ASCA「VIVID」インタビュー|新たな旅立ちを告げる、鮮烈な3rdアルバム (3/3)

何回幻滅しようが、一緒にいたい

──そしてセンチミリメンタルの温詞さん作詞、作曲、編曲の「あげる」は先ほどおっしゃったように温かいラブソングですが、歌詞には「幻滅してあげるね」といったドキッとする言葉も使われていて。

すごい言葉選びですよね。温詞さんとお話ししていたとき、急に温詞さんが「あ、なんか浮かびました」とおっしゃって、その場でバーッとピアノを弾きながら歌い始めたんですけど、そこで出てきてたワードが「幻滅してあげるね」なんです。「天才ですか?」と思いましたね。「幻滅」って、一見ネガティブに捉えられがちな言葉ですけど、実はそうじゃなくて。恋人に何回幻滅しようが、一緒にいたいと思っているという……。

──言ってしまえばのろけですよね。

そうです(笑)。だからめちゃくちゃ愛がある、本当に温かいラブソングなんですよ。「上海小夜曲」と「あなたが居ないこの世界でも」の2曲では、声に温度を感じさせないような歌い方をしていたので、「あげる」ではもうちょっと人間味を出してもいいかなと。等身大とまではいかないまでも、ASCAという1人の生きた人間として人生を歩んでいるのが感じられるような、そういう温度感の歌にしたかったんです。

──そういう歌になっていると思います。「ただいま。- Studio ver. -」(「RESISTER」初回盤カップリング曲)や「君の街へ」(「百希夜行」収録曲)も温かみのある曲でしたが、「あげる」はそれら以上に……。

柔らかく、優しく歌いました。レコーディングでは温詞さんにディレクションしていただいたんですが、温詞さんは基本的に任せてくださる方で。ただし1カ所だけ、2番の「言葉は不確かで」というフレーズは、温詞さんのディレクションに沿って歌い方を変えました。私は当初このフレーズを優しく歌っていたんですけど、ここはサウンド的にも変化があるパートなので、歌も感情をあらわにしたほうがいいと温詞さんは判断されたんです。だから唯一、ここだけ思い切り声を張りました。その分よりドラマチックになったと思いますし、ここで「恋って、簡単じゃないよね。大変なこともあるよね」みたいなことを感じていただけたらうれしいです。

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ASCA第2章が始まります

──今お話を伺った「あげる」から「No Voice, No Live」(2023年6月配信)を経て最後の曲「Departure」へと至りますが、このアルバム終盤の流れはとてもきれいですね。

本当ですか? うれしいです。

──例えば最後にもうひと盛り上がりするような派手なロックナンバーなどは置かず、ちょうどいい温度感をキープしたまま終わっていく感じ、僕は好きです。「Departure」の前に置いた「No Voice, No Live」は、声帯ポリープの摘出手術を受けた直後に作った曲だそうですね。

そうです。もう、「No Voice, No Live」はこの位置しかないと思って。私の中で、この「No Voice, No Live」と最後の「Departure」は伝えたいことが共通しているというか、つながっているイメージなんですよ。歌うことをあきらめずに続けていった先で見える景色は必ずあって、だから一緒に、手を取り合って進んでいこうねっていう。

──「Departure」はアカペラ曲ですが、散歩しながら鼻歌をボイスメモで録っているような雰囲気ですね。

まさに。そうなったのには訳があって、まず私がデモを提出する期限が、ちょうど海外に行くタイミングと重なっていて。今日中にデモを送らなきゃいけないのに、今から飛行機に乗らなきゃ……という状況で、空港で歩きながらボイスメモにメロディを吹き込んだものを送ったら、その雰囲気をディレクターさんが気に入ってくれたんですよ。「Departure」は、私の歌と一緒に雑踏の音とかも聞こえるんですけど、あれはASCAチームのみんなで、それぞれの住んでいる町の環境音をスマホで録ってきたのをコラージュしているんです。ちなみに曲の中盤で聞こえてくる、女の子が「あいてるよ」と言っている声は、私が録ってきたやつです。

──あの声、めちゃくちゃかわいいです。

私の手柄です(笑)。歌はブースに入って録っているんですけど、練習テイクがそのまま使われた感じで。だから何も気負わず、それこそ鼻歌のように自然体で歌った歌と、みんなで録ってきた雑踏を重ね合わせてできた曲です。

──最後の曲なのに「Departure」すなわち「出発」というのがまたいいですね。

最初に“再出発”が1つの軸になっていると言いましたけど、「ここから次の場所に、みんなで一緒に進んでいこう」「ASCA第2章が始まります」という心づもりで曲を書いた結果、こうなりました。

──現時点で目指す場所などはあるんですか?

物理的な場所になってしまいますが、行ったことのあるところもないところも、去年よりたくさんの場所に行きたいです。国内ツアーでいえば去年は東名阪を回らせてもらいましたけど、今年は夏に福岡や北海道を含むツアー「ASCA LIVE TOUR 2024 -VIVID-」の開催が決定しているので、今から楽しみです。もちろん海外も、例えばYouTubeの生配信をやっていると「フランスに来てください」「メキシコに来てください」といった海外の方からのコメントもたくさんいただくので、そういった声に応えたいし、今年も自分の足でいろんな国を回って、各地で出会ったみんなと一緒に歌いたいです。

ASCA

ツアー情報

ASCA LIVE TOUR 2024 -VIVID-

  • 2024年8月17日(土)大阪府 Music Club JANUS
  • 2024年8月18日(日)福岡県 DRUM SON
  • 2024年8月25日(日)愛知県 新栄シャングリラ
  • 2024年9月15日(日)北海道 SOUND CRUE
  • 2024年9月27日(金)神奈川県 CLUB CITTA'

プロフィール

ASCA(アスカ)

1996年生まれ、愛知県出身。2011年開催の「第5回全日本アニソングランプリ」でファイナリストに選ばれる。2013年にアニメ「さくら荘のペットな彼女」のエンディングテーマ「Prime number~君と出会える日~」で大倉明日香としてCDデビュー。2017年8月にアニメ音楽誌「リスアニ!」誌上にてASCA名義では初のオリジナル曲「RUST」を発表した。同年11月にアニメ「Fate/Apocrypha」のエンディングテーマ「KOE」を表題曲としたシングルで、SACRA MUSICよりメジャーデビュー。その後も「グランクレスト戦記」「ソードアート・オンライン アリシゼーション」「ダーウィンズゲーム」「魔法科高校の劣等生 来訪者編」「すばらしきこのせかい The Animation」「『ロード・エルメロイII世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note-』特別編」いった数々のアニメ作品のテーマソングを担当した。2023年2月のポリープ摘出を経て、6月に1年ぶりのワンマンライブ「ASCA LIVE 2023 -No Voice, No Live-」を実施。9月にデビュー5周年ツアーを行い、11月にアニメ「豚のレバーは加熱しろ」のオープニングテーマ「私が笑う理由は」を表題曲としたEPを発表した。2024年2月に東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)でワンマンライブ「ASCA Zepp LIVE 2024 -Departure-」を開催。3月に3rdアルバム「VIVID」をリリースし、8月より全国ツアー「ASCA LIVE TOUR 2024 -VIVID-」を行う。