朝倉さや|民謡×最先端のメジャーアルバムで新たな旅へ

朝倉さやが4月1日にアルバム「古今唄集~Future Trax BEST~」でメジャーデビューを果たした。

「民謡×最先端」をコンセプトに、自身のルーツである民謡と最新の音楽を掛け合わせた“Future Trax”を発表してきた朝倉。彼女が築いてきた新たな音楽ジャンル“Future Trax”の集大成にあたる本作には、出身地である山形のノスタルジックな風景を感じさせながらも、ダンサブルかつファンキーにアプローチするリード曲「Mr.Mamurogawa(真室川音頭Future Trax)」やオリジナル曲「AGRIMONY~旅さあべ~」「ハテナ」など全11曲が収録されている。今回のインタビューではFuture Traxにまつわる楽曲制作についてはもちろん、民謡や歌に対する思いなどを語ってもらった。

取材・文 / 上野三樹 撮影 / 藤田二朗(photopicnic)

それは最高すぎます!

朝倉さや

──2013年にデビューし、インディーズでありながら日本レコード大賞の企画賞を受賞するなど、プロデューサーのSolayaさんと二人三脚で活動されてきました。今回のメジャーデビューに対する思いはどういうものですか?

「メジャーデビューするぞ!」と私が聞いたのは、去年12月1日の「朝倉さや コンサートツアー 2019『でででっ 伝説生物たちの大行進!!』」渋谷区文化総合センター大和田公演だったんです。Solayaさんから急に紙を渡されて、それを読み上げていったら「朝倉さやがメジャーデビューする」と書かれていて。そんなサプライズの中で私もメジャーデビューすることを知りました(笑)。メジャーデビューが近づくにつれて「さらに新しい可能性を探しに行くぞ」という気持ちが強くなりましたね。だから今回のアルバムも、1つの集大成であり、また新しい旅の始まりだと感じられる作品になったと思います。

──アルバム制作に入った段階では、これがメジャーデビュー作だということがわかっていたんですか?

リード曲の「Mr.Mamurogawa(真室川音頭Future Trax)」の原型と1曲目の「AGRIMONY ~旅さあべ~」の原型は2018年の終わりにはできていたんです。Solayaさんのアレンジも素敵だったので、これをいつか「ドデーン!」と出したいという思いがそのときからあって。特に「Mr.Mamurogawa(真室川音頭Future Trax)」はこれまで“Future Trax”をやってきたからこそできた曲ですし、今と過去を1つにして未来へ行こうという思いが詰まってますから、今回メジャーデビュー作ということで「ここだ!」というご縁のようなものを感じてレコーディングしました。

──メジャーデビューアルバム「古今唄集~Future Trax BEST~」は、さやさんならではの音楽ジャンルである民謡に新たな要素を加えた“Future Trax”が多く収録された1枚ということですが。

はい。Solayaさんから「Future Traxのベスト的なアルバムを作るのはどう?」というアイデアをいただいて「それは最高すぎます!」と思いました(笑)。

──改めて、朝倉さやさんの掲げるFuture Traxとはなんなのか、新たなリスナーにも教えていただけますか。

朝倉さや

民謡と新しい音楽の融合と思ってもらうのが一番シンプルかな。クリックも何もない状態でマイクに向かい、私が好きな民謡を歌って、その歌唱音源にSolayaさんがトラックを付けて、新たに歌詞を考えていきます。そうやって最初にできたのが「River Boat Song with respect for 最上川舟唄」(2015年9月リリース)で、すごく実験的だったし大きな衝撃を受けました。私は小さい頃から民謡を歌ってきましたが、シンガーソングライターになりたいと思って上京してきたので、Future Traxというワクワクするやり方を見つけて「これがやりたい!」と強く思いましたね。

──トラックに歌を乗せるというのはよくあると思うんですけど、歌(民謡)にトラックを付けるんですね。今もずっとそのやり方なんですか?

そうですね。何もないアカペラの歌から作ってもらっています。そもそも民謡ってリズムに合わせて歌うものというよりも、歌う人がいてそこに尺八の音色が追いかけてきてくれたりとか、リズムに関してはすごくフリーダムなんですよ。Future Traxは最終的にはビートに乗るように作られているので、言葉を切る場所や呼吸するタイミングなど、完全なる民謡の節回しとは違う部分ももちろんあります。なのでその時点で、ポップスというか新しい音楽との融合になっています。

ただ民謡を伝承したかったらFuture Traxは生まれなかった

──では歌詞に関して、例えば「Mr.Mamurogawa(真室川音頭Future Trax)」は「私しゃ真室川の梅の花 コーオリャ」で始まりますが、サビの「地球を選んでジャンプ あがらっしゃい あがらっしゃい yeah」の部分は本来、民謡にはなかった部分ですよね。

そうなんですよ。だから民謡へのリスペクトと今の自分の思いをぶつけているんだと思います。あとはSolayaさんがアレンジや新しいメロディで広げてくれた世界に気持ちが高まって出てくる感情が言葉になったり。例えば「からめ節 Future Trax」のトラックを聴いたときに、すごく穏やかだけど、それだけじゃない生命力みたいなものを感じて「喜びの宴」というワードを入れてみたり。民謡の歌詞とオリジナルの歌詞をどういうバランスで入れていくかは決めていなくて、感覚なんです。だからこそ新しいものができるかなと。

──なるほど。ではFuture Traxを作るときには、その民謡が作られた背景や物語なども調べたりされるんですか?

朝倉さや

自分が興味があるものは調べたりしますが、そこにはとらわれすぎないようにしています。私は民謡が好きですが民謡歌手ではないので、そこは民謡のプロの方にお任せしたほうがいいのかなという思いもあります。ただ純粋に民謡を伝承したいという気持ちであれば、たぶんFuture Traxは生まれてなくて。私はたまに「民謡歌手」と言っていただくことがあるんですけど、民謡歌手の方をすごくリスペクトしているからこそ「そうじゃないんだけどな……」と思います。なんだか、言い方が難しいんですけど。

──でも、そうですよね。その土地に暮らす人々の中で生まれた歴史ある民謡があり、そこに今のさやさんの新しい感性を加えてクリエイトしないとFuture Traxにならない。

まさにそうです。民謡と民謡歌手の方たちへのリスペクトがあるからこそ、そうではない部分でがんばっていかなきゃなとも思いますし。逆にこれまでまったく民謡を聴いたことがない人がFuture Traxを聴いて「これって民謡なの?」と興味を持ってくださるのは私にとって本望です。そうしたことがきっかけで自分の地元の民謡のことを深く知ったり、地元がもっと好きになる可能性だってある。そうして誰かの刺激になることはとってもうれしいですし、民謡ってポップスに置き換えると全部がサビだったりする曲も多いし面白いんですよ。これからも音楽でどんどん楽しいことをやっていきたいです。