジアで“Huge”なんだよ!」って説明してくれて。“Big”じゃなく、“Huge”という最高級の言葉を使ってくれた。そういう気遣いのできる人でした。マイケルの歌った「RED HILL」はハリウッド映画に起用される直前だったんです。ご存知の通り、その後すぐに彼は亡くなってしまった。ハリウッドならば逆に亡きアーテイストを起用しますよね。理由は分かりません。ただ、そうやってカバーされるような楽曲を作れたんだ、という思いが自分の自信になってる部分はあるので、これからも作品は常にワールドワイドを意識して作っていきたいと思います。

──「one voice」は海外でもリリースされましたし、CDの帯には「音楽って本当に自由だと思う。だから僕らは何処へでも行くんだ。」と書かれていました。あれから27年経って、音楽に国境はないなって実感することが多くなりましたね。

一層そうなりましたね。作業自体もデータを送り合う形で成立するからね。

──デイヴィッド・フォスターさんも早くからアジアで注目されて、「Asia's Got Talent」(世界的な人気オーディション番組のアジア版)の審査員をやられてましたし。

よくご存知ですね。デイヴィッドは、いまだに探してるんですよ、アジアの才能を。僕もその噂は聞いていたので、薫がそこに入ったら面白いなと思ったんです。何かきっかけになればいいですよね。

──ASKAさんご自身もアジアのアーティスト初の「MTV UNPLUGGED LIVE」出演や、日本人アーティスト初の韓日親善ソウル公演開催など、世界に羽ばたいてこられました。

もちろん僕は今も現役ですけど、年々いろんなものに対してプロデューサー感覚でものを見るようになってきているので、率先して何か新しいことをやろうって思いは強くないですね。でも、それって新しい喜びですよ。話が変わるんですけど、僕は43年間離れていた剣道界に戻って、四段を取得しました。大学生たちとも稽古をしています。指導する喜びとか、学生が卒業するときの見送る切なさも経験させてもらってね。ものを作るうえでのプロデューサーとして、監督として、そういう楽しみ方、喜びを僕は知ることができたので、今シンガーとプロデューサーの線を行ったり来たりできてるのがすごく楽しいです。

──剣道を再び始めたおかげで「体幹が鍛えられて、声の伸びがよくなった」とも話されてましたね。剣道を薦めたASKAさんのお父様から脈々と受け継がれていくスピリットを感じます。

父は93歳になりました。5月に京都で演舞をします。6月にはまた武道館の大会(全日本高齢者武道大会・剣道競技)に出ますよ。今回優勝すると8回目の全国優勝になります。この先この記録を破る人は居ないでしょうね。

──ASKAさんにコンサートの時期の1日のルーティンをぜひ伺いたいと思っていたんですが、やはり基盤には剣道がありますか?

僕は健康を意識してやってることって、特にないんです。でもよく言いますよね? 身体の基礎は子供のときにできるって。子供の頃、今だったら新聞に載ってしまうくらいの厳しい鍛えられ方をしましたから、そのときにたぶん自分の基礎はできあがってると思いますね。だから大人になっても、そこそこ丈夫みたいです(笑)。

──4月1日には新しい全国ツアー「ASKA Premium Concert Tour -Wonderful World- 2023」がスタートします。こちらは日本国内だけでなく台北、ソウルなどアジア公演も控えています。

ぜひデイヴィッドとのコンサートと4月からのツアー、両方観てください。デイヴィッド・フォスターのほうは僕の大のお気に入りのストリングスチーム(Get The Classics Strings)が駆けつけてくれます。デレデレしながらやってますから(笑)。ツアーはバンドで各地を回ります。

──この流れで言うのも少し変かもしれませんが、デイヴィッド・フォスターの自伝「ヒットマン:デヴィッド・フォスター自伝」を読みました。数々の浮名を流しつつ、彼は女性に対して非常にジェントルな方ですよね。

すごくジェントルですね。見ててわかります。そこも影響されてます(笑)。

公演情報

TRAVEL&Lush Music presents ASKA featuring DAVID FOTER「ASKA&DAVID FOSTER PREMIUM CONCERT 2023」

  • 2023年3月16日(木)神奈川県 ぴあアリーナMM
  • 2023年3月19日(日)兵庫県 兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

<出演者>
ASKA(Vo, G) / デイヴィッド・フォスター(Piano)

宮﨑薫(Vo) / ASKAバンド & Get The Classics Strings
ASKAバンド:澤近泰輔(Piano) / 江口信夫(Dr) / 是永巧一(G) / 鈴川真樹(G) / 荻原基文(B) / 一木弘行(Cho) / SHUUBI(Cho)


ASKA Premium Concert Tour -Wonderful World- 2023

  • 2023年4月1日(土)広島県 広島文化学園HBGホール
  • 2023年4月2日(日)兵庫県 アクリエひめじ(姫路市文化コンベンションセンター)大ホール
  • 2023年4月15日(土)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
  • 2023年4月22日(土)大阪府 オリックス劇場
  • 2023年4月23日(日)大阪府 オリックス劇場
  • 2023年4月30日(日)福島県 けんしん郡山文化センター 大ホール
  • 2023年5月7日(日)千葉県 森のホール21
  • 2023年5月14日(日)熊本県 熊本城ホール メインホール
  • 2023年5月20日(土)宮城県 トークネットホール仙台 大ホール
  • 2023年7月1日(土)沖縄県 那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場
  • 2023年7月9日(日)奈良県 なら100年会館
  • 2023年7月21日(金)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2023年7月28日(金)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール

プロフィール

ASKA(アスカ)

チャゲ&飛鳥(のちにCHAGE and ASKAに改名)のメンバーとして1979年にシングル「ひとり咲き」でデビュー。約300万枚のセールスを記録した「SAY YES」をはじめ、ヒットナンバーを数多く世の中に送り出す。1988年にアルバム「SCENE」でソロデビュー。1991年にリリースされた3rdシングル「はじまりはいつも雨」が、ミリオンヒットを記録し、ソロアーティストとしても地位を確立した。2017年には自主レーベル・DADAレーベルを立ち上げ、アルバム「Too many people」「Black&White」を発表。同年10月には配信サイト「Weare」を開設した。2022年11月にアルバム「Wonderful world」をリリース。2023年3月にデイヴィッド・フォスターとのコンサート「ASKA&DAVID FOSTER PREMIUM CONCERT 2023」を開催し、4月から全国ツアー「ASKA Premium Concert Tour -Wonderful World- 2023」を行う。