ASCAが3rdアルバム「VIVID」を3月13日にリリースした。
2月に東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)でデビュー6周年の幕開け飾るライブ「ASCA Zepp LIVE 2024 -Departure-」を行ったASCA。MCでは「まだまだここは夢の続きだと思っています。みんなが応援してくれる私だから、胸を張って次の目的地へ出発したいと思います」と、これからの未来に向けての思いを語っていた(参照:ASCA、初のZeppワンマンでデビュー6周年の幕開け飾る さらなる未来に向けて出発)。「VIVID」はまさにそんなASCAの思いが反映された、決意表明の1枚。初めてASCAが単独で作詞を手がけたリードトラック「VIVID WORLD」では「逆境に吠えろ」「国境を越えろ」という強い意思が歌われている。
音楽ナタリーではASCAにインタビューを行い、アルバムに込めた思いや今後のビジョンについて話を聞いた。
取材・文 / 須藤輝撮影 / 山口真由子
生き生きと音楽を届けていきたい
──「VIVID」って、いいアルバムタイトルですね。ASCAさんのボーカルスタイルやアーティストイメージを表すにあたっても、ぴったりな言葉だと思いました。
ありがとうございます。これまで1stアルバムは「百歌繚乱」(2019年11月発売)、2ndアルバムは「百希夜行」(2021年1月発売)と四字熟語をもじったタイトルを付けてきたんですけど、今回は「新たな気持ちでASCAの音楽を届けていきたい」という思いも込めて、初めて英語のタイトルを採用しました。去年、デビュー6年目に突入して、私自身にも変化があったり、ASCAチームのメンバーもガラッと変わったりしたので、タイトルを決めるにあたり“再出発”みたいなものを1つの軸として考えていて。最終的に「VIVID」に行き着いたんですけど、この言葉には「鮮やかな」だけでなく「生き生きとした」という意味もあるので、「生き生きと音楽を届けていきたい」という決意表明にもなるんじゃないかと思ったんです。
──今「デビュー6年目」とおっしゃいましたが、「VIVID」の「VI」はローマ数字の「6」を表しますよね。
そうなんですよ! 「VIVID」という言葉そのものの意味だけじゃなくて、何かしら別の意味もかけたくて。去年の秋に開催したデビュー5周年ツアー「ASCA 5th ANNIVERSARY TOUR -VVV-」で、「V」を3つ並べて「ファイブ・ファイブ・ファイブ」と読むツアータイトルを付けた流れから「そういえば、6はローマ数字でどう書くんだっけ?」という話になったんです。そこから会議を重ねていく中で、シンプルに「VIVI」というタイトルが候補に残ったんですよ。でも「かわいいけど、同じ名前のファッション雑誌もあるよね」「じゃあ、もうちょっと練るか」と、改めて思案していたときに「VIVID」という言葉に出会い、チーム全員で「これだ!」と決まったタイトルです。
──「私自身にも変化があった」ともおっしゃいましたが、具体的には?
まず2022年は声帯ポリープに悩まされていた年で、自分を鼓舞し続けるしかなかったんですよ。どうしても自分の思い通りの表現ができなくて、どんどん消極的になって「私の歌を聴きたい人なんて、いるのかな?」みたいな思考にまで陥ってしまって。もちろんステージに立つとなったら全力で、100%の歌を届けたいという気持ちを強く持っていたんですが、そういうときも自分で自分を奮い立たせる必要があったんです。それを経て2023年の2月に声帯ポリープの摘出手術を受け、一旦立ち止まる時間ができ、チームも変わって新しい環境で再び制作に臨んだとき、自分の音楽に対する取り組み方が変わっていたんですよね。まず、単純に楽しい。
──最高な変化ですね。
とにかく歌うことが、楽曲制作をすることが楽しくてしょうがなくて。そうやって音楽に向き合う自分の姿勢や発する言葉がポジティブに変わっていくと、出会う人、ASCA楽曲に関わってくださる人の反応や言動もポジティブに変わってくるんですよ。チーム内で前向きなパワーが循環するみたいな感じで、私自身からもパワーがあふれてくるし、そのパワーをライブでもレコーディングでもしっかり込められたと思っています。
──文字通り「生き生きと」してきた。
そうなんです。
もっともっとみんなと一緒に歌いたい!
──では、アルバムの内容について触れていきますが、1曲目「Overture」はASCAさん作曲、戸嶋友祐さん編曲のインスト曲です。スケール感と高揚感があり、アルバムの序曲として、また2曲目のリードトラック「VIVID WORLD」の前奏曲としても機能していますね。
アルバムを制作するにあたり、まず私が「アカペラで歌う曲を作詞作曲してみたい」という提案をしまして、それが13曲目の「Departure」という楽曲になったんです。その「Departure」のメロディをそのまま使う形で、戸嶋さんに編曲していただいたのが「Overture」なんですよ。今おっしゃったようにリードトラックの「VIVID WORLD」につながっていくような盛り上がりを見せつつ、かつ私自身が2022年と2023年は海外のいろんな国々で活動させてもらったので、それも反映させたいという思いから、より洋楽的なサウンドに仕上げていただきました。
──去年と一昨年は、アジア圏のみならずアメリカやヨーロッパでもライブをなさっていましたね。そうした海外での経験が、ASCAさんのスタンスに与えた影響などはありますか?
やっぱり言葉も文化も違うので、単純に音と歌だけで楽しんでもらいたいという発想に変わっていって。そのためには、自分自身が楽しんでいないといけない。1回1回のライブを全力で、真剣にやるというのは変わらないんですが、そこに「楽しもう」というマインドが加わったのは、海外経験の影響が大きいかもしれません。一方で、日本のアニメソングは世界中で愛されているので、日本語の歌詞でも当たり前のように歌ってくださるんです。去年でいえば、初めてブラジルに行って「RESISTER」(2019年2月発売の4thシングル表題曲。「ソードアート・オンライン アリシゼーション」オープニングテーマ)を披露したとき、皆さんフルコーラス歌われていましたね(参照:「SACRA MUSIC FES.」特集)。「私、歌わなくてもよくない?」と思ってしまうぐらいの勢いで。なので、究極的には言葉も関係ないということも教えてもらいました。
──「VIVID WORLD」の作詞はASCAさん、作編曲はYOSHIHIRO(KEYTONE)さんで、これは国内外問わず、ライブで新しいアンセムになりそうですね。
はい。今までやってきたようで、実は初めて挑戦するタイプのロックナンバーで。何曲か候補があった中で、デモを聴いた瞬間に「VIVID」というアルバムのリードトラックとしてフィットすると思ったし、一番の決め手はコーラスがたっぷりあることでしたね。従来のASCA楽曲の中にもみんなで一緒に歌える曲はあったんですけど、「もっともっとみんなと一緒に歌いたい!」というモードに私自身が今なっていて。この楽曲ならその望みをきっと叶えてくれるはず。
──例えば「Howling」(2020年11月発売の7thシングル表題曲)などは、ライブにおいてはお客さんの声が加わって完成する曲ですが、「VIVID WORLD」はよりスタジアムロック的で、問答無用でお客さんを巻き込んでいくような勢いがありますね。
「Howling」は、もちろんライブで重要な役割を果たしてくれる楽曲の1つなんですが、みんなで歌うパートは基本的にサビだけなんですよ。でも「VIVID WORLD」は冒頭から「皆さん、どうぞ好きなように歌って存分にお楽しみください」みたいな、本当にみんな一緒に楽しめる楽曲に育っていくと思うし、この“一緒に”というのが1つのテーマでもあります。ちなみに、音源のコーラスではスタッフさんを巻き込んでいるんですよ。
──スタッフさんも一緒に歌っている?
そうです。その日、その場にいた皆さんに「一緒に歌ってください」と。「えー! 本当に歌うんですか?」と驚かれたんですけど、ASCAチームのみんなと一緒に完成させることができた1曲です。
1人じゃなくて、みんなと歌っている感覚
──「VIVID WORLD」の歌詞は、比較的シンプルですね。ひたすら「叫べ! 踊れ!」とオーディエンスを煽っている感じで。
「生き生きと音楽を届けていきたい」という思いを詰め込みつつ、とにかくシンプルな歌詞を意識しました。あと、今まで私が作詞してきた楽曲はほぼ日本語オンリーだったんですけど、「VIVID WORLD」は海外でもどんどん歌っていきたいので英語が多めです。実は海外公演が増えてから、私は毎日英語アプリで勉強しておりまして、その成果がちょっとは表れたかなと。
──サビに「never to late」とありますが、僕はこの言葉、好きなんですよ。勉強であれ仕事であれ趣味であれ、何かを始めるにあたって遅すぎることはないと思っているので。
まさにそういう思いで言葉を選びました。「never give up」という言葉も使っていますけど、私自身もデビュー5周年という1つの節目を越えて、ここから新たにみんなと一緒にいろんなことに挑戦していきたい。そういう気持ちがすごく強くなっているんです。
──ボーカルに関しては、従来のASCAさんのロックナンバーと比較して、より大胆で自由奔放な感じがします。
うれしい。レコーディングではかなり時間をかけて、納得がいくまで何度も録り直させてもらいまして。我ながらちょっとカッコつけた歌詞でもあるので、言葉と歌がちぐはぐにならないように気を付けたんですが、最初の数テイクでは生き生きした感じがうまく歌に乗らなかったんですよ。
──そうなんですね。僕は歌声に勢い一発みたいな活きのよさを感じたので、何テイクも録っていたというのは少し意外でした。
そう受け取っていただけたならよかったです。でも少し見方を変えると、テイクを重ねていく中で「あ、このテンションだ」とつかめた瞬間があって、そこからはほんの数テイクで録り終えたんです。なので、その瞬間を境に「勢い一発」で歌えたという言い方もできるかもしれません。
──ASCAさんは速い音に対して正確に言葉を当てていくのが得意だと思いますが、「VIVID WORLD」では必ずしもそこは重視していないといいますか。
その通りです。ディレクターさんも途中から「この曲は、細かいところは気にしなくていいのかもね」とおっしゃっていて。私も自分がライブのステージに立っているところを想像しながら、1人じゃなくてみんなと歌っている感覚で歌い始めたときに、この曲の歌い方がつかめたんですよ。
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レコーディングでの唯一の約束事は「声を張らない」